梓「……う」

太陽の光が目に入る。

眩しい。

半分無意識で太陽から逃れるように寝返りを打とうとして

梓「……っ!」

痛みで目が覚めた。

梓「あ……え?」

頭と背中がすごく痛い。
どうしたのだろう。
寝惚け眼をこすって目を開けると
そこには樹があった。


梓「……あ」

鈍痛で頭が冴えてきてようやく思い出した。

あたりは巨大な樹の根と瓦礫が散乱していて学校とは思えなかった。

太陽の光は私のいた部分だけに降り注いでいて、そこ以外は薄暗くなっている。

樹の根が入り組んでいるおかげなのか校舎の全壊は免れたようだ。

梓「痛ぅ……」

ゆっくり身体を起こしてからあたりを見回す。

梓「…………憂?」


憂は教室の端で倒れていた。

梓「憂っ!大丈夫!?」

額から血が出ている。頭を打ったのだろうか。
それに加えて憂は地震が起きる前から倒れている。

梓「ねえ憂!起きてよ!」

憂「……ぁ、あずさちゃん…?」

梓「!」

よかった。 んでいなかった。けど…


梓「大丈夫?」

憂「……ん」

弱々しく相槌をうつ。

……だめだ。

このままじゃいずれ憂は…

憂を助けなきゃ…

梓「憂!すぐに助けてあげるから少し待ってて!」

携帯を取り出す。
画面には13:10の表記、
左上には圏外の文字が表示されている。


人を呼びに行かなきゃ。



校舎の中に動ける人はいなかった。
かろうじて見つけた先生も生徒も誰一人息をしていない。

学校の外へ助けを呼びにいかなければ。

なんとか校舎を抜け出して正門へ向かう。

そこには地面から突き出した根っこや崩れた塀、
その先には原型をとどめていない家が見えた。

太陽の光が少ないことが気になり空を見上げると

そこには巨大な樹があり、太陽はおろかこのあたりの空は樹に隠れて見えなくなっていた。

これはあの樹なのだろうか。あまりの高さ、大きさに樹の実を確認できない。

それよりも急がないと…

根をよけながらなんとか正門を出る。

瓦礫と樹の根のせいで自分がどこを走っているのかわからなくなる。

それに学校の周りには人がいなかった。

車の中にいた人、瓦礫に埋まっていた人、崩れていない家にいた人

誰も息をしていなかった。

どうしようもなかった。

どうしようもなかったから根拠の無いものに妄信した。

学校にある巨大な樹があの樹だったら。
この数日、樹の実を食べた私だけが健康だったなら。

それなら…

私は家に向かって走り出した。



最初は人の姿を見かけたら声をかけた。
でも誰も返事をしなかった。
もし生きていても私にはどうすることもできない。

そのうち話し掛けるのをやめた。

頭が痛い。背中も痛い。

でもそれどころじゃない。
早くしないと憂が…



梓「はあ…はあ…」

ようやく家にたどり着いたが
半分崩れかけていて外からでもリビングやキッチンが見えた。

慎重に家の中へ入る。

本棚やタンスは倒れていたが
私の部屋自体は原型をとどめていた。

机の一番下の引き出しをあける。

梓「よかった…」

樹の実は無事だった。

次に台所へ向かい包丁を探す。
樹の実を4分の1切り出してタッパーに入れた。

 お父さん お母さんへ
 私は無事です。学校へ行っています。
 帰ったらこの果物を必ず食べてください。

急いでいるとはいえ質素な文になってしまった。
これで食べてくれるだろうか。

いや、そもそも…

梓「はっ…はっ…」

鞄に残りの樹の実を入れてまた学校へ向かう。

お父さんとお母さんは無事だろうか…
無事だったとして家までたどり着いてくれるだろうか。

樹の根を避け、瓦礫の上を慎重に進む。

その時突然足元が揺れる。

梓「うわっ!」

また地震だ。さっきのよりは小さいからなんとか前に進める。

とにかく今は学校へ急ごう。



梓「ぜえ…ぜえ…」

ようやく学校へ戻ってきた。
樹に隠れていない遠くの空は学校を出る時と同じ色をしている。
荒れ果てた道のりに苦労したがそんなに時間は経っていないようだ。

梓「はあ…はあ…うい…おきてる?」

憂「……」

梓「ねえ…憂、憂ってば!」

憂「……」

声を荒げるが反応は無い。

憂は息をしていなかった。

梓「嘘……」

梓「そんな…」

涙で憂の顔が滲む。

梓「ういぃ…」

憂を抱きかかえると右手がだらりと落ちる。
今朝まで後ろで綺麗に結ばれていた髪は解けて顔を隠している。
それを手でどけて顔を覗いた時にハッとなる。


憂にそっくりなあの人は無事なのだろうか。


梓「憂…ごめんね、また戻ってくるから…」

そっと憂を寝かせて胸の辺りで手を組ませる。

私はまた走り出した。



唯先輩の家には何回か行ったことがある。
目印が瓦礫に変わっていても何とかなるだろう。

こうして一人で走っていると嫌な事が頭に浮かぶ。
先輩のこともそうだけど、それ以外にも。
今週から今日までに起こった事を考えると…


梓「ぜえ…ぜえ……げほっげほっ」

暫くして唯先輩の家に着いた。

走りすぎて息がうまく出来ない。
頭と背中の痛みに加えて肺と横っ腹も痛い。
倒れこみそうになるのを我慢して唯先輩の家を見る。

先輩の家は1階が樹の根で埋まっていた。


これじゃあ家に入れない。

梓「ゆ、唯先輩ーーー!」

擦れた声で叫んでみるが大きい声が出ない。

……だめか。

家に入れるところが無いか探そうとした時。


 「…あずにゃん?」


上から声がした。

梓「唯先ぱ……」

上を向いて先輩を呼ぼうとした時

再び地震が起きた。


梓「うわあっ!」

  「おわっ!?」

今度のはかなり大きい。よろけて地面に手を付いた。
地面が盛り上がってそこから樹の根が出てくる。
樹の根は道路や家を突き破ってどんどん成長している。
私は瓦礫の下敷きにならないように必死であたりを見回していた。


梓「……とまった」

暫くして地震は収まった。

梓「ふう……あ、唯先輩は!?」


唯「大丈夫ー?」


上を向くとバルコニーで手を振る唯先輩がいた。




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