私が恋をしたのは軽音部に入部してすぐのことだった。初恋だった。
最初はまさか自分が人に対して恋心を、ましてや同性に対してそんな感情を抱いてしまったことにひどく困惑して事実を受け入れることが出来なかった。
けれど、私なりに色々と考えたり、多くの眠れぬ夜を過ごしたりするうちに、これはやはり恋なのだと自覚するようになった。

唯「やっぱり、恋しちゃったのかなぁ」

唯「りっちゃん……」

私が恋をしたのは、軽音部部長田井中律、彼女だった。



律「あたしって女なら微妙な部類だけど男ならイケメンじゃん?」

律「だからちょっと変装してみんなをビックリさせてみようと思うんだよ」

律「てなことで学ラン借りるからな聡」

聡「俺に私服で学校に行けというのかアンタは」

律「とりあえずカチューシャは外して、代わりにヘアバンドでもつけとくか」

律「学ランの中にはパーカーを着て、と」

律「完璧だな。どっから見てもあたしには見えない」

律「そんじゃ行きますかね」

唯「りっちゃん遅いなぁ」

澪「…電話にも出ないってことは寝てるな、多分」

唯「もう先に行っちゃう?」

紬「もうちょっと待とうよ」

梓「でも遅刻しちゃいますよ?」

律「よー」ポンッ

澪「おい、遅いぞり…つ」

律「姉ちゃん達かわいいね。これから学校?」チャラチャラ

梓「(うわ…典型的なチャラオトコだ)」

澪「あ、あの…」

澪「わ…私達これから学校で…」ガタガタ

律「(お、びびってるびびってる)」

律「そんなのどーでもいいじゃん。あたし…じゃなくて俺とEことしようよ」

澪「Eことって?」ガタブル

律「気持ちEことや楽しCことに決まってんだろ」

梓「澪先輩から離れてください!人を呼びますよ!」

律「(おお…意外に勇気あるんだな梓)」

律「何だよ、お嬢ちゃん。先に俺と気持ちEことしたいのか?」クイッ

梓「触らないでください!」バシッ

律「あいてっ」

律「(うーん、そろそろネタバラししようかな)」

律「…ったく何で誰も気づかねーんだよー!あたしだy」

紬「みなさーん、この人痴漢でーす!」

律「え?」

ざわっ…ざわっ…

庶民「痴漢だって…」

市民「警察に連絡…」ポチッ

律「チックショォォォ何でだよ!」ダッ


紬「大丈夫澪ちゃん?」

澪「あ、ありがとうムギ……怖かったぁ」

梓「全く。こんな朝からナンパとか信じられませんね」

紬「まぁ、ちょっとは格好良かったけどね」

唯「…」ポー

梓「律先輩には悪いですが、そろそろ学校に行きません?また絡まれたら嫌ですし」

紬「うん。そうしようか」

唯「ねぇねぇムギちゃん」

紬「ん?どうしたの唯ちゃん」
唯「私さっきの人に一目惚れしちゃったかも…」

梓「ぇぇぇぉぇぇ!!」

紬「ひょっとして今私達にナンパしてきた人のこと?」

梓「絶対ダメですよ!あんなチャラチャラした人!」

澪「確かにああいう人は…ちょっとな」

唯「で、でもでもスゴく格好良かったし…」

梓「格好良くても中身は腐ったミカンじゃないですか!」

律「はぁ…はぁ…何とか撒いたか」ゼーゼー

律「あっついな、もう。初めからこんなバカなことするんじゃなかったぜ…」

律「今から着替えて行けばまだ間に合うし、早いとこ学校行くか」

律「おっと、カチューシャ忘れるとこだった」スチャ

律「おーっす澪、ムギ」

紬「おはよう」

澪「コラ、律っ!遅いぞ」

律「わるいなー、昨日夜更かししちまってさ」

澪「おかげで変なのにも絡まれるし…」

律「だからゴメンって。ところで唯は?」

澪「…それがさっきから自分の席で、ずっとぼーっとしてるんだ」

唯「…」

唯「…はぁ」

律「唯が?珍しいな、何か悩み事か?」

紬「それが…」

――

律「えぇぇ!」

紬「ずっとその人のこと考えてるみたいなの」

律「…そ、そうか…唯がね」

律「(なんだそりゃー!唯があたしに惚れた?冗談だろオイ)」

澪「顔色わるいぞ、律」

律「あ、ああまぁな。だから今日ちょっと遅れたんだよ!」

澪「あっ…そういう理由だったのか。ごめん」

キーンコーンカーン

唯「りっちゃん!」ガタッ

律「うおっ、何だよ唯?」

唯「今日ちょっと部活には出れないんだ。ごめんね!」

律「ああ…それはいいけど」

唯「それじゃあねっ!」ダッシュ

律「唯が部活をサボるってことは…やっぱりあたし(男)を探し回る気なのか?」

澪「律。部室行こうよ」

律「すまん澪。今日唯とあたしは用事で出れないんだ!」

澪「えっ…二人とも?」

律「おう。そういうワケだからごめんな、じゃっ」ダッシュ

澪「…やっぱり気分悪いのかな?」


――――

唯「~♪」タッタッ

律「お、いたいた」

律「見つからないように追ってみるか」


唯「んー…」キョロキョロ

唯「…」タッタッ

律「(何かを探す…というより誰かを探してるのか?)」

律「…もしかしてあたし?」

律「んー、一応家で着替えてくるか…」


シュルルルッ バサッ カチャッ


律「おーし。イケメンりっちゃんの完成!」チャラチャラ

聡「だからそれコスプレ用じゃなくて俺の…」


律「さーて、唯はどこ行ったかなー」

律「あ。でも先に家に帰ってるかもしれないし、先に唯の家に行ってみるか」


ピンポーン

憂「はーい」ガチャ

律「よう、憂ちゃん。唯いる?」

憂「…あの、どなたですか?」

律「何言ってんだよ。あたしだ…」

律「(あっ、そうだった。今のあたしは俺なんだった)」

律「えーと…そう!唯の友達だよ、友達!」

憂「お姉ちゃんの…」

憂「(こんな怖そうな人いたかなぁ?)」

律「とりあえずさ、中に入らせてくれよ」

律「(これから唯を探し回るのも面倒くさいし、そのうち帰ってくるだろ)」

憂「…分かりました。どうぞ」

律「さんきゅー」


憂「お飲み物は、紅茶でいいですか?」

律「何でもオッケー」

憂「あの」

律「ん?」ズズーッ

憂「お名前を伺ってもよろしいですか?」

律「(やばっ!名前とか考えてなかった!)」

憂「…?」

律「えーと、俺は」

律「田中津井って言うんだ…」

憂「私は平沢唯の妹の平沢憂です。どうぞよろしくお願いします」

律「あ、ああ…よろしく」

憂「田中さんはお姉ちゃんと何処で知り合ったんですか?」

律「ええと…ライブハウス」

憂「へぇ。それじゃあ田中さんもバンドやってるんですね」

律(君の姉と同じバンドだけどね)


唯「ただいまーうい…」ガチャ

律「!?」

憂「おかえりお姉ちゃん。お友達の田中さんが来てるよ」

唯「お友達?」

律「やべっ!」

唯「…ああーっ!いた!」

律「(くっそぉ、もうちょいで憂ちゃんに事情を説明しようと思ったのに)」

唯「もう、ずっと探してたんだよ君のこと!」プンスカ

唯「でもなんで私の家にいるのかな?」

憂「どういうこと…?」

律「さよなライオーン!」ダダダダ

唯「あっ、待って!」

唯「せめて名前だけでも!」

律「田中天津」シュダダッ

憂「えっ、さっきは田中津井って…」


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