これは私ととある巨乳との出会いから別れまでを綴った半年間の記録である。



09年4月、私は桜ヶ丘高校に入学した。
地元でも評判の良く、
私自身もずっと憧れていた高校に入れたということで
これからの高校生活への期待で私は胸がいっぱいだった。

昔からギターを弾いていたので
部活はジャズ研究部にしようと思ったが
軽音楽部の新勧ライブに不覚にも感動してしまった私は
迷うことなく軽音楽部の拠点である音楽準備室の扉を叩いた。

梓「あのー、入部希望……なんですけど」

紬「りっちゃん、1年生が来たわよ!」

律「なに、確保だ確保!」

唯「合点承知之助!」

中学の頃は帰宅部だったので
部活動というものに慣れておらず
いささか以上に緊張していた私を
先輩たちは暖かく迎え入れてくれた。

律「私が部長の田井中律! で、こっちが……」

紬「キーボード担当、琴吹紬です。よろしくね」

唯「私はギターの平沢唯だよーん」

梓「中野梓、です。
  あ、私もギターやってるんです」

唯「なんと奇遇な!」

律「ほー、じゃあこれからは5人のツインギター体制だな」

梓「5人……?
  もう一人いらっしゃるんですか」

律「ああ、まだ来てないけどな……」

と、その時、扉がひらいた。

ガチャ
澪「ごめんごめん、遅れちゃって」

彼女が軽音部の最後の一人か、
綺麗な人だな、背も高いし……
などと思いながら私は彼女のことを眺めていた。
が、すぐに異様な気配に気づいた。

気配の正体はすぐに分かった。
澪先輩と私以外の3人……
つまり唯先輩、律先輩、ムギ先輩の纏う雰囲気が、
澪先輩の登場を機に一気に変わってしまったのだ。
何がどう変わったのかは説明がつかないが、
とにかく私は3人の先輩たちから
異様な何かを感じ取っていた。

澪先輩はなにも気づいていないようで、
新入部員である私に興味津々だった。

澪「へえ、ギター経験者なんだ。
  どのくらいやってるの?」

梓「小学4年の時からですね」

澪「じゃあもう5、6年はやってるのか。
  うちの部じゃ一番のベテランかなー」

梓「そうなんですか」

澪「あ、ムギは4歳からピアノやってたんだっけ」

一通り自己紹介がわりの雑談を済ませたあと
軽音楽部としての活動が始まった。
しかし3人の先輩たちは相変わらず異様なオーラを纏っていて
私は演奏に集中することができなかった。



日も傾き始めたので
適当なところで練習を切り上げて
その日は解散となった。

澪「じゃあ帰ろうか」

唯「あ、私はちょっと用事があるんだ」

律「実は私も……ちょっとクラスのアレで」

澪「クラスの用事ってことは、ムギも?」

紬「そうなのよ、ごめんなさい。
  遅くなるだろうから先に帰っててくれない?」

澪「仕方ないな、じゃあ梓、一緒に帰ろう」

梓「え、あ、はい」

澪「じゃあな、みんな」

梓「あ、おつかれさまでした、失礼します」

律「ふーい、また明日~」



校舎内にはほとんど誰も残っていないようだった。
夕日が差し込んでオレンジ色に照らされる廊下を
私と澪先輩は昇降口に向かって歩いていた。

澪「部活、楽しかった?
  ちょっと雰囲気はゆるいかも知れないけど」

梓「え、ああ、そうですね、楽しかったです」

澪「そっか、それなら良かった」

澪先輩は色々と話を振ってくれたが
私には部活中の3人の先輩の変化が気になって仕方なかった。
きっと先輩たちには何か裏がある。
さきほど言っていた「クラスの用事がある」なんてのは
私たちを先に帰らせて3人で何かをするための口実に違いない……
証拠などなかったが私の直感がそう告げていた。

梓「あの、すみません。
  じ、実は私もちょっと用事あるんでした。
  先生に呼ばれてて」

澪「あ、そうなのか? じゃあ早く行かないと……」

梓「はい、今から行ってくるので澪先輩は先に帰っててください。
  じゃ、失礼します」

澪先輩に適当に挨拶とお辞儀をし、
私は踵を返して駆け出していった。
行き先は言わずもがな。



予想通り音楽準備室には3人の先輩たちが残っていた。
私はバレないように扉の影からこっそりと中をうかがった。

私が見る限りでは特別なことはしていないように見えた。
ただ唯先輩と律先輩が、残ったクッキーを食べていて
ムギ先輩が2人のコップにお茶をついでいる。

まさかお菓子を食べたかっただけなのだろうか。
それならなぜ澪先輩を先に帰らせたのだ。
もしかして澪先輩は嫌われているのか。
いや、あの部活中のアレは
人を嫌っているとかそういう単純な雰囲気じゃない、
もっと、別の……

考えを巡らせていると、
律先輩が椅子の上に立ち上がり、
右手を高く掲げて
こう宣言した。

律「ではこれよりー、澪っぱいの会・定例会議を行ないます」

唯先輩とムギ先輩が拍手を以てしてそれに賛同する。
律先輩は席に座りなおした。

私はワケが分からなかった。

梓(澪っぱい? 定例会議? なんのこっちゃ……)



展開についていけない私を置き去りにして
「定例会議」は始まった。

律「ではまず和からの報告を発表する。
  今日の澪のブラジャーはピンク3」

唯「ピンク3か。一番オキニのやつだね」

紬「そして一番サイズが大きい」

唯「ということは順調に成長してきているというわけだね」

紬「でしょうね。近いうちにブラの追加購入があると見て間違いないでしょう」

唯「どんなのかな~楽しみだな~」

律「次も和からの報告。
  体育の時間における澪の乳揺れを
  超高性能小型カメラで撮影することに成功した」

紬「なんですって? ついに成功したのね?」

唯「和ちゃんありがとう……今度アイスおごってあげなきゃ」

紬「琴吹家総力を上げてカメラを開発したかいがあったわ」

律「ここにビデオがある。早速見てみよう」

梓(なんやこれぇ……)

私はワケがわからないながらも
少しずつ状況を把握していた。
先輩たちの言う「澪っぱい」とは読んで字の如く
「澪先輩のおっぱい」のことであり
その澪っぱい愛好家である先輩たちが
ときどき定例会議を開いて
澪っぱいについて語り合ったり
新たに得た情報なんかを発表しあったりする……
というようなことらしかった。

会議は一時間ほど続けられた。
その間、先輩たちは澪っぱいについて
真剣な議論と分析を交わしていた。
私は先輩に対して激しく幻滅した。

律「では最後に……盗撮した澪っぱい生写真を配布する」

唯「おお、待ちかねたよお。和ちゃんのぶんも頂戴ね」

律「分かってる。ほれ、2枚。ムギも」

唯「おほおー、ふほほーぉ、相変わらずたまりませんなぁー」

律「写真はそれだけだ。では澪っぱいの会の歌を斉唱し、
  今回の定例会議を締めくくりたいと思う。総員、起立!」

律先輩の号令のもと、2人は立ち上がった。
そしてムギ先輩がオルガンで曲を弾きはじめた。



『澪っぱいの会の歌』

作詞:曽我部恵 作曲:琴吹紬


乳のもとに 集いし我ら
志は 天より高く
愛しき乳を 愛でるため
我ら火の中 水の中

嗚呼 澪っぱい 澪っぱい 澪っぱい
ともに歩まん


闇の中に 灯さる光
それこそ秋山澪の乳
迷える我らを 救いたもう
二つの乳首が 道しるべ

嗚呼 澪っぱい 澪っぱい 澪っぱい
我らの希望


撫子なら 誰も焦がれる
理想の乳は 我らと共に
強く気高き その乳に
我らの未来を 託そうぞ

嗚呼 澪っぱい 澪っぱい 澪っぱい
美しくあれ



荘厳で迫力のある歌だった。
歌っているのが女3人なのでしょぼく聞こえるが
この歌に込められた想い……いや、執念は相当なものであるというのは
私にも分かった。

律「今回の定例会議はこれで終了とする。
  それでは、澪っぱ~い」

唯「澪っぱ~い」

紬「澪っぱ~い」

右手を挙げてあいさつを交わす姿は
ナチスドイツのヒットラー賛美を思い起こさせた。

律「じゃあさっさと帰るか、もう暗いし」

唯「そうだねー」

そこで初めて私はこのままでは
見つかってしまうということに気がついた。
なぜ最後まで定例会議を覗いてしまったのか、
なにをしているのか確認するだけで
さっさと帰ってしまえば良かったものを。
しかし今さら後悔しても遅かった。
周りに隠れる場所はない。
先輩たちが準備室のドアを開くまでに
この場から逃げ去ってしまえるほどの脚力もない。
私は腹をくくった。



先輩たちがドアを開けたので
私は先輩たちに見つかってしまった。

唯「あれ、どうしたの?
  まだ帰ってなかったの?」

梓「あ、はあ、まあ……」

紬「そう、じゃあ一緒に帰りましょうか」

梓「あ、はい」

唯先輩とムギ先輩はノンキだったが
律先輩だけは険しい表情をしていた。
私が定例会議を盗み見ていたことを明らかに気づいていた。

律「……ちょっと待て」

紬「何?」

律「お前……
  私たちの話、聞いてたか?」

唯「えっ……聞いてたの?」

ごまかしても仕方がないので
私は正直に打ち明けてやった。

梓「はい、聞いてました。すみません」

紬「……」

律「どこから聞いてた?」

梓「えっと……全部」

唯「全部……」

律「っ……」

紬「どうするの……部外者に聞かれたとなれば問題になるわよ。
  私たちの活動が公になってしまうと……」

唯「そうだよ、私たちはあくまで裏組織なのに……」

律「分かってる……こうなったら、
  こいつに口封じを施すしかねーだろ」

梓「ひいっ!!」

紬「そうね……少し手荒だけど」

梓「や、やめてください、絶対誰にも言いませんから!
  誓います、見たこと聞いたこと口外しません!
  だから見逃してください、お願いします、お願いします!」

唯「暴力はやめようよぉ、こんなに必死に土下座してるんだし」

律「でも……」

この時のムギ先輩は確かに人殺しの目をしていた。
それに恐怖した私はただひたすら
泣きながら土下座を繰り返した。
そのためここでどのような会話が
3人の先輩たちの間で交わされたかは分からないが
とりあえず私は見逃してもらえることになった。

その日、私は先輩たちと下校した。

梓「すみません……ほんとに」

律「もういいって、謝んなくても。
  でも口外したらその時は……」

梓「ひいいい!」

唯「もー、脅しちゃ駄目だよりっちゃん」

梓「てゆーか、そのー……
  そもそもあれは何だったんですか……?」

唯「ああ、あれは澪ちゃんのおっぱいに夢中な人が集う、
  その名も『澪っぱいの会』だよ」

梓「そのまんまですね……」

紬「私たち澪っぱいの会は澪ファンクラブの裏組織……
  表立って活動するファンクラブを隠れ蓑にしている、
  と言ったほうが正しいかしらね」

梓「はあ……で、澪先輩のおっぱいというのは、
  何がそんなに凄いんですか」

紬「梓ちゃんは何も感じなかった?
  今日、澪ちゃんのおっぱいを見て」

梓「いや制服の上から見ただけですし……
  大きいなあとは思いましたけど」

唯「ふふ、大きい小さいとか、
  そういう次元の話じゃないよ、あのおっぱいは」

紬「おっぱいにとって必要な要素、
  それをすべて兼ね備えている……
  私が今まで見てきた数多のおっぱいの中でも最高のおっぱいよ、
  澪っぱいは」

梓「はあ」

紬「いずれ梓ちゃんにも、
  澪っぱいの魅力が分かるときが来るわ」

唯「あのおっぱいはもはや芸術だよ~」

梓「へえ」

律「……」

唯先輩とムギ先輩は澪先輩のおっぱいについて
異常なほどの熱意を込めて長々と語ってくれたが
私はそれをまともに受け入れることが出来なかった。
確かに同性から見ても魅力的な同性というのは存在する。
しかし同性の体の一部でしかないおっぱいに
そこまでの執着を見せる理由が私には分からなかったのだ。

私は「澪っぱいの会」に干渉しないことにした。
なんかどう見てもヘンタイっぽいし、
こんなストーカー紛いの行為は褒められたものではない。
私が関わらないようにしているのを察してか
先輩たちも私の前では澪っぱいの話をしなくなった。

私は全力でスルーしていたのだが
「澪っぱいの会」の活動は音楽準備室で行われるため
いやでも活動は目に入ってしまった。
本業である軽音楽部の活動よりも熱が入っているように見えたことも、
私が澪っぱいの会を避ける理由の一つに
無意識のうちに加わっていたかも知れない。


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