~その晩~
 闇夜に忍ぶ人影が数人。

中島「あれが梓ちゃんのいる家?」

カツオ「そうだよ中島」

橋本「ほんとに大丈夫なのか、磯野?」

カツオ「え?」

橋本「あの家燃やしちゃったら、梓って子も死んじゃうんじゃね」

カツオ「そんなのお前の心配することじゃないだろ?」ギロ

橋本「ごめん」

カツオ「あいつらが店じまいをしたら矢を放つんだ」

 カツオは矢を一本手に取ると、その先端に油を塗った

カツオ「火をつけてからね」



~琴吹屋~

紬「今日はもうお客さんは来ないわね」

律「よ~し、それじゃ片付けっか」

助さん「私達も何か手伝いましょうか?」

紬「あ・・・それじゃぁ外に出てる籠を」

格さん「わかりました」

 二人が店の外に出た。


助さん「それにしてもこの店はべっぴん揃いだ」

格さん「まったくお前という奴は」

助さん「お前もそう思うだろう?」

格さん「まぁ否定はせんが・・・」

助さん「やっぱりそう・・・ん?」

格さん「どうした?」

助さん「油の臭いだ」

格さん「!!」



~物陰~

カツオ「よ~しみんな、弓を引け!」

手下「へい!」

 カツオ達が一斉に矢を取り、琴吹屋に狙いを定める。

カツオ「撃て!」

中島「いやぁーっ!」バシュッ

 数人の少年達が放った火の屋が屋敷目掛けて飛び出した。

助さん「らぁ!」ズバ

格さん「か!」ズバ

 しかし、カツオ達の死角から現れた助さん格さん達が、
 次々と刀で火の矢を切り落としてしまった

カツオ「な、なんだあいつらは!」

助さん「あっちから声が聞こえたぞ!」

格さん「おう!」

 二人はカツオ達が隠れている方へ走ってきた。



助さん「矢を撃ってきたのはお前達か!」

中島「ひぃ! い、磯野!」

カツオ「数で勝ってるのはぼく達だ! 撃て! 矢を撃て!」

橋本「く、くらえ!」

 橋本は火をつけずにすぐさま矢を撃った
 しかし、その矢はいとも容易く格さんに掴まれてしまった

中島「す、素手で矢を・・・」

カツオ「何びびってんだよ! 情けないぞ中島!」

中島「で、でも・・・」

手下「ぎゃああ!」

 助さんに殴られた少年が中島に向かって飛んできた

中島「うわ! か、勝てないよ・・・大人相手に子供が・・・」

カツオ「えぇい!」

カツオ「もういいよ! お前らなんか絶交だ!」

中島「い、磯野・・・!?」

 カツオは一言言うと、ポケットから取り出した玉を地面に投げつけた
 すると玉が火花を飛び散らせながら炸裂し、緑色の煙を噴出させた

助さん「うわ! これは・・・」

格さん「たまらん!」

 二人はすぐさまその場を離れ、琴吹屋に戻った
 その時、二人は家々の屋根の上を掛けるカツオを見かけた。

助さん「あ、あいつ!」

格さん「おのれ、自分だけはその場を逃れていたのか!」

弥七「あの坊主はあっしに任せてください」

助さん「弥七!」

 どこからともなく姿を現した弥七がカツオを追った



~磯野家の前~

カツオ「はぁはぁ・・・」

 疲れきったカツオがその場に倒れた

カツオ「ここまでくればなんとか・・・」

弥七「おぅ坊主!」

カツオ「!? な、なんだお前は・・・」

弥七「わりぃがちょいと来て貰うぜ」

カツオ「あ・・・やめろ! ぼくをどこへ・・・」

 その時、一発の銃声が鳴り響いた

弥七「!?」

カツオ「」グッタリ

弥七「死んでやがる・・・ちっ!」

 弥七はすぐに引き返した



~その後・琴吹屋~

助さん「手下を毒殺するなんてとんでもない悪ガキだ」

光圀「この子らを生かしておいたら立派な生き証人になってしまうからな」

格さん「弥七がちゃんとあいつを捕らえてこれればいいが・・・」

澪「うう・・・」

唯「怖いよ~、まさか家を放火しようとしてただなんて・・・」

梓「すみません・・・私のせいで」

紬「梓ちゃんのせいじゃないわよ」


弥七「申し訳ありません、ご隠居」

八兵衛「あ、親分」

弥七「すんでのところで証人を消されちまいやした」

光圀「そうか・・・」

紬「わ、私達はどうすれば・・・」

光圀「ここももう安全とはいえんでしょうからな」

唯「えぐっ・・・ぐすん」

光圀「ここは一つ勝負に出てみますかな」

澪「勝負?」

光圀「はい」

紬「あの、ご隠居様は一体・・・」

光圀「ただのお節介好きな旅の隠居ですよ」



~磯野家~

波平「カ、カツオが!」

サザエ「ええ、父さん! う、うちの前に死体が・・・」

フネ「なんてこと」

マスオ「まさかノリスケ君の言ってた奴らが?」

波平「うちの嫁をかっさらっていった馬鹿共のことか!」

サザエ「くぅぅ!! 許せないわ!」

マスオ「どうしましょうお父さん・・・」

波平「決まっとろう。ここまでされて黙っておる訳にはいくまい・・・討ち入りじゃ!!」



~磯野家前~

タラヲ「これから梓ちゃんを迎えにいくですね」

マスオ「そうだよ、タラちゃん」

タラヲ「ぼくは梓ちゃんにしか好きじゃないです~」

波平「そうかそうか。タラちゃん、じゃあ他の奴らは殺してもいいね」

タラヲ「一味です」

フネ「さぁ、みんな籠に乗って」

サザエ「カツオの仇、必ず討ってやるわ!!」

 磯野一家が子分たちを率いて、行進を始めた



~磯野家と琴吹屋の間~

波平「どうした! 何を止まっておる!」

子分「へい! 道の途中に邪魔な岩が・・・」

フネ「岩ですって」

サザエ「父さん、それってまさか・・・」

 突如磯野一家を乗せた籠の前に立ちふさがる岩が爆発した

マスオ「うわあああ!」

 籠ごと吹き飛ばされた磯野一家は全員籠から放り出された

サザエ「いたたたた・・・」

フネ「前に誰かいるわ」


波平「何者じゃー!」

光圀「はーっはっはっはっはっはっは」

サザエ「なんなのこの笑い声! きもちわるい!」

光圀「お前さん達が磯野一家じゃな」

 爆風で舞い上げられた煙の中から数人の男達が現れる

マスオ「な、なんなんだい君たちは!」

光圀「世の中に蔓延る悪党共を許せない、ただの隠居です」

波平「な、なにを無礼な!」

フネ「お下がりなさい! 私達を誰だと思っているんですか」

弥七「そんなこと知るめぇ!」

サザエ「え~い! 話なんかする必要ないわ! やりなさい! 先手必勝よ!」

子分「へい!」

光圀「仕方ありませんな・・・助さん、格さん、存分に暴れてやりなさい」

助格「はっ!」


マスオ「びゃああああ!!」

 助さんに飛び掛ったマスオの顔に助さんの裏拳がヒットした

サザエ「マスオさん! ・・・おのれぇ!」

格さん「わ!」

 サザエの長刀が格さんを襲う

フネ「いきなさい」

子分「へい!」

光圀「むぅん!」

 フネの指示で十数人の子分達がご老公一向に向かう
 しかし、ろくな格闘経験も無いゴロツキ共は瞬く間にのされていった

波平「こいつらやりおるわぃ」

マスオ「い、痛い・・・」

波平「母さん、刀を」

フネ「はい、どうぞあなた」


波平「とりゃああ!」

 波平が光圀に斬りかかる

光圀「世迷い者!」

波平「あわわ!」

 しかし、光圀は杖で波平の刀をなぎ払った
 そして、波平の禿頭に杖の先端を叩きつけた

波平「くぁ!」

光圀「懲りましたかな」

フネ「ここで退いたら男の恥ですよ」

波平「・・・さよう。たりゃああ!」

助さん「ふん!」

波平「あ・・・」

 助さんの峰打ちを喰らい、波平はその場にうずくまった


サザエ「きゃあああ!」

 格さんの柔によってサザエが絶命する

フネ「く・・・」

光圀「どれ、もうこのくらいでよかろう」

助さん「静まれー! 静まれー!」

格さん「この紋所が目に入らぬか!」

 格さんが印籠を取り出した

フネ「葵の御紋!!」

格さん「こちらにおわすお方をどなたと心得る! 畏れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」

波平「み、水戸のご老公!?」

マスオ「ああ・・・ぼく達もうお仕舞いだ・・・」

格さん「ええい、頭が高い! 控えおろう!!」

磯野一家「へへ~~~!」



~その時・琴吹屋~

八兵衛「大丈夫ですよ。ご隠居がなんとかしてくれますから」

紬「・・・」

唯「ほんとに?」

八兵衛「そりゃもう」

??「そうはいかないです」

律「誰だ!?」

 突然、幼い少年の声が室内にこだました


タラヲ「ばきゅ~んです」ドバン

紬「け、拳銃!?」

 戸を開けて現れたタラヲが天井に向けて発砲した

タラヲ「梓ちゃん、迎えに来たですよ~」

梓「あ・・・あぅ」

唯「あずにゃんどうしたの!?」

タラヲ「あのときのこと思い出してるですね~」

澪「あのときのこと!?」

タラヲ「そうで~す」

紬「梓ちゃん、一体何をされ・・・」

タラヲ「梓ちゃんとエッチしたで~す」

八兵衛「な、なんだってぇ!?」

澪「嘘・・・」

タラヲ「梓ちゃんわんわん泣いてかわいかったで~す」

梓「う・・・うぅ」グスン


タラヲ「だけどぼくまだちっちゃいからセーエキでなかったんですけどね~」

律「!?」

タラヲ「でもきもちいのに変わりはないですから、それでもOKで~す」

唯「やめてよぉ・・・」

タラヲ「これから梓ちゃんはず~っとぼくのものです」

タラヲ「ぼくが大きくなったら梓ちゃんはぼくの赤ちゃんを産むです」

タラヲ「そうしたらこんどはその子をぼくの新しいお嫁さんにするんです」

唯「そんなこと言わないで・・・」

タラヲ「いやです~もっと言うです~」

律「てめぇ・・・」

タラヲ「梓ちゃんも梓ちゃんの娘も、その娘もみんなぼくのもので~す」

タラヲ「ぼくのものになればず~っと不自由なしですよ?」


梓「・・・やだ」

タラヲ「え?」


梓「嫌! もう嫌ぁあ! 私、タラちゃんなんかと結婚したくない!!」


八兵衛「よく言った! 梓ちゃん!」

タラヲ「むぅぅ~~~」


 タラヲが銃を唯に向けた

タラヲ「ぼくのいうこと聞かないと友達殺すですよ」

唯「あ、あずにゃん・・・」

梓「唯先輩!」

タラヲ「後悔先に立たずです」

梓「やめてぇぇえ!! 唯先輩を殺さないでえええ!!」

タラヲ「一味です」

 タラヲが銃に掛けた指に力をこめた


バキュン!

 鈍い銃声が響き渡る

唯「あ・・・あ・・・」チョロチョロ

 唯は恐怖のあまり小便を漏らしていた


タラヲ「ぐ・・・い、痛いです」

八兵衛「親分!」

 タラヲの小さな手には風車が突き刺さっていた
 弥七がタラヲの銃撃を逸らしたのだ

タラヲ「うぅ・・・」

 タラヲが床に落ちた銃を拾おうとする
 すると、天井裏から弥七が回転しながら飛び降りて来た
 そしてそのままタラヲの肩に飛び蹴りを喰らわせた

タラヲ「うわーん!」

 タラヲはふすまを突き破りながら店の外に飛んでいった



タラヲ「く・・・許さないです」

弥七「ふてぇガキだ。まだ息がありやがる」

八兵衛「親分! あんなガキぶっとばしてやってください!」

弥七「おぅよ」

 弥七が風車の手裏剣を投げた

タラヲ「うく!」

 タラヲの両肩に手裏剣が突き刺さった

弥七「とどめだ!」

 弥七は匕首を逆手に持つと、タラヲの首に深くそれを突き刺した

タラヲ「うわあああああ!!」

 弥七は刺した刃をくるりと回して傷口を抉る

タラヲ「こふ・・・」

 タラヲは白目を剥き、汚い舌とよだれを垂らしながら地面に横たわった

紬「これが磯野一家頭首の最期・・・」

梓「うぅ・・・えぇ~ん! え~ん!」

 梓は安心のあまり泣き出した

律「よかったな・・・梓」

唯「私達、もう磯野一家に怯えなくていいんだよね」

八兵衛「あったりめぇよぉ」



~翌日~

紬「ありがとうございました。ご老公様」

光圀「ほっほ」

助さん「どうやらあのタラヲとかいう子供が代官や奉行の弱みを握っていたようですね」

格さん「そのせいで磯野一家が御用達の海鮮問屋になれたわけか」

唯「でも、磯野一家がいなくなったから、これからはうちがまた御用達のお店になるんだよね」

紬「そうね」

光圀「これにて一件落着じゃ。はーっはっはっはっはっは」


 そうしてご老公一行は次の町へ向かっていった