信代「人間の頭は的にするなら小さすぎる。けどここなら仮に外しても体

のどこかには当たる」

梓「ッ!」

信代「唯?」

梓「そうですよ。私にシューターを教えてくれたのは唯先輩です」

信代「がはは、唯は相変わらず甘ちゃんだねぇ」

梓「……?」

信代「去年の大会で私は唯と争ったのさ」

梓「えっ」

信代「もちろん去年度は今年度みたいな狂ったルールじゃなかった」

信代「お互いに身体にマーカーをつけてそれを狙い撃つだけのくだらない

お遊戯」

梓「……」

信代「威力は極限まで抑えたただのおしっこの掛け合い。でも唯はそれで

もなかなか撃てなくてねぇ」

信代「どうせ頭を狙えってのも、すぐに相手を楽にしてあげれるとかそん

なんでしょ」

梓「……」

信代「甘い甘い。それじゃあ今年は予選突破すらできないよ」

信代「それと、さっき私はまず狙うべきは胸っていったね? けどそれは

本気で相手を仕留めたい時の話」

梓「……!?」

信代「でもね、相手をいたぶりたいときまず狙うべきは」

信代「足もとだよ!!」


 突然の発砲。

 私は馬鹿だった、なぜ悠長に相手の話に耳を傾けていたのだろうか。

 吹き出した黄金水の弾丸は一度床に激突したあと飛散し、細かな粒とな

って私の足元を急襲する。


梓「うわああっ」ビシャビシャ

信代「足は! 非常にやっかいだ!」

信代「人間の全てをささえる部分にしては外傷に弱く! また神経がおお

く通っている! ほんの少しの傷でその機能を停止!」 

梓「あぐ……いったぁ……」

信代「ふん。一応は直撃は避けたようだね」

梓「……いたぶるって!?」

信代「唯に去年の借りをかえすのさ」

梓「ってことは唯先輩のことを甘ちゃんとかいいつつ負けたんですか」

信代「……」イラッ

信代「あんたを戦闘不能にして唯の目の前で蹂躙する」

梓「!?」

信代「後輩思いの唯のことだ。泣きながら何度も頭を地につけて謝りつづ

けるだろうさ」

信代「申し訳ございませんあずにゃんを助けてくださいおねがいします信

代様ってね!!」

梓「!!」

信代「情けなく泣きじゃくる唯の顔を見ながら飲む酒はきっと最高の味が

するだろうね」

梓「そんなことさせません!」

信代「なら勝ってみなよチビ子!」

信代「まぁ無理だろうね。あのお馬鹿な唯の弟子なんてたかがしれてる」

信代「しかもスタンダードタイプを使ってるって!? がははは、初心者

丸出しウケる~~」

梓「ぐっ……!!」

梓「唯先輩を馬鹿にすることはこの私が!!」

憂「許さないよ!!」


 突如真横で聞き慣れた声がした。

 そして大きな銃撃音。


信代「チィ! また来たか化物ぉ!!」

憂「お姉ちゃんをバカにしないで~~~!!」バンバンバンバン

梓「な、なに!? なんなの!?」

 突然私をのけものにしてはじまってしまった銃撃戦。

 教室を縦横無尽に飛び回り多角的に相手を攻め立てる憂こと平沢オルト

ロスの片割れ。

 雄叫びをあげながらその体躯には似あわない小さなシューターで迎え撃

つ信代先輩。

 ふたりのおしっこの飛沫を全身にあびながらぽつんと虚しく立ち尽くす

私。


 唯先輩……優秀なあなたの妹がきました。私、正直言うとココには不要

みたいです。

 役に立てなくてすいません。しかし、どうしたらいいんでしょうか。


信代「おちろ! おちろ蚊トンボが!!」

憂「くっ、なんて堅いの。何発浴びせても倒れやしないよ!」

信代「がはは、セルフ装甲鉄壁の信代とは私のことだ!」


梓「が、がんばれ憂……」

梓「そういえば唯先輩は……」


 ちらと廊下を方に視線を配る。

 どうやらもうさっきの場所にはいないようだ。

 一対二で無事でいるのだろうか。


憂「梓ちゃん! 何ぼーっとしてるの! 撃って撃って!」

梓「は!」


 我に帰った私は攻撃を開始する。

 グリップを両手でしっかり握り、かたいトリガーを強く引く。

 この一ヶ月でずいぶん見慣れた色の液体が元気に飛び出した。



信代「ぐあっ、さすがに二人同時は……!!」

憂「逃さないよ!!」


信代「こしゃくな!」

憂「梓ちゃん! 足に火力を集中! この人はボディにはほとんどダメー

ジ通ってないよ!」

梓「う、うん!」


 いわれた通りに足元を狙い続ける。

 しかし足も相当な肉厚なのでほんとうにダメージになっているのかも甚

だ疑問だ。


信代「ふん、オルトロスの片割れと言えどそんな火力のでないシューター

じゃ何をやっても無駄さ」

憂「そんなことないもん!」


 憂はひたすらに撃ち続ける。

 撃ち切っては装填し、また連射。

 このペースだと相手が力尽きる前に弾がなくなってしまうのではないか

と不安になった。

 信代先輩は全身におしっこを浴びながら不敵な顔で反撃してくる。


梓「憂! なんでそんなにバカスカ撃ってるの!」

憂「えへへっへへへ、ふふふ、おねいちゃ~~~~!!!」ババババババ

梓「唯先輩のいってたトリガーハッピーってこれか!」


 どうも憂は一度攻撃をはじめるとハイになってしまうようだ。


梓「憂! もっと効果的な射撃が……!」

憂「うひひひっ、おねいちゃ~~~~ん」ババババババ

信代「がははl、あんたは姉とセットじゃないとろくに戦えやしないよう

だね……」


 やがてカチッカチッという乾いた嫌な音が憂のシューターから聞こえてくる



憂「なんでっ!! どうしてもう撃てないの!!! まだまだやれるのに

いい!」

梓「……」

信代「結局私の全身をずぶぬれしただけで終わったわねぇ」

信代「さっき交戦したときはもうちょっと強かった気がしたんだけど」

憂「あのときは……」

梓「?」

憂「お姉ちゃんのおしっこと私のおしっこをブレンドしてたから……」

信代「なるほどね。合点がいった」

梓「ど、どうするの! 私のシューターじゃもうどうしようもないよ」

信代「さて、尿遊びはおしまいだよ子猫ちゃんたち」

梓「……くっ」

憂「お姉ちゃ~ん……」メソメソ

梓「あんたほんとなにしにきたの。来てくれたときはほんと頼もしかった

のに」

憂「お姉ちゃ~ん……」メソメソ

梓「泣いてる場合じゃないでしょ!」

信代「あはは、怖がらなくても大好きなお姉ちゃんと同じところに送って

あげる」

梓「や、やらせるもんか!」

信代「あんたも懲りないねぇ。今までさんざん撃ってきたけどそれも全部

ダメージなし、どんな気分?」

梓「だ、だって……」

信代「そんなちんけな尿弾じゃ私の鉄壁の肉体には傷ひとつつけられない

よ」

梓「くそぉ……」

信代「もっと怖がりな! あんたらの恐怖した顔を唯にみせつけてやる!

!」


 私たちが負けたら唯先輩はどんな顔をするだろう。

 悲しむのかな。怒るのかな。

 どうして唯先輩はこの人を私に押し付けたんだろう。

 この体格差だと勝ち目なんてありっこないよ……。

 たしかにスピードは私が上だろう。だけど肝心の攻撃が通らないなら、

ダウンを奪うことはできない。

 攻撃……そういえばなぜ今の私のシューターからはちっぽけな弾しかで

ないのか。

 初めて唯先輩と撃ったとき、公園で純と勝負したとき、家で軽く遊んだ

ときはあんなに強力な弾がでたのに……。 

 あのときと今ではなにが違うのか……。

 思い出せ……思い出すんだ私……。


梓「…………」

信代「祈りはすんだかい」

梓「……」


 ふと脳裏に笑顔がよぎった。

 それは間違いなく私の大好きなあの人のくったくのない笑顔。

 心にポっと火が灯った。

 手をつつまれた感覚が蘇る。静寂の中での全能感が蘇る。心のやすらぎ

が蘇る。



『あずにゃん、シューターがどうしておしっこを弾にするかわかる?』

『わかりません』

『あずにゃんのおしっこはね、あずにゃんなんだよ! あずにゃんのすべ

てが濃縮されてるの』

『えっ……』

『毎日どんなもの食べてるーとか、何時に寝たーとか、年齢や身長体重、

あらゆる要素が複雑にからみあってその時のおしっこを形成するの』

『……』

『つまりおしっこがつまったシューターもね、あずにゃんの一部も同然な

んだよ』

『えっと……それは』

『あずにゃんのおしっこを通してシューターはあずにゃんの心に応えてく

れる。絶対に。だからおしっこシューターを信じてあげて?』

『はぁ……』

『不思議だよねー』

『……そうですね』


 そうだった。

 これは私、私の全て。

 自身を否定したら、そこが力の天井になってしまう。

 唯先輩、ありがとうございます。もう私、迷いません。


梓「……」

信代「くっくっく。がははははははは!!!」

梓「……」

信代「恐怖で言葉もでないかい!!」

梓「……」

信代「もういい! あんたはここで終わんなよ!!」


 無言のまま、スッと銃口を相手に向けた。不思議とシューター重みは感

じなかった。

 自分でも驚くほどに集中している。

 今はこの全能感に身をまかせてみよう。その先にどんな未来がまちかま

えていたとしても。

信代「な……あんた、急に、雰囲気が……!!」ゾクッ

憂「梓ちゃん……!?」

梓「……」


 止まった世界の静寂の中で、私は引き金を引く。

 不思議と指に重さを感じることがなかった。

 それはまさしく、シューターが私と一体化した瞬間。 


 まっすぐに相手の顔面めがけて飛んでいく水風船のようなサイズにまで

収束した尿弾。

 この距離では絶対不可避の速度。なんとなく、勝利を確信した。


信代「おぎゃああああああっ」


 水の弾ける音とともに世界にざわめきがもどり、次に聞こえてきたのは

その断末魔の叫び声だった。


信代「くせええええっ、おええっ、ぐぅおおおっがはっああああ」


信代「うごおおおおっあああががああ」

梓「……臭いでしょ?」

信代「おうぇええええっ、なんなのよおおおお」

梓「……」

信代「ま、まさかこんな初心者に゙……このわたじが!!!」

憂「梓ちゃん……いまの……」

梓「うん」

憂(間違いない……お姉ちゃんと同じショット……)


 勝った。私にとっての初勝利。あぁ、やっと一息つける。

 そして安堵と共に地べたに腰を下ろそうとしたその瞬間。

 やつがまた教室に飛び込んできた。


紬「みんな~おしっこが入ったわよ~~~♪」ババババババババババババ

信代「ぎゃああああっ」

梓「ッ!! またムギ先輩ですか!」

紬「梓ちゃん、さっきは臭い目にあわせてくれたわね。お礼はきっちりす

るから~」

梓「け、結構です!!」

紬「信代ちゃんはさっさと降参してね」

信代「ぐごごごご、誰が……げふ」

紬「どっちみちそのダメージじゃもう戦うのは無理よ。視界が確保できて

ないんでしょ?」

信代「うぐ……私は、負けられな……うがああああああ」

紬「……残念ね」

信代「ウゴオオオオオオオオオオオオ!!」

紬「なら私が……そのシューターと一緒にとどめをさしてあげる……」ガ

コン

梓「!」


 突如ムギ先輩の胸部装甲が左右に展開した。

 中から現れたのは大型の内蔵マシンガン。よくみればあれもシューター

だ!


 右腕のガトリングに加え、更に倍ほどに数を増やしたおびただしい量の

弾丸の雨が信代先輩を襲う。

 信代先輩その巨体をもってしても、傍からみれば嵐に巻き込まれた子犬

のようにしか見えなかった。

 たちまち姿勢をくずし、けたたましい音をたてて倒れこむ信代先輩。

 ムギ先輩は少し悲しそうな、だけど満足気な顔をして彼女を見下ろして

いた。


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