唯「小結、そして関脇になり。そして、今場所もまた関脇だよ」

律「ふむ、大関になる条件は今のところ順調に満たしているな」

律「今場所12勝以上勝てばだけど」

唯「でも、まだ勝てていないのは白鵬だけ……」

律「横綱に勝てないのは唯だけじゃなくみんなだけどな」

唯「でも、そこを誰かが壊さないと!」

唯「そして、そうなるのは、今の角界には私しかいない!」

律「そうかー?」

律「こないだアミニシキに開始3秒で負けたじゃん」

唯「だって変化されたんだもんー」ブー


口では軽口を叩きつつも、唯はいつも通り、いやいつも以上に稽古に打ち込んだ。
力士になってもう何年、一日たりとも稽古を欠かしたことはない。


唯「ここまで全勝だよ……」

唯「明日、いよいよ横綱戦だね」



行司「はっけよーい!」

ザワザワザワザワ

「送り投げで唯の山、唯の山~」

ワァァァァァァァ
ザブトンポーイ


唯「ふぅ……」



唯は全勝のまま横綱に初勝利した。
それは相撲界を超えて新聞やニュースでも大いに話題になった。

しかし、それ以上に話題になったのが……


律「憂ちゃんも全勝……?」

唯「まあ幕内に入り立てだけどね」

唯「だから当たることはないと思ってたのに」

律「じゃあ、明日の千秋楽は姉妹対決ってことか」

唯「うん」

唯「でも負けないよ。全勝優勝で大関に昇進するんだから」



呼出「にーしー唯のぉやーまぁ、ひがーしー憂の里ぉぉぉ」


唯「まけないよ!」

憂「……」


行司「はっけよい!」

憂「……」ダッ

唯「う、」

唯(信じられない力だっ、こんない細いのに!)

唯(体制も低い……ああっ)

唯「ぎゃふん」


律「あああ……」



憂、優勝インタビュー後...

唯「憂、待ってよ、憂」

憂「お姉ちゃん久しぶり」

唯「……」

唯「私、憂が力士になったなんて全然知らなかったよ」

唯「と、東大には行ってないよね?」

憂「高校卒業してすぐ入門したから」

唯「そ、そっか」

唯「やっぱ力士になったのて私の……」

憂「ねえ、お姉ちゃん」

憂「私はお姉ちゃんのこと、なんでも知ってたよね」

唯「う、うん……」

憂「お姉ちゃん、高校のときお姉ちゃんが部活に行ってる間、私が何したか知ってる?」

唯「え、ごはんとか」

憂「それもそうだけどね。でもそれだけで何時間もはかからないんだよ」

唯「じゃあ、一体なにを……」

憂「大相撲中継を見ていたんだよ、三年間ずっと」

唯「!」

憂「だから驚いたよ、お姉ちゃんから力士になるってきかされて」

憂「私が相撲好きなの知っててかな、なんて思ったりして。違ったけど」

唯「うい……」

憂「勘違いしないでね。別にお姉ちゃんのこと怒ってるとかないよ」

憂「力士になってみてわかったよ、人のことかまってる時間なんかない。妹でもね」

憂「だから最近になって私のこと知ったとかも、仕方ないよ」

唯「ご、ごめんて」

憂「ううん、むしろ女子力士の門を開いてくれたことには感謝してるの」

憂「でも、」

憂「多分、お姉ちゃんは来場所、大関になるよね」

唯「でも優勝できなかったからわかんないよ」

唯「憂に負けた……から」プク

憂「まあ、なると思うよ」

唯「優勝してからなりたかったのに」ウウ

憂「大関になるのはお姉ちゃんが先だったけど、横綱は私がなるから」

唯「!」

憂「じゃあ……」タタタッ


唯「くやしいよ!」

律「うん、負けた上にそれだもんな」

唯「そうなんだよ、負けてるから言い返せないんだよ~」ウエーン

律「しかし憂ちゃん……」

律「最近は取材とかも結構受けてるみたいだけど」

唯「うん、私にも憂のこととか訊いてくる人いるね」

唯「わかんないって言ったら『不仲か!?』とか週刊誌に書かれちゃった」


律「それはともかく、大関おめでとう!」

唯「なんだか微妙だなぁ……」

律「いや、すごいだろ! 大関だぞ!?」

唯「そうだけど……もはや私にはそれだけでは物足りないんだよ」


そう、審議の結果、満場一致で唯は大関に昇進した。


和「唯、大関昇進おめでとう!!」

紬「大役だから、これからは懸賞金を倍にするわねっ」

梓「やりすぎです」

唯「みんなぁ~ありがと~」ウルウル

和「しかし憂には驚かされたわね。平幕でいきなり全勝優勝なんて」

和「本当だったらもっと早くに幕内で活躍しててもおかしくなかったのに……まさか」

律「……」

まさか唯の全勝優勝→大関昇進を阻止したかった、なんてことはないと思う。
思いたい。

梓「唯先輩にささげるギターのはずが、憂の優勝を祝うことになっちゃいましたです」テヒッ

律「空気嫁」



親方「次は大関での初場所だ」

親方「最近では大関になった途端に微妙に弱くなる力士も多い」

律「コラコラコラ」

親方「もちろん、うちの唯の山はそんなことない、そうだろう」

唯「もっちろんです! 互助会なんて振り切ります!」フンス

律「だからコラコラコラコラ」

唯「全勝優勝して横綱になります!」

律「気が早すぎるだろ。大関を楽しめよ」


唯「あんなこと言われたら、一場所でも早く横綱になって憂を見返したいって思うよ!」

唯「そうしないと憂が横綱になっちゃうよ!」

律「いや、憂ちゃんまだ平幕だからさ。最低でも一年は猶予あるだろ」

唯「ううん、憂ならわかんないよ」

唯「いや、もうあれは憂じゃない」

唯「大相撲力士の、憂の里なんだよ」

律「……」フム

律「まあ、じゃあとりあえず憂ちゃんと当たるまで全勝でいないとな」

唯「当然! さ、お稽古しよっと!」フンスッ


世間では「センスと才能の姉・唯の山」VS「努力と頭脳の妹・憂の里」などと言われて、
真面目で寡黙な妹とおちゃらけた姉のイメージをマスコミが作っていたが、そうじゃないことは相撲界にいればみんな知っている。

確かに憂ちゃんの稽古量や研究はすごいらしい。
だが、唯だって、恐ろしいほどの稽古をこなして、なお自分に足りないものはなにかと考え続けているのだ。

部屋の力士相手だけではなく、連日別の部屋に遠征しては、まか帰って稽古して。


律「唯……お前のあのときの目は、やっぱり本物だったよ」



「大関で迎える今場所の意気込みをどうぞ!」

唯「もちろん全勝優勝します」

「妹の憂の里関に前回敗れていますよね?」

唯「二度と負けるつもりはありません」

唯「憂の里だけではなく、誰にも負けません」



「先場所に続き全勝優勝してほしいというファンの期待もありますが」

憂「頑張ります」

「お姉さんの大関昇進はどう思いますか?」

憂「嬉しいです」

憂「私も早く大関になれるよう、努力します」





そして、唯・憂、共に全勝同士で迎えた千秋楽...


バタン!

紬「ねえ、唯ちゃん、りっちゃん……!」

律「おいおいムギ、いくら後援会長だからって支度部屋に入って来ちゃ」

紬「それどころじゃないのよ」

唯「どうしたの?」キガエキガエ

紬「あのね、今日の実況のアナウンサーが……」



澪「今日の取組の中で注目するべきはやはり全勝同士の対決でしょうか」

北の富士勝昭「そうだね。昔では考えられなかったね、こういうのは」

澪「若貴時代には兄弟対決というのもありましたが」

勝昭「いやー、それとは場合が違うでしょう。なんせ兄弟じゃなくて姉妹ですから」


律「澪……」




その瞬間、私はわかってしまった。


紬「あのね、本当はいきなり千秋楽に、それも経験のないアナウンサーがやるのは前例がないんだけどね」

紬「澪ちゃんがどうしてもって言ったって、NHKの偉い人が……」


澪が国立大でなく、有名私立に行った理由。


紬「澪ちゃん、人気アナウンサーだから、看板みたいなものでしょ。だから上も迷ったんだけど」


ミスキャンパスになったり、アナウンサー学校へ行った理由。


紬「そしたら、なんでも、その場で相撲の知識を披露したらしいの。すごく細かいことまで」


らしくない、慣れないことをしていたのは。


律「バカだな、それって民放の女子アナになるルートじゃんか……」

律「頭いいのに、どっか抜けてるんだよな……みおぉ……」


みんなみんな、私たちを応援するためだったんだ。
けいおん部でいたあの頃のように、またみんなで何かをするためだったんだ。



梓「こんにちは~」

梓「澪先輩、すごいですね! 大抜擢です!」

律「あ、梓。今日も?」グスス

梓「ええ、私、またTHE千秋楽を生演奏するんです」

梓「もちろん憂は友達だし頑張ってほしいですけど、今回は唯先輩の優勝祝いたいな」

梓「次回からはチャラで、どっちも応援しますけどね!」

律「梓……」




みんなが注目する中、世紀の姉妹対決は行われた……。




...

.....

.......



とある相撲ファンの家...


「ふーやれやれ、今日も仕事疲れた」

「テレビでも見るかね」ポチ


澪「7時のニュースです」


「このアナウンサー美人だよな~。秋山さん、だっけ」


澪「今日は大相撲で歴史に残る名取組がありました」


「最強姉妹対決か。仕事がなけりゃ見たかったのに」

「で、どっちが勝ったんだ?」



スタジオ...


澪「~~~で、唯の山が全勝で優勝いたしました」


プロデューサ「あれ、トップニュースってこれだったっけ?」

AD「違いますよ。原稿も違うはず……」

AD「あ、秋山さん……」

プロデューサ「と、止めろ!」


澪「繰り返します。大関唯の山が、全勝優勝いたしました。もう一度繰り返します……」









おわり



呼出の律です。
その後の話をします。


唯はあの勝負から間もなく横綱になったけど、若くして引退しました。
長年の無茶な稽古もたたって、身体を壊したこともあったのかもしれません。


憂ちゃんも、もちろん横綱になりました。
あれからの二人の勝敗は、五分五分といったところでしょうか。

憂ちゃんは、唯がいなくなってからは連勝記録を作り続け、引退した後は親方になりました。
憂の里部屋は、多くの関取を輩出している名門部屋です。



私はといえば、今ではなんと立呼出です。
それくらい、おばあさんになりました。



そうそう、唯は親方になれる資格は十分にありましたが、それはせず、今は自分で教室を開いて子供たちに相撲を教えています。
毎日、楽しいそうです。



本当におわり