音楽室の隅っこ。

澪「おい……あんなダイレクトに聞いたらダメだろ」

律「でもそれが一番手っ取り早いじゃん!」

澪「台無しになっちゃうだろ、色々と」

律「何がだよ、気にしすぎだよ」

澪「おまえが気にしなすぎるんだよ」


紬「あの二人は何を話しているのかしら」

唯「さ、さあ……」

紬「ところで、唯ちゃんの好きな人って誰なの?」

唯「え、えーと……えー……
ちゅ、中学の時に同じクラスだった人で……」

紬「へえ」

唯「い、今は別の高校でサッカーやってて……」

紬「その人とは仲が良いの?」

唯「う、うーん……電話とかメールとかしたり……
あとサッカーの試合観に行ったりとかして……」

紬「そうなんだ。
付き合ったりとかはしないの?」

唯「それを澪ちゃんに相談してたとこだよ、うん」

紬「あら、そうだったの」

唯「でもムギちゃんがこんな話に乗ってくるなんて珍しいね。
まあ興味あるか~、高校生なら誰でも」

紬「え、あ、うん、そうね……」もじもじ

唯「……?」

紬「興味あるっていうか~、その、……」

唯「もしかしてムギちゃん……」

紬「……」

唯「ははーん」

紬「……、……」

唯「ムギちゃんも好きな人がいたりして……?」

紬「…………」もじもじ

唯「誰にも言わないから教えて、ね、ね」

紬「でもそんな……いない、いないわよ、うん」

唯「ウソだー、絶対いるでしょー……」

紬「いないってばあ……」

唯「誰にも言わないからさ……
いるかいないかだけ教えて!
それ以上は突っ込まないから!」

紬「ええ……」

唯「いる?」

紬「……」

唯「いるんだよね?」

紬「……………………」こくん

唯「!!!!」

紬「だ、誰にも言わないでね……」

唯「う、うん……安心して」
(まさかホントにいるとは思わなかった……)

紬「絶対秘密よ、ねっ」

唯「うん、大丈夫。私、口は堅いから」

紬「そう、ならいいんだけど……」

唯「恋に悩んだときはいつでも言ってね、
相談くらいなら乗るから」

紬「う、うん……ありがとう」


澪「あの二人は何を話しているんだろ」

律「よくは分からないけど
問題の確信に迫るような会話をしている気がする」


唯「……」チラチラッ


澪「唯のアイコンタクト……」

律「そろそろテーブルに戻るか……」


律「よ、よう、何の話してたんだ」

唯「なんでもないよー、ね、ムギちゃん」

紬「ええ、なんでもないわ。
りっちゃんと澪ちゃんこそ、隅っこで何の話してたの?」

澪「こっちこそ何でもないよ」

唯「アヤシイね」

澪「なんでもいいだろ、じゃあ早く練習するぞ」

唯「ふぇーい」

紬「あ、ごめんなさい、私その前にお手洗いに……」

律「おう」

紬「すぐ戻るから……」
ガチャ



澪「……」

律「……」

澪「……で?」

唯「ムギちゃん、好きな人いるんだって」

律「おお、やっぱりか」

唯「でもそれ以上のことは分からないよ」

澪「いや、それだけでも大手柄だ、唯。
ムギが悩んでたっぽいのはこのことで決まりだな」

律「いやあ、でもムギがねえ、片想いねえ」

澪「想像もつかないな……相手が誰なのか」

唯「うーん……女子校だから男の人とは縁遠いはずなんだけど」

律「校内で男っつったら」

澪「教師?」

律「男の教師といえば……」

唯「古典の豊崎先生、物理の日笠先生、英語の佐藤先生、
数学の竹達先生……あとは~」

律「オッサン教師ばっかじゃん」

澪「流石に恋愛対象には……」

唯「あ、生物の米澤先生は?」

澪「えー、あの人は若いけど……
なんかみんなから嫌われてんじゃん。
生徒のこと変な目で見たりさ」

唯「うーん、じゃあダメか」

律「いや……ムギのやつ、マゾっ気があるから……
米澤から変な視線を送られているうち、それが快感に変わり、
恋が芽生え……」

澪「嫌すぎるわ」

唯「うーん……あ」

澪「なんだ?」

唯「いやあ……
ムギちゃんって女の子同士の恋愛が好きだから……
そのー」

澪「ムギ自身も女の子が好き……ってことか?」

唯「考えられない?」

澪「可能性としちゃ捨てきれないけど……
同性を好きだった場合、相手は誰になるんだろうな」

唯「……」

律「……」

澪「?」

唯「……」

律「……」

澪「え、私!?」

唯「いやあ、だって」

律「澪って、ムギには優しいし」

澪「ええ? でも、優しいっていうかそれは……」

唯「いやいや、りっちゃんや私に対しては厳しいのに、
ムギちゃんにだけ優しいんだよ?
勘違いされても仕方ないよ」

澪「それはちが……」

律「昨日だって、同じ小説を買ったのも」

唯「澪ちゃんと共通の話題を作るため……?」

澪「嘘!? うそだよな、そうだと言ってくれ……」

律「いやあ、でもこうして考えてみると」

唯「真実としか思えなくなってくるよね」

律「全部つじつまが合うもんな」

澪「うそだあああ!」

唯「まあまあ、あくまでも仮説だから」

律「ただし現時点でもっとも有力な仮説」

澪「……うう……」

唯「うーん、他にムギちゃんが好きになりそうな人は……」

澪「なんていうか、こんなこと考えても意味ないんじゃ……
ムギの交友関係はよく分かんないし……」

唯「まあそうだねえ、
お金持ちの家には色々と交流があるだろうし」

律「金持ち同士の恋愛か、私らが入れる問題じゃないな」

唯「『ああ紬さん……僕はこんなにも君を愛しているのに……!
僕らには決められた許嫁がいるんだ……!』」

律「『親が決めた結婚なんて無視すれば良いわ……!
私を連れて一緒に逃げてください、地の果てまでも……!』」

唯律「みたいな感じ」

澪「すごい偏見だな」



律「でもま、ムギが誰を好きかは
やっぱ本人に聞かないと分かんないか」

澪「そうだなー、そこは唯がムギに……」

ガチャ
紬「私がどうかした?」

律「うおう!」

澪「ななななななななあんでもないですよ!?」

紬「あらそう?
私の名前を呼ばれた気がしたんだけど」

律「いやー違うんだ、
そろそろ田舎では麦を収穫してるのかなってさ、あはは」

紬「ふうん、そうだったの」

唯「あはは……」

澪「じゃあ、れ、練習しようか。うん」

紬「あ、澪ちゃん」

澪「ん?」

紬「部活が終わったら……ちょっと残ってもらえないかしら」

唯「!!」

律「!?」

澪「……え?」

紬「話したいことがあって……
あ、時間がないならいいんだけど……」

澪「え、あ、あー、いや大丈夫だ、大丈夫、うん大丈夫」

紬「そう? 良かったわ、じゃあ……よろしくね」

澪「………………うん」

律「あーちょっとトイレ行きたくなっちゃったなー!!
なあ唯!!」

唯「そうだね!! ちょっと紅茶飲みすぎちゃったねー!!」

紬「あら、今日は紅茶だしてないけど」

律「ほらトイレ行こうぜ!! ほら澪も!!」

澪「え、あ、おう!!」

唯「ちょっと待っててねムギちゃん!!」
ガチャ


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