聡「そうなのかもしれませんね」

澪「やっぱりそうか」

聡「俺が高校生のころ、ある日友達が、姉のことを可愛いって言ったんです」

澪「……おやまぁ」

聡「前はそんなことなかったのに。姉が高校卒業してから、結構そう言う奴が増えてきて」

聡「俺は姉を避けるようになりました。姉と俺の友達をあまり会わせたくなかったからです」

澪「お前も結構……アレだな。憂ちゃんの素質あるよ」


聡くんの本音は私の予想の斜め上だった。
というか、これはいわゆる……


澪「シスコンか」

聡「そうですね。今になって思えば俺は姉離れできていなかったんです」

澪「今もだろ」

聡「澪さんも結構言いますね」

澪「当たり前だ。お前馬鹿だろ?もう律とはあまり会えなくなるんだぞ。このまま別れてもいいのか?」


律の悩みがただのすれ違いなら、私はそのズレを戻してやりたい。
あいつが何の悩みもなく嫁げるように、不安をなくしてやりたい。
ってなんだか母親みたいだな。



いや逆か。
今まであいつに世話になっていたのは私のほうなのだから。


聡「俺、姉が高校卒業してからどんな事をして、どんな大学生活をしていたのかも知らなかったんです」

澪「だから今日私に聞いたのか」

聡「お時間いただいてすみません。あと一つ聞きたいんです。姉の旦那になる人は、どんな人なんですか?」


まるで母親のように心配しているのは私だけではないらしい。

澪「どんなって言われてもな。いい奴だと思うよ。大学時代から律の傍にいた奴だしな」


だが、彼は律に告白したりしなかった。ただ傍で律を見ていた。
そして、律が無理をしたりわざと明るく振舞っている様子を見抜き、支えていた。

正直、私のポジションが奪われた気がして悲しくなった。
それでも、彼と一緒にいる律はとても楽しそうで。


澪「お似合いだと思ったよ。なよなよしたヘタレっぽい奴だけどな」

聡「ちょっと自分と被って胸が痛いです」

澪「ヘタレだけど、いい奴だよ。聡くんみたいにな」


大学を卒業して、律も彼も私も就職した。
そして彼が順調に社会人として成長した後、律に告白をしたのだった。


澪「そんないい奴のことだ。大丈夫だよ。じゃなきゃ私が結婚なんて認めてない」

聡「澪さん……人のこと言えませんね」

澪「はは、うるさいぞ」

聡「澪さんのおかげで色々区切りがつきました。今日はありがとうございます」

澪「いいって。私もお前と律のことは気になってたからな。何とかなりそうでよかった」

聡「では、失礼します。明日もうちにくるんですか?」

澪「律が来いって言ってたからな。たぶん聡くんやご両親も一緒に、食事でもするんじゃないか」

聡「そうですか……わかりました」


外に出ると夕暮れが広がっていた。
聡くんを送り届けた後、私も帰宅する。
明日が終われば律としばらく会えなくなるだろう。
何とかなればいいと思いながら、シルバーの車体を走らせた。



―――――――――――――――――――――――
次の日!

澪「ご馳走様です」

律「どういたしまして」

澪「お前の料理じゃないだろっ」パチン

律「痛ぁ!」


いつものやりとり。ご両親の前だから拳骨ではなくデコピンにしておく。
そんなやりとりを、みんな笑って見ていた。


澪「すいません、家族の団らんにお邪魔して」

律「何言ってんの!私が呼んだんだからいいんだよ!」

澪「でも彼は呼ばなくてよかったのか?」

律「いいのいいの。今日が終わったら中々会えなくなると思うからさ。旅立ちの晩餐?みたいな」


ご両親と話をして、しばらく過ごす。
そんな中、聡くんが何も言わずに出て行った。
律は一瞬悲しそうな顔をした後、また笑顔に戻った。

何をしているんだ、あいつは。


澪「ちょっと電話してくるな」

律「あっ、ごめん時間だいじょぶ?」

澪「大丈夫だよ。ただの連絡だから」


二階に上がって、昨日居た部屋の隣をノックする。


澪「何やってるんだよ」

聡「澪さん……」

澪「昨日はもう心配ないなと思ったのに、どうしたんだ?」

聡「……」

澪「律、悲しそうにしてたぞ」

聡「……」

聡「俺、やっぱり嫌です」

澪「?」

聡「明日から姉がいなくなるのは……嫌です」


まったく、このシスコンは。


澪「お前な……律の幸せを願ってやれないのか?それに、今までずっと一緒にいただろ」

澪「たぶん聡くんも頭では分かってるんだろ?私だってそうだ。律が引っ越して、あまり会えなくなるのは嫌だよ」

聡「はい」

澪「今までお前も私も、律に助けられてきたじゃないか」


私も聡くんも、気が弱い性格だ。
気が弱い性格というのは、気が強い人間にいじめられやすい。
律も気が強かったが、私をいじめようとはしなかった。

それどころか、守ってくれた。

そして、守られていたのは聡くんも同じだ。


澪「もう卒業……か」

聡「え?」

澪「お前も私も、そろそろ卒業するべきだよ。まぁ私は結婚してからマシになったけどな」

聡「姉を……ですか」

澪「そうだ。私は律に頼ってばかりな性格を、お前はシスコンを。そろそろ卒業しなきゃ」

聡「…………」


人は、誰かといつも傍にいることはできない。
友達も、恋人も、家族も、長い間傍にいることはあっても常に傍にいることはできないのだ。


聡「そうですね……俺も卒業しなきゃな」

聡「すいません、昨日といい今日といい」

澪「いいって。さ、行こう」

聡「ありがとうございます」


下に降りると、律がバッグを持って玄関を出るところだった。
何でも、引越し作業が難航しているためもう戻ったほうがいいのだそうだ。


律「じゃあまたな!父さん、母さん、また来るから」

律の両親は涙ぐみつつ声援をおくる。


律「澪もまたな!遊び来てよね!」


結婚式でもないのに私まで涙ぐみそうになった。
こんなときにも律は笑顔で、これからその笑顔があまり見れなくなると思うと寂しかった。


律「聡も……元気で!」


ぎこちなく笑った後、立て付けの悪い戸を開ける。
そのまま律が出て行こうとして、私が「おい聡、話が違うぞ」と思った時だった。


聡「ね、姉ちゃん!」

律「!!」

聡「えっと……元気で」

律「うん……聡も」


二人して黙る。この時初めて、似てる兄弟だなと思った。


聡「姉ちゃん、幸せになってね」

律「聡……」

聡「結婚おめでとう!!たまにはうちにも帰ってきてよ!」

律「うん……!ありがと!!」


寂しげだった律の笑顔が、曇りのない笑顔になった。
いつも私を支えてくれた、私の大好きな笑顔。

律は見ているこっちまで幸せそうに笑いながら、今度こそ家を出た。

きっと迎えに来たのであろう彼と律の楽しそうな声がドア越しに聞こえてくる。
次いで、車が走り去る音。
昨日と同じ、でも昨日みたいに次の日に会うことはもうできない。

見ると、聡くんは少しだけ涙ぐんでいた。

私はその肩をぽんと叩く。


聡「…………」

澪「卒業おめでとう」

聡「……澪さんも」

澪「……うん」

聡「色々ありがとうございました」

澪「私のほうこそ。じゃあまたな」

澪「お邪魔しました」

ご両親に挨拶して私も律の家を出る。

車のロックを解除して乗り込もうと思ったとき、不意に呼び止められた。

澪「もう……びっくりした」

シルバーの車。その隣には私を迎えに来た人。
律の旦那とは違って少し意地の悪い彼を追いかけながら、助手席に乗り込んだ。


おわり



投下というのが初なんで読みづらい部分があると思うがすまん
支援とかありがとうございました