唯「私、力士になる」
三年生になってもう三度目の進路調査。
方向性が全く決まらない唯にイライラきたさわちゃんは、けいおん部部長の私を唯と一緒に呼び出した。
さわ子「唯ちゃんが進路をさっさと決めなきゃ活動は停止よ」
ってことらしいのだが、唯は一向にその気を見せない。
それどころか一度も口を開かないまま、ぼーっとしてちゃんと話を聞かない。
これじゃあいよいよマジで部活がヤバイと思ったので、私はさわちゃんにことわって唯を職員室の外に連れ出した。
唯「なぁに、りっちゃん。いま私、それどころじゃ……」
律「はぁ? ていうか話聞いてたか? 進路決めないとけいおん部がっ」
というか、唯自身にとってもマズイのだ
唯「進路って、なにになりたいか、だよね」
この場合、なにというより、どこに行きたいかのほうが正しい気もする。
選択肢なんて、大学か短大か各種学校か、ってなもんだし。
律「まあそういうことだな」
唯「私、力士になるよ」
律「は?」
律「いきなり何言ってんだよ、笑えないぞ、今は」
唯「笑う? 笑ったら怒るよ」
律「ていかなんだよ力士って……あ」
そういえばさっき職員室で唯がぼーっとしていた理由。
その視線の先にあったもの。
律「テレビ?」
唯「そう、さっきやってたの、相撲。だからまだ見てたかったのにりっちゃんが無理矢理……」
律「はぁ、そんなことかよ」
唯「そんなことじゃないよ。私は本気だよ」
まーたふざけてバカなこと言ってる、と思って唯の顔を見た。
そして驚いた。
唯「なる!」
そう言った唯の瞳は恐ろしいくらいに爛々と輝いて、身体全体から得体の知れないエネルギーのようなものがあふれ出していた。
自信に満ちた表情から紡ぎ出される言葉は、絶対の権力を持って私をひれ伏せさせた。
唯「いっしょになろう、りっちゃん!」
つまり、この場では私は「うん」と言う以外の全ての動作を許されていなかったのだ。
翌日...
澪「唯、あのな……もうみんな志望大も決めてるし、受験勉強で忙しいんだ。そういう時期なんだ」
澪「ふざけてる場合じゃない」
唯「ふざけてないよ」
澪「大体、律まで……どうしたんだよ、受験ノイローゼか?」
律「いや、唯は本気なんだ。少なくとも、なんとなく大学へ行く連中なんかよりもずっと」
澪「! ムギっ」
紬「わたし力士の友達を持つのが夢だったの~」
澪「の、和ぁ……」
和「唯は言い出したら聞かないのよ」
澪「だからって、こんな大事な進路のことを」
和「でも、そのぶん決めたらとことんやり遂げる子なの。それだけは、絶対よ」
澪「……」
澪「もういいよ!」ダッ
唯「澪ちゃん……」
唯「私、澪ちゃんに嫌われちゃった、かな」
律「仕方ないよ。澪は国立受けるって寝る間もなく勉強してるから疲れてるんだ」
律「それに、別々の大学行ってもみんなでバンドやりたいって言ってたし、寂しいんだと思う」
澪「なんだよ、みんな……」
澪「放課後ティータイムはどうなるんだよ」グス
澪「それに、相撲なんて、リンチとか賭博とか暴力団とか危ないのに」
澪「唯がそんなのに巻き込まれたら……っ」
結局、それからずっと澪とはきまずいままだった。
卒業式...
紬「唯ちゃんのデビュー戦、絶対に見に行くわ!」
律「序の口って身内しか観戦者いなそうだよな」
唯「でも頑張るよー! 全勝優勝するもんっ」
唯は既に新弟子検査を受け、部屋に入門していた。
そして、もうすぐやってくる3月場所が力士としてのデビューになる。
唯「けいこもバリバリだよ! 見てよ、このおなか!」フンス! ポンポコ!
律「そりゃ、ただのちゃんこの食い過ぎだろ」
唯「でもでも親方も兄弟子さんも、食べるのも稽古だって言ってたよ!」
-―――‐-
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唯の相撲講座 / /: :/{: :{: : : : : :ヽ: : : :',
だよっ /: :{=/\{: : |\}X: : : '.: : : :}
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{八: ゝ_ {ヽ /: : :.:|: ;} }
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【序の口】っていうのは、相撲における最初のステージ
実績がない新弟子はみんなここから始まるよ!
そこからいくつものステージを経てテレビで放送されるような【幕内】に
なれるんだ! 道は険しいよぉ~
ちなみに、新弟子検査は場所ごとに随時やってるみたいだね!
入った次の場所から【序の口】で戦うみたい
新弟子になってすぐ本戦……大変だね~
紬「ところで、その……格好はどうするの?」
唯「え?」
紬「その、おすもうさんって、はだk」
唯「ああっ! そのことかぁ~」
唯「それについてはいろいろ話し合ったよねっ、りっちゃん!」
律「ああ、大変だったな~」
唯「私は正直何も考えてなかったんだけど、上はサラシを巻くことになったんだよ!」
紬「え、じゃあ下は……」カァァ
唯「まわしです! 当然!」フンス!
まわし=ふんどし
女で未経験者で小柄な唯がなぜ入門できたのか。
詳しいことはわからない。
人気の低迷やスキャンダルにまみれて混乱した相撲協会が、さらに混乱しちゃって、もーどうでもよくなっちゃったから。
……なんてのは言い過ぎかもしれないが。
ただ、それに近いものはあったのだろう。
突然現れた天の才を感じさせる美少女に、賭けてみようという気持ちだったのかもしれない。
だが、その賭けはとりあえず正解であったと言ってもいいと思う。
梓「先輩、卒業おめでとうございます! って、すごいですね、報道陣」
唯「えへへ~、私、まだなんにもしてないのにね」
紬「唯ちゃんはかわいいから仕方ないわ。こんないかわいいお相撲さん、見たことないもの」
紬「でも、かわいいだけじゃなく、唯ちゃんはやる子よ!」
なーんて様子が、くだらんワイドショーだけでなくNHKでも流されたりするのだ。
やくみつる「ふざけてますよね、しかも未経験者でしょ。それだけで騒ぐなんて品格が問われますよ。まあ確かにかわいいですけど」
内舘「女が土俵に上がるなって、私のときは言われたのにキィーッ!」
デーモン閣下「我が輩は応援する」
当然保守派のファンや業界人からは批判の声も大きいけれど、注目度は抜群だ。
若い男性をはじめ、同じ年代の女の子なども相撲に興味を示す人が増えたという。
アナウンサー「あ、田井中律ちゃんですよね、呼出の!」
アナウンサー「お話いいですか!? 唯ちゃんのことも含めて」
律「あ、はい……」
唯「あはは、りっちゃんも人気だ~」
和「唯の衝撃が大きすぎるけど、呼出だって本来は女性なんてあり得ないのよ」
,.ヘ..,, -‐…‐- .、_
りっちゃんの / 厶ヘ、 ̄ ̄`ヽ,,i \
相撲教室 / /^´ ``´´´ ^ | ヽ
/ / \、 , / | /
/ . : i ァ=ミ ィ=ミ、l / i !
i : : |〈 r':::} r':::} 〉′i !|
/ : :| ゞ゚′ ' ゞ゚'' / i ! 八
/ . : : : ハ "" "" ,′ i |): :.\
,′{: : V八 ` ´ 从 i | : .\一
{ 乂: :〉 /`ト 、 .イハ | く⌒ヽ
X´ ̄`?≠\ ー i´: :{⌒ヽi⌒
/ ハ \ √`ヽ 丿
/ / } /ヘ/∧
/ > |く /介ト、',
/ 八 | //ハ V`ヽ、
/ \| '.〈/ ハ 〉 i| ヽ
【呼出】っていうのは、そのまんま。力士を呼び出す人のことだぜ!
スレタイの「東○○~西○○~」ってのをやるのが【呼出】!
でも、それ以外にも、下っ端だと掃除とかタオル渡しとか、色々仕事があるんだ
でも正直テレビでは実況にかぶって呼出の声はあんまり聞こえないんだぜ……
私は唯のオマケで同じ部屋に入った。力士ではなく、呼出としてだ。
それも唯が「りっちゃんも入れてください!」と親方に頼み込んだからなのだが。
唯「りっちゃんも一緒に力士になるって約束したのにぃ」
律「いや、無理だろ。これでもすごい頑張ったほうだろ」
そんなこんなで慌ただしい卒業式が終わった。
それから私と唯は場所に向けて凄まじい毎日を送ることになる。
澪「……」
ちなみに、ムギと和は第一志望の大学に見事合格した。
澪は、なぜか最初の国立はやめて、有名私立大に入学したらしい。
サークル活動や、大学以外にもなんかのスクールに通って頑張っているらしい……というのをムギから聞いた。
相撲部屋にて...
唯「ごわす! ごわす!」ドスドスッ
親方「平沢、頑張ってるな!」
唯「ハイ! だって今がチャンスですから!」フンス!
親方「?」
唯「兄弟子さんが、賭博で謹慎してた人のぶん番付があがるからチャンスって言ってました! フンッフンッ」ドスドス
親方「いや、お前は一番下からスタートだから関係ないけど……」
親方「そういや、律」
律「はいっ」
親方「お前、次の場所で幕内の力士の世話やれ」
律「ええっ!?」
親方「まあ中盤だけだが……しっかりやれよ」
律「……」
律「頑張ります!」
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i |´ 、 /_,..| | !
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| ! ! | |ヽ、! i ト、 /´ な、なんだって!?
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ム| | ー‐'て、 、' ,ィ彡! ? リ fミ三__
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【幕内】はさっきのとおりテレビで放映されるようなスゴイ力士のステージだ
その世話っていうのは、タオル渡したりとか、塩を調整したりとか?
まあ本来これをするのは下っ端呼出の仕事。
でも入り立てで幕内の世話って……
唯「りっちゃんすごぉーい!」
唯「力士の世話する人って、テレビにめちゃくちゃ映るよねっ」
唯「しかも何人もの世話でしょ!? テレビ映りっぱなしだよぉ」
律「は、は、は……」
おそらく話題性とかそういうことで選ばれたんだろうと思う。
本来の呼出としての練習もまだまだだというのに、こっちの練習のほうが大変そうだ。
なんせ、全国放送でヘマはできないし、幕内力士の機嫌を損ねるなんてあってはならない。
律「ふー……録画でも見て練習するかな」
呼出見習い1「誰でも通る道だ、がんばれよ!」
呼出見習い2「まあ、律の場合、早すぎるけどな」
先輩が優しいのがせめてもの救いだ。
正直、リンチとかかわいがりとか心配だったけど、なにごともない。
唯「兄弟子1さん、たのもー!」
兄弟子1「お、こいつ序の口のくせに俺に挑むとは、生意気な!」
兄弟子2「二段目の力見せてやってください、アニキ!」
唯も……
まあ連日マスコミが来ているのでリンチなんかできないというのもあるけれど、
それに、取材によって入ってくるお金やらなにやらで部屋が潤っているというのもあるけれど、
でもなにより、唯のキャラクターのおかげで、みんなが和んだり一生懸命になったりしているというのが大きいんだと思う。
親方「ところで平沢、四股名は『平沢』でいいのか?」
唯「うーん……もっとかわいいのがいいなあ」
親方「」ムシ
親方「まあ、まだ苗字のままでもいいと思うが、お前は本名が売れてるからな。早く四股名を定着させたほうがいいかもな」
親方「うちの部屋は基本『山』がつくんだが…」
唯「じゃあスイーツ山とか!?」
親方「」ムシ
親方「律、お前なにかいいのないか?」
___ r 、
, ´ ` |ノ
/ \ ∠ ) 親方に怒られちゃったよ
′ / イ l l ヽ
. / / \/ |ハi | l ヽ トー─ 、
/ / \/ー‐イ | lヽ | | | _
. / l ヽ | | |´ }
r | | x≠ミ }ハ l / | ′
i l l ゝ| | :::::::: =ミ | l/ | / 【四股名】は力士の名前だよ!
| l l | | u ' ::::::: /j/ | / 「朝青龍」とか「魁皇」とかそういうのだね。
| | l | |、 ( `ヽ /l l/ l | /
レ八l | |rト .. < |/ 八_| , 最初のうちはただの苗字の人とかもいるよ~
\|\|{ \_二ア ヽ\/_/ / 結構変な四股名も多いけど、さすがに「スイーツ」はないね……
- '"´ | V /}{\ } | イ
{ |___Y || V _| / どっかの部屋では「大魔王」なんて人もいたなぁ
| 、 | ゝー介ーく | l/
| \ l ヽ / l / |
| | \ l / |
| ノ \ / |
いまさらですが、見てくれてる人いるみたい?なので
ただの相撲好きなので間違っていること(唯が入門できたとかは論外として)が
多数あるかもしれない すみません
あと意味わかんない相撲用語とかあるかも すみません
最終更新:2011年05月27日 20:05