梓「先生、今日は音楽の授業ありましたか?」

さわ子「そりゃ、あるわよ」

梓「そのときこの部屋に入りましたか?」

さわ子「一応この部屋は音楽準備室ってことになってるしね」

さわ子「譜面台とか楽譜とかはここに保管されているから」

梓「じゃあ、そのときはまだトンちゃんは元気でしたか?」

さわ子「そうね、元気に泳いでたわよ。いやらしい首を艶めかしく上下させて」

梓「いやらしい?」

さわ子「い、いや……そうじゃなくて……、いや~亀らしい泳ぎだった……ってことです。はい」

梓「?」

澪「先生はいつ頃この部屋でトンちゃんを見たんですか?」

さわ子「そうね、確か……4限目の音楽の授業中かしら……」

澪「じゃあ、少なくともそのときまではトンちゃんは元気だったってことか」

梓「だとしたら、昼休みから放課後の間にトンちゃんの身に『ナニ』かがあったと……?」

さわ子「わ、私は何もしてないわよ!」

澪「別に先生を疑っているわけじゃないですよ」

さわ子「そ、そう。それならいいのよ」

梓「……」

唯「ムギちゃん、なんだか澪ちゃんとあずにゃん探偵さんみたいだね」

紬「そうね、なんだかドキドキしてきちゃったわ」

律「事件にするなって言ってる澪が一番楽しんでいるように見えるな」

澪「う、うるさい……」

梓「先生、本当に何も知らないんですか?」

さわ子「し、しこいわね。知らないったら知らないわよ!」

梓「じゃあ、何でそんなに汗をかいているんです?」

さわ子「いや……、最近暑いわよね~。ははは……」

さわ子「なんで、クーラー設置してもらったのに冷房かけないのかしら?」

梓「先生、知らないんですか?」

さわ子「な、何を……?」

梓「何故、クーラーをつけずに送風のみで我慢しているのか」

さわ子「し、知らないわよそんなこと」

梓「冗談ですよね、そんなことも知らないなんて……」

さわ子「梓ちゃん、何を言って……」オロオロ

梓「クーラーをつけないその理由、本当に先生はご存知ないんですか?」

さわ子「あ、あう……何かそれとトンちゃんとに関係が……?」ビクビク

唯「それは、私がクーラー嫌いだから!」

さわ子「へっ!?」

梓「そうです。だから、こんなに暑い日も皆我慢してるんです」

律「送風でも風が生暖かくて嫌になっちゃうよ……」

唯「ごめんね皆……」

紬「ううん、いいのよ。沢山汗をかけばダイエットにもなるんだから」

さわ子「あの……、それと、トンちゃんとの関連性は……?」

梓「すみません、なんだか先生が追いつめられていく様を見てたら楽しくなってきちゃって……」

さわ子「な、なんなのよいったい……」

紬「でも、あずにゃんなかなか迫真の演技だったね!」

律「これでシチュエーションが荒波すさぶ日本海の断崖だったら言う事無しだったな」

紬「憧れるわ~♪」

さわ子「もう、何よ! 私で遊ばないでくれる?」

唯「えへへ、ごめんねさわちゃん」

さわ子「まったく……。本当に私はトンちゃんには何もしてないわよ」

律「別に最初っから疑ってないって」

さわ子「なら、いいのよ」

梓「澪先輩……」

澪「ああ、わかってる。梓に言い寄られていたときの先生のあの狼狽えよう」

梓「はい、何もやましいことが無ければあんなにはなりません」

澪「きっと先生は、何かを隠している」

梓「私もそう思います」



さわ子「はぁ~……、しっかし、冷房をつけないとさすがに暑いわね~」

唯「はい、さわちゃん団扇」

さわ子「扇いで~」

律「自分でやれよ……」

さわ子「なによ~、もう職員室に帰っちゃうわよ」

唯律「どうぞ、どうぞ」

さわ子「……」

さわ子「わかったわよ、もう帰る~」

紬「皆~かき氷のシロップ何がいい?」

さわ子「宇治金時!!」ビシッ!! ポロッ……

律「変り身早っ!!」

紬「ごめんなさい、今日はシロップだけしか持ってきてなくて……」

さわ子「なによ~」ブーブー

梓(今、さわ子先生が手を挙げたときポケットから何か落ちた?)

澪「ムギ、そこに落ちてるもの、何?」

紬「えっと、これ?」

梓「さわ子先生のポケットから落ちましたよ」

紬「サガミオリジナルってパッケージに書いてるけど」

さわ子「!?」

律「うすさ0,02ミリ? なんだこれ?」

さわ子「あ、あの……」オロオロ

澪(さわ子先生がチワワみたいに小刻みに震え始めた!!)

梓(これは、何かある!!)

梓「ムギ先輩、見せて下さい!」

紬「はい、梓ちゃん」

梓「……商品名、コンドーム!?」

澪「えっ///」

律「さわちゃん……」

さわ子「な、何よ! 私がそれ持ってちゃいけないって言うの!?」

紬「でも、今、彼氏いらっしゃるんですか? 先生」

さわ子「い、いないわよ……」

梓「じゃあ、なんで……」

さわ子「淑女のたしなみよ」

唯 ペリペリ

さわ子「ちょっと唯ちゃん! 何勝手に開けてるの!?」

唯「えっ? いったいこれ何かなって思って……」

澪「おいおい……」

梓「唯先輩、その……ソレが何だか知らないんですか?」

唯「何に使うの?」

梓「いや、その、あの……///」

唯「澪ちゃんは知ってる?」

澪「えっ! いや……///」

唯「りっちゃん?」

律「あ~ま~その……なんだ~」

唯「ムギちゃん?」

紬「さわ子先生に聞いたらいいと思うの」

唯「そっか、さわちゃんが持ってたんだもんね」

さわ子「避妊具よ!」

律「あっさりと言っちゃうのかよっ!」

澪(確かに、教師としては正しいかもしれない!)

梓(でも、身も蓋もありません!)

唯「ひにんぐ?」

律「まだ、わからないのか……」

さわ子「唯ちゃん、高校生にもなって知らないなんて逆に恥ずかしいわよ」

唯「むっ! だって知らないものは知らないんだもん!」

梓「にしても、今どきそれじゃあ、将来が思いやられます……」

唯「じゃあ、これ個別包装されてるやつ開けて何に使うやつか当てるもん!」

澪「唯、私にも見せてもらえないか」ドキドキ

紬「澪ちゃんも気になるの?」

澪「うわっ! ムギ! ち、違うぞ! 確かに現物は始めて見るけど……」

律「さすが、後学のためには恥をもいとわないエロい体の澪さんでいらっしゃる」

澪「り、律ぅー!!」

律「冗談、冗談」

梓(唯先輩! さぁ、ドパッと開けちゃって下さい!!)

唯 ペリペリ

唯「なんだか、輪っかみたいになってる」

唯「ふ~む……」フニフニ

澪「あ、あんまり触るとだめじゃないのか……」

唯「澪ちゃんも、触ってみる? ホレ」

澪「うわっ! わ、私はいいよ」

唯「おおっ! なんだかクルクル巻かれてて伸ばすと筒状になるよ!」

唯「ほら、あずにゃん、見て見て~」プラ~ン

梓「きゃあ! こ、こっちに振り回さないで下さい!!」

唯「え~、なんで~?」プラ~ン

律「これが先入観バリバリある奴とまったく無いやつの差だな」

唯「ホレホレ、りっちゃ~ん」プラ~ン

律「ちょ! やめろって!」

唯「なんで逃げるのさ~」

唯「ムギちゃんは触るよね?」

紬「私も遠慮するわ……」

唯「なんで~?」

さわ子「はぁ~、あなた達、今そんなに嫌がってちゃ、いざそういうことになったときどうするのよ」

律「それが教師の口から出た言葉とは思えんな……」

唯「あれ? なんだか指がヌルヌルする」

澪「なっ!? 大丈夫か唯!!」

さわ子「安心しなさい。それは、外側に付いているローションよ」

梓「そ、そうなんですか~」

澪「へ、へ~。そんなものが付いてるんですね~」

さわ子「あら? なんだかんだ言って、貴女たちも結構気になり始めたようね」

澪梓「////」

律「おやおや、澪しゃん。やっぱりお好きなんですね?」

澪「なっ!? 私はただ、今後のためにだな……」

律「あらやだ……///」

澪「そ、そういう律こそどうなんだよ! さっきから唯とは全然目を合わせてないじゃないか」

律「わ、私!?」

律「私は、そんな……///」

澪「なに顔赤くしてるんだよ」

律「アレが男の……に被せるのかと思うと……///」

澪「ちょ! いきなり何言ってるんだ律!」

律「だ、だって」

唯「被せる? これって被るものなの?」

さわ子「そうよ、唯ちゃん。何だと思う?」

唯「う~ん……」

梓「あの、ムギ先輩、バナナとかありませんか?」

紬「えっ?」

梓「いや、別に……その……」

さわ子「はっは~ん、梓ちゃんったら試しに付けたくなったのね?」

梓「め、滅多にないことなのでっ///」

紬「ごめんなさい、今はモンキーバナナしかないの。これでもいいかしら?」

さわ子「これじゃあ、小さ過ぎるわね……」

唯「わかった!」

澪律紬梓さわ「!!?」



唯「この筒型の形状……間違いない」

唯「この形に合っているものと言えば……!!」

澪律紬梓さわ「……ゴクリ」

唯「トンちゃん用の帽子!!」

 「・・・・・・」

律「えっ?」

唯「ほら、きっとぴったしだよ!」

澪「本当にそう思うのか?」

梓「そんなもの被せたらトンちゃん息ができなくなって死んじゃいますよ!」

唯「え~……絶対正解だと思ったんだけどなぁ……」

さわ子 ガシャン!!

紬「大変! さわ子先生、怪我はありませんか?」

律「もう、何やってんだよさわちゃん! かき氷もったいない……」

さわ子「あわわわわわ……」ガクガク

紬「先生?」

さわ子「ま、まだ、そんなこと試してないわよ!」

梓「試す?」

さわ子「確かに気の迷いから、昼休みにコンドーム買いに走ったけど……」

さわ子「冷静になって考えたら……」

さわ子「……って、はっ!?」

澪「何を言って……」

さわ子「わ、私、急用を思い出したから、この辺で失礼するわ!!」

さわ子「じ、じゃあ、帰るときは戸締りしっかりね!!」

  ガチャ バタン

律「なんだあれ?」

紬「なんだかすごく動揺してたみたい」

梓「唯先輩が、アレのことをトンちゃんの帽子だって言った瞬間でしたね」

澪「また、トンちゃん関連で先生が慌てる……」

梓「やっぱり、トンちゃんが死にかけた原因とさわ子先生との間に何か関連性があるんでしょうか?」

澪「唯がこの、こ、コンド……をトンちゃん用の帽子だって言ってからのあの慌てよう」

律「つまりそれって、さわちゃんがそれをやったからってことか?」

紬「さわ子先生、もうずいぶん彼氏がいなくて、欲求不満なんじゃないかしら」

澪「この状況から導かれるものは……」

澪「////」

律「////」

紬「////」

梓「////」

唯「何? なんで皆黙っちゃうの?」



澪「さわ子先生、ついに人の道を踏み外すような行為を……」

律「お、おい! それはさすがに有り得ないだろ!!」

澪「いや、昔色々と無茶したであろうさわ子先生のことだ」

澪「それにさっきのあの慌てよう」

澪「充分考えられる!」

律「そんな……」

紬「確かに、それでトンちゃんの具合が急に悪くなった理由にもなるわ」

梓「でも、さすがに、彼氏がいないからってその欲求のはけ口を爬虫類に求めるなんて」

唯「なに? トンちゃんがなんで大変なことになったのかわかったの?」

澪「つ、つまりだな……さわ子先生はトンちゃんで……///」プシュ~

律「澪! 無茶はよせ!」

紬「そうよ澪ちゃん! 乙女の口からそれ以上は言っちゃいけないわ!」

梓「唯先輩、世の中には知らなくてもいいことがいっぱいあるんです」

唯「なんだかよくわからないけど、わかったよ!」

律「なんだか今日はもう練習できないな……」

梓「そうですね……、さすがにショックです」

澪「顧問がとんでもない変態だったなんて……」

紬「今後さわ子先生にはトンちゃんに近づけないようにしないと……」

唯「あれ? 今日の部活はもう終りなの?」

律「ああ、今日はもう出来ないよ……」

唯「そっか~」

澪「戸締りOKか?」

梓「窓は全部閉めました」

紬「ちょっと水槽の電源切ってくるわね」

澪「あ、そっか、今日はトンちゃんいないもんな」



紬「……よし、って、あれ?」

紬「何かしら? この水槽に沈んでいる白いもの……」

律「ムギ~、どうしたんだ~? 部室の鍵閉めるぞ~」

紬「うん、すぐ行く」

唯「明日になったらトンちゃん帰ってくるかな?」

紬「大丈夫よ、斎藤が約束破ったことなんて一度もないもの」

澪「それは心強いな」

梓「もう、さわ子先生にはトンちゃんは見せてあげません!」

律「あ~、もうなんだかそのことは早く忘れたい」

澪「でも、一応、注意くらいはしとかないとな」

紬「なんて言うの?」

澪「う、う~ん……」

唯「私が言うよ!『トンちゃんをイジメるな~!』って」

律「ここは唯に任せてもいいかな。充分それで伝わるだろ」

梓「そ、そうですね」



平沢家 食卓

唯「でね~、トンちゃんさわちゃんにイジメられてたんだって~」

憂「ふ、ふ~ん。恐いね(さわ子先生ェ……)」

唯「でも、よく考えたら、あんな帽子被されたらあずにゃんが言ってたとおり息ができないよね!」

憂「そ、そうだね、お姉ちゃん」

唯「……だったら、あのコンドームっていうの何に使うんだろう?」

憂「さ、さ~? なんだろうね」

唯「世の中にはわからないことだらけだ~」

憂「……」

唯「それにね~、せっかく今日は私がトンちゃんの水槽の水綺麗にしたのに
  トンチャンの具合が悪くなったから気持ちよく泳いでもらえなくなっちゃったんだよね~」

憂「そっか~、残念だったね」



唯「ごちそうさまでした!」

憂「はい、お粗末さまでした」

唯「じゃあ、私、部屋にいるから」

憂「お姉ちゃん、お風呂沸いたら呼ぶね」

唯「うん、わかった」

唯「今日は色々あったし日記でも書こうかな」

憂「お姉ちゃん、日記書いてたの?」

唯「たまにね、前に書いたのは三ヶ月まえくらいかな」

憂「お姉ちゃん、それはきっと日記とは言わないよ……」



唯の部屋

唯「さぁ~て、書くぞ~」


 ○月×日

 今日、トンちゃんが命の危険にさらされました。
 どうやらさわちゃんが、イタズラをしたせいらしいですが
 どんなことをしたのかは皆教えてくれません。
 なにやら陰謀めいたものを感じます。
 せっかく私がトンちゃんの水槽の水を綺麗にしてあげたのに、その努力が水の泡です。
 私がいったいどのような努力をしたのか、それは今日のプールの授業までさかのぼります。

 今日は暑かったのでプールは大変気持ち良かったです。
 トンちゃんの真似をしたらムギちゃんに似ていると言われました。
 でも、そういえば途中からそのムギちゃんがいなくなったように思われました。
 どこに行ってたんだろう?

 和ちゃんと澪ちゃんは良い体です。とくに澪ちゃんはエロいです。イチコロです。
 私とりっちゃんはヒンソーです。こればっかりは仕方がありません。

 昔、和ちゃんにプールに入っている白いのはバブだと教えられました。
 でも、どうやら今の時代はバブに変わって塩素をプールに入れるようになったというのです。
 その塩素は水を綺麗にするものだと澪ちゃんから教わりました。また一つ賢くなりました。
 きっと疲れをとることより、安全を重視した政府の方針のためでしょう。
 おっ! なにやらこのコメントは知的です。

 せっかくなので幾つかその塩素を持ってきたけど、和ちゃんに返してきなさいと言われました。
 でも、そこでヘコタレないのが私です。和ちゃんたちには秘密でこっそり隠して持ってきたのです。

 お弁当を食べ終わったあと、私はトイレに行くと言って
 こっそりと軽音部の部室へ行きました。
 そういえば、そのときにさわちゃんに会ったんだっけ。
 今思えば、なんだか様子が変でした。すでにトンちゃんへのイタズラをした後だったのでしょうか?
 でも、トンちゃんはいつもと変りなく元気よく水槽の中で泳いでいたのです。
 そして私は、トンちゃんの水槽にさっきプールから拾ってきた塩素をドバドバと入れました。
 それはそれは、ドバドバと。これで、水槽の水は綺麗になりトンちゃんも綺麗な水で
 とても清々しい気分となるに違いないと思いました。
 きっと放課後、綺麗になった水の中で電光石火の如く泳いでいるトンちゃんを見た
 軽音部の皆は私を賞賛することでしょう。
 とくに一番トンちゃんを可愛がっているあずにゃんに至っては
 私の働きを知るやいなや、滝のような涙を流すほど感動をすると思います。
 黙ってやる、というのがなんともカッコイイではありませんか。
 だから私は皆に黙ってこの作戦を実行したのです。

 しかし、その努力のかいも虚しく、
 私の平沢唯英雄計画はさわちゃんの悪事によって脆くも崩れ去ったのです。
 さわちゃん許すまじ!

 今度のプールの授業でも塩素を獲得し、
 またトンちゃんの水槽の中へドバドバと入れようと思います。
 次こそは、皆に褒められると嬉しいな。



唯「よし! 書けた!」

憂「お姉ちゃん、お風呂沸いたよ」

唯「は~い」



 おしまい