私は人を殺すことに決めた。

平沢唯 17歳。おそらくごくフツーの高校2年生になったそんな春。



唯「人を殺すには…、相手が必要だね。」

別になんかウラミがあるとかイヤなことがあるわけじゃない。

唯「だって人一人殺したって人生終わるわけじゃないし。一回経験してみてもいいよね。」

この先の人生の想像が容易についちゃうくらいの私だから、ちょっとしたイベントがあっても悪くないだろう。

唯「人一人殺したって人生終わるわけじゃない。」

唯「うーん、我ながら卓見だね!コピーライターになれるかも!」

さて、誰を殺そう?



憂「お姉ちゃん、何見てるの?私の顔になんかついてる?」

唯「い、いやっ、別になんでもないよ!?」

唯「それにしてもこのハンバーグとっても美味しい!!さすが憂だね!!」

憂「えへへ~、ありがとうお姉ちゃん。」

父、母、妹の憂。

マスコミの人達は、自分達の理解できるその範囲でしか答えを求められない。

唯「家族なんて殺しちゃったら、何を言われるか大体想像ついちゃうよね…」

唯「成績優秀な妹と比べられて~とか、現代の家族内の距離感が~とか、度をこした甘やかしが~、とか。」

ちがう、ちがう、そんなんじゃない。



唯「そもそも、色んな人間に1つの基準器をあてはめようとする考え方が間違ってるよね。」

唯「……親兄弟は駄目だ。」

律「ん?唯、私の顔じっと見てどうしたんだ?」

律「もしかして今流行りの百合ってやつか?このこの~」

唯「違うよ、律ちゃん!。痛いってば~。」

紬「(律唯……!!眼福だわ……!!!)」ハァハァ



唯「(友達も駄目だ。……殺せない。)」

唯「怨恨や利害関係を疑われそうだね…。」

唯「そんなつまらないことで人を殺そうなんて、人間が出来てない証拠だよ。」

唯「そんな感情は、自分の中で処理できるから。」

目的はただ単純に人を殺す経験をすること。

唯「それだけは自分の中で……、処理できないよ。」

じゃあ全く見ず知らずの人間?

例えばどんな人間がいいだろう?

唯「お年寄りがいいかな?」

でも、先が短いから殺した実感に欠ける気がするよね。

唯「不良とかヤクザ?」

それじゃあ社会の役にたっちゃうじゃん。感謝されてどうするの。

唯「じゃあ有名人?」

ファン心理や妬みを疑われそうだね。

唯「そこらへんのごく普通の人?」

でもこうやって見てみると、みんなウラで悪い事してそうに見えるし。

唯「意外と難しいな~。」

唯「どうせ人を殺すんだから、だったら納得されるより非難を受ける方がいいよね。」

となるとやっぱり、周りから愛されている幸福の象徴のような人間。そんな存在。

それは……。

唯「子供……?」

唯「でも、子供はちょっと嫌だな~。」

唯「私としては標的は私と同じくらいの年齢の人がいいんだよね。」

唯「その方がその後、標的の人生まで背負って生きていく――。」

唯「私の意図に合致するから。」

唯「う~ん、誰かいい人いないかな~。」



そんなある日だった。

梓「1年2組の中野梓といいます。パートはギターを少し……」

この子だ……!!。この子がいいかも。

私の中を衝撃が走った。

梓「よろしくお願いします、唯先輩。」

唯「唯先輩……。」ポワァ~ン

唯「(はっ…!!いけない、いけない。)」

唯「(……この子がいいかな。)」



私は中野梓に目星をつけた。

唯「後輩を殺すっていうのは最初の意図とちょっと違うけど、計画に修正はつきものだよね。」

唯「知り合いを殺すってのはあんまり良くないと思うけど、これはしょうがないや。」

唯「私は人を殺す経験が出来ればいいんだから。」

中野梓の家庭環境を軽く調べる。

唯「貧乏なのもダメだし、過度に裕福なのもダメだし。」

唯「この家…、申し分なさそうな中の上。」

父親、母親、祖父、祖母。

五人家族の一人っ子。

一戸建て。庭付き。

唯「これって最近出た車だよね。」

車を買い換えたばかり。

唯「……よし。」

理想的なターゲット。

唯「中野梓…。あなたに決めた。」



標的が決まれば、即行動。

なんて物事は単純には進まない。

唯「まずは、私だよねー。」

年下の人間を標的にすると、弱者にしか感情をぶつけられない社会不適合者だと思われかねないよ。

不満があるから人を殺すわけじゃない。

抑圧されてるから人を殺すわけじゃない。

鏡の中の私に向かって人差し指を向けた。

唯「よし。お前はめぐまれた環境にいるべきだね。」



その日から私は自分を変える事にした。

軽音部の練習が終わった後も家で練習。

そして、夜遅くまで勉強をした。

目的があるから結果も出る。

ギターの上達は早かった。

梓「唯先輩、ギターすっごく上手になりましたよね。」

澪「ホントだな。何かあったのか?」

唯「いや、あずにゃんの方が上手いよ~。何もないって。」

成績も上がった。

唯「なんだ……。勉強なんてやれば出来るじゃん。」

前回の定期試験では学年7位だった。

律「おいおい、唯、一体どうしたんだ!?澪やムギより上の順位なんて!!嘘だろ!?」

唯「いや~、たまたまだよ。たまたまヤマが当たっただけだよ、律ちゃん。」

ボランティアや地域活動にも参加する。

女「唯ちゃん、お疲れさま。よかったらこれ飲んで。」

唯「あっ、ありがとうございます。」

唯「(これで近所の人達の好感度アップ。)」

容姿はまあ十人並だと思うけど。

目的意識に裏打ちされた自信と積極性が雰囲気に出るんだろうか。

唯「また手紙だ……。」

1週間に1回は下駄箱や机の中にラブレターが入っている。

唯「女子高ってやっぱりこういうことあるんだなー。」

律「唯、またラブレターもらったのか~?モテモテだな~。」

唯「う~ん、女の子からこういう手紙をもらうのってなんか変な感じだけど。」

律「噂じゃ唯のファンクラブまで出来てるらしいぞ!!これで澪に続き、2人目のアイドルが軽音部から誕生した訳だ。」

唯「やめてよ、律ちゃん、恥ずかしいよ~」

紬「(言えない……。会員NO.001が私だなんて絶対に言えない……!!)」


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