琴吹家。

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

紬「ただいま」

澪「開店してすぐの百貨店に入った時のような気分だ」

メイド「お荷物をお持ちいたします」

紬「ありがとう」

メイド「お連れ様も」

澪「え、あ、じゃあお願いします」

紬「私の部屋はこっちよ。
この廊下を真っすぐいって、
3番目の階段を上がって
左に曲がった突き当たりよ」

澪「案内がないと迷いそうだな。
それにしても広い家」

紬「そうかしら?」

澪「うん、充分広いよ」

紬「前に住んでたとこはここの3倍の広さで、
それくらいが私としては調度良かったんだけど」

澪「……」

紬「あ、ここが私の部屋よ」
ガチャ

澪「お邪魔しまーす……」



紬の部屋。

紬「どうしたの? 澪ちゃん。
早く入って」

澪「う、うん……」きょろきょろ
(すごい部屋……)

紬「なあに、きょろきょろしちゃって」

澪「あ、いやなんでもないんだ。
ごめんごめん」

紬「晩ご飯は、あと1時間くらいだから。
それまで教えてもらって良いかしら?」

澪「うん、いいよ。
じゃあ鏡台の前に座って……」

紬「はいっ」ビシッ

澪「そんな力いれちゃダメだよ。
リラックスして、特に顔」

紬「うん」

澪「ムギの場合、眉が濃いから抜くのが良いかもな」

紬「抜くの? 痛くない?」

澪「大丈夫大丈夫。ほら、これで挟んで……ちょいっと」

紬「あっ……」

澪「ほら、動くな……」

紬「ん……」

澪「……痛いか?」

紬「大丈夫……あん」

澪「こっちの方も……」

紬「……ああっ……」

澪「もっとよく見せて……」

紬「あ……」

澪「とまあこういうふうに」

紬「よく分かったわ」

澪「自分でもやってみな」

紬「ええ……」



コンコン

紬「? 誰かしら?」

ガチャ
斉藤「お嬢様、お食事の時間でございます。
お連れ様のぶんもございますので、どうぞ」

澪「あっ、はい、ありがとうございます」

斉藤「……お嬢様、何をしてらっしゃるので?」

紬「あ、貴方には関係の無いことです!
早く下がりなさい!」

斉藤「はい、それでは失礼いたします」

紬「も、もう……」



澪「……」

紬「? どしたの?」

澪「あ、いやー……
眉いじるのは食事のあとのほうが良かったかな、
って思って」

紬「ああ、大丈夫よ、前髪で隠れるから」

澪(じゃあ眉整える意味ないんじゃ)

紬「じゃあご飯食べに行きましょ、澪ちゃん」

澪「ん、ああ……」

澪(眉のことなんかどうでも良い……
問題は……さっきの……

執事さんが来た時のムギの反応……!)



食事部屋。

澪「……」きょろきょろ

紬「どうしたの、またきょろきょろして」

澪「いや、こんな広いのに、
私達しかいないなんて……」

紬「ああ、ここを使うのは琴吹家の人間だけだから。
メイドたちは違う場所で食べてるわ」

澪「ああ、そう」



ガチャ
斉藤「お嬢様、もういらしていましたか」

紬「おっ……遅いわよ、斉藤……!
こちらには客人もいるんですからね」

斉藤「申し訳ございません」

テーブルの上に食事を並べていく斉藤。
そしてそれを赤い顔で見つめる紬。

澪「……」

斉藤「お食事の用意が整いました」

紬「ならもう出ていってちょうだい、
澪ちゃんと二人で食べるから」

斉藤「はい、ではごゆっくり……」
ガチャバタン



紬「ごめんなさいね、うちの執事ったらグズで……」

澪「ああ、いや……」

紬「じゃあ食べましょうか、いただきます」

澪「いただきます」

紬「お口にあうかしら?」

澪「うん、おいしいよ」もぐもぐ

紬「そう、良かった」もぐもぐ

澪「あのさあ」

紬「?」

澪「間違ってたら申し訳ないんだけど」

紬「なあに?」もぐもぐ

澪「ムギの好きな人ってさっきの執事さん?」

紬「ぶーっ!!」

澪「うわ、きたなっ!」

紬「み、澪ちゃんがいきなり変なこと言うからっ!!」

ガチャ
斉藤「どうかなさいましたかお嬢様!」

紬「なんでもないから来ないでっ!」

澪「顔真っ赤だぞ」

紬「うるさいっ!」

斉藤「では失礼いたします」
ガチャ



紬「はあ……」

澪「……」

紬「いつ気づいたの」

澪「……ついさっき」

紬「なんで気づいたの」

澪「……見てたら分かった」

紬「そんなに露骨にアレだった?」

澪「アレだった……
ていうかアレじゃあ本人だって気付くんじゃ……」

紬「そ、それは言わないで……」

澪「……でもさあ、なんで執事さんなんだ?
ムギが好きだって言うんならそれで良いんだけどさあ、
歳だって離れてるし……」

紬「だ、だって……」

澪「だって……何?」

紬「そりゃ……確かに斉藤はただの執事で、
歳も離れてるけど……」

澪「うん」

紬「昔からお父さんはあんまり家にいないし、
一人っ子だし……
家にいるときはずっと斉藤と一緒にいたの」

澪「うん」もぐもぐ

紬「でもそれも小さい時だけで……
大きくなるにつれて、
だんだんと距離を置くようになって。
こっちからは必要最低限のことしか
話しかけなくなったし、
斉藤の方もそれを察して
私に対してあまり干渉しなくなったわ」

澪「反抗期だね」

紬「まあそんなものね。
で、そんな状態が何年も続いたわ」

澪「ほう」もぐもぐ

紬「で、ある日……
ていうか何ヶ月か前なんだけど」

澪「うん」もぐもぐ

紬「ライブでオリジナル曲をやることになったわね」

澪「そうだな」

紬「私は作曲の心得があったから、
曲を書くのを引き受けたけど……
やっぱり一人じゃ上手くできなかったのよ」

澪「もしや、その時に手を貸してくれたのが」

紬「斉藤だったわ」

澪「……」

紬「私は数年ぶりに、
斉藤と必要最低限以上に近づいて……
会話をして……
つきっきりで作曲の手ほどきをしてくれたわ、
夜遅くまで」

澪「それで惚れた?」

紬「まあ、そうね……
斉藤と一緒にいるうち、
昔のこと思い出したりして……
それで、それからも意識するようになって」

澪「ほー」

紬「あとその、
作曲できるとこもすごいなー、なんて……
あ、何いってんだろ私……」

澪「ふうん……
ムギが斉藤さんを好きなのは分かったよ。
でもさ、さっきみたいに冷たくしたりしたらダメじゃんか」

紬「そ、それは分かってるんだけど……
どうにも恥ずかしくて……」

澪「素直になれない、か……分かるよ、うんうん」

紬「澪ちゃんも恋したことあるの?」

澪「ないけど?」

紬「あ、そう……」

澪「それで、ムギは斉藤さんと付き合いたいのか?」

紬「でも恋仲には……
立場が立場だし、歳も……」

澪「じゃあどうしたいんだ?」

紬「……想いを伝えて、
また昔みたいに仲良く出来れば、それでいいわ。
……ううん、昔みたいじゃなくて、
16歳の私と……」

澪「16歳の自分、か……
じゃあ自分が成長したとこを見せないとな」

紬「そうね……
どうすればいいかしら」

澪「うーん……」

ガチャ
斉藤「お嬢様、お食事は済まれましたか?」

紬「は、入るなっていってるでしょお!」

澪「……」



澪「……じゃあまあ、
この話はこのへんにしとくか……」

紬「そ、そうね……
ありがとう、聞いてくれて。
やっぱり澪ちゃんって頼りになるわ」

澪「そ、そうかな」

紬「唯ちゃんが恋愛相談するのも分かるわ」

澪(信じてたのか……)

食事の後、
澪はふたたび紬の部屋で
眉の整え方を教えてやり、
おみやげにお菓子をいっぱいもらって
琴吹家を後にした。


5