律「はあ?」

梓「何ですか戻ってくるなり急に…ちゃんと手は洗いましたか?」

唯「それどころじゃないんだよ!お尻を触られたんだよあずにゃん!」

梓「やっぱり洗ってないんじゃないですか!洗ってください今すぐに!」

唯「むう…あずにゃんのゴム手袋さん!」

梓「何ですかその罵倒…」


ジャバジャバ…

唯「はいっ!これできれいになりましたっ!」

梓「ああ、ほら制服で拭かないで…私のハンカチ使ってください」

唯「おっ!ありがとあずにゃ~ん!かわいいハンカチだねぇ~…ほい、ありがと」

梓「どういたしまして。じゃ、練習再開しましょうか」

澪「そうだな、始めるか」

紬「おー!」

唯「おー!…ってそれどころじゃないんだよ!?」

律「ノリツッコミ入りましたー!」

唯「おし、お、お尻を触られたんだってば!」

梓「それは何度も聞きましたよ」

唯「何度も聞いたなら本気にしてよっ!」

紬「お尻を触られたって…まさかトイレに痴漢がいたとか!?」

澪「ひいいいいいいいいいい!?」

梓「痴漢!?た、大変じゃないですか!」

律「唯、痴漢の姿は見たのかっ!?」

唯「ううん。それにあれって痴漢なのかなぁ?」

梓「痴漢…じゃないんですか?じゃあ…」

律「痴女か!?」

紬「わ、私じゃないわ!」

さわ子「私でもないわよ!」

梓「誰もお二人だなんて言ってないです」

澪「どどど、どういうことなんだ唯!?詳しく話せよ!」

唯「う~ん、あのね、私しゃがんでおしっこしてたの。こんな感じで」

律「いや実演はしなくていいから」

紬「ちっ」

唯「そいでね、こう、じょろじょろじょろ~って」

梓「いちいちリアルにやらないでください!わかりますから!」

さわ子「ちっ」

唯「でね、終わってすっきりした~って思ったら、こう、ぺろんって触られたの!」

梓「…つまり個室に唯先輩のほかにもう一人誰かがいた、と?」

唯「うん!」

律「………入った時点で気づけよ!」

唯「え?あ、違う!違うよぉ!個室には私しかいなかったんだよ!」

紬「そうよね…さすがに唯ちゃんでも他に誰かいたら気がつくわ」

梓「まあ、元からいた人が何がしかのリアクションもするでしょうしね」

律「じゃあ誰もいないのにお尻を触られたってことか?」

唯「うん!そうなの!それで私びっくりして、急いで戻ってきたんだよ!」

梓「……つまり結論としては…」

さわ子「気のせい、ね」

紬「…ですね」

律「…だな。おーし練習すっぞー!」

唯「えーっ!?」

唯「気のせいって…そんな殺生な…」

梓「だって誰もいないんだったら誰がお尻を触るんですか?」

唯「それは…トイレの神様、とか?」

律「いるかそんなもん!気のせいでいいだろ?それで誰も困らないしさ」

唯「ううん…でも…わかったよ。気のせいだね!うん、気のせい気のせい!さあ練習練習!

澪「あ、ゴメン。その前に私もトイレ…」

律「何だ澪もかよ…神様に触られんなよ?」

澪「ひいっ!?へ、変なこと言うなよぉ!?」

律「わーったわーった、早く行ってこいって」

澪「も、もう…」

ガチャッ




澪「まったく…唯や律が変なこと言うから…」

ガチャッ、バタン

澪「な、なんか怖いかも…早く済ませちゃわないと」

ちゃぷん、チョロチョロチョロ…

澪「ふぅ…」


ヌッ

ぺチョン

澪「ひっ!?」

にゅぐにゅぐん

澪「あ…あああ…」

ぺろりん

澪「いやああああああああああああああああああああああああ!!」




梓「澪先輩遅いですね」

さわ子「大きいほうなんじゃない?」

律「だとしても遅すぎる…まさか!?ちょ、ちょっと行ってくる!」

梓「律先輩!?わ、私も行きます!」

紬「あぁ、待って!私も!」

唯「ほえ?みんなどこ行っちゃったの?」

さわ子「…あなた流石に鈍すぎよ」

唯「?」




律「澪!澪いるか!?返事しろ!澪!」

梓「あ、そこだけ閉まってます!澪先輩!?澪先輩!?」

紬「待って!えーと、すみません中のかた!澪ちゃんじゃないなら違うって言ってください!」

律「…反応がない。やっぱり澪だ!澪!澪!」ドンドンドン!ガチャガチャガチャ!

梓「澪先輩…」

紬「梓ちゃん、肩車しましょう!私にまたがって!」

梓「あ、は、はいです!」


梓「よ…いしょっと…うわっ?」

紬「梓ちゃん、大丈夫!?」

梓「平気です!むぎ先輩こそ重くないですか!?」

紬「ええ!むしろ極楽よ!」

梓「はぁ?」

紬「いいから、早く中を見て!」

梓「あ、はい!し、失礼します、澪先輩!…あっ!」

律「どうだ梓!?澪はいるのか!?無事か!?」

梓「わかりません!」

律「わからないって何だぁ!!」

梓「いるけど白目剥いて失禁してます!」

紬「あらあら~♪」

律「…確かに無事かはわからないなっ!!」




唯「みんな遅いな~」

さわ子「ううん…私も行ったほうがよかったかしら…?」


ガチャッ

律「ただいまっ!」

唯「あ、りっちゃんおかえり~。遅かったねぇ」

梓「ただいま戻りました!えっと…とりあえずソファに!」

紬「うん!澪ちゃん、しっかりして!」

澪「」

唯「あ!澪ちゃんいいな~。むぎちゃん私もおんぶして~」

梓「少しは空気読みましょうよぉ!!」

律「梓!タオル濡らして持って来い!」

梓「は、はいです!」

紬「澪ちゃん!大丈夫!?しっかりして!!」

さわ子「ねえ、一体何があったの!?」

律「わからない…トイレ個室の中で失神してたから…」

唯「トイレで!?」

さわ子「そう…でも、とりあえず命に別状はなさそうね」

澪「うう…」

唯「あ!気が付いたよ!澪ちゃんどうしたの!?もしかしてお尻触られたの!?」

澪「お尻………ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」すとっ

唯「あ、また気絶した」

律「こいつは難儀だな…」


紬「でも…今の反応から考えると、澪ちゃんも誰かにお尻を触られたみたいだね…」

律「気のせいじゃ済まされないってことか…」

唯「ほらー!だから言ったのに!」

梓「唯先輩だって気のせいだってことで納得してたじゃないですか」

唯「そんな記憶はありませんな!」

梓「…それよりどうしましょうか?澪先輩もこんなだし…」

紬「…お茶にしようか?」

律「…だな」

梓「えぇー?」

紬「だって、大きな音を立てたら澪ちゃんに悪いでしょう?」

律「そうそう。澪が起きて、落ち着いて話が出来るようになるまでは先に進めないしな」

梓「まあ…それもそうですね…」

唯「私もそろそろお腹減ってきたしね~」

さわ子「私も~」

梓「さわ子先生はもっと心配して下さいよぉ!」

律「てなわけでむぎ!お茶の準備だ!」

紬「はいは~い♪」


澪「ん…んぁっ…」

唯「あ!澪ちゃん起きた!澪ちゃむぐっ」

梓「唯先輩は喋らないで下さい!」

紬「おはよう澪ちゃん。ほら、お水よ。ゆっくり飲んでね」

澪「あ、むぎ…ありがと…ん、美味しい…」

紬「ふふっ、よかった~♪」

澪「…ふぅ…みんな、ありがとう。それに、ごめん…」

律「なはははは!まあ、気にすんなって!で、澪…話せるか?」

澪「…うん。みんなのおかげで少し落ち着けたからな」


唯「ほれれみおひゃんほほひひほはわわれはお?」

梓「それで澪ちゃんもお尻を触られたの?と言っているようです」

澪「…ああ。さ、触られた…間違いない。あれは…手だった」

さわ子「ふうん…で、犯人は誰なの?というかどこにいたのかしら?」

澪「…便器の中です」

律「はぁ?」

澪「犯人は便器の中にいて、私のお尻を触ってきた。間違いない」

律「便器の中って…いや無理だろ」

さわ子「汲み取り式ならともかく、水洗だものねえ」

唯「はっ!ほうほう!わはひほへんひのはははらへがほびへひはんはお!」

梓「あっ!そうそう、私も便器の中から手が伸びてきたんだよ!と言っているようです」

紬「梓ちゃん、もう手を離してもいいんじゃない?」

唯「わはひほほうほもふお!」

梓「私もそう思うよ!と言っているようです。私もそう思います」


澪「私だってありえないと思うよ。でも、あれはどう考えても…便器から手が出てきたとしか思えない」

紬「ううん…3つの説が考えられるわね」

律「3つ?」

紬「ええ。ひとつは、本当に便器から何者かの手が伸びてきた。もうひとつは、やっぱり勘違い」

澪「か、勘違いじゃない!確かに私は…お、お尻を…」

紬「でも、唯ちゃんの話を聞いて、人一倍怖がりの澪ちゃんが感覚を鋭敏にさせすぎてしまった、ということは考えられるわ」

唯「あずにゃん、えいびんって何?」

梓「シッ!」

紬「幽霊の正体見たり、ということもあるから…滴の跳ね返りや吹き込んだ風を、手の感触と捉えてしまったという可能性もゼロではないと思うの」

澪「うう…で、でも…」

紬「そうだ、と断定しているわけではないわ。そういった可能性もある、というだけの話よ」

澪「わ、わかった。で、最後の説は?」

紬「…何者かのいたずらね。悪意と呼んでもいいのかもしれないけれど」

律「いたずら?」

紬「ええ。あの個室は、しゃがむと隣の個室に壁一枚隔てて背を向ける形になるわ」

梓「確かにそうですね」

紬「隣の個室との間に壁はあるけれど、完璧な壁ではない。下には隙間があるわ」

律「…まさか」

紬「ええ。例えば濡れた布巾を棒の先につけて、隣の個室から下の隙間を通して澪ちゃんのお尻に触れさせれば…」

梓「手の感触と思っても不思議ではない…」

紬「そういうことね。唯ちゃんも澪ちゃんも、手を見たわけではないんでしょう?」

唯「私見てないよ!」

澪「私も…」

紬「だったら、この説も、可能性としてない話ではないわ」


唯「すごいねむぎちゃん!探偵さんみたい!」

紬「ふふっ、そうかしら?」

律「で、名探偵、我々はどうしたらいいのでしょうか?」

紬「ううん…先生はどう思われますか?」

さわ子「そうねえ…面白いからいっそこのまま…」

澪「せ・ん・せ・い!!」

さわ子「……というわけにもいかないので、どうにかするしかないけれど…確証が欲しいわね」

唯「かくしょう?」

さわ子「ええ。現状では単に唯ちゃんの勘違いにおびえた澪ちゃんが失神しただけ、という可能性もあるわけでしょう?」

梓「実も蓋もないなあ」

さわ子「それだけでは問題にはできないもの。もっとサンプルケースが必要ね」

律「サンプルケース…ってまさか…」

さわ子「というわけで、囮捜査をしましょう!」

律「あー、やっぱりかー」

さわ子「というわけで善は急げ!トイレに直行よ!」

紬「おーっ!」

梓「ノリノリですねむぎ先輩…」

澪「じゃ、じゃあ私はお留守番を…」

さわ子「何言ってるのよ!当事者が来なくちゃ始まらないわよ!?」

澪「ひいい…」

律「あ、でも澪は残ってたほうがいいかも」

澪「り、律ぅ…ありがとぉ…」

律「制服とか洗ったほうがいいし」

澪「…へ?」

律「お前トイレで失神して失禁してたんだぞ?だからきっとあちこちに…」

澪「…あふん」

唯「…澪ちゃんが恥ずかしさのあまりまた失神したよ」

梓「かえって好都合です。行きましょう。あ、そういえばむぎ先輩はいいんですか?澪先輩をおぶってきたから…」

紬「うふん、いらぬ世話というものよ~♪」


律「とりあえず行く前に段取りを説明してよ、さわちゃん」

さわ子「え?」

律「…いや、囮捜査ったって具体的にどうするんだ?」

さわ子「トイレでおしっこをするのよ」

律「うん…それで?」

さわ子「えっ?」

律「…おしっこをして…その後は?」

さわ子「…むぎちゃん!」

紬「あ、はい!えっとね…今なら起こったことに対して冷静に分析・対処ができるでしょう?」

律「んー…まあ、そうかな」

紬「まず、風などが原因だったなら、その出所を探して、対処をすればいい」

梓「なるほど。目立たないところに穴か何かが開いていたなら、塞いでしまえばもう大丈夫ですね」

紬「ええ。それから、もし誰かのいたずらだったとしたら、犯人をその場で押さえてしまえばいいわ」


唯「うーん…でもさ、みんなで行ったらばれちゃわない?」

紬「もちろん、全員でトイレには入らないわ。一人が入って、他の人は少し離れたところで待機するの。階段の辺りかな」

梓「一人か…ちょっと怖いですね…」

紬「そこは勇気ね。で、何かあったら大声を出すの」

律「外まで聞こえるか?」

紬「多分大丈夫よ。それで、待機班が駆けつける。先生もいるから、きっと大人しくお縄を頂戴するわ」

律「もし逃げられちゃったら?」

紬「もし逃げられたとしても、それで懲りてもうやらないと思うの。結果的にはいたずらを止めることが出来るわ」

唯「おお、なるほど!」

紬「もし便器から本当に手が出てきたなら…まあそれはその時になってから考えればいいわ。流石にややこしすぎるから」

梓「何も起きなかったらどうしますか?」

紬「その時は一旦撤退しましょう。それから時間を置いてまた挑戦してみるの。それでも何も起きなければ、結局気のせいということで丸く収まるわ」

さわ子「と、いうわけよ!どう?素晴らしい作戦でしょう!?」

律「…説明したのむぎじゃん」

さわ子「ごくろうだったわ我が弟子!」

紬「ありがとうございます~♪」

律「…ああなんかもうめんどくさい!さっさとトイレ行くぞ!」

唯「おーっ!」

梓「お、おーっ」


2