澪の声で見上げた遥か上空にはただ一つ満月。そしてその黄金の輝きの

中にある黒い影。

 それはまごう事無き、先ほど目の前にいた老女のもの。


律「嘘……だろ?」


 その影は空中でシューターを引きぬく。そして刹那、砲撃。

 その放たれたあまりに強大な弾丸を見て、律は一瞬月が落ちてきたのか

と錯覚した。


澪「でかい! よけろ!!」

さわ子「ちょ、会長! 本気だしすぎ!! わたしまで巻き込まれちゃい

ますよ!」


  巨大なエネルギーの塊がA号棟の屋上部を吹き飛ばす。

 間一髪で隣の屋上へと逃げ延びる律とさわ子。

 しかしそこに澪の姿はなかった。


律「澪!! 無事か!!」


 返事はない。律たちがいた場所は土煙と瓦礫に覆われている


さわ子「あなたは人の心配してる余裕はないわよ~?」

律「ッ!」

さわ子「私もガンマンの端くれ。いまは教師の裏で、タカラ◯ミーの軍事

開発部門技術顧問って役職についてるけどね」

律「さわちゃん!!」

さわ子「怒ったってダメよ。さて会長、この後どうします?」

律「会長……そうだ! ばあさん! あんたは何もんなんだ! 一体いま

の攻撃はなんだ!!」

 「……あたしかい? あたしはタカラ◯ミーの創業者……。シューター

の生みの親にして、自称世界最強のガンマン」


とみ「一文字とみっていうんだよりっちゃんさん」


……


【F号棟】

ホール


和「あきらめて降伏しなさいムギ! もう弾も残ってないんでしょ」コツコツ

紬「ハァ……はぁ」

和「にしても大したもんねその装甲。新型のショット10発浴びてようや

く壊れるくらいの強度なんて」

紬「く……なんて威力」

和「このシューター。やっぱり最高よ。使いやすさ、威力、反動、連射性

能、どれをとっても従来の2倍のスペックをたたき出しているわ」

紬「そういうの……ずるいと思う」

和「そうかしら? 戦争はいつの時代を見ても飛躍的に技術の進歩を促し

てきたものよ?」

和「もちろんこんな危険な物一般には流通なんてしないわ。あくまで局所

的に、戦地で使うくらいね」

紬「……そんなこと、させないんだから……」

和「そのボロボロの装甲でまだ戦う気?」

紬「く……もう、体力が」

和「あなたはよくやったわ。一人で頑張りすぎよ」

紬「結果がでなきゃ……意味ないじゃない」

和「そう? ここを壊しただけで私たちの計画は向こう数ヶ月は停滞する

んだから、それだけでも大きな成果だとおもうけど」

紬「でもそれじゃ意味ないじゃない!!」

和「……むきにならないで」

和「それに私たちを倒したところで、結局あなたの会社がとってかわるだ

けでしょ?」

紬「そんなことない」

和「いいえ、一企業が世界の波に逆らうなんてできっこないわ」

紬「琴吹ホビーは、裏表なにもない健全な経営を目指します」

和「理想よ。シューターは玩具ではなく殺人兵器。これは言い逃れもでき

ない事実」

和「力という底なし沼にはまった人間は、自力では決して這い上がること

はできないわ」

紬「そのために私が、梓ちゃんがいる!!」

和「やってみなさい。ちっぽけな二人で世界を救い上げることができるな

らね」

和「ま、あなたはここで終わるわけだけど」チャキ

紬「まだよ……琴吹ホビーの技術は並じゃないの!!」

和「えっ」


 カチャリという乾いた音とともに紬のまとっていた装甲がパージを開始

した。

 ガコンガコンと激しい音をたてて紬を抑えつけていた重金属が床へと落

下する。

 そして最後に紬は右腕を隠すように装着した大型ガトリングも取り去り


 その中で貯尿シリンダー、装填の中継役となっていた琴吹製純正シュー

ターを強く手に握り、

 身軽となった体で和のもとへ一直線に走っていった。


和「パージ……! 速い!! くそっ」


 和が迫り来る紬めがけて何度も砲撃を繰り返す。

 しかし、紬は圧倒的速度をもってそれをぎりぎりのラインで回避し、さ

らに距離を詰める。


紬「いくらそれの威力が高くても! あたらなければどうということはな

いわ!!」

和「!」

和「ならっ! モード変換! 拡散!」


 バレルを右向きに回す。

 次に銃口から出てきた弾は視界を埋め尽くすほどに細かく拡散し、無防

備な紬に降り注いだ。



紬「きゃああああっ」

和「あはははははは! そういうの猪突猛進っていうのよムギ!」


 してやったりと思っているのだろうか。

 涙が浮かぶほどに高笑いする和。 


和「さぁて止めにもう一発……」


 しかし和の視界に映ったのは倒れこむ紬の姿ではなく、ただひたすらに

金の髪をなびかせ突撃してくる彼女の姿だった。


和「な、そんな……なぜ倒れないの!」

紬「和ちゃん! 覚悟!!」


 大きく床を蹴り、一気に紬は距離をつめる。

 そして狼狽している和のシューターの先に自らの銃口をぶつけ、発砲。

 べキャリという嫌な音とともに和のシューターのバレルからフレーム部

が吹き飛んだ。

 そのまま弾は勢いをやや弱め、和の胸部に直撃。


和「……ッ!」


 いくら弱まったとはいえ、いまだボクサーの渾身のストレートほどの威

力をとどめる尿弾をモロに受けた和は、

 何かを発することもできずに血反吐とともにその場に倒れこんだ。


紬「……和ちゃん……シューターは壊したよ。あとは、もうゆっくりして

いいんだよ」

紬「斉藤……あとは、よろしく……むかえに……き」


 和の拡散砲をもろにうけ、紬の全身からはおびただしい赤い液体が滴り

落ちる。

 しかし紬は自身の体の奥底からくる全能感に満たされ、その表情はどこ

か満足気であった。

 やがてふらつくひざを折り、紬はぼやけた闇へと堕ちていった。




【B号棟屋上】


 ばあさん。どこ行きやがった。

 律はこちらにむかって発砲を繰り返すさわ子を視界の端に捉えながらも

、行方をくらましたとみを執拗に捜索していた。


律「あのばあさんはヤバイ……なんとか、私がひきつけねーと」

さわ子「おい、てめぇなんであたしのこと無視すんだコラ」

律「さわちゃんはシューター構えたら性格変わっちまうし、ほんとどうな

ってんだ」

律「澪は無事なのか!? 他のメンバーはどうなってる」

さわ子「おいデコっぱち!」

律「うるせぇ! あんたなんてほとんど相手にならねぇって!」

さわ子「っていうのはこれ受けてからにしやがれええ!」


 さわ子の暴力的な尿弾が律の体の横を通り抜ける。

 やはり性能はかなり高いようだ。


律「っぶねー。さすがに当たったら耐えれないな。おいさわちゃん! 生

徒相手になにしてくれんだ」

さわ子「しるかああ! もう生徒でもなんでもねー! 操り人形にならな

いならここで死にやがれええ!!」

律「本気かよ! っと、危ね!」


 さわ子は容赦なく教え子へ殺意のこもった弾を撃ちこむ。

 彼女の放つぼわりとした尿弾はみためとは裏腹にかなりの火力で、それ

た弾は森に着弾し木々の枝葉を吹き飛ばし地面をえぐる。


律「こりゃあやられる前にやるしかないか!」

律「へへ、相変わらずドラムスティックよりしっくりくるや」


 律は両手に構えたシューターでまずはさわ子に小火力の牽制攻撃をしか

ける。

 しかしどれもこれもかわされ、または撃ち落される。


律「腕はそれなりか……あとは……!」

律「さわちゃん! 私に勝てても迫る年波にゃ勝てないぜ」

さわ子「あ゙ーー? ぬぁ~~~んだとーー!!」バビュンバビュン

律「へへ、ガンマンはいつでも冷静沈着に。それが絶対の条件だ」

さわ子「うるせー! てめぇはさっさと澪ちゃんとおんなじ所逝きやがれ

!!」

 澪……

 ピクッ


律「やめろ……いまは考えるな……私」

さわ子「残念だったなぁ! てめえの幼なじみは一撃でおだぶつだ! 塵

になったんだよ!!」

律「う、うるせぇ……澪が簡単に死ぬもんか」

さわ子「会長のフルムーンシュートをモロにくらったんだ! 生きてるは

ずがねぇええ!!」

律「黙れ!!」

さわ子「どうしたぁ! 動きが鈍ってるぞ!!」

律「くっ」


 激昂した一瞬の隙をつかれた。

 右肩に直撃をうけ、思わず手放してしまったシューターが宙を舞う。


さわ子「くっくっく。いてぇだろ。打撲じゃすまねぇよなぁ!!?」

律「うが……いっつ……」

 なんだこの痛みは……まるで砲丸でもぶつけられたみたいだ。ちくしょ

うめ。

 律はいままで経験したことのない痛みと恐怖で内心毒づく。

 どうやらさわ子の方が一枚上手だったようだ。

 彼女は激昂することで力を高めるタイプのガンマンで、

 表面上では熱く燃え上がっているが、頭ではいたって冷静に大局を見つ

めることができる。


律「……なんだよ、折れてんのかこれ!?」

さわ子「あっはっはっは。二丁拳銃のてめぇが一丁になるってことは、も

う戦力は半減以下だな」

律「かもな」

さわ子「なーに笑ってやがる」

律「いや……なんか、私やばくなると笑っちゃうタイプで」

さわ子「そういえば説教してるときもよく笑ってたな」

律「なぁさわちゃん。生徒と教師の間柄じゃん。そのよしみということで

ここは一つ」

さわ子「答えはノーだ」

律「じゃあハンデくれよハンデ! ほら、私もう左手しかシューターもっ

てないし」

さわ子「んー?」

律「な? な? 10秒だけ10秒だけでいいから!」

さわ子「まぁ少しくらい遊んでやっても」

律「ほらもう右手とかぷらぷら。ぶら~ん」

さわ子「そりゃ可愛そうに。じゃあ次は左手な」

律「んでさぁもうこれ全然動かな……いわけねぇだろ」


 さわ子が律の左手に狙いをつけた瞬間に、律は右手で腰の後ろに装着し

たシューターを手に取り、

 さわ子の腹部めがけて発砲。

 その尿弾はまっすぐ綺麗に飛び、容赦なくみぞおちをえぐる。


さわ子「ぐぉへっ……」

律「へへ」

さわ子「でんめぇ……」

律「スティックでもシューターでも、予備は持っておくもんだぜ。とくに

私みたいなバトルスタイルの人間はな」

さわ子「……やる、じゃねぇか……げほっ」ガクッ

律「……さわちゃん、自首するんだ。頼む、してくれ」

さわ子「なんだと……」

律「まだやりなおせる」

さわ子「知った風な口を!!」

律「お願いだよさわちゃん……さわ子先生!」

さわ子「……」

律「愉快で、優しかった先生に戻ってくれねーか……」

さわ子「教師は……世を忍ぶ仮の姿……」

律「じゃあ私らとすごしたあの学校生活は偽物だったっていうのかよ!」

さわ子「……」

律「ッ……!」

さわ子「りっちゃん、見事よ。あなたはいつもいつもチャラけたふりして

冷静だった……ゲフ、ゲホ」

さわ子「私の見立てが甘かったようね。まぁここまで勝ち残ってるんだも

の、強くて当然か……」

律「……」

さわ子「前線を退いたらあっという間に弱くなるものなのね……たったこ

んだけのダメージで、もう体が動かないもの」

さわ子「さぁとどめをさしなさい。私だってガンマン。ガンマンシップに

則った戦いをしたつもりよ」

律「……」

さわ子「お願い、最後は人殺しの兵器をつくる研究者ではなく、誇り高き

ガンマンとして死なせて」

律「……何いってんだ、こうなりゃどっちも救えねぇ人殺しだぜ」

さわ子「りっちゃん、かっこ良くなったわね。去年と比べると、顔が引き

締まったというか、垢抜けたというか」

律「経験ってのは、人を加速度的に成長させる、それがよくわかったよ」

律「でもさぁ、これはいくらなんでもあんまりじゃねぇか。こんなことを

してガンマンの高みへ駆け上がるなんて私はごめんだ」

さわ子「優しいのね」

律「いいや、澪以上に根は臆病なだけさ」

さわ子「そう……ならもう言うことはないわ」


 そうつぶやくとさわ子は自身のこめかみにシューターをあてる。

 コツリという軽い音がする。

 引き金を絞ったら間違いなく致命傷を負うだろう。


律「バッ!さわちゃん!! 死ぬ必要がどこにあんだよ!!」 

 律はほとんど反射に近い恐ろしい速さで射撃した。

 もちろん狙いはさわ子のシューターだ。

 パワーをおさえて放たれた尿弾は正確に的中し、さわ子の手からシュー

ターが吹き飛ぶ。


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