ひらさわけ!

律「振り出しに戻ったな……」

紬「唯ちゃんたち、あそこの神主さんには近づかないほうがいいわよ」

唯「ふぇ? もういいよ、もう家に引きこもってずーっとういとちゅっちゅしてるもん!」

憂「実は、気づいたんですよ。わたしたち、呪いにかかってからお互いの唾液しか飲んでないのに、お腹も減らないし、眠くもならないんです」

律「なんだって?」

梓「わたしはもうずっと指が止まりません」クチュクチュ

紬「腱鞘炎になるわよ」

唯「これはもう、一生ニートしててもいいってことだよね! 憂とちゅっちゅしてるだけで生きられるんだもん!」

憂「わたしもずっとお姉ちゃんのそばにいられるし///」

唯「ういー、だいすき、ちゅ……」

憂「おねえひゃあん……//」

律「……いいわけ、ねえだろ……!」ギリッ

紬「え? ……りっちゃん?」

律「唯! お前の呪いを解くために! 犠牲になった和はどうなるんだよ!」

唯「和ちゃん……いたね、そんな子も」

律「テメェ……!」

憂「全てはわたしたちの計画通りです」

梓「わたしたちの手のひらの上で弄ばれる皆さんの姿はとても滑稽でしたよ」クチュクチュ

律「お前が手のひらの上で弄んでたのはクリトリスだろ」

梓「ハイ」フキフキ

唯「実は呪いなんか無かったのだー!」

律紬「な、なんだってー!」

憂「和さんが窓から飛び出したのは完全に誤算でした……」

梓「犠牲者はなるべく出したくなかったのですが……」

唯「人類の発展に犠牲はつき物なんだよ……」

和「そうなんだ、じゃあ私おしおきするね」

唯「えっ」

和「よいしょ」ガッシ

唯「ちょ、の、のどかちゃん、やめっ」

ぺろんっ

和「おしおきだべー!」

ぺちーん!

唯「ひゃんっ!///」

ぺちーんぺちーん!

唯「ひゃっ、いたい! ごめんなさああああああい!!!」

和「全くもう……」

唯「あう……ごめんなしゃい……」

和「次は憂よ」ガッシ

憂「えっ」

ぺろんっ

和「おしおきだべー!」

ぺちーん!

憂「きゃっ!///」

和「ほどよい弾力ね! 憂!」

ぺちーんぺちーん!!

憂「あうっ/// ひゃっ///」

和「叩きがいがあったわ……」

憂「いたいよう……///」ヒリヒリ

和「次は梓ちゃんね」

梓「バッチこいです!」

和「やめとくわ」

梓「そ、そんな! きてくださいよ! ほらほら!」ぷりんっ

和「じゃあ私交番行くね」

梓「ちょっとおおおおおお!」


―――――
―――
――

紬「梓ちゃん、捕まっちゃったね……」

律「ああ……」

唯「あずにゃんがつかまっちゃった……ういぃ……」

憂「お姉ちゃん、どうしよう……」

律「まぁ、その、なんだ、あいつの自業自得だと思うぞ」

紬「……これって、ものすごい不祥事なんじゃないかしら……?」

律「あ」


 翌日、私たち軽音部員はさわちゃんに指導室に呼ばれた。
 理由は、梓のことだ。
 公然わいせつで梓は警察に逮捕された。
 幸い初犯だったので、罰金刑か起訴猶予のどちらかで、懲役を食らうことはおそらくないらしい。

 しかし、犯罪が犯罪である。

 万引きの噂ぐらいなら私たちも聞いたりするが、女子高で、よりによって公然わいせつだ。

 当然、大きな問題になる。
 その場に居合わせた主なメンバーが軽音部関係者であることもあり、責任の矛先は、私たちに向いた。

さわ子「ほんっとうに、頭が痛いわ……」

 聞くと、朝から電話が鳴りっぱなし、らしい。
 いつになく険しい顔つきのさわちゃんが、本当に参ったように漏らした。

さわ子「あなたたち……、多分、予想はついてるだろうけど……、部活動停止よ、残念だけど」

 逮捕者がでたんだ。何も、言い返せはしなかった。


 さわちゃんから聞かされたのは、「部活動停止」の一言だけだった。
 言いたいことはほどあるのだろう。だけれどさわちゃんは、それ以上何もいわず、黙って席を立った。
 きっと、全部、飲み込んで。
 私にも、さわちゃんほどの器量があれば、こんな事態にはならなかっただろうか。


 さわちゃんが退室してから、どれくらい時間がたっただろうか。
 いつもならば私がボケて、唯が乗っかって、ムギが悪乗りして……澪がツッコんで――四人がいれば姦しいくらいに盛り上がるはずのに。

澪「……なんでだよ……!」

 沈黙を破ったのは、澪だった。

 澪は今回の件に全くといっていいほど関与していない。
 ただ澪は怯えて、小便を漏らしただけだ。

澪「なんだよ……部活動停止って……なぁ……!」

 澪が涙目でこちらを睨みつけてくる。
 私は目を合わせることができなかった。

紬「あ、あの、みんな、お茶にしない? いったん、部室に行って」

澪「その部室に、もういけないんだろ……! お前たちのせいで!」

律「お、おい、澪、落ち着けって」

 これが落ち着いていられるか、と澪が言ったところで、もう一度私たちは全員黙り込んだ。
 澪は相変わらず私たちを睨みつけている。その視線が唯に移ったところで、唯が泣き出してしまった。

唯「ごめん……わたしが、わたしが変ないたずら思いついたせいで……ごめんねえ……」

 狭く冷たい指導室に、悲痛なすすり泣く声だけが響く。
 もう、わたしは見てられなかった。わたしも泣き出してしまいたかった。

律「そういう澪は、どうなんだよ」

 唯の泣き顔を見ていられなかった私は、口走った。泥沼化確実であろうことを。
 ダメだとわかってても、私は饒舌に口を動かしてしまう。

律「そういう澪はどうなんだよ、お前は、何かしたのか?
  何もしていない。昨日の状況を見ても、何もしようとしなかったじゃないか。
  お前はただ、唯の発作のフリを見て、怖がっておもらしをしただけだろう。
  そんなお前が、どうして私たちを責められる? おい、言ってみろよ。なぁ!」

 言い切ったあとで、背中を針で刺されたような後悔が私を襲った。
 いつの間にか私は立ち上がっていて、澪をきつく見下ろしていた。

澪「そ、そんなこと……」

 澪は反論しかかって、目を逸らした。
 私は今、そんなに怖い表情をしているのだろうか。鏡で見てみたい。

紬「もう、こんなのイヤだ……」

 ムギの口からこんな台詞を聞く日が来るとは思っても見なかった。
 全く何をしているのだろう。最低だ。頭を冷やさなくちゃいけない。

律「……すまん澪、いいすぎた。いったんここから出ようぜ、ここは空気が悪い」

 随分と肺が重苦しい。酸素が足りないような気がして、部屋から逃げだしたくなった。

 いつもよりも重たく感じるドアノブをひねり、ドアを開けた。
 室内よりも少し気温が低い。
 鼻から吸い込む空気は新鮮な気がしたが、胸のもやもやが晴れることは無かった。

 私たちは、帰り道を歩いていた。
 途方も無く、言葉も無く、歩いていた。

 もう少しで、いつもの分かれ道につく。
 唯とムギはここでお別れで、私と澪は、二人きりだ。

 ……気まずい。

 あぁ、そもそもなぜこんなことになってしまったんだろう。
 唯が梓の前で憂ちゃんとキスし続けないと死んじゃう呪いにかかったとか、
 それで、和が飛び降りたんだ。
 梓の提案で、唯がさわちゃんを騙して、澪が漏らして……。

 きっかけは小さなことだったんだ。
 ちょっとしたことが大きな変化につながる。こういうことをなんというんだったか。
 確か映画のタイトルで――、いや、忘れた。
 思い出している暇があるならば、この空気を何とかしなくちゃいけない。

 そしてついに私たちは二人きりになった。
 今は険悪なムードになっている場合じゃないのに。
 共に軽音部の危機に立ち向かわなきゃいけない時なのに。

 どちらかが先に話しかけなければ、きっとこのまま家までついてしまう。

 だから私は、意を決して澪のほうを向いた。
 すると偶然、澪と目があってしまう。

 なんだ。

 少し照れくさくなって、一度目を逸らして、そして今度はしっかりと、澪の目を見据えた。

律「これから、どうする?」

澪「そうだな、とりあえず、みんなで話し合おう。今度は、あんな雰囲気にならないように、な」

 それがいい。
 明日にでも集まって、話し合おう。
 部活が無くたって、私たちは仲間だから。なにも問題はないじゃないか。

澪「おい、律。準備はいいか?」

律「おう、澪こそ。緊張してるんじゃないのかー?」

 半年後。私たち軽音部は、たくさんの苦難を乗り越え、今、このステージに立っている。

唯「いつでもいけるよ! りっちゃん!」

紬「わたしも!」

梓「だいじょうぶです!」

 今ではみんな一回りも二回りも成長して、頼もしく、部長として鼻が高い限りである。
 ステージ脇の和に目で合図をすると、ゆっくりとうなづいてくれた。

 スティックを握り、高々と上げる。

 さぁ、私たちの、最後のライブだ。


「ワン・ツー・スリー・フォー!」


    "唯「憂とちゅっちゅしないと生きていけない呪いを掛けられた…。」" is the END.