次の日


紬「唯ちゃん、来ないね」

澪「唯は風邪だから、もしかしたら来れないかもしれないってことはわかってたけど……」

律「なんで梓まで来ないんだろうな。
  まさかアイツサボる気か……?」


梓「ところがどっこい、あずにゃんこと中野梓はここにいるんですよね」

澪「いつのまに……いや、まあいい。
  よかったよ、梓が来てくれて」

梓「……」キョロキョロ

紬「どうしたの、梓ちゃん? そんなにキョロキョロしちゃって」

梓「唯先輩がいないか探しているんですよ。
  先輩がいなかったら、放課後ナベタイムは成立しませんからね」

澪「唯は……まだ来てないんだ」

梓「そうですか……ふう、苦労に苦労を重ねたかいがあったみたいですね」

律「は?」

梓「気にしないでください。こちらの話ですから」

澪「ていうか、梓がからだにつけてる紙はなに?
  あと手首にも数珠みたいなのいっぱい巻いてるし……」

梓「だから気にしなきていいって言ってるでしょう。
  澪先輩って人の話を右から左へ聞き流すのが得意なんですか?」

澪「…………」

律「まあまあ、そう梓も怒るなって。唯がいなくて気がたってるのはわかるけどさ。
  今のうちにわたしらだけでも練習しとこうぜ」

紬「そうね。そうしましょう」

梓「……みなさんはクラスのほうのお手伝いとかないんですか?」

律「あー、そうだ。わたしとムギ、あと30分したら当番だよ」

梓「そちらに行ったほうがいいんじゃないんですか?
  割り当てられた仕事はきちんとこなさないと迷惑になりますよ」

澪「でも唯が……」


がちゃ!


唯「やっほー! みんなお待たせー!」

梓「(^ω^)」



紬「唯ちゃん……よかった。もう風邪は大丈夫なの?」

唯「うん、きちんと食べて寝てをしてたら、すっかり体調よくなったよ。
  みんな、心配かけてごめんね」

梓「……」

唯「あずにゃんも心配かけてごめんね……って、その格好どうしたの?」

梓「はははは、よかったよかった……はははは、唯先輩が無事に学校に来てよかった……」

唯「久々にあずにゃん分を補給しておかなきゃね」ダキッ

律「唯、梓に抱き着いてる場合じゃないぞ。
  これからクラス当番だぞ」

唯「あ、そうだった!
  あずにゃん、澪ちゃん、またあとでね!」

澪「……私もクラスのほう見てくるな。
  ふたりだけじゃ練習もできないしな」

梓「…………」

澪「梓?」

梓「は、はい!?」

澪「どうした? 珍しくぼうっとして」

梓「な、なにもです。大丈夫です。
  わ、私もクラスが心配なんで見てきます!」

澪「そうか。じゃあまた1時にここに集合な」



憂「いよいよ、本番だね。
  わたしと純ちゃんも見に行くからがんばってね」

純「講堂って、人が集まって暑いところだから本当はいやだけど、一応見に行くよ。
  はあ……髪ゴワゴワしないか心配だな」

梓「ああ、うん、ふたりともありがとう」

憂「そうそう、聞いて。
  お姉ちゃんったらね、危うくギターを忘れそうになったんだよ。
  わたしが気づいてなかったら危なかったよ」

純「いかにも憂のお姉ちゃんらしいね」


梓「……! それだ! ありがとう、憂! とっておきのアイディアが浮かんだよ!
  こうしちゃいられない、あそこに行かなきゃ! またあとでねっ!」


憂「……どうしたんだろ、梓ちゃん」

純「なんか急に生き生きしだしたね」



PM:1:05・音楽室 


梓「すみません……少し遅れました」


唯「ない、ないよ!!」

梓「どうしたんですか、唯先輩?
  もう本番の30分前なのに落ち着いていないと……失敗しちゃいますよ。
  せっかく5人で初めての文化祭での演奏なんですから」

唯「で、でも……それどころじゃないよ!」

梓「どうしたんですか、澪先輩?」

澪「実は……私たちが部室を空けているうちに唯のギターがなくなったんだ」

唯「うわああああああんっギー太ああああ!!」



梓「……」ニヤリ



梓(うししししっ……まったく、初めからこうしていればよかった……。
  どんなに楽器がうまくても楽器がなければ、なにもできないでしょう)

律「まさか本番直前にこんなアクシデントに見舞われるなんて……!」

澪「とにかく時間が許すかぎり、唯のギー太を探すぞ!」

梓「今から探して間に合いますかねえ?
  本番まで残り30分しかありませんよ?」

澪「いいから! 学校中を探すぞ。諦めるな!」


梓(うひひひっ……はたして先輩たちで私が隠した唯先輩のギターを見つけられますか?)


澪「時間がない。みんなで手分けして探すしかないな。
  とりあえず、唯と私で……」

梓(意外と澪先輩、頼りになりそうですね。
  意外です。まあ、どうせ30分以内に見つけることなど不可能ですがね)

律「じゃあ、わたしは二階を探してくる。ムギは外を頼む」

紬「わかった」

梓(無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄。
  まあ、努力は認めてあげますけどね。さて、私は高見の見物といきますか……)



がちゃ

憂「お姉ちゃーん、ギー太が校長先生の銅像の前に落ちてたから届けに来たよ」

梓「(^O^)」



梓(こうして、私の放課後ナベタイムライブ崩しはあっけなく終わった。
  残ったのは、本番前の地獄のような時間だけである)



律「よし、わたしら放課後ナベタイムの成功を祈ってエンジン組むぞ!」

梓「…………」

澪「梓……結局、一回も練習してこなかったが大丈夫か?
  いや、今さら大丈夫か、なんて聞くのはおかしいな」

唯「そうだよ! ギー太も戻ってきたし、がんばろうよ」

紬「せっかくだし、梓ちゃんがエンジンのかけ声をやったら?」

梓(もうどうにもなれ……!)



梓「わかりました。

  ヤッてやるです!」





梓「生一丁っっ!」


唯澪律紬「「「「喜んで!!!!」」」」





梓(私はステージに立って思わずメマイがした。
  たかが女子高生のバンド演奏になんでこんなに人がいるんだろう)


キャーヮ-ヮ-ホウカゴナベタイムダアア ナマエダセエ

ミオターンコトシモパンツミセテネエカイチョウヨリ

シャベッタアアアアアアアアアアアアァ


梓「あー、あー、放課後ナベタイムです。
  今から演奏するんで聞いてください」チラッ

律「ワンツースリー!」


…………


梓(結論から言うなら、ライブは大成功だった。
  なにせ私の歌唱力はあがっていたのだから。
  ていうかなんなんだろ、この謎の達成感は……?)

澪「やったな、梓。大成功だ。練習の成果がきちんと出た結果だ。
  正直に白状すると、私は梓のことを疑ってたんだ。
  きちんと練習してないんじゃないかって。部活でも鍋食べてばかりだったし」

梓「……澪先輩」

澪「でも、きちんと練習してたんだな。疑っててごめん。
  そして……歌、すごく上手だったよ」

唯「うん、あずにゃんの歌声は最高だよ!」

紬「ええ、ステキな歌声だったわ」


アンコール! アンコール! アンコール!


律「へへっ、放課後ナベタイムのライブは大成功だったな。
  さて、アンコールいくぞ!」




どうもこんにちは。鈴木純です。


いきなりわたしの出番で、わたし自身が焦ってますけど、どうやら放課後ナベタイムのライブは成功してるみたい。
講堂に溢れる割れんばかりの歓声が、なんかスゴイです。

憂「アンコール! アンコール!」

隣の憂も目茶苦茶はしゃいでるし。

純「アンコール!アンコール! 梓、アンコール!」

かくいうわたしも梓の歌声にすっかりやられたみたい。

いや、真面目に梓の歌声はすごいすごい!
ロックの片鱗を垣間見た気がする。


あれ? 梓がなぜか澪先輩を蹴り飛ばしてベースを奪ったけど……なんで?

梓「さあ、みなさんのアンコールに応えて私が真のロックンロールを見せてやります!」

梓がマイクを使って叫んだ。

真のロックンロール?

なにそれ?

梓の謎のパフォーマンスによってさらに会場はヒートアップする。

と、そのとき。

梓のもってるベースの先っぽから火花が出ました。
真っ赤な火花です。火花はどんどん大きくなります。

梓はベースを振り回しまくります。正直危ないです。
澪先輩たちはあたふたしています。さらに火花はでかくなります。

そして。


梓「私からのロックンロールを受けとってください!!」


梓がベースを豪快に投げます。
あんな小柄なのに、会場のほとんど一番うしろで眺めていたわたしのとこまでベースは届きました。


そしてベースはわたしの目の前で爆発した。




【エピローグ】


なにから話せばいいのか迷うけど、最初に話しておかなければいけないのはやはりあのことだ。


梓は、あのライブのあと警察に捕まった。


わたしをベース爆破によって傷つけたことはこのことにはあまり関係ない。
いや、ベースは関係あるんだけど。


春に梓は澪先輩のベースを今回と同じように、爆破したらしい。
そして同じモデルをプレゼントしたそうだ。


そう、ベース。実はそのベースは楽器店から盗み出したものらしかった。
ちなみに梓が捕まる決定打になったのは楽器屋の店員の証言。

梓が楽器屋にギターを売りに行ったとき、店員は夜にベースを盗んだ犯人と似ていることに気づいたそうだ。

そしてストパーをかけて真っ直ぐに整えていたわたしの髪は……またもとのモップ状態になった。
あれほど金と時間をかけたわたしの髪はあっけなく台なしになった。

しかし、わたしは梓に感謝している。
わたしはあのライブでわたしの中のロックンロールに気づけた。

もはや、今のわたしはロックの虜だ。

そして、ロックにとりつかれた人間の髪型が普通ではダメだろう。

だから、わたしはこのモップヘアーでもういいのだ。


純「梓、待っててね」

さっきは梓は警察に捕まったって言ったけどもう逃亡してしまったらしい。さすがロックだ。

なんでも今はマニラに逃亡したとか。

そしてロックにとりつかれたわたしは梓を追うのだ。どこまでも。

純「絶対に捕まえるんだから、梓!」


わたしはそう声に出して、大破したベースを背負って、飛行機の搭乗口に足を踏み入れた。




    お わ り