さわ子「それに――あなたの考えも半分は正解よ」

律「………」

さわ子「ただ、記憶が戻らないままの唯ちゃんを殺すのはフェアじゃないわ」

律「近寄るな!」

さわ子「知りたくないの? 事件の真相」

律「……」

さわ子「この子がなにを見たのか、なにを聞いたのか、なにをしたのか」

さわ子「あなたが一番知りたいはずよ? 律」

律「……勝手にしろ。でも逃げようとしたら……」

さわ子「それで結構よ」


さわ子「唯ちゃん」

唯「あぅあ…」

さわ子「この写真の女の子」

唯「あう?」

さわ子「あなたの隣にいる女の子、琴吹紬ちゃんっていうの」

唯「あうあー?」

さわ子「ここにいるみんなと同じ、あなたの大切な大切なお友達……」

律「………」

さわ子「あなたはこの四人でバンドを組んでいたのよ」

さわ子「澪ちゃんがベース、りっちゃんがドラム、紬ちゃんがキーボード……」

さわ子「そしてあなたはギター」

唯「ぎ、た」

さわ子「ほら、この曲」

さわ子は携帯プレイヤーのイヤホンを唯の耳にあてた。
流れる音楽。どこかなつかしい。

唯「!」

さわ子「あなたたちが作った曲よ」

さわ子「唯ちゃん。あなたは以前もここに来たことがあるはずよ」

唯「……」

さわ子「ここで、その曲を、ほかにもたくさんの曲を演奏していたのよ」

目に映るのは、焼け跡、崩れた屋根、煤けた柱――

心に映るのは――

唯「あ、うあ……、みお……りつ……」


唯「………む………ぎ…………むぎ……ちゃん――」

澪「唯! 記憶が……!!」



ロッジ 寝室

唯『ぱち』むくり

唯『……おしっこ』

唯『……澪ちゃん』ユサユサ…

澪『ぐーぐー』

唯『起きない……一人で行くか……』

テクテクテク……

唯『………トイレどこだっけ?』

唯『うぅ~、まよっちゃたよう~。やっぱ澪ちゃん起こしてついて来てもらえばよかった……』



温泉場

唯『なんだかんだで温泉まできちゃった…』

唯『本格的に迷ったかも……』

唯『あ、でも温泉ならおしっこしても大丈夫だよね~』

唯『お風呂でおしっこはみんなやってるもんね』

唯『うん、やっちゃおう』

ガラガラ……

『あ、………ん………』

『ちゅぱ……ぴちゃ……』



唯『あれ? だれかいる?』

紬『はぁ……っ……りっ…ちゃん……ンンッ!』

律『ふふ……きもちいい?』

紬『あン……だ、だめ! そこ――』

律『やっぱここがいーんだ♪ あたしと同じだね♪』

紬『ンンッ――あ、ふあっ……』

律『むぎ、すごく気持ちよさそう……えっちな表情かわいいよ』

紬『ダメ……ッ、いわないで……』

律『えへへ……ちゅぱちゅぱ……』

紬『あッ、あッ――もう――ダメ――!!』


唯『これは……』ゴクリ…

唯『……スゴイ……あんなことまで……』

唯『わーわー!……まじで……?』ガタン!

律『! だれ!?』

唯『………あ』

律『唯……?』

唯『ご、ごめん!』ササッ

唯『……………やっぱ……覗きはいけないことだよね……』

唯『いや~……しかし衝撃的なものをみてしまった……』

唯『……でも、ふたりはお似合いなのかも』

唯『おうえん、してあげないと…』


唯『……完全に目ぇ覚めちゃったよ……』

唯『練習部屋でスケールの暗記でもしとこう……』



ロッジ跡 廃墟

律「嘘つけ! てめぇはそのあと台所へ行ったんだろうが!」

律「それで、お茶でものんで……ガスの元栓を閉め忘れて……それで……」

律「そのせいで紬が!」

さわ子「待ちなさい!」

さわ子「記憶の統合はまだ済んでないわ」

さわ子「それに、律、あなたの分が残ってる――」

律「!?」

さわ子「記憶を閉じ込めたのは唯ちゃんだけじゃないのよ」

さわ子「律、おそらくは――あなた自身の記憶も錯綜してる」

律「ばかな……あたしは正気だ!」

さわ子「本当にそうかしら?」

さわ子「この場所と唯ちゃんの記憶が呼び水になってる、いまなら思い出せるはずよ」

律「なにを……」

さわ子「わかっているはずよ――それは」



温泉

紬『唯ちゃん、見てたのかな……?』

律『たぶん……目合ったし……』

紬『……わたしたちのことは…』

律『だいじょうぶだって、唯は話せばわかってくれる』

律『澪だってそうだよ、ちゃんと、あたしたちのこと理解してくれる』

紬『りっちゃん……』

律『あたしは…みんなを信頼してるんだ。ね、だから平気』

紬『うん』

紬『くしゅ!』

律『むぎ? 風邪ひいた?』

紬『そうかも。ここ、露天風呂だし』

律『お湯につからないでえっちばっかしてたもんなぁ』

紬『///』

律『えへへ……そろそろ戻ろうか』

紬『はい』



廊下

紬『そうだ、わたし台所に寄ってくるね』

律『台所? なんで?』

紬『わたし、今夜はアロマキャンドルをたきたくて……』

律『キャンドル?』

紬『うん……ムードがほしいっていうか…』

律『なんか…むぎらしいなー』

紬『///。たぶん戸棚に買い置きがあるはずだから……』

律『わかった、先にベッドでまってるよ』

紬『はい///』



それで――

それがむぎの笑顔を見た最後の記憶で――

さわ子「違うわ、それには続きがある」

続き?

さわ子「あなたが紬とわかれたその直後でしょ? 爆発が起きたのは」

ああ、そうだ。

むぎが台所に入って、あたしが廊下を曲がって……

爆発が――



廊下

律『な、なんだぁ!!!』

唯『なにいまの音!』

唯『火が!!!』

律『台所が……むぎ!!』

唯『りっちゃん! だめだよ! 危ないよ!!』

律『むぎ! 紬ィィィィ!!!』

あたしは台所へ入って――

さわ子「そう、そこであなたは見たはずよ。唯も見ていた」

む……ぎ……

さわ子「炎に包まれた部屋で」

炎、赤い壁――

さわ子「紬ちゃんは全身に大火傷を負って、手足も吹き飛ばされて……」

煤、黒く汚れた手――

さわ子「それでもまだ生きていた」

大切な人の涙――

さわ子「応急処置でもすれば助かったかもしれない」


お願い――わたしを――


さわ子「でもあなたは――」

あたしはガラスの破片を握って――

律「…………あ、う」

唯「……………い」





律「あああああああああああうああああ!!!!!」

唯「いやぁああああぁああああああぁあ!!!!!」


さわ子「ガス爆発は本当にただの事故だった」

さわ子「唯ちゃんにとってなにより耐え難かったのは」

さわ子「自己と記憶を閉じ込めてしまうほどショックだったのは――」

さわ子「あれだけ愛し合っていた二人が……
    唯ちゃんにとって親友のあなたが、紬ちゃんにとって恋人のあなたが――」

さわ子「田井中律が――」

さわ子「紬ちゃんを殺したこと!」

さわ子「唯は記憶と自我閉じ込めて、愛を残した。限定的な幸せを選んだ」

さわ子「そしてあなたは記憶を消して――憎しみが残った」

さわ子「真相は隠蔽されたが、所在不明の憎しみにかられたあなたは、唯を傷つけた」

さわ子「私は、それでも……あなたたちが選らんだ方法を否定もできなかった」

さわ子「……でも、私は、もっとはやくにこうするべきだったかもしれないわね」


律「あ……あたしは……あたしが……」

唯「りっちゃん!」

律「くるな!」

律「………ごめん唯、あたし酷いことばかりして」

律「澪も、つらい思いばかりさせちゃったね……」

唯「りっちゃん! 私は大丈夫だから! 平気だから!」

唯「いままでのこととか、全然きにしてないから!!!」

唯「だから、だからやり直せるよ!」

澪「そうだよ律、時間はかかるだろうけど……またみんなで……」

律「ううん、そういう問題じゃないんだ……」

律「もう、そういうところは通り越しちゃったんだ……」



あたしは、

澪を悲しませた

唯を傷つけた

紬を、殺した

――ずっと、一緒

律「そうだね……あたし、もういやだよ……」

律「こんな……むぎのいない世界で、生きてはいけないよ……」

このナイフで、

すべてを清算――

澪「律!! だめだ!!」

律「澪、唯、さわちゃん……」




律「ごめんなさい……ありがとう――」



あばらの屋根からさす光が、滲んで見える。

三人の声が遠い。

あれ?

むぎ。

そんなところにいたんだ。

ずっと、そばにいてくれてたんだ。

ごめん。さびしい思いさせちゃって。

ううん。あたしは大丈夫。

えへへ。

これからは、ずっと一緒だね――




エピローグ

澪「唯、大丈夫なのか? もうすこし休んでたほうが……」

唯「もう平気だよ。はやく学校いきたいし」

澪「……そうか」

澪(唯は立ち直れたんだろうか? 私は……)

唯「澪ちゃん、わたしね、こう思うんだ」

澪「唯?」

唯「あの二人は天国で一緒になれたんだよ」

唯「起きたことはかなしいことだけど、それでも幸せなんだよ」

澪「唯……」

唯「あ~、はやくギターが弾きたいな~っ!
  もうずいぶんさわってないから、錆びてないかな、私のレスポール」

澪「いや、あの火事でやけちゃったよ」

唯「がび~~ん!!! まじで!!!?  そんな!!!」

唯「ああああ! 私のギターが……ぎぶそんさんが……」

唯「じゃあ部室にいっても……」

澪「ああ、楽器はひとつもないな」

唯「………うううぅ」

澪(あれ? もしかしてコレ、一番落ち込んでないか?)

さわ子「おはよう。ひさしぶりの登校ね」

唯「あ、さわちゃん! おはよー!」

さわ子「そうそう二人にプレゼントがあるんだ」

澪「プレゼント?」

さわ子「ほら、部室をみて」

澪「………これって」

唯「わあ!」

澪「ギターもベースも、キーボードも、ドラムセットも……」

澪「どうしたんですか? これ」

さわ子「まあ部費とか」

澪「部費って、こんな全部買えるほど……」

さわ子「足りない分はぽけっとまねーで」

澪「先生!」

唯「ひゃあ! さわちゃんだいすき!!」

唯「がぜんやる気がでてきた!」

唯「いっぱい弾いて、いっぱい歌うぞー!!!! イェーーー!!!!」

澪(いっぱい弾いて、いっぱい歌う……)

澪(そうだね……私たちは、この場所で音を奏でることができるんだ……)

澪「よぉーし! これからビシバシ作曲していくからな! ベストアルバム作れるくらい作曲するかな!!」

唯「ひゃっほー! 澪ちゃん本気~!!!」

澪「当たり前だ! 容赦はしない!! ブッとばす!!!」

澪「シェケナベイベー!!!!」

唯「イェアアアアア!!!!」






END