唯「あずにゃん・・・?」

律「何だよいきなり?」

梓「認めましたよ。さあ、蔑めばいいでしょう!?私はゴキブリなんですから!」

澪「あ、梓・・・?どうした?何言ってるんだ!?」

梓「うるさい!早く蔑んでくださいよ!ほ、ほら、新聞紙がありますよ!?これで叩き潰せばいいじゃないですか!!」

唯「あずにゃん!落ち着いて!あずにゃん!!」

梓「うるさい!!私はあずにゃんじゃない!ゴキブリだ!黴菌まみれのゴキブリだ!」

紬「お茶が入ったわよ~」

梓「蔑め!差別しろ!殺せ!私を殺せえ!!」

ガシャン!!

ガタン!!

バサバサッ!

唯「あずにゃん!あずにゃん!」

澪「梓!落ち着け!暴れちゃ駄目だ!」

律「唯!澪!ムギ!とりあえず梓を押さえるぞ!!手伝え!!」

澪「・・・わかった!ほら唯!泣いてないで立て!」

梓「触らないで!汚れますよ!?ゴキブリがうつりますよ!?離せえ!!」

バキッ

律「あぐっ!!」

澪「律!?大丈夫か!?」

唯「あああ・・・あずにゃ~ん!!」

紬「澪ちゃんお砂糖いくつにする?」

澪「梓!落ち着け梓!駄目だ、すごい力・・・!」

梓「うあああああ!!ああああああああ!!」

律「あ、梓!これを見ろ!」

澪「梓のムスタング!?」

律「暴れるのをやめないとお前の大事なギターを」

唯「だめーっ!!」

律「唯!?なっ、何するんだ離せ!」

唯「だめだよりっちゃん!そんなことしちゃだめだよお!!」

澪「唯・・・」

梓「いるかああああああ!!」

ばっ

バギィ!

唯「ああっ!!」

梓「ゴキブリがギターなんか弾くかああああああああ!!」

紬「早く飲まないと冷めちゃうよ~?」

律「澪!さわちゃん呼んでこい!あと和とか憂ちゃんとかいたら呼ぶんだ!」

澪「わ、わかった!できるだけたくさん・・・」

律「駄目だ!」

澪「えぇっ!?」

律「梓のこんな姿を・・・信用できない奴に見せられないだろ!?」

澪「律・・・そうだな、わかった!」

ダッ!

梓「逃げんなこらああああ!バルサンか!?バルサン買うんかああああああ!?」

唯「うえぇ~!えぐっ、えぐっ、あずにゃ~ん!あずにゃ~ん!」

律「澪・・・頼むぞ・・・」

紬「今日はティラミスにしてみました~。懐かしいわ~」

梓「逃げんなあああああ!!人間が逃げんなあああああああ!!」

唯「うえっ!えぐっ、おえっ!おええっ!あずっ、あずにゃっ、げほっ!!」

律「(どうする・・・?どうすれば梓は止まるんだ・・・?)」

梓「ゴキブリから逃げんなよおおお!!駆除しろよおおおお!!汚物見る目で見ろよおおおおおお!!」

律「(梓のやつ・・・まさかゴキブリって呼ばれたいのか!?)」

唯「げえっ!おえっ!おええ!!」

律「(そうか・・・確かにゴキブリ扱いすれば止まるかもしれない・・・でも・・・)」

紬「唯ちゃんコーヒー味のケーキはお好き?」

律「(駄目だ・・・!あたしにはできない!大事な後輩を・・・仲間をゴキブリ呼ばわりなんて・・・)」

唯「うっ、うっ、ういっ!ヒィーッ!」ヒィーッ!」

律「(澪・・・早く来て・・・このままじゃあたし・・・澪・・・)」

唯「ひぃー、ひぃー、ひぃー、ひぃー」

梓「呼べよおおおおおお!!ゴキブリって呼べよおおおおおおおお!!」

紬「お茶がおいしいわ~」



澪「律!!待たせてごめん!!」

さわ子「大丈夫!?これは・・・!!」

和「先生、驚いてる場合じゃありませんよ!」

憂「梓ちゃんを止めないと・・・!」

純「梓!!落ち着いて!!」

梓「増えたなあ!!さあ蔑め!!菌にまみれたゴキブリと罵れあああああああ!!」

律「みんな・・・ありがとう・・・!よし・・・私が合図したら、全員で梓を押さえるんだ!3・2・1!今だ!!」

ばっ!

紬「ちょっと待っててね、みんなの分のお茶いれるから~」

梓「うがあああああああ!!」

さわ子「きゃあっ!!」

澪「うあっ!!」

律「これでも・・・この人数でも・・・駄目・・・なのか・・・?」

憂「梓ちゃん・・・」

梓「人間がゴキブリに負けるのかああああああ!!ゴキブリに負けるのかあああああああああ!!」

澪「どうしよう律・・・このままじゃ・・・」

律「一つだけ・・・方法があるかもしれないんだ・・・梓を・・・梓をゴキブリと呼べば、梓は暴れるのをやめるかもしれない」

澪「!そうか・・・!!なるほど!確かにそれなら」

律「駄目だ!」

澪「律!?」

律「梓のことを、仲間のことを・・・そんなふうには呼べないよ・・・」

澪「律・・・」

紬「憂ちゃんはお砂糖いくつ?」

律「あたしには・・・あたしには・・・」

澪「律・・・わかった。私が言うよ」

律「澪・・・?」

澪「あたしが梓のことをゴキブリと呼ぶ。それで全てが収まるなら・・・」

律「澪・・・」

澪「おい!!梓!!」

梓「梓じゃない!!ゴキブリだああああああ!!」

澪「ああ、そうなんだろうな・・・ゴk」

律「待て!!澪!!・・・あたしが言うよ」

澪「律・・・!?」

律「あたしが・・・軽音部の部長なんだ・・・あたしに、言わせてくれ。頼む」

澪「律・・・わかった。梓を、止めてくれ」

紬「あなたはどなたかしら?純ちゃん?知らないわ~」

梓「何をごちゃごちゃ喋っている!?ゴキブリはまだ生きているぞおおおおおおおお!!」

律「梓!!いや・・・もう梓じゃないんだったな・・・ゴ・・・」

澪「・・・ゴクッ」

律「ゴ・・・」

憂「律さん・・・」

律「ゴキ・・・」

さわ子「ハァ、ハァ・・・」

律「ゴキブ・・・」

純「梓・・・」

律「ゴキブ・・・・・・・・うあァッ!!駄目だぁっ!!言えないよ!!言えるわけないよぉぉぉ!!」

澪「律・・・」

律「仲間なんだよぉ!大切なメンバーなんだよぉ!梓はゴキブリなんかじゃないんだよぉ!!ひぐっ、ひぐっ!」

紬「純ってどういう字を書くの?へ~、割と普通ね~」

律「ごめん、梓・・・!ごめん、みんな・・・!ヒック、ヒック」

梓「合格!」

パチパチパチパチ・・・

律「・・・へ?」

澪「まったく・・・ここまでする必要があったんですか?先生?」

さわ子「やるからには徹底的に、よ!」

律「・・・何コレ・・・?どういうこと・・・?」

梓「桜高軽音部恒例の部長適性テストだそうです」

律「・・・は?」

さわ子「伝統ある桜高軽音部の部長たるにふさわしいかどうかを見極める試験だったということよ」

澪「部長のお前が大切な部員をゴキブリ呼ばわりするかしないか・・・それが今回のテストだったみたいだよ」

律「そんなことのために・・・こんな大掛かりなことを・・・?」

憂「私たちも協力するよう頼まれて・・・ごめんなさい」

律「は、ははは、ははははは・・・あー、なんか力抜けたわ・・・」

紬「さ、お茶どーぞ」

澪「しかしみんな迫真の演技だったな・・・」

梓「本当ですよ。私なんて完全にキチガイでしたし。あー、のどが痛い・・・」

律「あたしなんか顔殴られたぞー?どうしてくれるんだ梓、~えぇ~?」

梓「そっ、それはその・・・ご、ごめんなさい・・・」

澪「まぁまぁ律、そのくらいにしといてやれよ」

憂「あれ?そういえばお姉ちゃんは・・・?」

律「ありゃ~?どこ行ったんだ唯のやつ?」

紬「唯ちゃんならここよ~?何だか全然動かないけど・・・」



―私たちがそこで目にしたのは、白目を剥いて呼吸の止まった唯の姿だった。
 おそらく唯は、演技をしながら、それが演技であることを忘れてしまったのだろう。
 唯は恐怖のあまり過呼吸状態に陥り、呼吸困難となった挙句、呼吸ができず窒息したのだと思われた。
 唯はその後、急ぎ病院に運ばれて、迅速な処置の結果、何とか息を吹き返すことができた。
 しかし、脳に酸素が行かなかった時間が長かったため、脳細胞の一部が死んでしまったらしい。
 とはいえ、唯は今も毎日学校に来ている。それまでの唯と、言動のまったく変わらないままに。

 私は今だに部長を続けている。何も、何も、変わらないままに・・・。
                                    おしまい