いつからだろう

世界に私の居場所が無いと感じ始めたのは



律「おはよー唯ー」

唯「…」

律「唯?」

唯「あ、おはようりっちゃん」

律「?」

紬「どうしたの唯ちゃん? 元気ないわよ」

唯「…うん」

澪「?」



私が軽音部のみんなに対して抱いていた感情

嫉妬

田井中律は軽音部部長

気が強く優しく人望がある

琴吹紬はお嬢様

育ちが良く慎ましくおしとやか

私は彼女たちのようには生きれない

そして

私が最も嫉妬を抱いている存在が…

この女



澪「何かあったのか?」

唯「ううん何も…」

唯「ただちょっと気分が悪くて…」

澪「大丈夫か?」

唯「…」

唯「澪ちゃんは優しいね」

澪「!」

澪「どうしたんだよ急に…」

唯「ありがとう私は大丈夫だから」

澪「そうか…」

澪「ホラ、そろそろ授業始まるぞ」

唯「うん」



…こういう上辺だけの会話にももう疲れた

私たちはもうすぐ第二学年に上がる

もしかしたら軽音部に後輩が入ってくるかもしれない

私のことを理解してくれる後輩が

…でも私の心にはもうそれを待つ余裕すらなくなりつつあった



~部室~

紬「新入部員入るかしら?」

律「そうだな~、最低でも1人は欲しいな!」

澪「いい子が入ってくれるといいな」

唯「…」

律「唯、顔色悪いぞ?」

唯「…」

紬「唯ちゃん大丈夫?」

唯「…えっ」

唯「あ、うん、ちょっと気分悪いかも…」

唯「保健室行ってくるね…」スタスタ…


律「…」

紬「大丈夫かしら…」

澪「1人じゃ不安だな…」

澪「私、連れて行ってくるよ」

律「あ、ああ頼んだ」


澪「唯!」タッタッタッ

唯「!」

澪「1人じゃあれだろ」

唯「うん、ありがとう…」

澪「大丈夫か?」

唯「うん…」

唯「…」



今は放課後

人は少ない

私がこの女の背後から首を絞めれば容易く息の根を止めることができるだろう

殺した後の言い逃れはできないが…

それでもいい

この苦痛から解放されるのなら…



澪「今日は朝から顔色悪かったもんな…」

唯「…」

澪「それにしても寒いな…」

唯「…」

澪「…」

唯「…」スッ…

澪「!」ビクッ!

澪「…唯?」

唯「…ゴメン澪ちゃん」

唯「肩貸して…」

澪「あ、ああ」



そう…

私に人を殺す勇気なんかない

だから今まで何もできずにいた

しかし、そろそろ覚悟を決めなければいけない

私が私でなくなる前に



~保健室~

唯「ありがとう澪ちゃん…」

澪「ああ…」

澪「帰りは大丈夫か?」

唯「うん、憂に迎えに来てもらうよ…」

澪「そうか」

唯「ごめんね」

澪「気にするな、じゃあな」

唯「うん…」



それから家に帰るまでの間、私は思いをめぐらした

今までの楽しかったこと

苦しかったこと

軽音部でのこと…

そして知る

私の存在に価値など無いことを

明日、私は自らの人生に終止符を打つ


私は遺書を書いた

遺書には自殺に至るまでの経緯はとくに書いていない

家族、そして友人への謝罪の言葉を述べ

最後に「疲れた」とただ一言だけ添えた

私が日頃の思いをつづったところでそれが誰かの心に響くことは無いだろうから


今日は色々と考えすぎたせいか頭が痛い

少し吐き気もする

朝、目が覚めたら良くなっているだろうか

明日死のうとしている人間が体調を気にするなんて馬鹿な話に思える

でも最後の日くらい元気に笑顔で…

そう思いながら私は眠りについた



~翌日~

唯「みんな、おはよう!」

律「おう唯、すっかり元気になったな!」

紬「良かったわね」

唯「うん、ごめんね迷惑かけちゃって」

唯「澪ちゃん昨日はありがとう」

澪「良かったな元気になって」

唯「えへへ~」



私にとって最後の学校

上手く話せただろうか

上手く笑えただろうか

ごめんねみんな

こんな私に付き合ってくれて

ありがとう


放課後

私は屋上への階段を登った



~屋上~

ガチャ…

唯「…」

唯「澪…ちゃん…?」

澪「唯?」

唯「こんな所で何してるの…?」

澪「ちょっと風に当たろうかと…」

澪「唯はどうしたんだ?」

唯「私は…別に…」



澪「…」

唯「…」

澪「そろそろ私たちも二年生だな」

唯「うん」

澪「後輩入ってくれるといいな」スタスタ…

唯「うん…」

澪「…」スタスタ…

唯「澪ちゃん?」

澪「…」

唯「そんな所に立っちゃ危ないよ! 澪ちゃん!」

澪「…」



私は今、屋上の柵を超えた

眼下には遠くに地面が見える

そして後ろには…

私が屋上に行くのを見かけて付いてきてしまったのだろう

私が自殺を決意した原因

平沢唯がいる



唯「どうしたの澪ちゃん!」

澪「…」

唯「早く戻ってきなよ!」スタスタ

澪「来るな!」

唯「!」ビクッ

澪「もう…疲れたんだよ…」



平沢唯は天才

みんなに好かれて愛される存在

私はこの女のようには生きれない

彼女に対する嫉妬こそが私を自殺へと歩ませた



澪「ごめんな唯、みんなにも私が謝ってたって言っといてくれ」

澪「じゃあな」

唯「待って!」

澪「…」

唯「私に話してみて…」

澪「…話したって分からないよ」

唯「確かに分からないかもしれない…」

唯「でも…」

唯「私も同じようなことあったから…」



平沢唯は自らの過去を語り始めた

自分が周りに比べて様々な点で劣っていると感じていたこと

本当に本当に生きるのが辛く何度も死のうと思ったこと

そして、苦悩の底にあった自分を親友である真鍋和が救ってくれたこと



唯「私、本当に何もできなくて」

唯「もう生きるのはやめよう」

唯「そう思ってた」

澪「…」

唯「和ちゃんが私を助けてくれたように」

唯「私も澪ちゃんを助けるから…!」

唯「だから…話を聞かせて…」

澪「…」



平沢唯は他人に対する劣等感から自らの命を絶とうとしたと言う

私も同じ…

いや、違う…

今気付いた

この気持ちは…

憧れ

こう生きたい

こう在りたい

自らの理想がすぐ側にある

この状況が苦しいのだ

神話に太陽に近付きすぎたために翼を焼かれた者の話がある

私にとっての太陽は

平沢唯は

あまりにも私の近くに在りすぎた…!!



澪「ごめんな…唯…」

唯「澪ちゃん」

澪「私がもう少し…」

澪「もう少しだけ強い心を持てていたら…!」

澪「本当に…」

澪「ごめん」タッ

唯「み、澪ちゃあああん!!」



何だったんだろう私の人生

何だったんだろう私の生き方

自殺の動機が憧れだなんて馬鹿馬鹿しい

遺書には書かなくて正解だったな

ああ…

今度生まれ変わった時は…


~終~






終わりです
実はハッピーエンドにするかかバッドエンドにするかで結構悩みました
今回は「語りは唯と思わせて澪」ってのをやりたかっただけで書いたSSです
でも実際は文章力も何も無いからあんまり上手くできてないと思います
こんなSSを最後まで読んでくれた方々ありがとうございます


最終更新:2011年06月03日 23:45