彼女がそう言って数秒後……私は目が覚めた。

紬「楽しい人だったな……」

いい夢を見た後は何だか切ない気持ちになる。

斎藤「紬お嬢様朝です」

紬「もう起きてるわ」

斎藤「そうですか……制服はクローゼットに掛けてありますので…では」

クローゼットを開き制服を取り出す。
バスローブを脱いですぐに制服に着替える。

着慣れた制服……でも後六ヶ月後にはこの制服を着なくなる。

リボンを結びカバンの中を見る。

そう言えば昨日は学校の用意をしてなかった……。

学校の用意をしよう。
まだ朝ごはんまで時間はある。

今日もあの人からイジメられるんだろうな……。

用意も終わったし朝ごはんも食べ歯も磨いた。

斎藤から見送られ私は家を出た。

今日もいい天気だ。
後ろから誰かの笑い声が聞こえた。

振り返ると私と同じ制服を着た二人の女の子が一緒に歩いている。

また女の子が笑った。
きっと楽しいお話をしているんだろう。

私もああ言うふうに友達と何かを話しながら一緒に学校に行きたいなぁ……。

紬「………………」

黙って教室へ入り席に座る。

「あ、琴吹じゃん」

彼女は私をすぐに見付けた。
そして、私からカバンを取り上げる。

ジッパーを開けてカバンを逆さまにしカバンの中に入っている教科書や筆箱を床にバラまく。

「あ、ごめんねー」

わざとらしく笑みを浮かべながら私に謝る。
当然、悪いだなんて思っていないだろう。

私はただ黙って床に落ちた教科書や筆箱を拾う。

「私がごめんなさいって言ってるのにアナタは私に謝らないわけ?」

彼女の顔を見る。
眉間に皺を寄せ今にも私を叩きそうな表情だ。

紬「ごめんなさい」

彼女に聞こえるように言ってまた教科書を拾い始める。

最後の教科書を拾おうとした瞬間、彼女は私の手を踏み付けた。

紬「い、痛いわ……」

彼女はまだ私の手から足をどかさない。

「痛く無いでしょう?」

紬「足をどけて……」

少しだけほんの少しだけ威圧するように言った。

「何?その態度」

彼女は足を退かしてくれたが今度は私の髪を掴んだ。

「お前が私達の家族に何したかわかってんの?」

私と彼女を黙って見ていた人達が騒ぎ出す。

「そうそうマジ可哀相」「死ね」「琴吹さんが全部悪いよね」「つーかあんな酷い事して学校に来れるアイツの神経どうかしてるよねー」

クラスメイトの人達のヤジはまるで鋭利なナイフ、私の心をズタズタに切り裂いて行く。

紬「ごめんなさい……」

涙を堪えながら彼女に謝る。

「ごめんなさい?」

彼女は私の髪の毛を引っ張る。

紬「痛っ痛いわ!」

「お前のせいで私達の家族はグチャグチャなんだよ!謝っても許さないからな」

髪の毛から手を話して今度は肩を掴む。

紬「ごめんなさい……私がお父様に頼んでいれば……本当にごめんなさい」

ダメだもう堪えきれない。
涙が溢れて来る。

「はぁ?何で泣いてるの?意味わかんないんだけど」

ヤジも段々と酷くなる。
もうやめて……。

「死ね馬鹿キモイ最低」
誰が言っているのか分からないけど……もうやめて。

「……人殺し」

紬「……え?」

彼女は私を勢いよく押した。
尻餅を付く。

「私のお父さんを殺したのはお前だよ人殺し!」

違う……私じゃない。

「はぁ?何言ってるんだよ!お前の父親が私の父親をクビにしたから自殺したんだよ!」

紬「そうやって何でも人のせいにすれば良いって思わないでよ!」

「うるせんだよ!」

また彼女は私を押し飛ばした。

だけど私は倒れなかった。

紬「もう私に酷い事をしないで……」

ヤジが静かになる。
彼女は膝を着いて泣いた。

紬「私をイジメないで……」

クラスの人達が彼女を慰める。

ちょっと酷い事を言い過ぎた。
自分の席に戻り机に俯せる。

なんであんな事を言ってしまったんだろう……。
黙って彼女の話を聞いていればよかった。

酷い罪悪感が私を襲う。

まもなくして先生が教室に入って来てHRを始める。

そして……ただ時間が過ぎて行き放課後。
私はこの日、授業も聞かずに俯せひたすら罪悪感と戦っていた。


あれから二ヶ月が過ぎた。
相変わらず私は一人ぼっち。
そうだよね……彼女にあんな事言ったんだから。

私を見るクラスメイトの目は明らかに私を嫌ってる目をしてる。

地味な嫌がらせもしてくる。

私にわざとぶつかって来たり机の上に水をかけられたり……。

先生が教室に入って来た。

息を切らしている。
何かあったのかな?

「みんなすまん一限目は自習な」

クラスメイトの一人が何かあったのか?と聞いた。

「いや……何でもない」

何かを隠してる。
そんな表情をしていた。

さっきとは違うクラスメイトが話し始めた。

昨日、私は死ぬからバイバイとメールが来たらしい。

私をイジメていた彼女から……。

一人一人騒ぎ始める。
私、以外の全員が彼女の事を噂し始めた。

私も頭の中で想像をしていた。
もし、彼女に何かあったらどうしよう。

「落ち着け!」

先生が怒鳴るように言った。

「アイツは無事だ……」

ホッと胸を撫で下ろす。
よかった無事だったんだ……。

またクラスメイトの一人が先生に問いかけた。

「何かあったんですか?」
先生が答える。

「リストカット……してしまったみたいなんだ」

そんな……。

「容態は大丈夫だ心配ない……少し日にちが経てば学校にも来られる」

クラスメイトの一人が私を見る。

また一人また一人私を見る。

「じゃあ……自習だ静かにしてろよ」

先生は教室から出て行った。

いつの間にかクラスメイトの全員が私を見ている。
鋭い目付きで……私を見る。

「琴吹がリストカットに追い込んだんじゃね?」

紬「ち、違う!」

否定する決して私じゃない。
確かにあの時、彼女に酷い事を言った。
だけど、もし私が言った言葉が彼女を深く傷付けてしまったなら彼女はその日の内にリストカットをしている筈だ。

「嘘付くなよ!」

誰かが私に消しゴムを投げ付けた。

「お前だろ?」

紬「ち、違うわ!」

前の席の人が私にビンタをした。

紬「……っ!」

「アナタでしょ?」

首を横に振る。
また誰かが消しゴムを私に投げ付ける。

紬「…………私じゃないわ信じて」

「お前以外に誰がいるんだよ」

みんな私に罵倒を浴びせ始める。
そんな酷い言葉聞きたくない。
両手で耳を塞ぐ。
やめてもうやめて。

それからずっと私は責められ続けた。

先生がいる時は消しゴムのカスを投げ付けられ。

いない時は罵倒を浴びせられる。

放課後を告げるチャイムが鳴った瞬間、私は逃げるように学校を去った。

違う彼女を追い詰めたのは私じゃない。
みんな信じてくれない……。

家の扉を開ける。
おかしい何時もは斎藤が私を待っている筈なのに今日は誰もいない。

紬「斎藤?」

微かに誰かの声が聞こえる。
これはお父様の声だ……。
声がする方向へ近付いて行く。

お母様の声が聞こえる。

……二人はまた喧嘩しているみたいだ。

「だからあの時、おろせばよかったんだ!」

「そんな……何でそんな酷い事を言えるの?」

ずっと気になっていた。何が原因で喧嘩をしているのだろう?
聞き耳を立ててみる。

「紬はダメだ!何故あの時、女とわかった瞬間におろそうとしなかった!?」

「そんな事出来る分けないじゃない!」

……私の事で喧嘩をしているみたいだ。

「アイツが俺の会社が継げるか?継げないだろ!やっぱり男がよかった」

「酷いわ……」

「女に俺の会社は継げない男がよかった……」

お父様の話を黙って聞いて私は思った。
お父様にとって私は望まれた子供じゃなかったと。

もう聞きたくない。
聞こうと思ったのが間違いだった……。

部屋に行こう。

もう誰の話も聞きたくない。

紬「…………ぐすっ」

涙が溢れる。
拭っても脱ぐっても止まらない。

私は望まれた子じゃなかった……。

本当はお父様は男が産まれて来て欲しかったんだ……。

もう寝よう。
今は何をする気にもならない。

おやすみなさい……。


~~~

「寝てるか?」

目が覚める……あれ?
ここは何処だろう?

知らない場所それに声が出ない……そっか夢か。

「あ、起こしたか?ごめん」

黒くて綺麗な髪の女の子が私にお辞儀をした。
彼女の後ろにはツインテールの可愛いらしい子もいる。

「始めまして」

ツインテールの女の子も私にお辞儀をする。

私も彼女達にお辞儀をした。

「まだ寝てていいんだぞ」

私は首を横に振る。
この人達とお話したいから。

「そうですか……じゃあお話ししましょうか」

「うん、そうだな」

二人は私の目の前に来て座る。
何だか……この二人は姉妹みたいだ。

「何を話しましょうか……」

「そうだなー…」

「うーん…なぁもしも夢だったら?」

彼女の瞳を見る。

「何がですか?」

「ほら、アナタの世界が夢だったらどうする?」

彼女は私を見て言った。

もし私の世界が夢だったら……。

きっと私は喜んじゃう。

目が覚めて……お父様とお母様がまず1番に私に「おはよう」って言ってくれるの。

お母様とお父様はとっても仲が良くて……喧嘩なんか滅多にしない。

家族だけで一緒に朝ご飯を食べて笑って。
学校に行って……友達と放課後、遊ぶ約束をするの。

授業中、先生に内緒で友達と手紙を交換し合ったりそれがバレて友達と一緒に廊下に立たされたり…。

昼休みには今みたいに友達と話し合って……。

そして待ちに待った放課後……私は友達と一緒に遊びに行くの。

でも……こんな事は絶対に無い。

現実はお母様とお父様は喧嘩していて私には友達がいなくて……一人ぼっち。

「夢はさ……無意識が生み出す“見たい”と思ったイメージ何だよ」

「アナタの見たいと思った友達と一緒に話す夢を……」

「アナタが何かを見たいと思えば思う程……アナタは幸せな夢を見れます」

私が見たいと思えは思う程……。

「私達はアナタの友達だよ……アナタは私の事を知らないけど私達はアナタの事を知ってる」

「だって……ずっと一緒ですからね」

彼女達と私は友達……。

そっか友達なんだ。
夢の中の人だけど彼女達は私の友達。

「ムギは私達の大事な友達だよ」

大事な友達だなんて……そんな事、言われた事無いから嬉しい。

紬「ありがとう……」

いつの間にか声が出るようになっている。

紬「ありがとう……ありがとう……」

「じゃあ……もうそろそろ行かないとダメだから」

紬「何処へ行くの?」

「ムギが学校にだよ。色々ツライと思うけどその時は私達を頼って」

「何時でも力になりますからね」

紬「ありがとう……」

~~~


斎藤の声が聞こえる。
私は二人に別れを告げ瞼を開いた。

斎藤「紬お嬢様…朝ですよ」

紬「え、えぇ……」

斎藤「昨日呼び掛けても部屋から出なかったですね。何かあったのですか?」

紬「いえ、何でも無いわ……ただ眠くて」

斎藤「そうですか、それではさようなら」

紬「えぇさようなら」

起き上がり学校の用意をしようとした時に制服のままで寝てしまった事に気が付いた。

でも、あまり皺になっていなく外を歩くには十分だった。

学校に行きたくない。
お母様に頼んでみようかな?

きっと受験生だから頑張りなさいって言われると思うけど……。
とりあえず言ってみよう。

紬「あの……お母様?」

お母様が私を見る。
何だか酷くやつれている。
きっと昨日のお父様との喧嘩のせいなのかな?

「どうしたの?」

紬「学校を休みたいです……」

お母様はため息の後に「ダメ」と言った。

紬「わかりました……」

学校に行くしかない…。

また、みんなから色々言われると思うと胸が痛くなる。

斎藤「琴吹様、紬お嬢様を休ませた方がよろしいかと……」

いつの間にか私の横に斎藤がいる。

斎藤「お嬢様は昨日から気分が優れないと言っております」

当然、私は斎藤にそんな事を言っていない。

「わかったたわ……今日はゆっくり休んでなさい」

紬「ありがとうございます」

お母様の元から離れ、私は斎藤にお礼を言った。

紬「あの…ありがとう」

斎藤「何がですか?」

紬「お母様に休ませた方がいいと言ってくれて」

斎藤は首を左右に振る。

斎藤「いえ、私の判断です」

紬「斎藤の……?」

斎藤「……はい」

斎藤「紬お嬢様は最近、顔色がよろしくないので休ませた方がいいと思い私から琴吹様に頼みました」

紬「そう……ありがとう斎藤」

斎藤「いえ……今日はゆっくりとお休みになって下さい」

紬「えぇそれじゃあさようなら」

斎藤「はい」

斎藤と別れ自分の部屋に戻る。

紬「はぁ……」

休んだのはいいけど何をしよう。
ピアノを弾きたいのだけど弾いてしまったらお母様から学校へ行けと言われてしまう。

ベットに横になろうかな。
今は眠くないけど……横になっていたら眠くなるだろう。

紬「はぁ……」

紬「ふぅ…………」

ベットに横になってから2時間経過。
まだ眠くならない。

斎藤「紬お嬢様お部屋に入ってよろしいですか?」

斎藤の声だ。

紬「いいわよ」

斎藤「失礼します」

ドアが開き斎藤が私の部屋に入る。
右手にサンドイッチを持っている。

斎藤「昨日、何も食べていないと思うのでサンドイッチを持って来ました」

紬「そう、ありがとう」

サンドイッチを受け取る。

斎藤「あ、それからお母様やお父様はお出かけになっています」

紬「そうなの?」

斎藤「はい、それでは失礼します」

斎藤が出て行った後サンドイッチを手に取り頬張る。

紬「おいしい……」

サンドイッチを全て平らげた。

紬「ごちそうさまでした……」

そう言えばお母様やお父様は今いないのね。

ちょっと気分転換がしたいな。
誰にも見つからないように家を出ようかな?

長い間、横になっていたから少し歩きたい。

こっそり外に出て少しだけお散歩しよう。


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