静かに自分の部屋から出てドアを閉める。

廊下には誰もいない。

このまま誰とも会わずに抜け出すかも知れない。

胸が高鳴る。
なんたって始めて私は家を抜けだす。

誰から何も言われず好きな所へ行ける。

こっそりこっそり歩く。

紬「……………」

誰とも会わずに玄関まで行く事が出来た。

後はこの扉を開けば……。

斎藤「何処へ行かれるのですか?」

体がビクッと反応をする。
振り返ると斎藤がいた。

紬「さ、斎藤……」

斎藤「外へ行かれるおつもりですか?」

紬「うん……ダメ?」

斎藤は腕を組み何かを考えている。

斎藤「琴吹様は2時間後にお帰りになられます。それまで帰って来るのであればいいでしょう」

紬「帰ってくるわ」

斎藤「わかりました。気をつけて下さいね」

紬「わかった」

斎藤「この事は二人だけの秘密ですよ?」

紬「えぇ!斎藤ありがとう……じゃあ行くわね」

斎藤「行ってらっしゃいませ」

勢いよく外へ飛び出す。
日差しが気持ち良い。
斎藤には本当に感謝しなくちゃ。

しばらく歩く。

平日だから人は少ない。
何だか学校を休んで外をお散歩する何てイケナイ事だと思うけど……。

何だか凄く楽しい。

紬「あ、猫……」

子猫が物影から出て来た。
私はすぐに子猫の元に駆け寄る。

紬「何処から来たの?」

子猫はニャーとだけ答える。

紬「可愛いわね~」

頭を撫でると子猫は目を閉じて気持ち良さそうに欠伸をする。

紬「それじゃあ私、もっと他の所に行きたいからバイバイ」

子猫がニャーと言ったのを確認すると私は歩き出した。
よーし次は商店街に行こう。

商店街は人で賑わっている。
魚売り場で威勢の良い声を出す男の人。

それを立ち止まって聞いているおばちゃん達。

もう少し歩くとファーストフード店が見えた。

ガラスを通して中を覗いて見る。

高校生ぐらいの年の子が笑いながら昼ご飯を食べている。

私も友達とファーストフード店に行きたいな。

あぁ言うふうに笑いながらハンバーガーを食べたい。

そう言えばテレビで見た事がある。
ファーストフード店ではご一緒にポテトもいかがですか?と聞かれるらしい。

聞かれてみたいな……。

腕時計を見るともう一時間も経っていた。

時間が経つのが早いなぁ……。
そろそろ帰らなくちゃ。

もうちょっと回りたかったけど仕方ない。
お母様とお父様に私が家から抜け出した事がバレると斎藤と私が怒られる。

はぁ……またこう言う日が来るといいな。

紬「お帰りなさい」

斎藤「楽しめましたか?」

紬「えぇ…とっても」

私は微笑んて言った。

斎藤「それはよかった…もうすぐお母様とお父様が帰って来るのでご自分の部屋にお戻り下さい」

紬「わかったわ……斎藤今日はありがとう」

斎藤「いえ、お嬢様にも気分転換の時間は必要て思ったので」

紬「斎藤……本当にありがとう」

紬「楽しかった」

自分の部屋へと戻った私はベットに横になる。

少しだけお昼寝をしよう。

また、あの人達は私の夢に出て来てくれるかな?
とっても楽しみ。

何だか今日は一日が充実してる。
凄く楽しい。

毎日、こんな日が続いたらなぁ……。
瞼を閉じる。
あの人達が私の夢に出て来るといいな。

~~~

「起きろ紬」

何処かで聞いた事のある声……お父様の声だ。

紬「……お父様?」

「起こしてごめんな」

紬「いえ…大丈夫です私に何か用事ですか?」

お父様は私に笑顔を見せた。
お父様の笑顔……久しぶりに見た。

「許婚の事だけどあの話しは無しになったぞ」

紬「ほ、本当ですか!?」

いきなりの事でびっくりした。
まさか……許婚の話しが無しになるなんて……。

「あぁ、本当だ」

「よかったわね紬」

お母様が私の部屋に入って来た。

紬「……はい!」

「それとね……アナタが高校生になったら好きに外を歩いていいわよ」

紬「いいんですか!?」

「勿論よ!今までアナタに自由を与えなくてごめんね」

「俺が少し厳し過ぎたかな……?」

「本当に厳し過ぎるわよ」

二人は何だか仲が良さそうに見える。
新婚の夫婦みたい。

~~~


紬「んっ………」

目が覚めた。
さっきのは夢だと気付くのひ数秒掛かった。

紬「…………夢」

そう、さっきのは夢。
仲良さそうにするお母様やお父様も夢。

お父様が私に言った事も夢。

紬「全部……夢なんだ」

斎藤「お嬢様……よろしいですか?」

紬「えぇ…大丈夫よ」

斎藤「夕食の準備が出来ております」

紬「わかった……すぐ向かうわ」

斎藤「かしこまりました」


夕食を食べ終わりお風呂にも入り終わりベットに横になる。

紬「おやすみなさい」

明日から学校に行かなくちゃ。
また何か言われるんだろうな。

でも、あまり休んでると家族にも迷惑を掛けてしまう。

……とりあえず今日は寝よう。


朝の日差しで目が覚める。
今日の夢はあのヘアピンの女の子のお話を聞いた。

声が出なくなっていたから何か質問したかったけど…それでも楽しかった。

何だろう……現実の世界より夢の世界の方が楽しい。

……早く制服に着替えよう。
学校に行かなきゃ……学校に行かなきゃ……。


朝ご飯を食べ学校へ行った。
私が教室へ入ると同時にみんなからの罵倒。

そして、女の子が私に突っ掛かって来た。

私は何も出来ずにただ叩かれた。
何度も何度も叩かれた。

私が叩かれる姿を見て男子生徒が止めに入ったけど、どさくさに紛れ男子生徒は私の胸を触った。

何も言えずに席に座る。
悔しさで胸がいっぱいだ。

先生が来るまでずっと俯せていた。
みんなに罵倒されるのを私はただ我慢する事しか出来なかった。

あの夢のような友達は現実にはいない。

昼休みに私がイジメられている事を先生に言った。
わかった何とかしてみると言ってくれた。

これでやっとイジメが無くなるのかな?


授業中に私は寝た。

夢の中のみんなが私を慰めてくれた。

夢の中では声が出ないからありがとうって言えない。
放課後。
私は女の子に連れだされ叩かれた。

私を連れ出した女の子を知っている。
最初に私をイジメていた彼女の親友だ。

私は彼女から何とか逃げた。
叩かれるのは嫌だ。

誰だってそうだ痛いの好きな人なんていない。

家に帰ると斎藤がいない。

そして聞こえるお父様とお母様が喧嘩する声。

私がどうとか、紬を産んだせいで子供が産めない体になったとか色々聞こえる。


夕飯の時間、お父様が言った。
どうやら私をA高校に行かせるらしい。

その高校は県内トップクラスの学校で私は入るのが難しいと答えた。

……これからは勉強を沢山させるらしい。
今まで以上に沢山させるらしい。

本当は桜ヶ丘高校に入りたいと言いたかった。
でも、言えなかった。

反対されるのが分かっているから。

お風呂から上がりすぐにベットに横になる。

早く寝たい。

夢の中のみんなの話を聞きたい。
みんなは私の1番の友達だ。

夢の中の住人が1番の友達だなんて、おかしな話だけど……それでも叶わない。
紬「おやすみなさい」

今、会いに行くからね。

~~~

今日はみんな揃っていた。
そして、みんなの話を熱心に聞いた。

それぞれの名前も聞いた。

ヘアピンの女の子は平沢唯ちゃん。
カチューシャの女の子は田井中律ちゃん。
綺麗な髪をした女の子は秋山澪ちゃん。
ツインテールの女の子は中野梓ちゃん。

みんな可愛いくて優しい人ばかり。
こんな友達が現実にもいたらいいのになぁ……。

~~~


斎藤の声で目が覚める。

今日も学校だ。
でも、先生が何とかしてくれるだろう。

すぐに学校の支度をして制服に着替える。

ただ黙って朝ご飯を食べ歯を磨いた後に家を出る。

登校中にクラスメイトがいたから別の道から学校へ行った。

何で私がコソコソしなきゃならないの?
悪い事をしてるのはアッチなのに。


学校でイジメられて家で二人が喧嘩する声を聞いて寝る。

二ヶ月程、それを繰り返して生活していた。

イジメられている事を家族に言おうと思っても言えない。

それに先生は何の力にもなってはくれなかった。

「みんなお前をイジメてないと言ってたぞ」先生はそう言っていた。

きっと私よりみんなが言ってた事の方が信用出来るんだ。

今日はみんなにどんな事をされるのだろう?

みんなは私の体や制服を傷付けるようなイジメ方をしない。

それだとバレてしまうからね先生に。

だから陰湿なイジメをずっと繰り返す。

給食に何かの幼虫を入れられ、上履きを男子トイレの便器に突っ込まれたりもする。

家には私の許婚が居た。

彼は私を見た瞬間に、馴れ馴れしく私の肩を触る。

彼が私を見る目は怖い。
足から私の胸まで全身を舐め回すように見る。

そして私の顔を見て不気味な笑みを浮かべるの。

嫌だ絶対にこんな人とは結婚なんかしたくない。


また今日もイジメられて喧嘩する声を聞いて日が暮れる。

イジメられて喧嘩する声を聞いて日が暮れる。

クラスメイトの人達が私をあざ笑い。

家族が私を除け者にする。

今は夢とピアノだけが私の救い。

鍵盤に指を置く。
イライラする声の中でジトジトする空気の中で私はピアノを弾き始めた。

ピアノがうるさいと怒鳴られ私はピアノを弾くのを止めた。

……しばらく天井をジッと見ながら考え事をしていた。

あの夢の世界にずっといたい。

……叶わない事を夢見ながら私は瞼を閉じる。

明日の不安に怯えながらいつの間にか夢を見ていた。
夢の中のみんなは親身になって私の悩みを聞いてくれた。

お母様が私に言った。

日曜日に許婚と二人でデートする事になった。

勿論、断った。
だけどお母様は私の意見を聞き流し無理矢理デートをさせられる事になった。

お父様も家族の為だとかお前の許婚は会社の重役だとか言っていた。

二人共、私の事なんか考えていない。

いや、考えているかも知れないけど私を物扱いしている。


日曜日のデートの日。

斎藤から遊園地へ送られた。
斎藤は頑張って下さいだとか今日はいい日ですねとか言って私の本当の気持ちに気付いてくれなかった。

待ち合わせ場所には彼がいた。

また私の全身を舐め回すように見た。

鳥肌が立った。
もう嫌だ彼と会いたくない。

気の乗らないまま彼にあっちこっちを連れ回され。

乗りたくもないアトラクションにも乗せられ。

日が暮れる。

斎藤が向かいに来るまで後もう少し。
綺麗な夜空を見ているといきなり彼が私の肩を両手で強く掴んだ。

そして抵抗する間もなく私は彼にキスされた。

思わず彼を突き飛ばす。

彼は驚いた表情で私を見た。

彼から離れようそう考えた瞬間に斎藤が私を迎えに来てくれた。

素早く斎藤の車に乗り彼から逃げるように去った。

気持ち悪い。
まだ彼の唇の感触が残ってる。

家に帰った私はすぐに歯を磨きお風呂に入る。

お風呂から上がってベットに横になる。

明日から学校だ。

もう嫌だ……ずっと夢の中にいたい。

頭の中で何かが閃く。
夢の中にずっといる方法が思い付いた。

みんなが寝静まった頃、私はまだ起きていた。

クローゼットからいくつか洋服を取り出し繋げる。

破れないようにね。

……救いを求めて夜空を見た。

月や星が一つもない真っ暗闇。

1番最初に見た夢。
唯ちゃんが話してくれた話を思い出す。

「アナタの頭上に綺麗な光の玉が浮かんでてさ」

綺麗では無いけど確かに光の玉がいくつかある。

「その玉から白い布が垂れて下がって来てね……」

布を天井に結び付ける。

「アナタがその布を触ったかと思うと」

大きく深呼吸。
上手く息が出来ない。

「アナタは宙に浮かんでとっても楽しそうだった」

私は椅子を蹴った。

「私に手を差し出して……私がその手を握ろうとした瞬間に目が覚めた」
「寝たかな?……おやすみなさい」
「この夢が実現したらいいな……」

実現しているよ。
瞼を閉じる。
もう何かを考える余裕なんてない。
おやすみなさい。
長い夢を見よう。
長い長い夢を……。
END






紬「………は」

チャイムの音で目が覚めた私は辺りを見渡した。

紬「学校……」

……そっかどうやら私は夢を見ていたみたいだ。

とっても嫌な長い夢。
時間は4時……放課後だ。

そう言えば今日は合唱部に見学に行くんだっけ。

おかしいな何か記憶が断片的だ。

きって寝ぼけているのかな?

とりあえず合唱部に向かおう。
……場所何処だろ?

合唱部だから音楽室かな。

音楽室の前に辿り着いた。

はぁ……緊張するな。
心臓に手を当てて深呼吸をする。

紬「…………よし」

音楽室の扉を開く。

紬「あのー…見学したいんですけど…」

カチューシャを着けた女の子が私の肩を掴む。

律「軽音部の!?」

紬「いえ…合唱部の」

今度は私の手を握って来た。

律「軽音部に入りませんか?今部員が少なくて…」

澪「こら!!そんな強引な勧誘をしたら迷惑だろ」

何だろう……。
随分前に彼女達の顔を見たような気がする。

ある言葉が頭の中に浮かんだ。

『今、私達が生きて感じている世界はひょっとして夢なんじゃないかな』

何でこんな事が急に頭に浮かんだんだろう?

それに誰が言ったか分からない。

澪「捏造すな」

黒くて長い髪の毛の女の子がカチューシャをした女の子にチョップをする。

紬「ぷっ…くすくす」

二人のやり取りを見て何だか可笑しくなってきた。

この部活に入りたい。
いや、この二人と友達になりたい、とても楽しそう!

紬「何だか楽しそうですねキーボードぐらいしか出来ませんけど私でよければ入部させて下さい」

また頭の中にある言葉が二つ浮かんだ。

一つ目は『夢はね無意識が生み出す“見たい”と思ったイメージなんだよ』

二つ目は『いい夢みれるといいね……』


紬「LongDream」