― ある秋の日

唯「すっかり秋だねぇ」

梓「赤トンボがいっぱい飛んでますね」

澪「トンボって外国じゃ悪魔の使いって言われたりするんだよな」

唯「そ、そうなの!?」

澪「でも日本じゃ勇気や強さの象徴だ」

律「へぇ」



澪「そろそろ窓閉めようか」

唯「あっ!トンボ入ってきた」

梓「ムギ先輩トンボが」

律「お。机に止まったぞ」

紬「わぁ。くるくる~」

唯「おお!いつもより回っております!」

梓「…」

梓「てい!」

律「おっ、梓やるな!」

唯「あ、あずにゃん!?」

梓「はい?」

唯「翅掴んだらダメだよ!」

梓「え、翅掴まなかったら逃げられちゃい―」

唯「ああああもう!翅が!あずにゃん!離したげて!」

梓「わわわわ!わかりました」

………



唯「さよならトンボさん」

澪「お。出てった出てった」


律「そういえばシーチキンってあったよなぁ」

唯「あったねぇ」

紬「シーチキン?」

梓「昔はよくやりましたね」

澪「残酷だなぁ」

律「おや?澪?お前忘れたとは言わせないぞ」

澪「ヴッ」

律「シーチキン!って言いながらアキアカネを次々―」

澪「い、言うな!」

紬「ねっ、シーチキンって何?」

唯「だ、ダメだよムギちゃん!シーチキンなんてキチクのしょぎょうだよ!」

紬「え、え?そうなの?」

律「ムギ。シーチキンってのは―」

澪「終了!終了!終了だ!」

澪「ムギっ!お茶にしないかっ!?」くわっ

紬「わ、わかったっ!」

梓「…律先輩。それはみんな通る道なんです」

唯「やっぱりさー、ザリガニを和ちゃんの家のお風呂に入れたのってまだ可愛いもんだよね!」

澪「いや!それは違う!全然違うぞ!」

唯「そういえばさ!今でも和ちゃんって時々ザリガニの事思い出したように言うんだよ!」

唯「あの光景は一生忘れられないわね、って!」

澪(それを持ち出すのは…もしや和が唯に対してムカついてる時なのか…?)

律「待て待て、それって開き直って言う事か!?」

澪「…まぁ、あれってザリガニを殺したわけじゃないだろ?」

紬「あ、あのね」

梓「まっ、私なんて小学生の時アリの巣をホースで水没させてましたけどね」

律「そんなのまだまだ大したことないぞ。な!澪?」

澪「うっ」

律「花火でその辺にいる虫焼くのは当たり前」

澪「今思えば生きたまま焼かれて…」

梓「…考えてみると幼心って残酷ですよね」

律「…ワラジムシを無理やりダンゴ虫って言って丸めたり」

澪「カタツムリで遊んでて殻割っちゃったり…」

唯「ミノムシのミノは見つけるたびに剥がしちゃうよね!」

紬(な、なんだか寂しいな…)

梓「あ…。そういえば『エビ太郎』って知ってます?」(※シーモンキーです)

律「あー、知ってる知ってる!水に入れたら卵が孵るやつだろ?」

梓「そうですそれそれ。なんかちょっとキモいんですけど動きが可愛くて…」

律「そうそう!小学校の時男子が飼ってた!」

梓「で、ですね。あの子達って半透明で小さいですよね」

律「そうだな。大きくなっても1センチ行かないし」

梓「もし水から出てしまったら救出は困難…」

梓「でも私はある日よりによってエビ太郎の入った容器をカーペットの床に落としちゃったんです…」

唯「うんうん」

梓「もうエビ太郎たちの姿はピンク色のカーペットではわからず…」

律「げっ」

梓「どんどん水はカーペットに吸われるし…」

澪「そうか…」

唯「…かわいそう」

梓「母親が乾いたカーペットに掃除機をかける姿が目に焼き付いてます…」



さわ子「あら?なんか物騒な話してるの?」

紬「あ、先生~」

律「さわちゃん丁度いいタイミングで!」

紬「先生も来たしお茶に-」

唯「さわちゃん!子供の頃の虫の思い出教えて~」

さわ子「…忘れもしない小学二年生の秋。私は近所の子と一緒にコオロギを捕りまくったのよ」

律「ふむふむ」

さわ子「その数実に35匹。今の私は見るのも嫌だけど。あの頃はなんでもなかったわね…」

捕まえたコオロギを全部プラスチック製の虫かごに入れて…」

夕方、遊び終わった私は自転車のかごに彼らを入れたまま忘れて家に入った…」

紬「…」

さわ子「だけどその夜は雨が降って…」

唯「うんうん」

澪「嫌な予感しかしない」

さわ子「土砂降りの雨、逃げ場無きプラスチックの檻。

逃れることもできないコオロギ達…地獄だったでしょうね…」

律「ま、まさか…」

さわ子「朝、私が見たのは水面を黒く埋め尽くすコオロギ達だったわ…」

澪「」

律「」

唯「」

さわ子「虫かごに詰め込まれていなければあのコオロギ達は死ななかった…」

「それは間違いないわ。私はあの日、この手で35匹のコオロギたちの命を奪ったのよ…」

紬「…」

さわ子「なんてね…大げさだけど。でもあれはしばらく引きずったわ…」

澪「ですよね…」

さわ子「今じゃ虫なんて見るのもやだけどね」

律「…そうだ。虫じゃないけどオタマジャクシ」

梓「オタマですか」

律「あれは…聡の奴が卵で貰ってきて…。最初はかわいかったんだ。最初は…」

澪「うっ…あ、あれか…」

律「あれだ」

唯「?」

澪「…その中に一匹小さいのがいたんだ。私はそのオタマジャクシにちびって名前を付けた」

さわ子「なんかオチが読めてきたわよ」

澪「…そのうちオタマジャクシが成長して足が生えてくるのがちらほら出てきて」

唯「うん」ごくっ

澪「もちろんちびも足が生えてきた」

律「ある日の朝だった。その前の日から澪は私の家に泊まってたんだ」

澪「…ちびの様子を見に行った私が見たのは」

澪「足を食いちぎられて水面に浮かんだちびだった…」

律「なんまんだぶなんまんだぶ…」

唯「ぎゃああああああああ」

紬「」

律「その後はもう…恐ろしくて言えない…」

紬「…り、りっちゃん。何があったの!?」

律「え、えっと…」

澪「…共食いだ」

紬「…」

梓「お、オタマって足が生えてくる時期、共食いが特に起きやすくて…」

紬「かわいいのに…」

律「…怖かった」

梓「生き残るための術……」

唯「…オタマちゃん怖いよう」



………
……

梓「とにもかくにも虫って特に生命として軽く見られがちなんですよね…」

律「ああ…最も身近な命なのにな…」

澪「私たちによって簡単に命を奪われるような儚い存在…」

さわ子「でも…子供はきっと死を目の当たりにして、

掌の上の死を感じとって…生命の尊さを学んでいくのよ…」

梓「犠牲の上に私たちはいるんですね…」

澪「私たちの両手は虫達の死に塗れた…」

唯「うん…」

律「…お、重いな」

紬「私達に命の大切さを…」




かさっ

唯「わわっ!?ゴキブリ!」

澪「うわっ!」

紬「きゃっ!」

さわ子「死ねェ!」ばっしーん!

梓「うわ…靴でそのまま…」

律「い、今ので雰囲気台無しだよ…」


― 澪「シーチキン!」 糸冬