夏休み前。

澪「合宿をします」

紬「じゃあ、私が別荘を提供するわ」

唯「わーい!」

紳助「ほな俺も行くわ!」

澪「え゛っ……でも、女ばっかりのとこに、
  男性ひとりっていうのはそのう……抵抗あるっていうか」

紳助「ああん? 俺は顧問の教師やぞ?
    俺を連れてかんでどうすんねん」

澪「でも……」

紳助「お前も殴られたいか? お?」

澪「あっいえそのでも……」

律「あ、私合宿行きません……」

紳助「おう、お前は別に来んでええわ」

律「……はい」

澪「え、なんで……」

紳助「こいつ別にいらんからな」

澪「い、いらないってそんな……」

紳助「まあ黙ってろや。合宿ではみっちり練習すんで。
    学園祭もあるしな」

澪「はあ……」

唯「学園祭か~。ライブやるんですよねっ!」

紳助「おう、お前らをスターにしたるわ」

唯「わーい! スターだって、澪ちゃん!」

澪「え、ああ」

紬「……」



合宿後。

澪「なかなか身のある合宿だったな、
  島田先生も指導熱心だったし……
  怖いだけで根はいい先生なのかも知れないな」

紬「そ、そうね……
  でもまあいっぱい練習できてよかったわ」

唯「私はもっと遊びたかったよう~」


ガチャ
紳助「うぃーっす」

澪紬唯「おはようございます」

紳助「そうやムギちゃん、学園祭用の曲できたか?」

紬「はあ、でも歌詞が書けなくって」

紳助「おう、じゃあ俺が書いたるわ」

紬「え、でも……」

紳助「何やねん、なんか文句あるんか」

紬「いえ、その……初めてのライブだし、
  私たちだけでやりたいな、って…………」


バチコーン!!

紬「ぶっ!」

紳助「おい、なんやそれ! 舐めとんのか、コラ!
    俺がどんだけお前らに付き合うたった思とんねん!!
    お前らは恩を仇で返すように教えられてきたんか、コラ!!」

紬「うっ……ひっ……」

箱入り娘だった紬にとって人から殴られることはおろか
こんなに激しく感情をぶつけられることすら初めての経験であった。
紬はすっかり萎縮してしまい、震えることしかできなくなったのだった。

紳助「なんか言ってみぃコラ!!」

紬「ひっ……!」

澪「や、やめてくださいっ!」


唯「もー、落ち着いてよ、澪ちゃん。
  今のはムギちゃんだって悪いよー」

澪「えっ……」

唯「島田先生、私たちのために寝る間も惜しんで
  色々考えてくれてるんだよ?
  その努力を私たちのワガママで無にするのはだめだよ」

紳助「さすが唯ちゃん、よう分かっとるわ。
    まあ、ここは唯ちゃんに免じて許しといたるわ」

紬「うっ……うっ……」

紳助「でなあ、歌詞なんやけど、俺が書くしな。
    それでええな」

澪「あ……はい」

唯「期待してますよ先生!」

紳助「おう、任せとけや」


紳助「そういえば今日田井中こうへんのかい」

澪「はあ、ずっと休んでるみたいで……」

紳助「まあええわ。ライブのボーカルはお前ら3人な」

澪「ふぇっ!?」

紳助「お前ら3人のグループでやるんや。
    グループ名は、そやなぁ……」

澪「さ、3人って……り、律は……」

紳助「ドラムなんか後ろでやっとるだけで目立たへんやんけ。
    それやったらお前ら3人を前面に出してプッシュした方が受けるわ」

澪「はあ……」

唯「わーい、頑張ろうね、澪ちゃん、ムギちゃん!」

澪「う、うん……」

紬「……」

紳助「それから歌う前にVTR流すからな」

澪「VTR?」

紳助「ああ、お前らのプロモーションビデオや。
    15分くらいかな」

澪「でも、それじゃ時間オーバーしちゃうんじゃ……」

紳助「なんや、時間制限とかあんのかい。
   せやったら俺が生徒会に言うといたるわ、時間伸ばせって」

澪「でもそんなの……」

紳助「じゃあ今からVTRの撮影するさかい、ちょっと準備せえや。
    あ、ついでに宣伝用ポスターの写真も撮影してまお」

澪「はあ……」

唯「ほら澪ちゃん、これが衣装だよ~」

澪「こ、こんなの着るのか?」

紬「……」



4時間後、やっと撮影が終了した。

澪「疲れたー……」

紬「はあ……」

唯「いやーでもいいビデオができたね!」

澪「はは……」

紬「そうね……」

唯「ライブ当日が楽しみだなー。
  あ、私もう帰るね! ばいばーい」

澪「ああ、じゃあな」

紬「さよならー……」



澪「……なあ」

紬「はい……」

澪「いいのかな……私たち、これで……」

紬「わかりません……」

澪「最初は律と一緒にバンドやろうって言ってたのに……
  律は来なくなっちゃったし……」

紬「私が目指していたバンドとも……違うような気は……します」

澪「……ライブ当日さ、ボイコットしないか」

紬「で、でも……そんなことしたら、先生に……!」

澪「ああ、殴られるかもな……でも……
  間違ったほうに進むよりはいいよ……
  それに、今のままじゃ律は二度と戻ってこないだろうし」

紬「……でも、唯ちゃんは」

澪「唯は……説得して……」

紬「説得しても、先生に告げ口されるだけじゃないかしら」

澪「そうか……」

紬「でもまあ、唯ちゃん独りではライブは成り立たないでしょうから、
  ほっといていいんじゃないかしら」

澪「そうだな……触らぬ神に祟りなしか」


和「あ、秋山さんに琴吹さん、だっけ?」

澪「あ、真鍋さん。今帰り?」

和「ええ、生徒会の仕事が長引いちゃって」

紬「大変ねえ。もうすぐ学園祭だものね」

和「そうなのよ、しかも今日はとある先生が、
  自分の部活が舞台に立つ時間を長くしろ~って怒鳴り込んできて」

澪「……」

和「ビビった生徒会長が承諾しちゃって。
  それの調整でたいへんだったわ」

紬「……申し訳ございませんでした……」

和「いや、いいのよ……あなたたちのせいじゃないのは分かってるわ」


澪「あのう、実は当日にもご迷惑をおかけしてしまうかも知れないのですけど」

和「どういうこと?」

澪「かくかくしかじかで、ライブをボイコットしようかと」

和「そう……うん、そういうことなら協力するわ。
  今のままじゃ唯のためにもならないもの」

紬「ありがとうございます、真鍋さん!」

和「フッ……和でいいわよ」



学園祭の日は刻一刻と近づいてきた。
宣伝用に作ったポスターが学校中に貼られたり、
昼休みの校内放送をジャックしたりしたおかげで、
唯、澪、紬の名を知らぬものは学校に存在ないまでになっていた。

宣伝の効果もあって、ライブに対する期待は高まっていった。



そしてついに学園祭当日。
講堂は超満員となっていた。

やがてブザーが鳴り、講堂の照明が落ちる。
と同時に舞台にスポットライトが当たり、島田紳助が姿を表した。

紳助「えー……みなさん、今日はお忙しいとこ
    来ていただいてホンマにありがとうございます」

いつもの横柄な態度からは想像も出来ない、
落ち着いた喋り方だった。

紳助「今日はですね、俺がずっと面倒見てきた子らの、
   初めての晴れ舞台なんですわ。
   ここまで来るのに色々ありました……
   何度も衝突しました、何度もぶつかりました……
   でも、それを乗り越えて、今日この日を迎えたんです。
   だから……あいつらは完成形とは言えへんかもしれん……
   でも、見たって欲しいんです……
   あいつらの、全力を……
   全身全霊を込めて歌う姿を……」

紳助「今日は、あいつらがここに到るまでの記録を、
    映像にまとめてきました……
    それをご覧いただいてから、
    あいつらの歌を聞いて欲しいんです……
    じゃあ、VTR……スタート」

天井からスクリーンが降りてきた。
が、いつまで待ってもVTRは流れなかった。

紳助「な、なんや……おかしいなあ。
    どうなってんの、生徒会の人……」

和「ご来場の皆様、たいへん申し訳ありません。
  軽音楽部のライブは、中止になりました」

講堂にざわめきが広がる。

紳助「な、なんやと?
    おいこら、どういうことや!
    どこや、唯! 秋山!」



音楽室。

澪「今ごろ講堂は大混乱かもなー」

紬「ええ」

唯「むぐー! むぐぐー!」

澪「ごめんな唯。あとでほどいてやるから」

紬「真鍋さんったら、人を縛るのうまいのね」

唯「むぐー」


ガチャ
紳助「おいこらああああ!!! 何をやっとるんじゃああああ!!!」

澪「ひいっ! ついに来たっ」

紬「ひるんではダメよ澪ちゃん!」

唯「むーぐー」

紳助「俺に恥かかせやがって、どうなるか分かっとんのかあああ!!!」

バチコーン!!!

澪「ぶべぉばっ!」

紬「澪ちゃん!」

澪「なななななな、殴られるくらい想定の範囲内だっ!
  わわわ私たちはもうあなたの世話にはならないっ!」

紳助「なんやとぉ? 顧問がおらんようになったら廃部やぞ?」

澪「それでも構わないっ!
  今の軽音部じゃ……私たち、ダメになるから」

紬「そうです……こんなの、私たちのバンドじゃない!」

紳助「ああ!? お前ら、誰がここまでしてやったと思うとるんじゃ!!」

澪「言い出せなかっただけでずっと嫌だったよっ!」

紬「金と暴力で人を屈服させて……!」

紳助「おまえらあああ……」


紳助「ふん、ええわ……俺は唯さえおったらええねん……
    唯は売れるで。気づいてると思うけど、あのビデオも曲もポスターも
    ぜんぶ唯中心でやったんや。すべては唯を売り出すためや」

澪「う……唯は……」

紬「……唯ちゃん、どうしたい?」

唯「ぷはっ……えっと、私は……」

澪「先生と一緒にアイドルになるか、
  私たちと一緒にバンドをやるか」

唯「澪ちゃんたちと一緒がいい!」

紬「……だそうですよ」

紳助「貴様ら……唯ぃぃぃぃぃぃっ!!」

バチコーン!!!

唯「ぎゃぼっ!!」

紳助「お前みたいな恩知らずはこうなって当然なんじゃ……」


教師「島田先生、こんなとこに……って、何をしてるんですか!」

紳助「へっ?」

教師「生徒を殴るなんて……!
    ちょっと来てください!!」

紳助「おい、ちょ待て! ちゃうんやこれは!
    ちょっとまてって!! おい、おい!」

そのまま紳助は引きずられていった。



澪「あれも真鍋さんの差し金かな」

紬「たぶん……」

律「…………よう」

澪「律!」

紬「どうしたの!?」

律「あ、いや……先生いなくなって、
  もとの軽音部に戻るから来なさい、って生徒会の人が」

紬「真鍋さん、かなりやるわね」

澪「でもまあ、これで全て元通りだ」

唯「桜高軽音部、再始動だね!」

律「おう!」





            おわり



数年後

紳助『俺ね、昔ちょっとだけ女子高生のバンド見てたことがあるんですよ。
    でもやっぱりソリがあわんちゅうか、たびたび喧嘩になりましてね。
    多分あいつらも分かってた思うわ、俺の言うてることが正しい、って。
    でも、自立したい年頃やから、大人から言われたことを素直に受け入れられへん。
    せやから反発してしまうねんな、どうしても。
    でも俺はそれを全部受け止めてやりましたよ。
    受け止めて、はねかえして……思いっきり喧嘩しました……
    嫌われてた思います……でも、それでええねん。
    あいつら、それで以前よりずっと仲良うなったと思う。
    大人に反発する、喧嘩する、友情を深め合う……
    結局のとこそういうのが一番大事やねんな。
    せやから、最終的には喧嘩別れになったんですけどね、
    それで良かった思いますわ。
    俺のことは今でも嫌いかもしれんけど、
    あいつらに青春っちゅう最高の思い出をプレゼントできたと思うわ』

ゲスト一同『深イイ~』



唯「……」
澪「……」
律「……」
紬「……」

           今度こそおわり