澪「さ、今日も練習するぞ」

律「えーもうちょっとだけお茶してようよー」

澪「ばか、学園祭もうすぐだろ。
今練習しないでどうすんだよ」

唯「いーじゃんちょっとくらいー。
ムギちゃーん、紅茶おかわりー」

紬「……」

唯「ムギちゃーん」

紬「……」

唯「ムギちゃん?」

紬「……」

唯「ムギちゃん!」ゆさゆさ

紬「はっ! な、何かしら?」

唯「それはこっちのセリフだよ。
ボーッとしちゃって、どうしたの?」

紬「あ、ボーッとしちゃってた……?」

唯「してたよー、すごくしてた。
何度呼んでも返事ないんだもん」

紬「あら、そう……ごめんなさい。
それで、私を呼んだ用件は何?」

澪「練習しようって言ってたんだ」

紬「ああそうね、そろそろしなきゃね」

律「うぉい」



澪「よし、じゃあ始めるぞっ」

唯「はーい」

紬「いいわよ」

律「いくぞー、ワンツースリフォー」

ジャカジャカージャッカジャカジャカジャカジャカ

澪(……あれ?)

律(なんか……)

唯(……変?)

ジャーン♪



澪「……」

律「……」

唯「……」

紬「? どうしたの?」

澪「うーん、ムギ……
キーボードの音、だいぶずれてたぞ」

紬「え、ほ、ホントに? ごめんなさい……」

澪「いやそんな謝んなくてもいいけどさ」

律「でも珍しいな、ムギがこんなミスするなんて」

唯「具合悪いんじゃない?
さっきもボーッとしてたし……」

紬「う、ううん、大丈夫……」

澪「無理することないぞ、
体調悪いんなら遠慮なく休んでくれていいんだから」

紬「ほ、ほんとに大丈夫だから! もう一回やろ、もう一回」

澪「え、うん……」



しかしその日の演奏は散々なままで終わった。

紬「……ごめんなさい」

澪「いいっていいって、今日はたまたま調子が出なかっただけだろ。
また今度、いつもみたいに上手くやってくれればいいから」

紬「……うん」

律「澪ってムギには甘いよな、
私達の時はすげえ怒るクセに」

唯「日頃の行いの差じゃない?
ていうか『達』ってどういう意味」

紬「あ、私、戸締りしとくから……
みんなは先に帰ってていいわよ」

律「え、ああ、うん」

唯「えー、ムギちゃんも一緒に帰ろうよー」

澪「……ばか、ここは独りにさせてやれ」

律「じゃあな、ムギ」

紬「うん……また明日」



帰り道。

唯「今日のムギちゃん、おかしかったね」

澪「ああ、そうだなあ」

律「体調悪いようには見えなかったけど……」

澪「とすると、なんか悩みでもあるのか」

唯「悩みかー……」

律「でもムギに悩みごとなんて想像できねえな」

澪「それはムギに失礼だ……」

唯「もし悩みがあるとしたらさ、どんな悩みなんだろ」

澪「うーん……家のこととか?」

律「あー、金持ちの家って複雑そうだよなー」

澪「成績が落ちたとか」

律「それはないだろ、この前のテストでもクラスで上位だったし」

澪「また太っちゃったとか」

唯「そう? 別に太ったようには見えないけど」

澪「外見からは分からなくても、
1つ2つの数値の上下には過敏に反応してしまうのさ」

律「そうか……それがストレスになって……
太るのを気にするあまり食生活が乱れ……
そして摂食障害……入院……退学……」

澪「いきなり話が飛躍したな、
ていうか真面目に考えろ」

律「考えろっつってもなあ」

唯「ムギちゃんから直接聞かないことには分かんないよ」

澪「まあ、そうだけどさ……」

紬「みんなーっ!」たったった

唯「あ、ムギちゃん」

澪「噂をすれば……」

紬「はあはあ……唯ちゃん、これ」

唯「あ、携帯!」

紬「部室に忘れてたわよ」

唯「ほんと? ありがとう、ムギちゃん!」

紬「ううん、いいの。気にしないで」

澪(さっきの話は今はしないほうがいいな)

律「なあムギ、なんか悩みごt」

澪「オラァ!!」ボカッ

律「ゲフッ」

紬「? なあに?」

澪「いやーなんでもないなんでもない……
そうだ本屋寄ってかない? 本屋」

唯「お、いいね。確か今日は女性自身の発売日だし」

澪「そんなん読んでんのかよ」

唯「憂がね」

澪「……」



本屋。

律「澪は何買うんだ」

澪「好きな作家の新刊が出ててさ、それをね」

紬「へえ」

澪「あー、あったあった」

律「ほう、タイトルは……『16歳のはつこい』……
いやあいかにも澪が好きそうな」

澪「う、うるさい……! いいだろ別に」

紬「……」

澪「ん? ムギ?」

紬「……」

律「またボーッとしてら……おい、ムギ」

紬「……はっ!」

澪「どうしたんだよ、またボーッとしてたぞ」

紬「そ、そうだったかしら、ごめんなさい……
それよりこれ、素敵なタイトルの本ね。
私も買おうかしら」

律「おお、ムギも澪ワールドにハマるか」

澪「なんだ澪ワールドって。
ていうかムギも恋愛小説とか好きなんだな」

紬「好きっていうか、その……
いいかな、って思って」

澪「ふうん」

律「ところで唯はどこいった」

澪「女性自身買ってんじゃないか?
……ん?」

紬「……」

手に取ったハードカバーの表紙をじっと見つめる紬。
澪にはその紬の表情が、何か普通ではないように見えて……。

澪「…………」



唯「あ、みんないた」

澪「買ったのか、女性自身」

唯「うん」

律「憂ちゃん、そういうの好きなんだな……」

唯「そうなんだよねー。
休日なんかはお煎餅かじりながら
楽しそうにワイドショーの芸能コーナー見てるよ」

律「憂ちゃんの育てかたを見直した方がいいぞ」

澪「じゃあ、私達も会計済ませるか」

紬「え、あ、そうね……」

唯「りっちゃんは何も買わないの?」

律「私はいいや。お金ないし」

唯「ふうん」

その日、3人は本を買い、
あとは何ごともなくそれぞれの家路についた。



翌日、放課後。

ガチャ
唯「ちょりーっす」

澪「おう」

律「うぃーっす」

唯「ムギちゃんはまだ来てないの」

澪「うん、まだ」

唯「そういえばさ、
昨日のムギちゃんなんか変だったけど、
どうだった? 今日は」

澪と律と紬は3人とも同じクラス(1年2組)である。

律「今日は今日でまた……なあ」

澪「え? ああ」

唯「えーなになに?」

澪「昨日ムギが私と同じ小説買ったんだよ。
で、今日は一日中、それを貪るように読んでた。
授業中も、休み時間も」

唯「へえ~」

律「それはそんなに熱中するような本なのか?」

澪「いや、私もまだ最初の方しか読んでないし……
ていうか熱中するかどうかは人それぞれじゃない?」

唯「ふうん……で、それどういう小説なの?」

澪「16歳の女子高生の、初々しい初恋を描いた小説だよ。
引っ込み思案な少女のひたむきな片想いの話……って
あらすじには書いてあった」

律「ほう」

唯「ボーッとしてて、演奏も手につかない……
恋愛小説……片想い……
それに熱中するムギちゃん……
もはや導き出される答えはひとつ!!」

澪「いや唯、それは私も考えたけど……短絡的すぎるぞ」

唯「そうかなあ、これ以外ないと思うけど」

澪「何にせよ、ムギの口から直接聞かないことにはさ……」

唯「んー、そっか」

律「なあなあなんだよ、
何を2人で分かった気になってるんだよ、
教えてくれよ」

澪「落ち着け」

唯「でも、どうやって聞き出す?」

澪「うーん……」



ガチャ
紬「遅れてごめんなさい!」

唯「あ、きた」

澪「よ、よう」

紬「今お茶の用意するわね♪」

唯「……なんかゴキゲンだね」

澪「……」

紬「そうだわ澪ちゃん、この小説とっても面白かった」

紬はカバンから例の小説を取り出した。

澪「ああ……今日一日中それ読んでたよな」

紬「うん、読み出したら止まらなくなっちゃって……
なんていうのかな、
主人公の気持ちに共感できることばっかりで」

澪(共感……)

紬「片想いの切ない気持ちがすっごくリアルで」

唯(切ない……)

紬「最後、想い人と結ばれたときは私まで幸せな気分になったわ」

澪「幸せ……ていうかオチを言うな!
私まだ読んでないのに」

紬「あ、ご、ご、ごめんなさい!
私ったらついテンションが上がっちゃってうっかり……」

澪「ああ、いやまあ、いいんだけどね……」

律「…………ああ、そういうことか」

紬「? なあに?」

律「ムギ、好きな人いるんだろ!」

澪「こら――――っ!!」

紬「え? え? 好きな人……!?」

澪「あ、ち、違うんだ! 唯に好きな人がいて、な、唯!」

唯「え、ああああ、うん、そうなんだ! 実はね!」

紬「へえ、そうなの」

唯「それで、澪ちゃんに色々とアドバイスもらってたとこなんだー、
あはははは……」

紬「へえー」

澪「律……ちょっとこっちに来なさい」

律「はい……」


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