スコープ越しに不安げな唯の顔と、とみの悪意にみちた笑顔がみえたと

き。

 心の奥底に闘志の炎がくすぶった。


澪「チャンスは一度きりだ……」

澪「早く……早くしなければ唯がいまにも撃たれてしまう」


 すぐさま照準の計算を始める。

 風速、風向き、湿度、温度、空気抵抗。ささいな計算ちがいから弾は大

きくそれてしまう。

 弾丸も一定ではない、おしっこの密度や量、鮮度など、さまざま要素が

複雑にからみ合って軌道は大きく変わる。

 またトリガーの絞り方一つでもかなりの質量変化をもたらす。

 この痛みに震える指で正しく引くことができるだろうか。


澪「ここからだと、かなりポインターが標的から遠のく……」 


 深呼吸をする。激痛がはしる。

 おそらく器官もおおきく損傷してるのだろう。

 しかしかまいやしない。

 私は一度頭の中で組み立てた計算式をスッパリ忘れて、

 次は感覚で照準を探りだす。


澪「大丈夫。間違いない」


 自分の長年の直感を信じることにした。スコープ内の十字は対象の遥か

左上を指し示す。

 もう時間はない。

 私は自分のいままでのスナイパー人生全てを駆けてトリガーを引く。

 撃発。


 おしっこの弾は想像通りの速度と膨らみで飛沫を散らしながら闇夜を切

り裂いて飛んでいく。

 唯、いま行くぞ。願いをこめた弾はさらに加速し爆進する。


 だめだ、血を流しすぎた。

 頭がぼんやりとしている。だんだん意識が途切れ出す。

 どうやら着弾を見届けることはできそうにない。

 しかしトリガーを引いた時点で確実な手応えはあった。

 それはもう、間違いなく。


澪「……ふふ」


 黄金の月下に照らされがら、私はそのままズシャリと崩れ落ちた。


……


唯「ねぇおばあちゃん……どうして、どうして急に倒れちゃったの?」

とみ「か……ク……」パクパク

唯「どうしたの? お眠?」

とみ「や、やってくれる……この私に直撃させるなんてねぇ」

唯「痛いのー? 痛いの痛いのとんでけー!」

とみ「グ、触らないで!!」

唯「ひぅっ!」

とみ「私は……まだ……」ヨロヨロ


律「そこまでだぜ、ばあさん」

唯「あーりっちゃん!!」

律「唯……!! 梓!!」

唯「あずにゃんねー、もう寝ちゃった……」

律「えっ……ッ! ……ちっくしょう!!!」

とみ「なぜ……邪魔を!!」

律「ふざけるな! こんなことをしてなんになるんだよ!!」

唯「りっちゃんこわーい」

律「唯をもとにもどせ! 梓をもとにもどせ! みんなを返してくれ!!


とみ「グ……まさか、あの距離から狙ってくるとはおもわなかったわ」


律「澪に撃たれたのか」

とみ「見事だわ……急所をはずして、私は行動不能にだけ陥らせる」

とみ「瀕死重症とは思えない神がかったエイム……やはり、あの子も最強

のデバイスとして……ガフッ」

律「そうか。あんたらの野望はここで終わりだ」

とみ「く……」

律「向こうの空を見ろよ、ムギをここまで連れ込んだのが仇になったな」

とみ「!」

唯「おーい! おーい! 手をふってよー! わーい! ヘリコプターが

いっぱい!!」

律「あんたを拘束する」

とみ「!」

律「国を巻き込んだタカラ◯ミーの陰謀は世に明るみになるんだ」

とみ「……しかしそれでも人の欲望はとまらないわ、一度手に入れた力を

手放すことなんてできやしないの」

律「力か……確かに悪用したら恐ろしいなコレは。だけどよ、そのために

ガンマンシップを設けたんだろう?」

とみ「……!」

律「良心はどこかにあったはずだ。ホビーショップを営むやさしい老人と

、軍需産業で幅を利かせる闇の商人」

律「どっちがほんとのあんたの顔なんだ」

とみ「……」

律「大会を仕組んだのも、シューターを流行らせたのも! シューターを

用いた戦争をうみだしたのもあんたなんだろ」

とみ「……そうよ」

律「なんで去年と今年で種目をかえた」

とみ「人をだんだん……恐怖にならしていくため」

律「毎年参加することでだんだん人を撃つ抵抗を削ぎとっていくってわけ

か。人が生まれ持った戦闘本能の刺激」

とみ「全ては最強の軍隊をつくりあげるため……洗脳チップもその一環に

すぎないのよ」

律「ムギに謝らなきゃなんねぇな」

とみ「……」

唯「ねーなんの話してるの~?」

律「唯。帰ろう。私たちの街へ」

唯「え? うん! 当然だよ」

律「あとの処理は警察やムギんとこに任せよう」

とみ「……」

律「あんたも止血しといたほうがいい。死なれちゃ困るからな」

とみ「……そうだねぇ」

律「終わった……終わったぞ澪、梓……ムギ」

梓「……」

唯「なんか私とてもひどいことをしたような気がするの。ねぇこの心の震

えはなんだろう」

律「……唯」

唯「あずにゃんを見ていると……なんだか涙がとまらない、どうして……

私は、何……?」

律「いいんだ。唯、いまは忘れて眠っていい。眠れ。お前の心が潰れてし

まう……」


 迎えのヘリにのって燃え盛る島から一行は脱出した。

 タカラ◯ミーのシューターはすぐに全国的に回収されるだろう。

 しばらくは新聞やニュースが話題に尽きることはないだろう。


律「……みんな」

唯「?」

律「いや……なんでもねぇ」

唯「難しい顔してりっちゃんへんなのー! に合わないよ」

律「唯は元気だな」

唯「うん! 私は元気ビンビンだよ! でもね、ちょっと頭が痛いかな」

律「そういえば、梓と……何か話せたか?」

唯「えっ」

律「……覚えてないか」

唯「うーん……うーん……あ! なんかね光がピカーってなる前にあずに

ゃんに『ずっと大好きです』って言われたよ!」

唯「でもどんな顔だったかは覚えてないや……笑ってたかな、あれ? て

いうかいつの話だったっけ?」  

唯「澪ちゃんはどこ? ムギちゃんは? 和ちゃんも憂も純ちゃんもいな

いよ?」

律「うん……ほかのに乗ってる、はず」

唯「そうなんだーみんな一緒に帰れたら楽しいのにな!」

律「みんな一緒にか……」

律「大丈夫さ。また、やりなおせる」

律「さわちゃんだって、あのばあさんだって……たぶん」

律「いつからでも心は育て直すことができるさ」

律「だから唯……お前、強く生きろよ」

唯「ほえー?」

律「強く、強く……」


 じわーっとした眠気と疲れが襲いかかってきた。

 目を覚ましたらすべて夢だったらいいのに。

 そう願いあたしは目をつぶる。となりでは唯が窓から朝焼けをながめキ

ャッキャとはしゃいでいた。

 ヘリは駆動音をまきちらし、薄い雲のかかった空をまっぷたつに割りな

がら、私たちの街へと飛んでいく。 




エピローグ

【桜ヶ丘病院】

【中野梓様】


紬「大丈夫? 起きれる?」

梓「あ、はい大丈夫です」

紬「だいぶ顔色がよくなったわね」

梓「まぁまだお腹のドデカイ傷は癒えませんけど」

紬「唯ちゃんに……全部教えてないの?」

梓「だめですよ。唯先輩を悲しませたくありません。だってあれは唯先輩

の意思じゃありませんから」

紬「唯ちゃん。梓ちゃんが目覚めるまでの一ヶ月間、ずっとつきっきりだ

ったのよ」

梓「そうですか……唯先輩らしいですね。で、ムギ先輩は平気なんですよ

ね?」

紬「うん! 私は大丈夫! ピンピンしてるわ!」

純「にしても驚きですよ~、まさか琴吹ホビーからの刺客だったなんて」

憂「なんか、しらなかったとは言え色々ご迷惑おかけしました」

紬「いいの。おかげでタカラ◯ミーの野望は打ち砕くことに成功したから

!」

純「あっという間にリコールされましたよね」

憂「謝罪会見もすごい人だかりでした。あ、はい梓ちゃんケーキ! あ~

ん♪」

梓「い、いらないって! 唯先輩みたいなことしないで」

純「唯先輩のは素直にたべるくせにー」

梓「ちがうもん! べつに意味はないの! いまはお腹すいてないし、そ

れにいろいろまだ食事制限かかってるし」

紬「うふふ」

梓「で、唯先輩は? さっきまでそこら辺でゴロゴロしてたのに」

憂「お姉ちゃんはいまは澪さんのお見舞いにいってるよ」

梓「澪先輩。まだ歩けないのかな」

純「しばらくは無理だろうねー。けどあの人には律先輩がついてるし!」

紬「そうよ。りっちゃん今回はお手柄だったわ。倒れてる梓ちゃんたち止

血してヘリまで運んだりしたのよ」

梓「なんか感謝してもしきれないなー、律先輩なのに……」

純「素直になりなよ」

紬「それと澪ちゃんと一緒に行われた弟さんの手術もうまくいったみたい

だし」

純「いやー大金を支援するってきもちいいね! わはは!」

憂(今回ほんと純ちゃんは何もやってないからなぁ……)

純「なに憂その顔、なんか文句ある?」

憂「う、ううん! 純ちゃん偉い偉い!」アセアセ

紬「あなたたちふたりは洗脳が浅かったの?」

憂「はい、おそらくお姉ちゃんはとみおばあちゃんのところにメンテナン

スにいくたびに洗脳効果を増強されていたのかと」

純「憂は自分でメンテナンスしてたんだっけ」

憂「うん。私は人にはあまり触らせたくないタイプだから」

梓「ほ、私も危なかったかも……よかった洗脳されなくて」

紬「うーん、あのね。あの後調べたんだけど、梓ちゃんのシューターにも

強力な洗脳電波をだすチップが埋めこまれていたわ」

梓「えっ、でも私は」

紬「洗脳されてないものね。使用期間が短かったのかなって思ったけど、

どうも違うみたい」

梓「どういうことでしょう」

紬「きっと梓ちゃんはそもそも洗脳がほとんど効かなかったんじゃないか

しら」

梓「?」

純「あー、わかる。催眠術って常日頃から色々ぶつくさ考える人はかかり

にくいらしいよ。あと慎重な人とか」

梓「!」

紬「唯ちゃんがかかりやすくて、梓ちゃんや澪ちゃん、りっちゃんがかか

らなかったのはそういう理由かもしれないわね」

梓「律先輩ってそんなに色々考えてますかね……全然イメージできない…

…」

純「つまり! 天然な人はかかりやすいってのが私の持論! えっへん!

 だから私には関係のない話だね!」

憂(そっか、和ちゃん……お姉ちゃんと同レベルなんだね……)

梓「でも一般的なのは純が言ったとおりだけどさぁ」

梓「なんかの雑誌で催眠術は頭がよかったり芸術センスがあるちょっとず

れた人のほうがかかりやすいって書いてあったよ」

憂(なんにせよあてはまるよね……くすん)

梓「つまり私のことを失敗作っていったのは……」

紬「言葉の意味から考えると、梓ちゃんは催眠にほとんどかかってなかっ

たって事じゃないかしら」

梓「たしかに向こうとしてはそんなやつが潜り込んできたら都合悪いです

よね」

純「そういや私たちずっと寝てたからほとんど何があったかしらないんだ

よね」

梓「今度まとめて聞かせてあげる」

憂「お姉ちゃんもだんだんよくなってきたし。もう心配はないよね!」

梓「うん……ほんとよかった」

憂「お姉ちゃんずっと梓ちゃんにつきそってたんだよー」

梓「それもう何度も聞いたってー」

憂「えへへ。どうして照れてるの」

梓「もー」

紬「よし! それじゃあみんなで澪ちゃんのとこ行こ!」

純「梓の車椅子は私がおしてあげる」

梓「い、いいよ。ぜったい純はふざけるから」

純「なんでわかった!」

憂「純ちゃんは何が起きても全然変わらないね」クスクス

純「ばかにするなぁー!」

梓「あ、ここだここ。純ストーップ!」

純「ほいほい」

憂「なんだか中すごく騒がしいね」

梓「なにやってるんだろ……」

コンコン ガチャリ

紬「澪ちゃんお見舞いにきたよ」


唯「がんばれー! がんばれー!」 ガキン ガキン

和「ッ……! 唯には負けたくない」

唯「いっけぇ!! 和ちゃんのふきとばせー!」 バコォーン!

和「NO! 私のモラシエルが!」


梓「な、なにやってるんですか?」

唯「あ! あずにゃん見て見て! 琴吹ホビーが開発したいま女子高生を

はじめとする若い人たちの間で大流行してるおもちゃだよ!」

梓「?」

唯「ベンブレードって言うんだよ! 一緒にやろうよ!」


梓「べ、ベンブレード?」

唯「こうやってね」ヌギヌギ

唯「うーん”……」ミチミチ

唯「ほい! うんちをこのシューター、あ! シューターっていってもあ

のシューターの事じゃないよ!」

唯「ベンブレード用のシューター! これにセットして」

澪「唯! リベンジマッチだ!」

和「今度はまけないわ!」

律「っしゃあ梓! お前もそこでうんちして次の戦いの準備してろ!!!


梓「はっ!?」

唯「いっくよー! ゴーーー! シューーーゥ!!」

ギュイイイイン ガキンガキン!
ベチャベチャベチャベチャ ペチョ…

梓「……なに……これ。な、なんか飛び散って……ていうか顔にかかった

んですけど……」

唯「ベンブレードだよ!」

梓「ふ、ふああああああああ!!!」

THE END