秋山澪はピック売りの貧しい少女である



澪「ピックゥ! ピックはいりませんか!! ピック買って下さああァい!!!」

澪「あっ、そこのお姉さん、ピック買ってもらえませんか!!」

OL「えっ? いや、別に……」

澪「お願いしますっ!! これが売れてくれないと、私・・私・・もう生きていけなくて・・・」ウルッ

OL「ごめんなさい。そういうのはちょっと……」ソソソ

澪「待ってください! ピック! ピックさえあればいつの日か・・!!」

OL「あの……ご、ごめんなさいっ!」

タタタタッ....


澪「ああっ・・そっ、そんな・・まだ今日一個も売れていないのに・・・くそう、ちくしょう・・・」

澪「でも・・負けちゃだめだ! なんとしてもピックを売らなくちゃ・・!!」


澪「ピックはいりませんかああァ!! ピックゥ・・あ、そこのお兄さんっ」

リーマン「ん? はぁ、なにか?」

澪「ピックいりませんでしょうか!!」

リーマン「え? ピックって、あの弦楽器なんかに使う?」

澪「正確には撥弦楽器です! 楽器が音を生む母としたら、ピックは父みたいな存在です!!」

リーマン「あ、あー、そうなんだ。でも残念だけどうちにはそういうの置いてないし」

澪「ない、だと・・・。まさか、嘘でしょ・・信じられない・・・」

リーマン「と、いうわけなんで」

澪「ででででででも!! だったら是非この機会にピックから交流を深めてみても」

リーマン「あーもう。しつこい勧誘は嫌いなんだよねぇ。他所いってくんない?」プイッ スタスタ



ヒュウウウウウウ~....

澪「・・・・・・ちくしょう」

澪「何が悪いっていうんだ・・・ちくしょう・・ピックに少しも罪なんてないのに・・・」

カップル「イチャイチャ キャイキャイ アンアン」

澪「くそ・・年の瀬だからって浮かれやがって・・・。ちくしょう・・ちくしょう・・!!」

澪「ようし。ここは雪玉を作って・・中心にピックを入れて・・・ふふwジュネーブざまぁww」

澪「これでも食らええェ!! しあわせものに・・・天誅うううゥをおおおおォ!!!」


ブオオオォンッ!! シュルッ!! ヒュウウウウゥゥゥゥ....



律「ドベアジェット!!!!」

澪「わ・・・し、しまった、コントロールが・・・」

律「おいコラァ! そこの薄汚い女、なにしてくれるぅ!」

澪「わわわわ・・きっと、ピックを粗末にしたからピックの神様が罰を与えたんだ・・・そうだ、そうに違いない・・・」ガクガク

律「おいそこの、聞いてるのか? 今結構怒ってるんだぞ!」

澪「あああ・・・ピックさん、いえピック様ごめんなさい。次は絶対に外したりはしません・・・!!!」

律「ってそっちじゃねえだろ!」

澪「ええと・・それで、一人だけの方、お怪我はありませんか??」

律「いちいちムカつく言い方をする奴だな……」

律「で、なにいきなり見ず知らずの人に雪玉とか投げつけてるわけ?」

澪「それは・・・まぁちょっとした鬱憤を晴らしたくなって、つい・・・」

澪「あっ、でも! あの雪玉に当たったということは、あなたがピックに対して酷いことをした報復だったという」

律「あるわけねぇだろオンドルァ!」

澪「ひいっ!」

律「私はドラマーなんだ。だから使うのはドラムスティックだ。ピックは専門じゃない」

澪「ドラマーだって・・!?」

律「そうだ。だからあんたの言ってるピックの報復とかいうのは……」

澪「きっとドラムが走りすぎているからだ!! だから、特にベースのピック経連からマークされていて」

律「しつこいわこのボケナスビ!」クワッ

澪「きゃぅんっ!!」


律「そんで、こんなくそ寒い路上でどうしてピックなんか?」

澪「それは、財産がこれしかないので・・・たくさん買って、全部売りさばけば大儲けだって・・・」

律「なるほど可哀想な子だったのか……」

澪「はい! 可哀想な子です! だから」

律「って堂々と言われるとそういう気もなくなるわ!」

澪「そ、そんなぁ・・・」シュン

澪「・・・あの、実はおばあちゃんが病気で寝込んでいて、その・・・お薬を買ってあげないと」

律「えっ? そんな事情が……?」

澪「はい。もうピックりとも動けなくて、いつピックり逝ってしまうか分からない状態で。ピックニックにも行けなくて」

律「途端に胡散臭くなったな、オイ」

澪「だからお願いします! ピックを、一つでもいいからピックを!!」

律「……分かった。じゃあその嘘っぽい事情に免じて雪玉を当てたことは許してやる。だがピックは買わん」

澪「うう・・そんなぁ・・・ぐずっ」

律「はいはいもう行くから。弟と映画見る約束なんだ。はぁ、全くどうしていつも弟となんかと……」

澪「お互い寂しい身ですね・・・」

律「うるへぇ! なんかお前に言われると腹立つ! んじゃもう」

澪「・・・あっ、あっ、あああっー!!!」

律「おま、いい加減に……」

澪「違う! ちが違うんです! 悪気はないんです、ただ・・・」

律「ただ……?」

澪「そのおでこに刺さったピックを、返してもらえないかなぁって・・・」

律「お、で、こ?」スリスリス..コツッ

律「…………あ、本当だ。きれーに刺さっとる」

澪「ピク美ちゃんが、私以外の人間に初めて好意を抱くなんて・・!!」

律「名前つけとるんか! まぁともかく、抜いてしまえば……。む、むむ……あれ?」

律「ぬ、抜けない!?」

澪「・・・・・・ふふw」キラーン

律「ふんぬーっ! ふんぬーっ!」

澪「あのぉ、あもし抜けないのでしたらぁ、買い取っていただかないとぉ・・・」ワクワク

律「ぬわーっ! 駄目だこりゃ。完全に根元までグサリといってやがる……」

律「……って、ハッ! もしかしてお前、これが目的ではじめから」

澪「えっ、ちっ、違います違います! あなたに当たってしまったのは本当にただの偶然で・・・」

律「つまり相手は誰でもよかったってことか!」

澪「あああああ違うんです!! 私可哀想な子だから頭のほうもちょっと」

律「黙れこのピック詐欺師! お前には一銭も払わないからな!」

律「くそっ! もうこれ以上構っていられるか」ダッ

澪「ああっ・・ピック! 私のピック! しかもそれ一つしかない鼈甲のやつ! ピク美ちゃぁん!!
摩擦音を最小に抑え、しかも決め細やかさを残しつつダイナミックにアタックできる、一番高いのおおおォ!!!」

律「んなもん知るか!」ダダダッ


ヒュルルルルルルウウゥゥ~....



澪「・・・・・・」ポツーン

澪「・・・死にたい」



ビュウウウウウゥゥゥ~

澪「うう・・大量の山盛りピック・・・。この中で一番鋭いピックなら、手首切って死ねるのかなぁ」

あのー

澪「へへっ。やっぱり駄目だ。こんな可愛い子たちを、私みたいな汚れた血で染めるなんて・・・」

ぐあい悪いんですかー

澪「こうなったら、例えいたいけな子を騙しても・・・。ふふっ。私が、絶対ににお前たちの買い主を見つけてやるからな」

笑いながら泣けるってきようですねー

澪「それにしてもさっきからよく分からない幻聴みたいなものが・・・」


唯「もおおおおっ! おきゃくさーん! しゅーてんですよー!」

澪「わあぁ降ります降ります! ・・・って、あれっ? ここ駅じゃない!! ていうか誰っ!?」

唯「誰、って言われても……。たまたま通りかかっただけなんだけど」

澪「あ、そうなんだ。ふぅん・・・。ね、ねぇ、きみ! いや、あなた!!」

唯「うん? なあに?」

澪「ピッ・・・ぐっ、駄目だ! この子、なんて純粋な目をしてやがる! 私は・・こんな子をカモになんて・・!!」

唯「……ほえ?」


唯「んー。なんかよく分からないけど、困ってるなら、私でよければ相談にのるよっ」ニパッ

澪「そうだん・・? こ、こんな薄汚れた私の話を聞いてくれるのか!?」

唯「……汚れてる? そんなのあんまり関係ないよ。私は可愛いものが好きで、見つけるのが得意なんだ~」

澪「そんな、可愛いだなんて・・。確かに顔出ちには凄く恵まれたほうだって薄々感づいてたけど・・・」

唯「あ、うん……。でっ! こんなところでなにやってたの?」

澪「・・・あのな、ピックを売ってるんだ。でも全然誰も買ってくれなくて」

唯「ぴっく? ふぅん。道端で売ってる人はじめて見たかも」

澪「所詮底辺の仕事だったんだ・・。これでビッグになれるって、信じ込まされて・・!!」

澪「・・・あと、実はおばあちゃんが悪い人に騙されてて、このままじゃ利子が膨らむ一方で・・!!」

唯「……そうなんだ。大変なんだね。むう、でも困ったな……今ちょうどお財布が」

澪「いや・・いいんだ。ピックをピックとして使ってくれない人じゃないと、ピックとして生まれたピックが可哀想だから・・」

唯「だったら! 私なんてぴったr……」


オネエチャーン ドコー? オネイチャアアアアン!!


唯「あっ、憂!」



憂「あっ、お姉ちゃん! も~、随分探したんだからぁ」

唯「でひひ、めんごめんご」

憂「ほらもう帰らないと時間が……って、え……。そちらの方は?」ジトー

澪「あ、ここっこ、こんばんわ・・・。はは・・」

唯「可愛い子でしょ! ねぇ憂、私のお財布持ってるでしょ? 早く出しt」

憂「ちょっ、お姉ちゃん! ちょっとこっちきて!」グイッ

唯「えっ、なっ、どどうしたの?」ズルズル

澪「・・・・・・」


憂「お姉ちゃん、最近お小遣いすぐ使っちゃうみたいだけど、いっつもああいう人に使ってるの?」ヒソヒソ

唯「そうでもないけど……。ああいう人ってどういうこと?」

憂「それは、言い方悪いけど乞食とかそういう人。いい、お姉ちゃん。ああいう人にお金あげちゃだめなの」ヒソヒソ

唯「えー。どうして?」

憂「甘やかすからちゃんとした仕事に就こうとしないんだよ。それに、臭いし汚いから、ね!」ヒソヒソ


澪「・・・なに話してるか分かる自分が嫌いだ・・嫌いだ・・・」メソッ



憂「はい、お話し終了っ! 分かったらお返事は?」

唯「むうううぅっ! 分かりましたぁ……」

澪「・・・・・・」

憂「それじゃあ失礼します。ほら、お姉ちゃん。ギー太が寂しい寂しいって言っておうちで待ってるから」

澪「・・・ぎーた? ぎーたー・・・まさかギター・・!?」

唯「あっ、うん、まぁ……ギー太っていうギターがあるんだけど、言い出すタイミングが」

澪「・・・それを先に言わないとだめじゃないかああああああァ!!!」

唯「わ! なんか人が変わった!?」

憂「は、早く行っちゃお!」

澪「持ってるなら持ってるって最初に言ってよ! ピック必要だよ!! ピック求めてるよね!?
なに勝手に決めつけていたんだ・・・ワタシ!! ちょっ、買って! ピック買って! 一つ騙されたと思って!!!」

憂「お姉ちゃん! 早くこっち!」

唯「ふええぇ、怖い、怖いぃっ!」

澪「あっ・・ちょっまっ・・・!!! あぁっ・・ピックを粗末にする者はピックに泣くんだぞおお!!」

唯「ふええぇん!」スタタタッ



澪「・・くそっ!! くそッ!! あそこで気持ちを抑えていれば、今度買ってくれたかもしれないのに・・・」

澪「なにやってるんだ・・・馬鹿、馬鹿ぁ。・・このザマが、これまでの私の人生のツケ・・!!」


ゴォーン! ゴオーン! ゴオォーン!!

澪「うわ、もうこんな時間!? ・・・次が駄目だったら、もう今日は諦めるしか・・・」

澪「ようしっ!! これで終いだと思って、最後は気合入れていくぞ・・・うんっ!!!」

梓「……」テクテクテク

澪「・・・!!? って、あんなところにギターを背負ってる女の子がいるじゃないか・・」

澪「これはまさしく天戒!! 神様の思し召しだ!! 待ってろ、今行く・・!!」ダンッ


2