律「ふむふむ」

いざこうやって見てみると、やっぱり梓は可愛らしいな。

梓「な、なんですか……?」

水着で隠れているところ以外の、綺麗に黒く焼けた肌が妙にそそるし。

そのちょっと幼い感じの水着も童顔の梓によく似合っている

面積が多いのがちょっと残念だが、

その分さらけ出された肌には目が釘付けに……

梓「律先輩……あんまりじろじろ見ると恥ずかしいです…」

………はっ、思考が男になってる!

律「………あ、あぁ……ごめん。まぁ座れよ」

梓「はぁ……ってあつい!!」

律「砂浜だからな」

梓「なんで平気なんですか!?な、なにか敷くもの持ってきます!」

律「あぁ、俺男だから」

梓「理由になってません!」

梓の持ってきたレジャーシートに腰掛け、

きらきらしてる海を眺めながら梓と取り留めのない会話を交わす。

梓「綺麗ですね……」

お前の方が綺麗だよ。

と、言ってやりたいところだが

あいにく梓は綺麗というよりも

可愛いという言葉のほうが合ってる。

律「そうだな……これ見られただけでも、軽音部に入ってよかったって
思わないか?」

梓「そうですね……なんだかこうやってると、なごみます」

律「貸し切りだから静かだしな、唯達がうるさいのは別として」

梓「律先輩だって十分うるさいですよ……」

律「……空気読めよ」

梓「ふふ……」

律「はー!もうずっとこうしていたい……」

梓「にゃー………」

律「………」

梓「………」

梓「………あ、練習はちゃんとしますよ!

律せんぱいもサボったらだめですからね!」

律「そんないきなり真面目になられても。

それにお前が一番楽しんでたくせに、こーんなに真っ黒になって」

梓「うっ……わ、私はちゃんと練習もします!」

律「まぁ、頑張りたまへよ」

梓「またそんなこと言って!!」

律「そろそろ腹減ってきた」

梓「なんだか唯先輩みたいですね」

律「唯の食欲は俺よりすごいぞ、食べる量とかじゃなくて……」

梓「わかります。唯先輩ももうちょっと大人になれば
いいのに」

律「だな、全く唯は子供だぜ……ふっ」

梓「律先輩も人のこと言えませんけどね……」

律「ほー、さっきから言ってくれるじゃん」グリグリ

梓「い、痛い痛いです!ごめんなさいごめんなさいー!

生意気な後輩には少しお灸をすえてやらないとな、

もうすこしグリグリしてやろう。

梓「……あっ……」

律「ん?」

梓「律先輩……そんなところ……」

律「………え!?俺変なところ触った!?」

梓「…………恥ずかしいです……」

律「ええ!?」

何!?私何処触ったの!?

しばらく話していると、梓の眼がトロンとしてきた。

律「眠いの?」

梓「はい……でも……れんしゅ……しないと……」バタリ

あ、力尽きた………

律「こら、気持ちはわかるけどこんなところで寝るな」

ずっと話していたのですっかり乾いた髪を撫でながら声をかける。

梓「…………」

が、私の肩にもたれ掛って起きる様子はない

律「…………運ぶか」

不可抗力なので文句言われても知らないっと。

唯「ほら~、つかまえてごらんなさ~い~」

紬「あはは~、待て~」

澪「二人とも、置いてかないで~!」

唯「んん?………二人とも、りっちゃんとあずにゃんが!」

律「おー、どしたの?」

澪「なんで梓を背負ってるんだ?」

紬「疲れちゃったのかしら」

律「みたいだな、起きないよ」

澪「………そうやってるとなんだか兄妹みたいだな」

律「梓と澪のほうが血はつながってそうだけどな」

唯「ぶー、私もりっちゃんにおんぶしてほしい!」

律「はいはい、また今度な」


梓「律先輩ごめんなさい!私」

律「そんな気にするなよ、梓が一番遊んでたんだから」ニヤニヤ

梓「うっ……」

それに役得だ。

梓「でも、私重くなかったですか?」

律「梓はちっちゃいから、全然重くなかったぞ」

無駄な心配をする梓に、ちょっと笑ってしまった。

梓「むむ……それはそれでちょっと悔しいです」

律「なんだそれ、軽いのは良いことだろ?」

梓「いつかぎゃふんと言わせてやるです!」

なんだこの負けず嫌い……

唯「あ~……………」

律「俺腹減った………」

唯「私も……」

梓「ダメですよ!練習です!」

律「え~?ご飯食べようよ~……」

梓「ダメです~!」

紬「まぁまぁ梓ちゃん……」

澪「どうどう……」

梓「だって今日全然れんしゅ」

グゥ~

梓がぷりぷりし、その瞬間に鳴り響くお腹

唯「あずにゃ~ん」ニヤニヤ

律「やっぱ腹減ってんじゃん……」

梓「こ、これは違うんです~!!」


―――

律「これは梓の作ったおにぎり……こっちが澪の作った

おにぎりか……でかいな……いや、梓のが小さいのか?」

澪「……どうせ私の手は大きいよ……」

律「おいおい……」

男になってからは食べる量も増えたから

大きいのは結構ありがたいんだけど……まぁ、どっちもおいしい。

紬「ね、りっちゃん。どっちのおにぎりがおいしい?」

梓「!」

澪「!」

唯「りっちゃんどっち~?」

くっ、面倒な事聞きやがって……

ちらちらと横目で私を見る澪と梓の視点が痛い……

律「……くっ!どうして!どうして同じ部員同士で争わなくちゃいけないんだ!

俺は……俺はっ!!」

紬「あ~、りっちゃんごまかそうとしてる~」

唯「男らしくないぞ!」

くっ!この邪魔者め!

澪「……」

梓「……」

かくなるうえは……

律「ど……どっちもおいしいよ?」

逃げの体勢を取りました。

律「……………」

澪「あー……ありがとう」

梓「ございます……」

だってどっちがいいとか選べないよ、

どっちも美味しいんだもん。

唯「逃げたね」

紬「逃げたわね」

律「やかましい!」

―――

澪「じゃあ、行ってくる」

律「ああ」

夕食も食べ終え、女性陣は風呂に向かった。

この合宿に参加している男子は私だけなので

当然、私は一人ということになる。

律「一人になるとやっぱり静かだな」

去年と同じように、当たり前だが、少し寂しい。

律「男も勧誘しておけばよかったかな。いやでも……」

私は今は男だが、元女というちょっとどころかかなり特殊な状況にいる男だ。

純粋な男子なら、やっぱり女子が風呂入ってるのを覗きたくなったりするんじゃないか?

みんな可愛いからなぁ、そうなっても不思議じゃない。


……うーん

律「んなわけないか」

しばらく考えてみて、そう結論付けた。

まぁ、あったとしてもごく少数だろう。

だって覗きって犯罪だよな、やっちゃダメな事だし…

でも楽しそうだよな……いやいや。

いくらなんでもそこかしこで起こっていいはずがない


……と、思う。

律「俺は男の味方なのか、女の味方なのか……」

ダメだ、自分で自分が分からなくなってきた。

だって男の子だもん、最近はなんか悶々するし。

自分の中でそういう感情が芽生え始めた時は

これが男の劣情というものなのか……

なんて、特に抵抗なく冷静に自分を分析してしまった。

自分にはこっちの方があっているような気もする。

やはり私がもともと男らしかったってことだろう。

………それはそれでなんだか抵抗あるな、元女の子的に。


律「まてよ?よく考えたら去年のアレ、

ある意味では覗きってことになるんじゃないか?」

去年のアレ、ムギがその、

俺のいる風呂場に乱入してきたときのことだ。

………全裸で。

ホントに大変だった、主に体の一部分とメンタルが。

あんなに焦ったのはたぶん人生で初めてだろう。

律「でも、あれは違うか……どちらかと言われると覗かれた方だし」

男としてどうかと思うが事実だ。


ムギはすごくエロ……きれいだったし、

肌とかすごく白くて……でもほんのり赤くなってて

無邪気な笑顔が妙に色っぽく見えたような。

女だった時はそんなことぜんぜん考えなかったのに、

男になってみるとやっぱり世界が変わる。

あんなのが見れるんならそりゃ男だって必死になるよな、

必死に計画とか立てちゃったりするよな

私ももうすこしこの欲望に正直に行動してみるべきか……

いやいやしかし………

律「いかんいかん」

私は頭を振り、煩悩を振り払った。

こんなことを考えてしまうあたり、やっぱり私も男ってことか。

律「はぁ……」

自分に少し幻滅し溜息をつくと、それが部屋中に響き渡る。

無駄に静かなので、この広い別荘に私一人しかいないような

感覚に襲われて、なんだか少し怖い。

皆、早く戻ってきてくれっ

………悶々するから。

澪「律のヤツ、一人でさびしがってるだろうな」

唯「りっちゃんが?」

澪「ああ、あいつはああ見えて寂しがり屋なところがあるから、

今頃男子部員も勧誘しておけばよかったなんて思ってるんじゃないか?」

唯「おぉ~、澪ちゃん探偵みたいだね!!」

澪「いやいや……」

紬「そういえばりっちゃんと一番付き合いが長いのは澪ちゃんよね、

小学校のころから一緒だったとか……」

澪「ああ、でもそのころは……」

梓「…………」

ひりひりと焼けた肌が痛むのを我慢して湯に浸かりながら、私は楽しそうに

笑いあう先輩方を眺めています……楽しそうだなぁ。

話題は今ここにいない、軽音部の部長である

律先輩の事みたいです………律先輩か…

普段はよく唯先輩とふざけあったりして、すごく子供っぽいのに

たまにすごく大人な表情をしたりして。

ドラムだって人生やり直してるんですかと思うくらいにすごく上手だし、

なんだかよくわからない先輩です。

後は、なんだか私だけスキンシップが激しいような

……自惚れているわけではないと思うんですけど。

例えば、すぐに格闘技か何かの技をかけてきたりして……それで、その

……むむむ胸に手が、当たっちゃったりして……

そ、そういうわけで!私にとってはすごく頼りになる、

それでいて世話のかかる兄という感じです。

きっと他の先輩方も私と律先輩の関係をそんな感じに認識していると思う。

でも性別的にはそう分類できるけど、

律先輩ってなんだか男らしくないんですよね。

いえ、男らしいんです、行動や言動はすごく男らしいんです。

でもなんだか………なんででしょう。自分でもよくわかりません。

梓「……お兄ちゃんか」

律先輩がお兄ちゃんだったら、きっと毎日楽しいんだろうな、

朝起こしてあげたりして、ご飯作ってあげて、一緒に学校行って……

梓「(………それだけ?)」

私の想像はそこでとまってしまいます、兄妹ですからこんなもんでしょう。

これでもちょっとブラコン気味な気がしますが気にしません。

梓「(これだけかぁ………なんか、やだな)」

そしてこれ以上の事を律先輩に望んでいる自分がいる。

だって律先輩は実際私のお兄ちゃんじゃない普通の男の人で、

私は女の子です………ちょっとばかし、そういう気持ちになるのも仕方ないのです。

唯「あずにゃん、どしたの?なんだか悩んでる?」

気が付くと唯先輩が隣に座っていました、濡れた髪をかきあげるしぐさは、

子供っぽい唯先輩に似合っていなくて、なんだか笑えます。

梓「そうやってると唯先輩でも大人っぽく見えるんだなぁって思ってた

だけですよ」

私は咄嗟に笑ってごまかします、こんなこと恥ずかしくて言えません。

唯「ええひどい~……そんなこというあずにゃんは!」

梓「わっ!抱きつかないでください!!って痛い!ひりひりする!!きゃーーー!!!!」


きゃーーー!!!!!

律「きたか!!」ガタッ

その時の私は、どうかしていたとしかいうことができません。

突然風呂場の方から聞こえてきた楽しそうな悲鳴を意図的に誤解し、

私は自分でもびっくりするくらいの男らしさで立ち上がった。

そしてこれまた自分でもびっくりするくらいの速さで風呂場に向かう。

一気に脱衣所まで到達した、この間二秒である。

このドアを開ければ……開ければ………!!

律「皆!!大丈夫かー!!!!!」


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