紬『ねえみんな、冬休み、合宿に行きません?』

律『冬山でロッジ借りて練習だ!』

唯『合宿!? 冬山!?』

律『おう、スキーとかも滑れるぞー! 温泉もあるぞ~』 

唯『冬山、銀世界…おんせん…わわわわ! 行く!』

澪『雪山かぁ……』

唯『あれ、澪ちゃん浮かない顔だね?』

澪『うん、ほら、雪山で大きな音出すと、雪崩とか起きないかな…?』

律『…っぷははは! ナダレってwwいくらなんでも雪そんな弱くないってwww』

澪『わ、笑うな! ほら、ヨーデルの歌声は雪崩を起こすっていうじゃんか』

律『あはははwwwなにその都市伝説wwww!!』

澪『だから笑うなぁ!!』

唯『大丈夫だよ、わたしたちは《けいおん》部だし!』

澪『そこは安心するところか?』

律『そんな心配せんでもナダレなんか起きないってwww』

澪『そ、そうかな』

律『そうそう、それにロッジはムギの別荘みたいなもんらしいからさ、宿泊代はタダ!』

唯『タダ! これは行くっきゃない!』



そういうわけで、合宿当日。

律『トンネルを抜けると雪国であった…』

唯『うはあ~、まっしろ~』

澪『しかし本当に雪以外なにもないな……』

紬『田舎ですから…バスも一日二回くらいしか通らないですし』

澪『陸の孤島だな…』

唯『おお~! 結構豪華なロッジだねえ』

紬『ちょうどこの下に温泉があるんですよ』

律『おーい、唯!』

唯『なに?りっちゃ…』

バフ!

律『必殺波動雪球!』

唯『やったなぁ~』バフバフ!

澪『……』

唯『びしょびしょになっちゃった…』

律『やはり雪山はこわいな』

澪『ニ時間も雪合戦したらそうなるわ!』

唯『澪ちゃんだってノリノリだったくせに~』

紬『じゃあ先に温泉に入ってきたら? 食事の用意は私がしておくから』

唯『いいの?』

紬『ええ、ごゆっくり』

律『………』



温泉

カポーン

唯『いやあ~ぜっけいですな。ごくらくですな』

澪『うん。あったまるなぁ』

ざぱ~ん

唯『あれ? りっちゃんもう上がるの?』

澪『カラスの行水だな』

律『いいんだよ。寝る前にまた入るから。それじゃお先~』


台所

紬『♪』トントントン

律『むぎ…』

紬『あら、りっちゃん、ずいぶん早いですね』

律『ん、まあ。それよりなにか手伝おうか?』

紬『え~と、それじゃあ野菜を洗って――つっ』

律『どうした!?』

紬『あはは、よそ見してたら指切っちゃった……』

律『みせて』

律『血が出てる……、ちゅうー』

紬『ひゃわ!』

律『あ、ごめん…痛かった?』

紬『い、いえ///』ドキドキドキ

律『あ、あのさ、むぎ』

紬『は、はい///』ドキドキ

律『……あたし……むぎのことが、す――』


唯『ひゃっほー!』

澪『紬、いいお湯だったよー』

律『わー!わー!///』

紬『そそそそうですか///』

澪『……?』



夜の練習後

唯『ばたんきゅう~』

澪『やっぱり初日は疲れるなぁ~』

唯『ぐーぐー』

澪『ちょ、唯、こんなところで寝るなよ』

澪『仕方ないな…、布団まで運んでやるか……』

紬『それじゃあ私はお風呂へ』

律『………』



温泉

紬『……りっちゃん、あのとき、なんて…』

紬『”す”の続きは……』

紬『きゅう~///』

紬『………』

紬『……ちょっと、だけ…』

ちゅく…

紬『ん……やっぱり濡れてる……私、りっちゃんこと考えて…』


律『むぎ』

紬『りりりり、りっちゃん!!』


紬『あ、み、見ないで、私…私……』

律『泣かないで、むぎ。ほら……あたしも』

律『むぎのこと考えるだけで、こんなに…』

紬『りっちゃん……すごい……あ、ンン――』ちゅくちゅぱ

律『むぎ、力抜いて』ちゅぱ

紬(りっちゃんのキス……あたまがぼーってしちゃう…)

紬(お湯でのぼせたわけじゃ、ないよね?)


律『あたし、紬が好き――』

紬『りっちゃん……はぅ…』

律『あたしは女だけど、紬がスキって気持ちは誰にも負けない。
  なによりも、だれよりも、紬がスキ』

紬『りっちゃん……』

律『あたしは、紬が好き。もう絶対に紬を離さない』

紬『りっちゃん……うれしい……』

律『ずっと一緒にいよう…、なにがあっても二人で……』

紬『はい……ずっと……』


~~~◯~~~~~~~~~~~~~~~~~
     Ο
     o

――むぎ……あたしを、一人にしないで――


律「………ああ…、また、あの夢か……」


赤い壁、

黒く汚れた手、

大切な人の涙。

悲鳴。

いつも、ここで途切れる。

律「……もう、行かなきゃ」

律「こんどこそ……あのバカを……」

律「紬、もうすぐ、あたしもそっちへいくから――」



病院

唯「ぐーぐー」

ガチャ

律「唯」

唯「ぐーぐー」

律「起きろよ池沼」

唯「あうぁ? んんんん、りつ!」

律「シッ、大声だすなよ」

唯「しぃ~~~」

律「そうだ、それでいい」

律「これから、面白いところへ連れて行ってやるぞ」

唯「おもし……でずにー!」

律「遊園地じゃないけどな。おいしいお菓子もあるし、澪も先に行ってまってる」

唯「みおも?」

律「ああ、来るか?」

唯「あうあ!」

律「それじゃあ静かについて来るんだぞ」

唯「ふうせん、もってく」

律「……すきにしろよ」





澪「唯!? 唯!! どこ行ったの?!」

澪「看護士さん! 唯は?!」

看護士「いま病院中を探しています。なあに、そんな遠くへは行けませんって」

澪「……唯、夜中に抜け出すような子じゃないのに…」

 ヒラリ

澪「ベッドの隙間から……この手紙は……?」

【すべてを清算させる。さようなら。――律】

澪「律……!!」

ピロリロリロリロ…

カチャ

さわ子「もしもし……」

澪「せんせえ! 唯が、唯が!!」 

さわ子「澪ちゃん?」

澪「大、大変なんです! 唯が! 律が!」

さわ子「落ち着いて、澪ちゃん」

澪「律が、唯をどこかに連れ出して…、置手紙もあって……きっと、だぶん」

さわ子「……」

澪「私、どうしたらいいか……先生、助けて!」

さわ子「わかった。いますぐそっちへ行くわ」



病院

さわ子「それでこの手紙が……」

澪「……はい」

さわ子「律……なにもしなければ、平穏を保てるのに…」

澪「先生?」

さわ子「《清算》させるのにふさわしい場所はどこかしら?」

さわ子「あの子たちの心をとらえているもの――《ロッジ》ね」

澪「!」

さわ子「澪ちゃん…あなたは、もちろん覚えているわよね? あそこでなにがあったか」

澪「……」

さわ子「合宿へ行ったあなたたちを襲った不幸な出来事」

さわ子「あの――《火事》のこと」

澪「……」

さわ子「火事はロッジをほぼ全焼させるほどのものだった」

さわ子「出火元は台所。原因はガスへの引火、ガス爆発にちかいものだったそうね」

澪「はい……すごく大きな音がしたから……」

さわ子「紬ちゃんは爆発時に台所にいた。そのせいで……」

澪「……」

さわ子「でも、直接の死因は火傷ではなく、倒れてきた食器棚のガラス片による裂傷――」

澪「……うぅっ」

わ子「律は唯ちゃんにあの火事の原因を求めてる。そして罪を償わせようとしてる」

澪「でも……あれは、唯が悪いって決まったわけじゃ――」

さわ子「そうね。確証はない。けど…律は唯ちゃんが記憶と自己を失ったのはそのせいだって思ってる」

さわ子「そしてそれは、唯ちゃんの記憶が戻ればすべてはっきりする」

澪「……律は唯の記憶を戻すつもりなの?」

さわ子「たぶんね」

澪「………」



村の駅

唯「りつ、やま!」

律「ああ、あれを上るんだ」

唯「やま! やま!」

律「うるせえなぁ、黙ってついてこいよ」



山中

唯「りつ」

律「なんだよ」

唯「ふうせん……」

律「あ?」

唯「ふうせん、げんきない……」

律「そりゃガスが抜けたんだろ、捨てちまえよ」

唯「ふうせん、どなっど、もらた……」



ロッジ跡、廃墟

律「ふぅ……」

唯「りつ、ここが、たのしとこ?」

律「………そうだよ」

唯「おかし?」

律「………」

唯「みおは?」キョロキョロ

律「……楽しい場所だった、幸せな時だった……」

唯「りつ?」

律「てめぇが全部ぶち壊すまではな!」



村の駅

村人「ああ、みたよ。朝早く女の子が二人。一人は風船をもってたなぁ」

澪「唯だ!」

村人「二人とも山のほうへ向かって行ったよ」

さわ子「やっぱり」

さわ子「清算の場所は、あの山で間違いないわね」

さわ子「……澪。唯ちゃんを元に戻したい?」

澪「もちろんです」

さわ子「そのせいで、あの子や律…、あなた自身が不幸になっても?」

澪「…どういうことですか?」

さわ子「そのままの意味よ。閉じた殻を無理やりこじ開けても、幸せになるとはかぎらない」

さわ子「私は……できることなら、殻は閉じたままにしておきたかった
     それが、唯ちゃんの選んだ方法だから……閉じたままなら、みんな傷つかずに済むから……」

さわ子「真相は闇の中。でも《残るもの》があればそれでいい。そう思ってた」

さわ子「でも、そういうわけにもいかなくなった。このままだとすべてが失われてしまう」



山中

澪「これは……!?」

さわ子「風船ね」

澪「唯が遊園地でもらったやつだ……」ギュ

さわ子「……」

澪「……ねえ、さわ子先生」

さわ子「なに?」

澪「先生も唯が火事の原因をつくったって考えてるの?」

さわ子「……どうかしらね。その可能性はあると思っているわ」

澪「………」

さわ子「ただ、どちらにしてもこれは唯ちゃんだけの問題じゃない」

澪「先生?」

さわ子「急ぎましょう。手遅れになるまえに」



ロッジ跡、廃墟

律「おらっ!」ガシッ!

律「まだ!」ガツン!

律「思い出さないのか!」バキッ!

唯「がは……あぅ、あ………」

律「はあはあ…、ラチがあかないな」

唯「……みお、みお」

律「………」

律「もういいよ」

律「てめぇの記憶なんか関係ない」

律はナイフを握った。

律「これで終わらせてやる――」


澪「唯! 律!」

律「……澪……さわちゃん」

律「まったく、どこまでも邪魔しいだな……」

さわ子「律」

律「………なに? まさか説得しにきたの?」

さわ子「説得じゃなくて治療よ」

さわ子「あなたが治療の場所としてここを選んだのは、半分正解ね。
    《場所の記憶》はそこに付随する記憶を呼び覚ますわ。荒っぽいやり方だけど」


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