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そろそろ手術が始まって6時間が経とうとしている。

永遠のようにも思えたこの時間も、手術室から先生が出てきたときにおわった。

医「…」

父「先生!…む、娘は…娘は大丈夫なんですか?…」

医「手術は…成功です…。今はゆっくり寝かせてあげてください」

「手術は成功です」
この言葉が私の耳に入ってきた瞬間、
私はずっと下を向けていた顔を、ゆっくりと起こした。
ほかに先生とお父さんが何か話しているようだったが、私の耳には入ってこなかった。

唯「うっ…うっ…」

涙が出ていることが分かる。だって憂は助かったんだよ…こんなにうれしいことはない。

唯「…うっ…うわあああぁぁん!!よかった…よかったよう!!」

子供のような泣き声で、ここが真夜中の病院ということも忘れて、
私はただただ隣にいる母に泣きついた。



――――――

?「…ちゃん」

唯「…ん。」

誰かが頭をなでている。その手はとってもあったかくて、それでいて気持ちいい。

?「…ねえちゃん」

ゆっくりと目を開ける。まず目の前に広がったのは真っ白な世界。
…それが病院の布団だということに気付くまで、3秒くらいかかってしまった。

?「…お姉ちゃん?起きた?」

その声に私ははっとした。眠気も一気に吹きとんででしまう。

誰の声か?なんて愚問だ。私は向かずにはいられなかった。

唯「う…い…?」

そこにはいつもの、優しい目をした、私の大好きな憂がいた。

唯「うい…ういっ!…憂ーーーっ!!!!」

私は無我夢中で憂に抱きついた。憂の胸に顔をうめる。憂の匂いがする。

私は泣くことしかできなかった。

憂「お姉ちゃん…」

憂がそっと私を抱きしめてくれる。
それがとっても心地よくて、私はさらに大きな声で泣いた。

唯「う゛い゛ぃーーー!良かった…。良かったよ~」

憂「お姉ちゃん…ずっとそばにいてくれたんだね?」

唯「うっ…、うん。だって…憂が…もう゛遠ぐに行っちゃいそうで…怖かったんだから~!」

憂「大丈夫だよ…。私はここにいるから…」

唯「うわああああぁん!憂~~!」

私は嬉しさのあまり、憂の服を涙と鼻水で
グチャグチャにしながら再び眠るまで泣いていた。



―――――
憂はそれから入院することになった。
私はずっと憂のそばにいてあげたかったが、
憂の猛反発にあい、仕方なく学校へ通っている。

学校では軽音部のみんなが心配していたが、
すぐに良くなるだろうと思っていた私は大丈夫だよ、とだけ返事をしておいた。

それが大きな間違いであると気付かずに…



唯「憂~、入るよ~?」

一様確認をとってから病室に入る。
ここ一週間、毎日のお見舞いが私の日課になっていた。

憂はいつもと変わらない笑顔で出迎えてくれた。

憂「あ、いらっしゃいお姉ちゃん。毎日来なくてもいいのに…」

唯「だって憂といるほうが楽しいんだもんっ」

私は憂の近くのパイプ椅子に腰をおろした。
憂もそれにあわせてくれるように上半身を起こしてくれた。

憂「お姉ちゃん、今日学校どうだった?」

唯「楽しかったよ~。憂も早く治して来なよ~」

憂「っ!…そ、そうだね!!」

…あれ?今憂の反応変じゃなかった…?

そのことが気になって

唯「ん?どうかしたの?」

私は出来るだけ自然に尋ねた。

憂「ううん!なんでもないよ!それよりも学校での話聞かせてよ!」

唯「??変な憂~。あ、そういえば今日りっちゃんがさ~…」

憂の反応の様子は気になったが、
私は毎日の憂とのこのわずかな時間を
無駄にしたくなかったので普通の会話に戻した。



憂「…ところでお姉ちゃん、ちゃんとした生活してる?私ちょっと心配で…」

唯「おっと!そのことなら大丈夫だよ~。毎日自分で起きてるし、お弁当だって作れるようになったんだから!」

そう、憂入院してから私の生活は大きく変わっていた。

朝はきちんと起きれるようになったし、親に頼んでお弁当は自分で作ることにした。

憂「へえ~。すごいねお姉ちゃん!やっぱりお姉ちゃんはやるときはやる人だよ!」

憂にそう言ってもらえると、とても嬉しくなる。
今まで憂に頼りっぱなしだった自分と比べれば、我ながらすごい成長だと思った。

唯「それに最近裁縫もかなり上手くなったんだ~」

憂「え~なになに~、どんなの作ってるの~?」

唯「えへへ、秘密だよ~」

作っているもの…それは憂にプレゼントするためのエプロンのことだった。

以前のあのエプロンだと印象が悪いかなと思った私は
こっそり憂に新しいエプロンを送ってあげることに決め、それを作っていた。

それも、今日完成する。そして、明日憂にプレゼントするんだ!

憂「もう~お姉ちゃんったら…教えてくれてもいいのに~」

唯「ん~、…明日になったら教えてあげる」

憂「本当!?明日が楽しみだなあ~」

唯「も~、そんなに期待しないでよ~」

憂「あ…それもそうなんだけどね…明日私退院出来るみたいなんだ~」

え…?

唯「ほ、本当!?本当なの憂!!?」

私はその言葉を聞いて大きく胸が高鳴るのが分かった。

憂「うん。昨日から調子良かったし。病院の先生も明日検査して大丈夫だったらいいよって言ってくれたんだ~」

私は興奮せずにはいられなかった。



それから私たちはいろいろな話をした。

明日憂が退院出来るから週末は遊園地に遊びに行くことになり
その話で特にもりあがった。

唯「じゃあ憂…帰るね」

気がつけばいつもより1時間も長く病院にいることに気付いた。

憂「うん」

唯「今日は早く寝るんだよ~」

憂「あはは、お姉ちゃんもね~」

私がドアに手をかけようとしたとき、

憂「お姉ちゃん!」

憂に話しかけられた。

唯「ん?何?」

憂「…また…明日ね…」

憂は満面の笑みとともに言った。

唯「…うん、また明日!」



―――――

次の日、もし学校にいる間に憂が退院したことも考えて
私は完成したエプロンをかばんにしまい、家を出た。

唯「あ~今日憂が退院するのか~。ふふっ、楽しみだなあ」

学校に行くまで、私は憂のプレゼントをもらった顔を想像したり、
週末に行く遊園地の事を考えたりしていた…。



―――――
その連絡が来たのはちょうど学校が終わる頃だった。

検査を終え、病室で休んでた憂。
退院のために荷物の整理をしようとした時、憂の病状は急変したという。

私はその話を聞いたとき、どれだけ嘘であることを願っただろうか。
どれだけ間違いであることを願っただろうか。
どれだけこれが夢であることを願っただろうか。

しかしそんなことはありえないわけで、
病院に着くまでの先生の車の中で、私はただ神様に祈るしかなかった。



―――――
私が憂の病室に入って見た憂は、

体に何本も点滴がうってあり、

苦しそうに呼吸をする姿だった。

近くには私も始めて見る心電図が置かれ、
規則正しいピッ、ピッという音を放っている。

唯「憂!!!」

私は憂に駆け寄ろうとした。

しかしそれも親に止められてしまう。

唯「なんで!?どうして止めるの!?」

父「今お医者さんが治療しているんだ。邪魔になるだろ!」

唯「だって…だって憂がっ!!」

それでも行こうとする私の右手を、母が掴んだ。

母「唯!分かりなさい!!今行っても治療の邪魔でしょ!!」

唯「うっ…うっ…ふええぇん!うい~、うい~!」

私は、憂があんなに苦しそうにしているのに何にも出来ず、
ただ涙を流すことしか出来ない自分が悔しくて悔しくて仕方がなかった。



医「治療が終わりました」

先生がそう言ったのは私が病院にきてから数十分後だった。
それと同時に腕の拘束が解け、私は憂のもとへとゆっくり近づこうとした。

しかしまたもやそれは阻止されてしまう。

医「今は絶対安静です。それから…おそらく今夜が山でしょう…」

…え?

私は自分の耳を疑った。

父「そ、そんな…」

今夜が山?

母「どうしてっ…!」

いったいどういうこと?

医「予想以上に娘さんには…重い負荷があったようです…」

だって昨日まで憂はあんなに元気だったじゃん?

父・母「-!---!!」

もう何を言っているのか分かんない…!

医「ーーーーー」

分かんない。わかんないよっ…!

唯「うわあああぁん!!!」


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