唯「ううう……なんでなんだろ」

律「気になる夜、君への」

唯「この想い便せんにね~」

律「書いてみるよ~」

唯「て、そうじゃなくて」バン

律「唯が突っ込んだ!」ビク

唯「なんかね……やっぱみんな大きいし、筋肉もしっかりしてるんだよね」

律「幕内経験者もいるからな、幕下は」

唯「ふうう~」



和「勝てないのは体格や経験の差だと思っていない!?」バン!

唯「!? 和ちゃん!?」

律「いらっしゃい。大学はいいのか?」

和「ええ、この時間は授業ないから。それより唯」

唯「ふぇえ?」

和「対戦相手のデータを取ってシュミレーションしたことはある?」

唯「ないよー」

和「なんですって!? じゃあ今まで全て力と勘だけで勝ち上がってきたというの!?」

和「恐ろしい子……」

和「でもそれじゃこれからは勝てないのよ!」

唯「ええ~」

律「私もいるんだけど……」

和「どんなに強い力士でも、ノーデータの相手と戦うのは難しいらしい」

和「だからみんなビデオとかを見て、対戦相手のことを研究しているの!」

唯「な、なんだってー!?」

唯「じゃあ私のことも研究されていたのかな!?」

和「当然よ!」

唯「……」ゾクゾク

律「おーい」

唯「今までも、ビデオで昔の名取組とか見てたけど……」

唯「実際に戦う相手のを見なきゃだめなんだね!」

和「そうよ」


律「しかし和も相撲のこと色々勉強してんだな」

和「テレビ放送時の解説とかでそういうの色々言ってるじゃない」

唯「ごちゃごちゃうるさいから聞いてないよ。観戦に集中できないし」

律「私はつい呼出の声に集中しちゃって……」

和「やれやれ」

和「唯の活躍をみて、最近女の子の力士が何人か入ったらしいじゃない」

律「ああ、そんなこといってたな」

和「その子たちを引っ張る意味でも頑張りなさいよ、唯」

唯「うん、ありがとう和ちゃん!」



和のアドバイスもあってか、唯は次の次の場所でなんとか十両に昇進した。
途中、膝を故障したりもしたが、逆にそれがプロ意識を芽生えさせたみたいだ。


親方「おめでとう唯の山!」

兄弟子1「完全に抜かれたぜ……」

兄弟子2「俺は2場所目くらいには抜かれてたぜ」

唯「みんなありがとー!」

親方「十両以上は『関取』といって、一人前の力士になったとみなされるんだ」

唯「おおお~」



?「あのー」


そんなある日だった、その人が唯を尋ねてきたのは。


唯「え? 女子大相撲!?」

「そうなんですよ。最近唯の山さんのおかげで女性にも相撲人気が高まってて」

「新弟子も何人か入ったでしょう?」

唯「ああ~私はまだ対戦してないけど……」

「そりゃ、幕下や十両になれるのは唯の山さんくらいの才能がないと無理ですよ」

唯「才能なんてないですよ~」

「でもまあとにかく、入ったはいいけどついていけない人が多いらしいんです」

「男の人の中じゃ、やっぱなかなか勝てないですからね」

唯「うーん」

「そこで、女子だけの大相撲を作ろうと」

「もう協会のほうにも話はしてあるんです」

「で、唯の山さんには、女子大相撲界の横綱として引っ張っていってほしいんです!」

唯「いきなり横綱!?」

「最初はトーナメントとかにしてもいいですけど、どっちにしろ女子ではあなたが最強に決まってますから」

唯「……」

唯「ごめんなさい、私はできません」

「で、でも……横綱ですよ?」

「それにこれからは十両、幕内と、いくら唯の山さんでも今までのようにはいかないでしょうし……」

唯「そうです、確かに幕下で挫折を味わいました」

唯「別に女だからってわけじゃなかったけど」

唯「でも、楽しかったんです」

唯「私が目指した横綱は、他のどこでもない」

唯「いま、白鵬がいる、あの場所を奪う!!」


律「いや、奪わなくてもいいだろ別に……」

唯「え? 横綱をずたずたにして引きずり下ろして自分がなるんじゃないの?」

律「ていうかむしろ今横綱一人しかいなくて困ってるくらいだから……」

唯「ま、まあとにかく、私が憧れたのは、この先にある世界なんです」

「この先って……」

「先どころかずっと十両、ヘタしたらそこにもいられない可能性だって」

唯「それは女子だけでも同じだよ」

唯「女子の世界をバカにしているんじゃない、私はここで戦いたいだけ」

唯「親方や兄弟子さんやりっちゃんと……」

律「唯……」



結局、女子大相撲はなかったことになったみたいだ。
唯に憧れて入った女の子たちも、大半はやめてしまったようだが、それは男でも同じこと。

唯「でもね、なんかすごい強い女の子が二段目あたりにいるって噂聞いたんだー」

律「へー。まあ十両まで来るのは大変だろうけど、いつか対戦するかもな」

唯「うん、楽しみ!」



律「そういや次の休み、唯はどうすんの?」

唯「部屋に残るよ~お稽古だよ~」

律「たまには家帰れば? もう何ヶ月帰ってないんだよ……」

唯「だってここ居心地いいんだもん~ちゃんこめいっぱい食べられるし」

律「憂ちゃんだって寂しいだろ?」

唯「うーん……」

律「そういや、憂ちゃんってどこの大学行ってんの?」

唯「え? 多分憂のことだから東大とかじゃないかなあ」

律「知らないのかよ!」


そう、もう私たちが入門してからかれこれ数年経っていたのだ。

梓は大学へ通いつつギタリストとしていろんなレコード会社に売り込んでいる。

和とムギは大学院への進学を考えているとか。

澪は相変わらずテレビでお天気お姉さんをやっているから、
そのままタレントか女子アナにでもなるのだろうか。

律「ところで、私も三段目の呼出に昇進したんだぞ」

唯「おめでと、りっちゃん!」

律「来場所、お互い頑張ろうぜ」

唯「おうともさー!」フンス


唯の十両での滑り出しはなかなか順調だった。

もちろん経験の差や体格の差はあったけれど、いまやすっかり相撲マニアになった和や
ムギのつてで手に入れた知識等を駆使して、唯は健闘した。


一方、私は、自分の担当する三段目で、信じられないものを見た……。


律「にぃ~しぃい~、ういぃの~さぁとぉ~、ういの……」

律「えっ!?」


憂の里。

もちろん、実際に呼出をする前にちゃんと目を通すので、そういう名の力士がいるのはわかっていた。
でもまさか、それが、


律「憂ちゃん……」


呼出見習い1「なにやってんだ、下がれ律!」

律「は、はいっ」


あの顔は確実に憂ちゃんだった。
前に唯の言っていた二段目の強い女の子、今は三段目だが、
きっとそれは憂ちゃんのことだったんだ。



唯「ふい~……今日初めて幕内の人と当たっちったよ~」

唯「強いね、やっぱ! 次は倒すぞぉ」フンスフンス!

律「あのな唯……」

唯「む?」

律「実は憂ちゃんを見たんだ」

唯「へ? どこで? 応援来てた?」

律「いや……」

律「土俵で」

唯「? まさか乱入したの!?」

律「そうじゃなくて、憂の里って四股名で、三段目で戦ってた」

律「しかも今、全勝」

唯「憂SUGEEEEEEEEEEEE」


唯「じゃなくて! 私そんなこと全然聞いてないよ!?」

唯「私に相談もなしに~~~~!!!」

律「うん、東大じゃなかったみたいだな」

律「いや憂ちゃんのことだから東大行きながらとかあるかもしらんけど」

律「とにかくお前がほっといてるうちに色々すごくなってたってことだな」

唯「くっそー」

律「しかし、めっぽう強かったよ。無駄のない動きでささっと投げて」

唯「うう~」

律「あと体型そんな変わらんかった」

唯「憂許さん」

唯「で、でも! 十両まで来るのは当分先だねっ」

唯「関取になれるのは限られた人間だけなんだからっ」フンス

律「それ親方の受け売りだろ」

律「ていうか兄弟子さんたちディスってんのか。あの人ら憂ちゃんに負けたぞ」

律「それに、あのかんじだと姉妹対決もそう遠くないかもな……」

唯「楽しみ……と言いたいところだけど、そうもいかないね」

唯「私は先に行くよ。次は幕内へ上がる」

律「次、は厳しくないか?」

唯「えへへへへ~」



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