律『久しぶりってほど離れちゃないだろう。唯こそ、相変わらず高校生のまんまなんじゃないか』

唯「そっ、そんなことないよ! やだなぁ、りっちゃんったら……」

唯(まさか制服出勤がバレてる!?)

唯「そ、そいで、何かごよう?」

律『ご用かっつーとご用なんだな。なぁ、久方ぶりに飲み会でもやらないか?』

唯「前に会ったときも飲み会だったのに?」

律『いいじゃんよー、細かいことはさー。酒を呑むのに理由がいるかい?』

唯「オール・オア・ナッシングだね! 家じゃ一滴も飲めないから、外ならがぽがぽいけちゃうよ」

律『ハハッ。憂ちゃんは健康に厳しいんだなぁ。気つけ程度なら良薬になるってのに。
  きっと、唯がお酒飲んでる姿なんて見たくなぁい! っていう心持ちなんだろう』

唯「大体そんな感じ~」

唯(見つかったら有無を言わさず捨てられるんだけどね……)


律『そんで、いつやるかーっていう話なんだけど』

唯「うんうん」

律『今度の日曜日にしようと思ってるんだけど、どうだ?』

唯「今度のにちようー……って二日後じゃん! どうしてそんな急に?」

律『いやまぁ、私の肝臓が張り切りまくってて、酒はまだかー! って怒鳴り立てるもんだし』

唯「変なりゆうー」

律『後はなぁ、やっぱり、定期的にみんなの顔を見たくなるもんなんだよ。唯だって、そういう気分に襲われる時ってあるだろ?』

唯「うーん。たまにあるかな」

律『だろだろ?』

唯「でも、自制心が働いちゃう時の方が多いかな。なんていうか、その時は昔に戻れててもさ、
  後からやってくる現実に耐えられるかどうかっていうと、特に高校時代はさ……」

律『高校時代は……。その続きは?』

唯「たっ、大したことじゃないよ。楽しすぎたから余計にーってこと」

唯「ほら、私だってもう大人なんだから、難しい言葉を使うようにしてるだけー。ふんすっ!」

律『ふーん。あの唯さんも、センチメンタルになる時があるんですなー』

唯「あの唯さん、ってどういう意味なのさぁ」


律『んで、日曜は出れるって捉えちゃっていいのか?』

唯「うん、行きたい気分。他には誰が来れそうなの?」

律『一番に連絡したのは澪なんだけど、土日とも出ずっぱりで無理らしい。
  もう少しで実務が終わるらしいから、張り切らずにはいられないみたいだ。よく過労死しないよなー全く』

唯「だねぇ。澪ちゃん、バリバリのキャリアウーマンになっちゃったし」

律『そう言う唯だって、お洒落なオフィルビルで会社員やってるんだろ?』

唯「まぁ、一応。でも私なんかほとんど事務みたいなものだから、澪ちゃんには遠く及ばないよ」

律『ふぅん。私なんてしがない宅配業者だぜ? ま、それはひとまず置いといて』

律『唯が二番目で、次はムギに連絡取ろうと思ってるんだけど、おそらくまだ海外にいるだろうな』

唯「ムギちゃん、どんなお仕事してるんだろうね。もう三年くらい……ってことは、大学卒業してから一度も会ってないんだ」

律『だなぁ。んま、あいつのことだからちゃっかりやってるって。そんで、梓は余裕で捕まるだろうけど』

唯「まだ音楽の道続けてるんだよね。諦めてない、って言ったほうが当たってるかもしれないけど」

律『忙しくなりたくても、まだまだカレンダーには空白多しってとこだろう』

唯「この話、あずにゃんの前で言ったらきっと怒るだろうね」

律『あれだよなー。なんだかんだ私たち武道館目指すとか言ってたけど、意外に現実主義だったみたいだ』

唯「現実主義ねぇ。眩しいよね、現実って響き」

律『おーい唯。さっきからたまにキャラが崩れてないか? みつをを人生の師として設定したのか?』

唯「あはは。あんまり気にしないで。って、ここまで言っちゃうとかえって痛々しいかな」

律『……まぁまぁ。積もる話は日曜日ということで、どうせまた三人だろうけどな』

唯「はいはぁい。それじゃ、例の居酒屋で」

律『ん。詳しい時間が決まったらメールする。じゃーな』

唯「おやすみー」

律『のし!』


 プツッ ―― ツー ツー

唯「なんだかんだりっちゃんは、りっちゃんなりに充実した日々を送ってるんだよね」

唯「それに比べて、私は……」




 チュン チュン

憂「お姉ちゃん。学校に遅刻するよ?」

唯「ふあぁ。くあぁ……」

憂「ほぉら、早く起きて。もう朝ご飯できてるから」

唯「………」

憂「お姉ちゃん、なんだか重い顔してるよ。怖い夢でも見ちゃったの?」

唯「今日、土曜日なんだけど」

憂「またまたぁ。だって今日は……うん、平日だよ!」

唯「……」

唯「憂の中では何曜日の設定になってるの?」

憂「設定って何が?」

唯「あー、もうそんなところ突っ込まなくていいから! で、今日は何曜日なのか分かって聞いてるんだけど」

憂「曜日は、確か、ええっと……」

唯「……」


唯「とりあえずごはんたべるし」

憂「どうぞ召し上がれ」

唯「またインスタントか……。もぐもぐ」

憂「……」

憂「あっ! お姉ちゃん、カレンダー見て!」

唯「カレンダーがどうかしたの? って、あ……」

憂「ほぉら、金曜日だよ。やっぱり私の言った通りだったでしょ。早く学校に行く支度を」

唯「あぁ……捲るの忘れてた……。今日は青い字のはずなのに……」

憂「もうっ。ズル休みしちゃ駄目だよ」

唯「在庫が切れたからって、日めくりタイプなんて使うんじゃなかった……」

憂「在庫?」

唯「いちいち聞き返さないで」

憂「とにかく早く学校に行く準備しないと。今から走れば、一時間目にならギリギリ間に合うよ。
  ほら、出席が足りないと進路にも響いてくるってよく言うでしょ? 行きたい大学にだって」

唯「んあああああああああああああもう! 大学なんてとっくに卒業してるんだよ!」


憂「お姉ちゃん? 何言ってるの?」

唯「……」

憂「だってお姉ちゃんはまだ高校生だよ? そんな見え透いた嘘……」

唯「嘘つきは憂の方だし」

憂「違うよ。お姉ちゃんの方だよ」

唯「……何回何回何回言っても学習しないんだから」

唯「もう曜日のことはさぁ、テレビつけて勝手に納得してくれないかな」

 ピピッ

唯「はい。左上のところに何て書いてありますか読んでみて?」

憂「土曜日って出てる……」

唯「ほぉら分かったでしょ。皿洗いは私がやるから、憂はその辺でごろごろしてればいい」

憂「……嫌だよ。私の仕事取らないでよ」

唯「間違ってる憂にお世話されたくないから」

憂「……くすん」




 ジャー ―― キュッ

唯「ちょっと出かけてくるね」

憂「どこに行くの?」

唯「お昼は外で食べてくるね」

憂「ねぇ、どこに行くの?」

唯「……パチンコとか。競馬とか」

憂「おおおおおおおおおおおおおお姉ちゃんが不良に!?」

唯「やだなぁ嘘だから。あずにゃんちだよ」

憂「もう、脅かさないでよ。……ねね、私も一緒に行っていいかな?」

唯「それは無理かも。二人きりで遊ぶ約束だから」

憂「そうなんだ……。あっそうだ、さっきスフレ詰めを見つけてね、よかったら持って」

唯「かさばるからパス。ていうか、いい加減自分で開けて食べなって」

憂「ううん。もし家で開けるなら、お姉ちゃんと一緒に食べたいから」

唯「……その日がくるのならね」




 チュピーン!

 ジャラジャラジャラ

唯「おー。今日はポケットがよく開くー」




 パンパカパーン

唯「いけー! いてかましたれー、かばちたれー!」

唯「……やったー!」



 ―― ――

 ――



唯「今日はたんまり稼げたな~」

唯「ういー、ただいまー」


 シーン


唯「うーいー、いないのー? いないならいないって返事してー!」


 シーン


唯「……出かけてるのかな。でも、もう日は落ちきってるのに」

唯「携帯に連絡は……。って、電源切ってたんだった」


 ピポパ トゥルルル ―― ガチャ


唯「もしもし、憂。今どこにいるの?」

憂『もしもし、お姉ちゃん。あのね、今買い出しに向かってるんだけど』

唯「こんな時間に買い物? もう暗いから、諦めて戻ってきなって」

憂『でも、お夕飯のおかずがないし。お惣菜だけ買ったらすぐに帰るから』

唯「……ねぇ、憂」

憂『なぁに?』

唯「昨日の夜に残したお惣菜が、手付かずで冷蔵庫に残ってるはずなんだけど」

憂『お姉ちゃん、記憶がごっちゃになってない?』

唯「それ私が言いたい台詞」

憂『……またまたぁ』

唯「それで話変えるけど、憂は今道に迷ってるんでしょ?」

憂『そんなことないよ。お姉ちゃんじゃあるまいし』

唯「なにその言い方」

唯「いいから、近くにある建物とか看板とか、何でも目に付くもの言って。
  すぐに迎えに行くから。お姉ちゃんが着くまで、絶対にそこを動いたら駄目だよ」

憂『そんな言い方、子供じゃないんだから……』

唯「体は子供で頭脳が大人の方がまだ助かるんだけどね」

憂『……』

唯「言い訳は後で聞くから、今は」

 ブヅッ ―― ツーツー 


唯「この馬鹿妹」

唯「はぁ。もういっそ放置して、お巡りさんにでも連れてきてもらえば……」


唯「って、GPS使えばいいんだった」




唯「はぁ。はぁ。やっと着いた……」

憂「お姉ちゃん……」

唯「全く。どうやったら隣町まで来れちゃうの……」

憂「夜風が気持ちいいから、ちょっと遠回りに散歩でもしようかなって思って」

唯「ふぅん。わざわざスーパーからまっすぐ離れるように遠回りねぇ」

憂「……」

唯「おうちに帰ろう。おかずはあるものを食べればいいから」

憂「……でも」

唯「ほら、帰るよ。道端が好きなら、道路ん家の子にしちゃうからね」

憂「ま、待ってってばぁ!」




唯「ただいま。そしておかえり」

憂「ただいまー」

憂「ねえねえ、お姉ちゃん」

唯「うん?」

憂「なんだか懐かしかったね。二人だけで、夜更けにずーっと住宅街を歩いて帰ってきたの」

唯「憂……何か思い出したの!?」

憂「あの時は、私もお姉ちゃんも、右と左が分からないくらいに酔っ払っちゃって。
  確かあれはお姉ちゃんの就職祝い……。あ、あれ? お姉ちゃんが就職って、どうして!?」

唯「そうだよ、憂。お姉ちゃんは大人になったんだよ。だから憂も大人なんだよ」

憂「私が大人? でも、お姉ちゃんは高校生……。えっ、あれっ」

唯「それは、何ていうか時間の流れは一定だから、ええと、上手い言い回しが……」

唯「――ッ!?」

唯(何!? なんか二階から臭う!! クサイ!!)


憂「お姉ちゃん?」

唯「ガスだ!」

憂「ガス!?」

唯「息を止めて!」

憂「えっ? えっ?」

唯「お姉ちゃんが何とかするから、外に出てて。いいね」

憂「で、でも」

唯「いいから!!」

唯(栓を締めて! 窓を開けて! それから――)

 ―― ――

 ――



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