『りっちゃん!私は音楽の専門用語とかよくわからないけど、昨日のライブもすごく素敵だったよ!』

『律のドラムの安定感は変わらないな、でも油断は禁物だよ』

『流石りっちゃんです、これからもその腕前で私達を引っ張って行ってくださいね』

『新観ライブ、とってもかっこよかったです、流石律さんですね。私は新しくできた友達と見に来てたんですけど、その子も夢中でしたよ』

携帯を閉じ、着始めて約一年が経った制服の袖に手を通す。

律「いってきまーす!」

まだちょっと春休み気分が抜けないが、学校をサボるわけにもいかないので私は玄関のドアを開けた。

律「お……段々あったかくなってるな」

私は田井中 律、こないだ高校二年になったばかりの探偵さ。




ごめん


最初は戸惑っていたが、慣れと言うものは恐ろしい。

私が男になって一年が経った。

私は女子の方が明らかに多い通学路を横目にみながら、

あくびをかみ殺しつつ学校への道を歩く。

律「桜が満開だと、なんか春って気がするな……それにしても、やっぱり春は眠い」

最初は戸惑っていたが、慣れと言うものは恐ろしい。

気付けば私が男になって桜校に入学して一年が経っていた。

しかも今では私はちょっとした有名人だ。

軽音楽部の唯一の男子で、部長。

さらには生徒会ともつながりがある、それがなんだか皆には珍しいらしい


そのおかげで澪だけだったはずなのに、

なぜか私にもファンクラブができてしまった。

………そしてひどいことに、

我が軽音部の私以外の部員が全員そのファンクラブに入っているという。

今のところそいつらは表立った行動はしていないので、

あまり気にすることはないだろう。


そして……

梓「律先輩!おはようございます!」

新入部員も入ってくれた。以前は

共学になった桜校に梓は来ないんじゃないかと

少し心配になったりもしたが、その心配は杞憂だったようだ。

梓「今から学校ですか?」

律「ああ……って、制服みりゃわかるだろ…」

梓「偶然です!私も今から学校でした!というわけで一緒に行きましょう」

ただ、なぜか妙に懐かれちゃったんだよなぁ……

梓の態度は基本的に昔と変わらないんだけど、

時々どきっとするような眼差しでこちらを見ることがある。

勿論それは男と女の壁を超えるほどのものではないんだけど

本当にちょっとの差なんだけど、確かに違う。

それは、ホントなら澪やムギあたりが果たすべきだった

役割を、調子に乗った私がそれを買って出てしまったからだ。

時は入学式直後くらいに戻る、ついてこいよ!


あそうだ、梓のついでに私達の新入部員勧誘の頑張りも語っておこう

どれもこれも全部徒労に終わったわけだが、大事な思い出だ。

………大事な思い出だよ?

まずはこれ

澪「わたしだけ、別のクラス……」

律「さびしくなったら、いつでも会いに来ていいんだぞ……っ!」

澪「うるさいっ!」

というやり取りなんかをした日の昼休み。

律「なんでこんなもん着てビラ配り?」

唯「暑い~」

澪「文句を……いうな……」

律「み~お、フラフラだぞ」

紬「軽音部で~す」

さわちゃんの貸してくれた妙な動物のきぐるみを着てビラ配りだ、

暑かったことしか覚えていない。

律「どうぞ」ノソッ

「ひっ」

てな感じでビラを渡そうとしても逃げられるので、

収穫は全くなしと言っても過言ではないだろう。

しかしそれでいてきっちり注目はされている。

そりゃそうだ、着るほうも呪われるんじゃないかって

躊躇ったくらい怪しい着ぐるみだし。

唯「あ、うい~!」

憂「ん?おねえちゃ……きゃあぁぁぁぁぁ!!」

唯「うい~………」ガクッ

憂ちゃんにまで逃げられた唯は凹んでいた。

唯「いらっしゃいませ~」

紬「どうぞどうぞ~」

お次、メイド服でお出迎え、澪は隠れている。

相変わらずさわちゃんの衣装技術には驚かされるばかりだ、

店に並べても全然問題ないレベルだよなこれ……

ま、褒めると調子に乗るから何も言わないけどな。

唯「りっちゃんも着ればよかったのに……」

律「着ねーよ……」

ちなみに私は着替えていない。

今回はあろうことか男の私にメイド服を着ろと

さわちゃんが言い出してきたからだ。

そんなことできるわけがない、おかしーし。

私は皆のメイド服を見ているだけで満足だ

眼福眼福


憂「すみませ~ん」

ドアがノックされ、開く。

憂ちゃんと……お、純ちゃん。懐かしい…

唯「いらっしゃいませ~」

憂「お、お姉ちゃん?」

そりゃ驚くよな、ここは何部だって。

純ちゃんなんてちょっと引き気味だ。

紬「もしかして軽音部に?」

憂「紬さんまで!?」


唯「クリスマス以来、さわちゃん先生皆にいろんな服着せるの癖になっちゃったみたいで…」

と、それを全く苦にしていない笑顔で話す唯。

憂「そうなんだ~……あ、私のお姉ちゃんで、唯です」

憂ちゃんが私達をちょっと引き気味の純ちゃんに紹介し始めた。

紹介された瞬間ドジかますのはやめような、唯…

唯「ちょっと待っててね、今お茶持ってくるから…これ持ってけばいいんだよね?」

紬「熱いから、気を付けてね」

唯「あっち!」

憂「お、お姉ちゃん」

唯「あ、あ、う、お、あわわわわ」ガタガタガタ

ダメだこりゃ……

憂「お姉ちゃんは座ってて、あと私がやるから」

唯「そ、そう……?」

純「あー……」

律「唯……」

憂「この人が、部長の律さん」

律「どもー、部長の田井中 律です」

憂「ドラムが上手くて、かっこいーんだよー♪」

律「おいおいよせよ、そんな大したもんじゃあるけどな!」

純「(あるんだ……)」

憂「それに優しくて……」

律「うんうん」

憂「でもゲームは弱いの♪」

律「ぐはっ」

きついジャブかましやがる……

紬「こちら琴吹 紬さん」

憂「はじめまして~」

純「どうもです」

紬「騒がしくてごめんね~」

純「優しそうな人だね」

優しいだけじゃないぞー……いざという時の行動力もすごいんだぞー……

が、あえて怖がらせることもないだろう。

憂「そして、最後がー……あれ?」キョロキョロ

憂ちゃんが周りを見渡して最後の一人を探す。

澪だな、澪はいまだに隠れてるから見つからないのは当然か

律「澪ならあそこだぞー」

私はドアから顔だけをのぞかせている澪を指差した。

ちょっと不安そうな顔が、加虐心をくすぐる。

澪「うう……」

純「あの人?」

憂「うん、秋山澪さん、とっても恥ずかしがり屋なんだ~」

律「みおー、そんなところにいないで早く入ってこいよ~」

澪「いや……笑うもん……」

憂「笑いませんよ、とっても似合ってますっ」

澪「ほ、ホント?」

う、可愛い……




って私がみぼれてどーすんだ!!


律「憂ちゃん~、俺あれからずっと特訓してたんだぜ?今度こそリベンジしてやるから今度どうよ……」

憂「良い心意気ですね、感心します、だが無意味だ」

律「くっ……」

純「(何の話?)」

見たいな感じで憂ちゃん純ちゃんふたりと楽しく談笑していると、

………悪魔が現れた




沢「りっちゃん、やっぱりメイド服着なさい」

さわちゃん?だからメイド服なんて私には似合わないって言ってるじゃないか…

律「だからいやd」

沢「ああ!?」

鬼の形相で睨まれた

律「ひいい!?」

沢「大丈夫よ~痛くないから」

うわわわわわわわ

そっからはもうさわちゃんの独断場

シュバッ!

沢「全てを破壊し」

私は一瞬で服を脱がされ

ヒュッ!

沢「全てを繋ぐ」

そして一瞬で着せられた……メイド服を

律「な……何だと!?」

唯「り、りっちゃんが!」

紬「一瞬にしてメイドさんに!?」

澪「わあ…!」

憂「可愛いです!」

純「(なにこの団結力)」

律「う、うわ~ん!」

唯「あっ逃げた」


―――

律「おいおい、流石にこれは変だろ……!」

その場で着替えるわけにも行かないし、

さわちゃんのような瞬間早着替えの技術があるわけでもない、

とにかく早く着替えたかった私はちょっと半泣きだ。

この学校は男子のほうが少ないので、

男子に更衣室が設けられている。

私はそこを目指して走っていた。

梓「わっ!」

ドカン

で、梓にぶつかった

律「(なんつーお約束……っていうか、現実でぶつかるとやっぱり痛い)」

梓「にゃあああああああ……」

気絶してるし……はぁ

運ぶか


律「失礼しマース」

死んだように眠る梓をその背に背負って、私は保健室に足を踏み入れた。

律「誰もいないのか……」

とりあえず梓はベッドに寝かせておこう。

梓「……にゃ」

ベッドに寝かせるとすぐ、梓は猫のようにまるまった

律「お前はほんとにあずにゃんって名前が似合うよ……」

プニ

まだ幼さが残るその頬を撫でる。やーらけー……

律「お前の事、勝手に信じてたけど……実は俺、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ不安だったんだ」

梓「にゃ……」

律「でも……昔とは随分状況が変わっちまったけど…ちゃんと、お前もここに来てくれたな……これは、俺達に会いに来てくれたって事だよな?

そう思ってもいいんだよな?」

梓は何も言わない、まぁ聞こえてないんだから当然か。

……聞かれてても困るけど。

律「軽音部にも、ちゃんと来てくれよ……待ってるからな」

梓「ふぁい……」

律「え?」

梓「………なるあたっくらいど……」

律「………でぃでぃでぃでぃけーい」

それにしても、反則的な可愛さの寝顔だな、オイ


しばらくすると梓は目を覚ました

梓「ん……ん…ここは…ん?」

律「起きた?」

梓「はい……えっと、私は…」

律「廊下の門でぶつかったんだ。覚えてない?」

梓「あ……そういえば、そうだった気が……」

律「完全にこっちの不注意だった、申し訳ない」

梓「そ、そんな……!こっちこそお手を煩わせてしまって…」

律「いやいや、そんな……」

梓「いえいえ、私が……」

謙虚な日本人ごっこだ……!


律「わかった、もう疲れた。どっちも悪いってことで」

梓「そうですね……それで手を打ちましょう」

律「じゃあ、そろそろ戻るよ」

いい加減着替えて戻らないとな。

梓「あっ……メイドさん!」

律「(メイドさんって……)ん?」

梓「私、中野 梓です……よろしくお願いします……」

律「………知ってるよ。じゃあまたな」

バタン

梓「………………またな?」


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