梓「唯先輩…無事だったんだ…」

唯「大丈夫そうだね、よかった~」

唯「…お?、これなら……」

唯先輩はいったん部屋に入ると暫くして玄関があった場所から出てきた。
どうやら今の地震で1階にあった根っこの位置がずれたみたい。

唯「いやあー助かった!今朝地震が起きたと思ったら1階が木で埋まってて外に出られないんだもん」

梓「そうでしたか…」

…あれ?


梓「先輩、身体は大丈夫なんですか?」

唯「うん。怪我してないよ」

梓「それも大事ですけど身体がだるかったりしません?」

唯「うーん、だるいかな。風邪は治ったんだけどなあ」

症状は出てるけど軽いみたいだ。どうして…

梓「…って、風邪治ってたんですか」

唯「うん。ちょっと前に治ってたんだけど憂が今学校で変な病気がはやってるから
  もう暫く休んでたほうがいいって」

憂……やっぱり憂はしっかりしてるよ。

唯「あ、ところで…」

唯「どちら様…?」

梓「あずさですよ!」

唯「ほえ?」

…そうだ、唯先輩にはこの身体になってから初めて会ったんだった。


唯「ほんとにあずにゃんなの…?」

梓「本当です」

唯「あずにゃん…こんなに立派になってしまって…」

なんだか残念そうに見えるけど気のせいだろうか。

梓「それで…先輩に話さなきゃいけないことがあって」

唯「まってあずにゃん。憂やみんなは大丈夫なの?」

梓「あ……そのことを含めて話があるんです」


梓「えっと……」

私がなかなか言い出せないでいると
ここじゃあなんだし…と言って唯先輩は家に入れてくれた。

唯「ぼろぼろになっちゃってるけどとりあえず座って?」

梓「はい…」

唯先輩の家のリビング…ここにも樹の根が…

唯「……それであずにゃん、話って?」

梓「はい……」

唯先輩が私の向かいに座り真剣な顔でこちらを見ている。
憂のことが心配でしょうがないはずなのに、
それでも私が話すのをじっと待っていてくれる。
ここに来るまでに考えたこと、憂のこと、みんな話そう…


梓「憂は……今朝の地震で…し、死んで…」

唯「……え?」

梓「わ、私が人を捜しに行って帰って来た時には…もう…」

唯「それ、本当なの?」

語気を強めて聞いてくる。

梓「……は、はい」

唯先輩の頬に涙がつたう。

唯「そんな…いやだよ……今日まだういの顔見てないよ…」

先輩は泣きじゃくりながら憂のことを呟く。


私もまた泣きたくなってきた。
でもここで泣いたらもうひとつの大事なことが言えなくなってしまう。

泣きじゃくる先輩を見ないようにして必死に耐える。

先輩が落ち着くまで暫く待つことにした。

――――――――――




唯「……憂は、まだ学校にいるの?」

膝に顔を埋めたまま先輩が聞いてくる。

梓「あ…はい」

私が返事をすると唯先輩は黙って立ち上がった。

梓「憂のところに行くんですか?」

唯「……うん。行かなきゃ」

梓「あの…唯先輩!」

梓「もうひとつ大事な話があるんです
  きっと唯先輩の命に関わることなんです」

唯「……え?」

梓「これだけは聞いていって下さい…お願いします」

唯「……うん」

梓「…先輩はあの種のことを覚えていますか?」

唯「種?…あずにゃんにあげようとしたアレのこと?」

梓「はい、そうです」

梓「私はそれを校舎裏に埋めたんです」

梓「そしたら…嘘みたいな話なんですがたった数日で樹が生えてきて樹の実がなったんです」

梓「それでその実を食べたらこんな身体になってしまって」

梓「これがその実です…」

鞄から樹の実を取り出してテーブルに置く。

唯「…うん」

唯先輩は相槌をうつ。
この嘘みたいな話をちゃんと聞いている。
あまりのリアクションのなさに理解しているのか不安になったが話を進めた。


梓「樹は毎日すごい勢いで成長を続けて実を作ってました」

梓「それと同時に今週の初めから学校で体調不良になる生徒が増えたんです」

梓「学校にいる人ほぼ全員がそうなったのに…私だけは平気だったんです」

梓「私だけあの実を食べたから…かもしれません」

梓「自分で考えてもおかしいと思うんですけど…辻褄が合うんです」

梓「校舎裏の草木も枯れてしまって…」

梓「そんな中であの樹と私だけが健康だったんです…」

梓「だから…憂にも食べさせようとしたけど…樹の実を持ってきた時にはもう…」

この笑われるかもしれない考えを言葉にしている途中から身体が震えてきた。

気付いてしまったことがある…
今まで考えないようにしてきたことがある…
それを話さなければいけないから。

梓「…あの樹はまわりから生気を吸い取って成長してると思うんです」

梓「…だ、だから…あの樹の実にはいろんなものや人から吸い取った生気が…」

梓「それを食べてしまった私は…」

梓「わ、わたしは…みんなのい、いのちを食べて生きてるかもしれないんです……」

私は心の奥底にあった恐怖と不安と一緒に言葉にする。
言葉にして自分がしてきた事を改めて思い知る。
そんなものを憂やみんなに食べさせようとしていたんだ……

結果的に私のせいで憂が死んでしまったことを唯先輩に話しながら思った。


……こんな私が生きていていい筈が無い。


もうまともに唯先輩の顔を見られない。
怖くて俯くと涙がどんどん零れ落ちる。

唯「……」

何を言われても何をされても仕方ないと思っているけど
唯先輩は何も言わない。

梓「うっ…ぐすっ…本当に…すみませんでした……」

梓「やっぱり私……」

死んだほうがいいに決まってる。
もはや何をやっても許されるはずが無い。

最後に憂にもう一度会って、その後学校の屋上から…

梓「……失礼します」

そう言って立ち上がろうとした時

今日何度目かの地震が起きた。


今回の揺れはかなり大きい。
リビングに割り込んでいた根っこがうねるように動き、家がどんどん傾く。
家が軋む音が激しくなった時、私と唯先輩の間にあるテーブルを跳ね除けて
床から樹の根がすごい勢いで生えてきた。

唯「……っ!」

梓「ひっ!」

その根は天井を突き破って尚、下から生えてくる。

そして一瞬宙に浮いているような感覚。 

梓「えっ?」

自分が落ちてると気付いた。

私のいた場所は樹の根を境に崩れてしまい、私はどうすることも出来ずに…

最後に見たのは唯先輩が私を必死に呼ぶ姿だった。


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……んっ

ここは……?

うっ…体中が痛い……

起き上がることも出来ないや

私…死んじゃうのかな

でもこれで…

……あれ?

これは…

これが憂やみんなを…

ごめんね、でも…………



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