梓「唯先輩……ムギ先輩……!!」

梓「……ハァ、はぁ」

 非常時にエレベーターは動かないようになっているらしい。

 階段を駆け下り、二階連絡橋に到達。

 すでにこちらまで少し煙がかかっているが、向こう側へと一気に走って

渡り切る。


梓「けほっ……大丈夫。まだ火はここまで来てない」



 たどりついたF号棟のホールで、

 私はここ数日ですっかり見慣れた、金色の悪魔と再開した。


梓「ム、ムギ先輩……?」


 信じたくはなかったが、この火災の原因は彼女だった。

 狂ったように四方八方にフルバーストで尿弾をばらまき続けている。

 火力も尋常ではない。

 パソコンのモニターや、よくわからない機械達を容赦なく撃ちぬき、爆

発炎上。

 煙ごしに破壊の限りをつくす彼女の姿は、高校でやり合ったときとは比

べものにならないくらい恐ろしく、凶悪に映った。


梓「ムギ先輩……何、やってるんですか……?」


 私が呼びかけてもまるで気にすることなく砲撃を続ける。


梓「ムギ先輩!! 火事なんです! わからないんですか!!」


 ようやく声が届いたのか、彼女は視線だけをこちらに送ってきた。

 怒りと憎悪にまみれた鋭い視線。

 それだけで背筋が凍りついた。


紬「梓ちゃん……」

梓「ムギ先輩! どうしてこんなことを!」

紬「梓ちゃん……平気?」

梓「はっ?」

紬「よかった……」

梓「な、なんのことですか!」

紬「いまは詳しく説明してる時間はないの! 早くここを破壊して!!」

梓「えっ、えっ!」

紬「あ! 梓ちゃん後ろ!!!」


 とっさに振り向いた。

 煙で良く見えないが連絡橋の真ん中に人の影がある。しかしシルエット

だけでわかる。

 それは間違いなく、私が探していたあの人。

 手になにか持っている。なんだろう。シューターみたいな……。


 突然小さくフラッシュ。直後、腹部にとても熱いものを感じた。


梓「うっ……なっ」

紬「梓ちゃん!!」

梓「ど、どうして……」

唯「少し外しちゃった」

梓「唯先輩!! なんで!」

唯「あずにゃんは失敗作だからね」

梓「失敗作!? なんのことです!」

和「完璧なガンマンにはなれなかったってこと」

梓「和先輩!」


 唯先輩のさらに後ろから現れた和先輩。

 もちろん手にはシューターを構えている。

 しかし唯先輩のも和先輩のも見慣れた型とはちがい、フレームからバレ

ルまで全ておかしな形をしている。


梓「どういう……ことです」


 たずねる以外、何も言葉がでてこない。

 お腹の横をかすめた怪我の痛みが全身を駆け登ってくる。

 しまった。今私、丸腰だ……。

 このまま二人に撃たれたらひとたまりもない。頭ではわかっていても恐

怖で足が動かない。


和「ふふ、ムギ! もう無駄な抵抗はやめなさい」

紬「……ッ!」

和「マスターデータはすでにあの方がお持ちよ。そこのパソコンを破壊し

てもなにも意味はないわ」

紬「なんですって!」

唯「あずにゃん。私ね。ガンマンになるんだ」

梓「ガンマン……?」

唯「ガンマンになっていっぱいいっぱい人を殺すの!」

梓「はっ?」

和「ちょっと唯! あんた何勝手にべらべらと」

唯「いっぱいいっぱいだよ! それが私たちの幸せ、野望! 生きる意味

!」

和「チッ……まだ完全な洗脳とはいかないようね」

梓「洗脳!?」

紬「シューターにはメモリーカードが入ってるって言ってたでしょ?」

梓「は、はい」

紬「それは依存性を誘致して、使用者を洗脳する特殊な電波を発していた

の」

梓「えっ」

紬「それは微々たるものだけど、少しずつ少しずつ人の心を蝕んでいく」

梓「じゃ、じゃあムギ先輩は!」

紬「その前にうけとって梓ちゃん」


 ムギ先輩が何かを放ってくる。

 受け取った瞬間になにかすぐわかった。シューターだ。


紬「琴吹ホビーで開発したシューターよ。もちろん、人体には無害」

梓「琴吹ホビー……?」


紬「タカラ◯ミーのライバル会社よ。うちの系列でもあるの。シューター

におけるシェアは極わずかだけどね」

梓「じゃあムギ先輩がシューターを破壊してまわってたわけって……」

紬「裏からの情報で、タカラ◯ミーの陰謀を知ったの」

和「やめなさいムギ。陰謀だなんて、これは国家レベルでの機密軍事作戦

よ」

梓「ど、どういうことです」

紬「シューターをつかった軍事産業」

梓「!」

唯「そ! たくさん流行らせて、競わせて、優秀なガンマンを育ててみん

なみんな兵隊さんにしちゃうの! 私みたいに!」

紬「去年の大会の優勝者はいまはどこかの戦地に送られたと聞いているわ


和「……あら、情報通なのね」

紬「なめないでよ」

梓「どうしてもっと早く教えてくれなかったんです!」

紬「ごめんねでも」


唯「もうおしゃべりは飽きたよ」

梓「!」

唯「ねぇあずにゃん。それ、試してみたくてうずうずしてない?」

梓「えっ」

唯「洗脳とかさー、依存とかそんなの関係なしに、人って撃ってみたくな

るもんなんだよ」

唯「新しいおもちゃって遊んでみたくなるもんなんだよ」

梓「……」

唯「かっこいいねあずにゃんのシューター。いったいどんな弾がでるんだ

ろうね」

梓「……だめですよ」

唯「撃ってみたい。ねぇ撃ってみたいよね?」

梓「そんなことないです」

唯「じゃあ無理やり撃たせてあげる。ばーん!」


 再び唯先輩の銃口がフラッシュ。

 無邪気な掛け声とは裏腹に、飛来してくる弾には狂気と明確な殺意がこ

もっているように感じた。

 直撃するとまずい……。

 打撲や擦り傷ではすまないかもしれない。


 私はほぼ無意識的に、体をおもいきり横に逸らし回避行動をとっていた



梓「くっ、危な……ッ!」

唯「あははっ! うまく避けたね! さっすがぁ!」

和「ちょっと唯。失敗作とはいえ、殺しちゃだめよ。いろいろ使い道はあ

るんだから」

唯「わかってるわかってる~」

梓「やめてください……やめましょうよこんなこと!!」

和「ダメよ。もう引き返すことはできないの」

和「おしっこの力は偉大でしょ? とくにおしっこテクノロジーの分野で

は日本は世界のトップを走っているのよ」

和「完璧なおしっこシューターと、完璧なおしっこガンマンがたくさんい

れば……戦争の歴史が変わるわ」


梓「そんな……子どもじみた理想で!」

和「しかたないじゃない。大人っていつまでたっても子供心は忘れないも

の」

和「世界征服って。誰もが一度は夢見ることじゃない?」

梓「……何をいっても無駄なようです」

紬「梓ちゃん。私が二人の相手をするからここは逃げて!」

梓「でも……」

唯「逃さないよ~あずにゃ~ん」

梓「唯先輩……」

唯「いまおもいっきり撃ったんだけどさ。すごいよこれ!」

唯「いままのシューターなんて比べものにならないよ!」

唯「電気? 火薬かな? 私馬鹿だからどんな仕組みかわからないけど初

速から火力まで段違い!」

和「ふふ、気に入ってくれたようね。それがタカラ◯ミーの次世代おしっ

こシューターよ」

梓「あ、あんなイカレた性能のシューターにどう対抗すれば……」

紬「大丈夫。梓ちゃんのそれも負けず劣らずの性能だから」

梓「でもこんなので撃ったら傷つけちゃいます!」

紬「梓ちゃんならできるわ」

梓「セーブして……戦えってことですか、あの唯先輩相手に」

唯「えへへへ~♪」

紬「お願いよ。唯ちゃんはただシューターに操られているだけ」

紬「シューターを破壊して、しばらく電波から遠ざければ元にもどる可能

性はあるの」

梓「ほんとですか!」

紬「和ちゃんは私が救って見せる。約束するから」

和「ふふ……私を救うですって? バカげてるわ」

紬「……大丈夫。信じて。あなたを、あなたの先輩たちを」

梓「……ムギ先輩」

紬「唯ちゃんを信じて。あの子は必ず元に戻る」

梓「わかりました……私、やってみます!!」



その頃


【A号棟屋上】


さわ子「やるじゃない。洗脳されたフリをしてシューターを奪いかえしに

くるなんて」

澪「……先生」

さわ子「でもだめよ澪ちゃん。先生に銃口をむけちゃ」

律「……」

さわ子「りっちゃんも! 学校で習わなかった?」

澪「ふざけるのはいい加減にしてください」

さわ子「うーん、でも私はどうしたらいいの?」

澪「ここから私たちを逃がして、みんなを元に戻してください」

さわ子「それは私一人じゃ無理ね、だいたいもうデータは私の手元にない

もの」

律「じゃあどこにある!」

さわ子「んーっとねぇ……内緒!」

澪「私は気は長くない」

さわ子「あら怖いわぁ。澪ちゃんって兵隊になったら絶対大活躍してたの

にもったいない!」

澪「私たちは戦う兵器じゃない。人間だ」

さわ子「だからこっそり兵器に仕立てあげようかとおもったのにぃ」

律「ムギが手当たり次第にシューターを壊しまわってたのにはやっぱり意

味があったのか」

さわ子「あの子はほんと厄介だったわ」

さわ子「私たちの居場所をつきとめるためにあなた達にも素性を隠して暗

躍してたんだもの」

澪「なるほどな。カードには発信機、盗聴器的な機能も備わってるとみた


律「それでムギは何も言えなかった……? バレたらそこで終わってしま

うから?」

さわ子「せいか~い♪ まぁこっちは泳がせてあげてたんだけどね」

さわ子「私たちとしても琴吹ホビーの技術の結晶とも言えるムギちゃんの

アレは生で調べたかったし」

さわ子「そしたらやっぱり反撃されちゃった……クスン」

律「おい、いい加減にしろよさわちゃん。だいたいあんたは何者なんだ」

さわ子「え~私? それはねぇ……」

 「おやおや山中技術顧問。こんなとこで油を売ってるんですか」


澪「!」

律「後ろ! いつの間に!」バッ

さわ子「あ、ど~も~」


 「全く、派手にやってくれたねぇあの子は。せっかく巨額の私財をなげ

うって作った施設が台なしだよ」

 「唯ちゃんの素直さを見習ってほしいもんだねぇ」


さわ子「といってもムギちゃんのシューターにはそもそも洗脳カードが入

ってなかったので……」


 「おや、そりゃそうだねぇ。おほほ。年をとるとなんでもすぐ忘れるか

ら困るわぁ」


律「なんだこのばあさん」

澪「……この人……どこかで」


さわ子「もう島を出発なされたかと」


 「いいえぇ。孫同然の可愛い子たちを放って一人島をでるなんてできま

せんよぉ」

 「それにあの子の成長もまだ生で見てないしねぇ」


さわ子「そういえば唯ちゃんとは長い付き合いでしたね」

律「さわちゃん、ちゃんと理解できるように教えてくれ」

さわ子「……」

律「こちとらセーフティはとうに外してある。まずはこのばあさんから撃

ってもいいんだぞ?」


 「近頃のもんは気が短いもんだねぇ。あたしらがもっと若いころは」ブ

ツブツ


澪「あなたが、全て仕組んだ人ですか?」


 「そうだねぇ。あんまり気はすすまないんだけど」


律「なにをいまさら! 詫びる気があるなら最初からするな! いますぐ

全て元に戻せ!!」


 「それは……無理よ」


 ヒュっという風を切る音と同時に、突然老女が律の視界から消えた。

 おどろいた律は左右をキョロキョロと見渡す。しかしどこにもその姿は

見当たらない。


澪「律! 上だ!!」

律「えっ」


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