梓「どうです? これが私のロックってやつです。
  弘法は筆を選ばず。先に言ったとおり、私にはどんな楽器だろうと関係ありません。
  どんな楽器だろうとそれが音を鳴らすならロックンロールを奏でてみせますよ」

紬「……ベース弾いてたっけ?
  音が全然聞こえてこなかったんだけど」

梓「なにを言ってるんですか、ムギ先輩。思いっきりしてたじゃないですか。
  大地を震わせるかのような圧倒的な爆発音。
  芸術は爆発だ、とはよく言ったものです。皆さんも聴き入っていたでしょう?」

律「いやいやいやいや。
まさかベースを爆破させるなんて、夢にも思わなかったから呆然としてたんだよ」

梓「そんなに驚くものですかね?
  ジミヘンとかザ・フー、日本だとエックスジャパンとかがパフォーマンスで楽器破壊してるじゃないですか」

唯「梓ちゃんのは破壊というか爆発してたよ」

梓「まあ、しょせん単なる破壊行為はパフォーマンスの域を出ませんからね。
  その点、爆破というものには芸術性とともにロマンを感じます」

律「……だそうだ、澪」

澪「\(^o^)/」バタン

唯「あまりのショックに澪ちゃんが気絶しちゃったね」

梓「いささかやりすぎましたかね? 久々に本気を出してみたんですけど。
  ちなみにベースのあの火花や爆発のための装置は、工学部に通ってる友達に頼んで作ってもらったんですが……。
  まったく……今後このようなことがないように注意しておきますね」

律「この一瞬の間にさりげなく責任転嫁しようとしてない?」

梓「まさか。この中野梓にかぎってそんなことがあるわけないでしょう。
  たとえどんな苦難や困難が立ちはだかろうと、私は逃げたりしませんよ」



ガチャ

和「ちょっと失礼していいかしら?
  今しがた、どこかで爆発があったみたいだけど知らない?
  とりあえず犯人を見つけたらソイツをとっ捕まえて謹慎処分に……」


梓「ニッゲロー 三┏( ^o^)┛」




数日後

梓「はあ……この前迷惑かけたから行きたくないなあ」

憂「そもそもなんで軽音部分に入ったの?」

梓「新歓ライブを見たら、ミエナイチカラに動かされて……」

純「ていうか、今は自宅謹慎中なんじゃないの?」

梓「ベース爆破と器物破損でね。
  まったく、あのオシャレ眼鏡女が教師にチクらなければこんなことにはならなかったのに」

純「それより聞いて聞いて。ストパーかけたんだよ
  おかげで髪縛らなくてもよくなったんだ」

梓「ふうん」



梓「というわけで休日をはさんでのこんにちはになりますね。
  みなさん、こんにちは」

律「……」

紬「……」

澪「……」

唯「……」

梓「おやおや? みなさんどうしたんですか?
  中野梓ですよお。みなさんのカワイイ後輩の中野梓ですよ」

律「……なんで梓が学校に来てんだよ? 今、自宅謹慎中だろ?」

梓「私はロックンローラーですよ。
  たかが校則ごときに縛られたりしません。むしろ積極的にぶち壊しますよ」

澪「……なにしにきたんだ?」

梓「お詫びをしにきたんです、澪先輩に」

澪「…………」

梓「正直に申し上げて、少し調子に乗っていました。
  私ったらつい、ハシャぎすぎちゃったみたいです。
  皆さんに自分のギタープレイを披露できるのが嬉しかったんです」

澪「……ああ、うん。百歩譲って梓の申しわけないっていう気持ちは伝わった。
  でもな。謝ったところで梓が壊してしまった私のベースは、帰ってこないんだ」

梓「百も承知です。なので、この休日の時間を利用して手に入れたんです」

澪「……まさか私のために……」

梓「はい」

梓「日雇いのバイトをしてお金を稼ぎました」

澪「梓……」

梓「バイトで稼いだお金は大事に貯金しました。
  そして、澪先輩へのお詫びの品は父からもらいうけました」

澪「ていうか、梓のお父さんって亡くなられたんじゃなかったのか?」

梓「……澪先輩。あまり細かいことを気にしてるとハゲますよ?」

澪「…………」

梓「まあ、お互い細かいことは気にしないでおきましょう。
  私もハゲたくはありません、死ね。
  それより、受け取ってください。私の誠意です」

澪「あ、ああ……ありがとう」


梓「スッポンもどきのトンちゃんです。どうぞ」ヒョイ


澪「………………………………………………………………………………………………………………はい?」



梓「やっぱり傷心の人のこころを癒すのは動物だと思ったんですよ。
  本来なら犬や猫を差し上げたいところでしたが、そのようなアテはさすがになくてですね。
  まあでも、アレですよ。犬はお世話が大変ですし、猫にしても壁ひっかいたりと色々と厄介ですし」

澪「……どうしてカメなの?」

梓「たまたま父が知り合いからもらったものでして。
  あ、ちなみにカメではありませんよ。先程申しあげたようにスッポンモドキです。
  これは小さいからまだ安いんですけど、それでも一万五千円ぐらいはするらしいです」

唯「すごいカワイイね! 名前はトンちゃんって言うんだっけ?」

梓「ええ。鼻が上に向いていてどことなく豚を彷彿とさせるので、そのような名前にしました」

紬「ところで、トンちゃんが入ってるこれって……」

梓「ああ、それは虫かごですよ。学校にもって行くのに大きな水槽は不便なので」

澪「…………と、トンちゃん」

梓「どうです? 気に入ってもらえれば、私としては嬉しいんですけどね。
 個人的な見解なんですけど澪先輩ってカメとか好きそうですよね。

 特にカメの頭、とかね」

澪「……?」

梓「まあ、とにかく大事に育ててあげてくださいね。
  ちなみにこのトンちゃんなんですが……」



ガチャ

和「ちょっといいかしら?
  最近、楽器店とかでギターやベースが相次いで盗まれてるって話があってその中に……」

梓「ニッゲロー 三┏( ^o^)┛」



一週間後……

唯「梓ちゃん、部活に来てくれないね」

紬「まだ謹慎が続いているのかも。
  自宅謹慎中に学校に来ちゃったのが見つかっちゃったし……」

律「ていうか、結局梓はなにがしたかったんだろうな。
  澪のベースを爆発させたあげく、お詫びにスッポンモドキを渡してくれて……」

澪「最終的にトンちゃんは部室で育てることになったとはいえ。
  ベースは金銭的な問題で買えないしな」

唯「ここ一週間は本当に一回も楽器を触ってないよね。
  なんだか不思議なんだけど、澪ちゃんのベースが壊れてからむしょうに練習したいんだ。
  なんでだろうね?」

澪「知らない。ハア……」

律「最近は楽器店の楽器が盗まれる事件が相次いでいるって理由で、あの楽器店も値引きしてくれなかったしな」

紬「短期のバイトの募集も見つからないしね」

唯「まさにはっぽーふさがりだね」

澪「新入部員も梓以外は誰も来なかったしな。
  ……なんでだろ。もう新歓ライブが遠い過去のことに思えてくる(遠い目)」

 「ああ、それはアレですよ。歳をとるにつれて時間の感覚がどんどん早くなる現象ですよ。
  大人になれば会社や社会に拘束される分、自由な時間は減ってしまいますからね。
  かと言って自由な時間のためにニートになっても、今度は周囲の目が気になって、結局は自分の部屋に拘束される。
  つまるところ、人生の豊かさというのは時間をいかに有効に使うか、というところにあるんだと思います」

澪「べつにそんな小難しい話はしていない」

 「そうですね。ちなみに、澪先輩は引きこもりの素質があると思いますよ。
  いい意味で」

澪「いい意味でとつければ、なに言っても許されると思ってないか?」

律「ていうか、この声は……」

梓「やっほー。みなさんの癒し系女子高生のあずにゃんですよ」

律「……」

澪「……」

梓「あらら? みなさん、どうかしましたか?
  ああ、もしかして私の存在そのものを忘れられていたとか?
  いやあ、子どものころからけっこう存在を忘れられていたりするんですよね」

澪「少なくとも、私は、あと半世紀は梓のことを忘れられないと思うけどな」

梓「これはこれは。嬉しいことを言ってくれますね。
  いや、でも真面目に私ってばクラスの打ち上げとかに呼ばれたことないんですよね。
  やっぱり、私の名前がいけないんですかね?」

紬「名前?」

梓「中野梓。
   ↓
  N・A
   ↓
  Natural・Air

  ほら、最終的に自然に空気ですよ」

澪「すごくどうでもいいな」


梓「しかし、軽音部の顧問の……山中さわ子先生でしたっけ?
  あの方が私に素晴らしいあだ名をつけてくれました。

  あずにゃんです」

律「……もしかして、さっきから猫耳みたいなものをつけているのは、さわちゃんのせいか?」

梓「ええ。謹慎中に反省文を書かされたんですけど、反省していますしか書かなかったら
  『反省しているなら、反省している証拠として、これをつけて』と猫耳カチューシャを渡されました。
  自分で言うのもアレですけど、すごい似合ってませんか?」

唯「うん、すごい似合ってるよ! ホントの猫さんみたい。
  わたしもあずにゃんって呼んでいい?」

梓「もちろんです。よかったらみなさんも私のことを、あずにゃんって呼んでくださいね」

律「わたしは梓のまんまでいいや」

紬「わたしも、梓ちゃんのままでいいかな」

澪「私も遠慮しておく」

梓「は?」

澪「え?」

梓「澪先輩、今なんておっしゃいましたか?」

澪「だから、梓のことはこれからも普通に梓って呼ぶってことだけど……」

梓「ええ!? 私のキモチを無駄にする気ですか!?」

澪「気持ち?」

梓「澪先輩のベースを破壊してしまった、そのお詫びに私のことをあずにゃんと呼ばせてあげると言っているのに。
  そんな健気な後輩のキモチを無下にするつもりなんですか?」

澪「とりあえず、私としては壊されたベースをどうにかしてほしいんだけど」

梓「そういうとこはぬかりありませんね、先輩。
  しっかりしてるというか、ちゃっかりしているというか」

澪「あだ名を呼ばせるだけでお詫びを済まそうとしている梓のほうが、ちゃっかりしてると思うけどな」

梓「じゃあ私たち、似たものどうしですね」

澪「…………」

梓「いえーい♪」タッチ「い、いえーい……」澪

梓「まあ、お詫びの件ですが、さっきのは冗談で実はきちんとあるんです。
  お詫びの品が」

澪「ふうん」

梓「むむっ、その目は信用していない目ですね。
  まあ澪先輩ってどことなく人間不信っぽいですからね。
  あ、もちろんいい意味で、ですよ?」

澪「何度も同じネタを使い回すな」

梓「なかなかどうして手厳しいですね、先輩は。
  しかし、鬼畜な澪先輩といえどもこれを見たらさすがに納得していただけるでしょう。

  じゃーん」

澪「こ、これは……!?」

紬「これってベース……よね?」

梓「ええ。まぎれなくモノホンのベースですよ。
  当たり前ですが以前、澪先輩が使用していたモデルのものです」

律「もしかして買ったのか?
  いや、でもたしか澪のベースって七万はしたよな?」

澪「う、うん……もしかして、梓。
  親に頼んで買ってもらったとか?」

梓「そんなわけないでしょう。
  私の父は会社の手となり足となりクビになりましたから
  そのようなお金は一切ありません」

律「ジャズ演奏家じゃなかったのかよ、お前のお父さん。
  ていうか、うまいこと言ってんじゃねえよ」

梓「うひひひ」

唯「あずにゃん。これどこで手にいれたの?」

梓「……」

唯「あずにゃん?」

梓「ヒミツです」

澪「わざわざ隠す必要もないだろ。というか隠すな。
  もし、梓のお父さんやお母さんが私のためにベースを弁償してくれたっていうなら、お礼ぐらいは言いたいし」

梓「父も母もこのことには関与していませんから。気にしなくていいです。
  そもそも、私が澪先輩のベースを破壊したのが原因です。
  澪先輩はなにも悪くありません。悪いのは私で、悪いことをしたのも私ですから」

澪「……」

梓「またそんな白い目で人のことを見て。
  ……なんですか?」

澪「いや、急に梓がまともなことしか言わないから心配になっただけ」

律「なにはともあれ、よかったじゃん。
  澪のベースはもとに戻ったし、これで練習も普通にできるようになったわけだ」

澪「律や唯がきちんと練習してくれればな」

唯「いや~、それを言われるとキツイねえ」

澪「さっき、私のベースが壊れてからはむやみやたらに練習したくなったとか言ってなかったか?」


紬「あの……ひとつ言いたいこと、というか聞きたいことがあるんだけどいいかな、梓ちゃん」

梓「どうしたんですか、ムギ先輩?」

紬「梓ちゃんのギターはいつ聞かせてもらえるのかな、って思って」


梓「 (=_=;) 」ギクッ


唯「そうだよ。わたしもまだ、あずにゃんの演奏聞いてないよ?
  澪ちゃんのベースがバクハツしちゃう音なら聞いたけど」

梓「……演奏したいのは山々なんですが、大変残念ながら無理です。
  なにせ……いえ、なんにもです」

律「……梓の話ってどこからどこまでが本当の話かわかんないんだけど。
  ギターが弾けない事情でもあるの?」

梓「まあ、ねえ……」

澪「もしかして……梓。
  梓がベースを買えたのは、その、自分のギターを売ったからなんじゃ……」

梓「……そんなわけ、ありませんよ。
  すみません。今日はもう帰ります。
  ここしばらく学校に行ってなかったので、勉強しないといけませんから」

澪「…………」


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