澪(梓が私のことを好きだって?
  ずっと私のことを好きだったって……?)

澪(梓の奴、顔真っ赤にして、もじもじして……
  冗談で言っている感じでもなさそうだし……
  おそらくは本気で私のことを好きだったんだろう)

澪(私が梓と付き合う、か……
  馬鹿を言え、そんなことできるわけないだろ)

澪(だって私は……私は、
  梓の私に対する想いにも気づかずに……
  私を好きでいてくれた梓を……
  ただファックの対象としてしか見ていなかったんだッ!!)

澪(こんな私に……梓の気持ちを受け入れる資格なんて……
  そして梓とファックする資格なんて……ありはしないッ!)

澪(クソッ……私は最低のバカヤロウだ……)

梓「み、澪先輩……?」

澪「すまない……私は……お前とは付き合えない」

梓「えっ!?」

梓「な、なんで……ですか」

澪「すまない……本当に」

梓「ど、どうして……
  他に好きな人がいたりするんですか?」

澪「いや、いない」

梓「じゃあ、私のことキライなんですか?」

澪「そうじゃない……」

梓「私にダメなとこがあるなら言ってください!
  絶対直しますから!」

澪「違うんだ……」

梓「だから……だから私のこと……ふらないで」

澪「梓は何も悪くない……
  ただ私じゃ梓の気持ちを受け入れられない……それだけだ」

梓「そ、そんな……そんなのって」

澪「もう……出てってくれ」

梓「っ……」

梓「わ、わかりました……
  今日は帰ります……また明日、音楽準備室で」

澪「ああ……」

梓「それじゃ……」
ガチャバタン



澪「……」

澪「ごめん、梓」

澪「私とお前が付き合っても」

澪「ただお前を汚すことになるだけだ」

澪「お前は私のことを愛してくれるのだろうけど」

澪「私はお前がしてくれるようにお前のことを愛せない」

澪「私はお前のことを下心ありきでしか見られない」

澪「情けない先輩だと罵ってくれていい」

澪「いっそ嫌ってくれていい」

澪「だから……」



翌日、音楽準備室。

ガチャ
澪「……」

梓「あ、澪先輩」

澪「お、おう」

梓「……」

澪「……」

梓「……」

澪「……」

梓「……」

澪「……」

梓「……」

澪(気まずいなあ……)

梓「……」

澪(振った側と振られた側が二人きりだもんな……
  たぶん今ここが世界で一番気まずいはずだな……)

梓「あの」

澪「ひゃい?」

梓「紅茶淹れたんで、どうぞ」

澪「あ、ああ……ありがとう」

梓「ムギ先輩ほど美味しくはないかも知れませんが」

澪「……」ずずっ

澪(まず……)

梓「……」

澪「……」

梓「今日も先輩たちこないんですか」

澪「ああ」

梓「そうですか」

澪「……」

梓「……」

澪(人は気まずさで死ねるのではないか?)



ガチャッ
和「律いるー? また書類出てないんだけどー」

澪(救世主キターァァァ!)

梓「……」

和「あれ、あなたたち二人だけなの?」

澪「律なら今ごろ京都府立植物園の温室をさまよってるよ」

和「ふーん、じゃあいいわ。邪魔したわね」

澪「あ、ま、待って!
  こ、紅茶でも飲んでいかないか?」

梓「……」

和「そうね、じゃあちょっと一服していこうかしら。
  お言葉に甘えて」

澪「ああ、うん、あんまり根詰めるのもよくないし、
  適度に休んだほうがいいんだよ、うん。
  はい紅茶」

和「なにこれまずっ」

梓「……」



和「ところで唯とムギは?」

澪「休みだよ」

和「ふーん」

澪「ムギはフィンランドに行ってるんだ。
  おみやげ期待しててねって言ってたよ」

和「フィンランドのおみやげって何があるの?」

澪「さあ……?」

和「梓ちゃん、知ってる?」

梓「サルミアッキとか」

和「食べ物?」

梓「お菓子です」

和「美味しいの?」

梓「超美味しいですよ」

和「へぇー……」

澪(よけい気まずくなったような……)

澪(というか和と梓の組み合わせは
  根本的に合わない気がする)

梓「あの、澪先輩」

澪「な、なんだ?」

梓「練習ないなら、帰っていいですか」

澪「あ、ああ……いいよ」

梓「じゃ帰ります。お疲れ様でした」

澪「ああ、うん」

梓「ではまた明日」
ガチャバタン

和「……」

澪「ふぅー……」

和「梓ちゃん、なんか元気なかったわね」

澪「ああ……ちょっと色々あってな……」

和「え、何? 何があったの?」

澪「実は……昨日、梓にコクられたんだ」

和「えっ、マジで!?」

澪「うん」

和「あっ、じゃあもしかして私オジャマだったんじゃない?
  それで梓ちゃん帰っちゃったんじゃ」

澪「いや違う、そういうわけじゃないんだ。
  私は梓の告白を断ったから」

和「うぇ、なんで?」

澪「実は……私、ずっと梓とファックしたかったんだ」

和「は?」

澪「梓を性の対象としてしか見ていなかった……
  でも梓は私のことを純粋に想ってくれていたんだ」

和「……」

澪「だから……自分が情けなくて」

和「……」

澪「梓が私を好きだと言ってくれたのは嬉しい……
  でも……私には……それを喜んで、
  梓の気持ちを受け入れる資格なんかないんじゃないか、って……」

和「澪……」

澪「どうしたらいいんだろう……?
  このままじゃ……」

和「バカね……答えはもう決まってるじゃない」

澪「えっ……?」

和「今言ってたでしょ。
  梓ちゃんに告白されて嬉しかった、って。
  それがすなわちあなたの答え。
  梓ちゃんの好意に応えたい、って思ってる」

澪「でも、私は……私なんか……!」

和「自分のことを嫌いになるのはまだ早いわ。
  澪のホントの気持ち、まだ梓ちゃんに伝えてないんでしょう?」

澪「うん」

和「ならまずそれをするべきよ。
  それをせずにウジウジ悩んでるのは、
  梓ちゃんの気持ちから逃げてるだけだわ。
  それは梓ちゃんにたいして一番失礼な行為よ」

澪「……」

和「行きなさい、秋山澪。
  今ならまだ間に合う。
  あなたの胸にある本当の想いを……梓ちゃんに伝えてきなさい」

澪「ああ……わかったよ。
  ありがとう、和……
  逃げてるだけなんて、駄目だよな……」

和「ええ。梓ちゃんは澪に想いをぶつけた。
  だから澪もそれに応えてあげなくちゃ」

澪「わかった、行ってくるよ、和!」

和「ええ、応援してるわ!」



そうだ、自己嫌悪に陥っていても仕方ない――


自分から立ち上がって、自分からぶつかっていって――


それでもしダメでも、また何度でも立ち上がればいい――


梓だってきっとそんな覚悟で私に告白してきたはずなんだ――


ならば私はそれに全力で応える――


応えなくちゃ、いけないんだ――



澪「梓ァっ!!」


 今こそ伝えよう――


梓「み、澪先輩!?」


 私のことを好きだと言ってくれた君に――


澪「私は、お前に言わなきゃいけないことがある!」


 私の奥底から湧き上がるこの気持ちを――


梓「は、はいっ!」


 そのままはっきりと、言葉にするんだ――


澪「梓、私は……私は……!!」








澪「私は、梓とファックしたい!!!!!!!」










梓「死んでください」

澪「……」



そして梓は踵を返して去っていった……
自分の想いを相手にぶつけることと、
相手に受け入れてもらうことは別問題なんだということを、
ほっぺに残る平手打ちの痛みが語ってくれる……
でもきっとこれが青春ってやつなのかもしれないな……
恋、下心、悩み、勇気、そして痛み。
私はこの二日間で色々なことを味わった……
はは、この経験をもとにいい歌詞が書けそうじゃないか……
何事もポジティブに考えないとな……



そして私たちはそれ以降も気まずい部活タイムを過ごすことになる……
ムギが親戚の法事から帰ってきたおかげで
気まずさもやわらぐかと思ったが
和から私たちのことを聞きつけたらしく
なぜか私と梓をくっつけようとしてくる……
ムギはきっと恋のキューピッド気分なんだろうな、
こっちにとってはいい迷惑だが……



紬「あ、そうそう、おみやげのサルミアッキよ」

澪「あー、これ超美味しいんだっけ」

梓「ああ……超美味しいですよそれマジで」

澪「へえー」

紬「うふふ」

澪「じゃあ一個もらおうかな」ひょいぱく

梓「……」

澪「ぶっげぇーっ!? な、なんじゃこれ、げぇーっ!! うげええぇーっ!!」

梓「ぷっ……あはははははっ!!」

紬「あははは、はははは!」

澪「な、なんだよこれー! お前ら知ってたのか!?」

梓「あっはははは、サルミアッキって言ったら世界一まずいアメで有名じゃないですか!
  ナイトスクープにも出てましたよ」

紬「あはは、ごめんね澪ちゃん」

澪「く、くそー、はめやがって~!」

でも、部活タイムも気まずいばかりではなくなった。
きっと唯や律も帰ってくれば、またいつもの軽音部に戻れるだろう。
そうなったらもう一度、梓にファックさせてくれるよう頼んでみるつもりだ。

         お        わ          り