澪「もぐもぐ……」

澪「やっぱり昼休みまたいで講義取るのは失敗だったなあ」

澪「はぁ……」

澪「午後の講義は英語か」

昼食を終えた澪はトイレの個室から出て、
次の講義がある教室へと向かった。

教室にはまだ誰もいなかった。
澪は最前列の席に座り、そのまま机に突っ伏した。

澪「……」

次の講義が始まるまで、澪はいつもこうしている。

講義の開始時間が近づいてくると、
だんだん他の学生たちも教室に集まってきた。

澪「……」

澪の隣には誰も座ることはない。

澪「……」

ざわざわ

周りの学生「ソレデネーサークルノセンパガサー」
周りの学生「キョウマジバイトイキタクネー」
周りの学生「ブンガクロンノコウギッテラクダヨナ」

澪「……」

やがてチャイムが鳴り、講義が始まると
澪はやっと顔を上げた。
わざとらしくアクビをして、「寝たふりじゃないよー熟睡してましたよー」というアピールも欠かさない。

先生「This is a pen. that is a pen」

他の学生たちは適当に講義を受けているが、
澪は必死にノートを取っている。
いざというとき頼れる相手がいないからだ。

先生「では、今のぺージのところをペアで発声練習してください」

澪「……!」

先生「後でペアごとに読んでもらいますからね」

澪「……!!!!」

澪(ペア組む相手なんていないよ……!どうしよう……)

周りの学生たちはすでにペアを作っていた。
見ず知らずの人間に「3人でやろう」と声をかける度胸など澪にあるはずがない。

澪(はぁ……なんで……
  なんでこんなことになっちゃったんだろ)

澪は大学に入ったころのことを思い返した。

澪は地元でも有名な一流大学に入学した。

今までの勉強が実を結んだことが澪にとって人生で最も嬉しいことであり、
両親も我がことのように泣きながら喜んでくれた。

澪(大学にはいったら、いっぱい勉強して、友達つくって、軽音楽もやって……
  とにかく、頑張るぞ!)

入学前にはこんなことを考えていた。

しかし、実際に大学に入るとそんな決心は易々と打ち砕かれてしまった。


講義中

教授「んーまぁ適当にグループ作っちゃってちょうだいっと。」

…ザワザワザワ…

教授「んーまぁ適当に決まったらちゃんと仕上げて提出ねっと、ひとりじゃ分量がちょっとねぇ(笑)」

…ザワザワザワ…

教授「んまぁ講義終わるけどひとりのやつは知らんぞー?んまぁこのレポートは避けては通れんからな」ハッハッハ



みたいな感じで夏休み返上してレポート仕上げてやった


入学後、澪はまず軽音部の見学に行った。

しかし、そこは高校時代の軽音部とは似ても似つかぬ空間だった。

ちゃらい恰好をした男女が、
うるさい音楽を鳴らし、
わいわいがやがや騒いでいる。

澪の性格的に、そんなところに溶け込むのは不可能だった。

澪は部活をあきらめ、一人でいるうちに、
いつのまにか大学内で孤立してしまったのであった。

澪(はあ……)

澪(せっかく良い大学にはいったのに)

澪(今では周りの目におびえながら暮らす日々)

澪(そもそもなんでこの大学入ったんだっけ)

澪(偏差値の高さだけで選んだような気がする)

澪(他のみんなは楽しくやってんだろうなあ)

澪(唯は音楽の専門学校行ったし)

澪(ムギは有名な女子大に行ったし)

澪(律はレベル低い大学に行ったけど、律ならどんな環境でも楽しめそうだな)

澪(それに引き換え私は)

先生「はい、じゃあ次は秋山さんのペア」

澪「はっ」

先生「秋山さん、立って。秋山さんのペアは?」

澪「あ……その……」

澪は立ち上がることが出来なかった。
周りからクスクス笑いが聞こえるような気がした。

澪「ペアは……いない……です」

先生「ええ?私、ペアを作りなさいって言いましたよね?」

澪「はい……」

先生「あなたねぇ、小学生じゃないんだから。
    周りとの協調性とか、もっとそういうのを考えられる年齢でしょう」

澪「はい……」

先生「友達を作るかどうかは勝手ですけど、
    いつまでも甘えてちゃいけませんよ」

澪「……」

先生「減点しておきます」

澪(はぁ……)

その後は何事もなく講義は終わった。
ただ、周りの学生たちの自分を見る目に軽蔑や憐みの意識がこもっているような気がした。

澪(今日はもう講義ないし、バイトだけだ)

澪はコンビニでアルバイトをしていた。
春から面接を13回も落とされ続け、やっとありつけたバイトである。

澪(バイトも行きたくないけど、行かなきゃなぁ……はぁ)


コンビニ。

澪「あ……お疲れ様デス」

店員「ああ、おつかれっす」

バイトを始めて2カ月がたったが、
澪はほかのバイト仲間と未だに打ち解けられていなかった。

澪「……」

店員「てきぱきてきぱき」

澪「あ……ぃらっしゃぃマセ……」

店員「いらっしゃいませぇー只今にくまん20円引きとなっておりまぁーす」

澪「……」

店員「てきぱきてきぱき」

澪「ぃらっしゃいマセ……2点で460円になりマス……ぁりがとぅござぃまシタ……」

店員「ありあとーござあっしたー」

店長「秋山さん」

澪「はっ……はい」

店長「いつも言ってるよねぇ」

澪「え……」

店長「もっと明るく接客して、って」

澪「はい……」

店長「指示を待ってないで、自分から動いて、って」

澪「はい……」

店長「君、仕事を全部もう一人の店員に押しつけてるんだよ?」

澪「はい……」

店長「だいたいねぇ、君は……」

店員「いや、いいっすよ店長、この子、慣れてないだけっすから。
    俺がフォローするから大丈夫っすよ」

店長「そうかい……?君が良いならそれでいいが」

澪「あ……ありがとうございマス」

店員「いや、いいっていいって。
   それよりバイトの後なんか用事ある?」

澪「え……特にないです」

店員「そう?じゃあよかったら一緒に食事でもどう?」

澪「え……」

女子高出身、大学で孤立中の澪にとって
異性から食事に誘われるなど初めてであった。

しかし、澪の心にわいたのは喜びよりも拒否反応だった。

澪「え、いや、ちょっと、その……」

店員「え、ダメなの?」

澪「いや、ダメってわけじゃあないんですけど……その……今日は……」

店員「あ、そ。ダメならいいよ。いきなり誘ったりしてごめんね」

澪「はい……すみません」

澪(はぁ、こんなだから友達できないのかなぁ)

澪(よくよく思い返して見れば、大学入学した頃には話しかけてくれる人もいた)

澪(でも私は、他人と仲良くなるってことができなかったんだ)

澪(高校の頃は、律とか唯みたいな友達がいたのに……)

澪(あ、そうか……今は律がいないから……)

澪(高校の頃は律がいたからみんなと仲良くなれた、みんな仲良くしてくれた)

澪(でも今は……)

そんなことを考えながら、
澪はただひたすらに勤務時間の終了を待っていた。

バイトが終わり、
澪は家に帰りついた。

澪(はーあ、明日も大学、そしてバイトか)

澪(毎日毎日、それの繰り返し)

澪(友達もいない)

澪(バンドもできない)

澪(私、なんのために生きてるんだろ)

澪(はあ……暇だなあ)

澪は入学祝に買ってもらったノートパソコンをひらいた。
お気に入りのブログ巡回が最近の澪の日課だった。

澪(更新されてるかなー)

澪(おっ、更新されてる)

澪(なになに、最近友人が2ちゃんねるで……)

澪(2ちゃんねるか、よく聞くけど、どんなとこなんだろう)

澪(グーグルで検索してみよう、2ちゃんねる……っと)

澪(おっ、これか。よし、入ってみよう)

澪(うーん、どれを見たらいいんだろ)

澪(とりあえず、このニュース速報ってやつを……)

澪(……ふうん、いっぱいトピがあるなぁ)

澪(ん……?『大学で一人ぼっちの奴は将来どうすんの』……だって?)

澪(興味深いトピだ、ちょっと見てみよう)

澪(なになに……大学でぼっちの奴は社会不適合者、ニートまっしぐら……)

澪(親に申し訳ないと思え、いくら高学歴でもコミュ力ないやつはカス……だって?)

澪(な、なんだこいつら……上から目線でモノ言いやがって……)

澪(そんなふうに言わないで下さい、私だってつらいんです……と)

澪(よし、送信……)




734 名前: みお☆ 投稿日: 2009/09/19(土) 21:40:27.18 ID:qkeuj253

  そんなふうに言わないで下さい、私だってつらいんです



735 名前: リコーダー(長屋) 投稿日: 2009/09/19(土) 21:40:44.94 ID:0Tjgfdvae

  >>734
  なにこいつキメェ



736 名前: シンバル(北海道) 投稿日: 2009/09/19(土) 21:40:56.52 ID:lEDfyEak

  >>734
  消えろカス



737 名前: ギター(dion軍) 投稿日: 2009/09/19(土) 21:41:11.37 ID:078HuseF

  >>734
  そうだねつらいねハイハイ





澪(な、な、な、なんだこいつら……)

澪(くそ!ふざけんなよ!)

澪(何でそんなこと言うんですか!?初対面の人にそんなこと言っていいと思ってるんですか!?
  ……と、送信)



澪(……あああああ!また馬鹿にされた!くそー!)

澪(私は一流大学に行ってるんです、あなたたちとは違います……と。送信)

澪(え?証拠に学生証を見せろ?)

澪(よし、見せてやる!私の大学名を見ればこいつらも黙るだろ!)





852 名前: みお☆ 投稿日: 2009/09/19(土) 22:10:23.49 ID:qkeuj253

  これが学生証です!!
  ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org160670.jpg(※リンク切れ)



853 名前: ドラム(東京都) 投稿日: 2009/09/19(土) 22:10:29.18 ID:mjQa41Gh

  >>852
  ちょwwwwwwwwwwwwwwwwwwww



854 名前: バイオリン(アラバマ州) 投稿日: 2009/09/19(土) 22:10:30.46 ID:KkNb0a2R

  >>852
  あちゃー



737 名前: チェンバロ(福井県) 投稿日: 2009/09/19(土) 22:10:32.51 ID:Di82Jkws

  >>852
  名前は秋山澪か





澪(あ、あれ?何か盛り上がってる?)

澪(え?特定した?え?え?何?どういうこと?)

澪(もしかして……やばいことしたのかな……)




932 名前: サックス(京都府) 投稿日: 2009/09/19(土) 22:18:29.18 ID:hgu7tREW

  今その大学行ってる友達からメール北wwww
  いっつも一人で講義受けてて
  外国語の講義のときにペア組めなくてテンパってたらしいwwwwwww



854 名前: チェロ(秋田県) 投稿日: 2009/09/19(土) 22:18:30.46 ID:k+pqAZc8

  とりあえずその大学の掲示板に貼っといた
  あとミクシイのコミュニティにも



737 名前: カスタネット(大阪府) 投稿日: 2009/09/19(土) 22:18:32.51 ID:I87T5sdy

  秋山澪終わったなwwwwwwwww




澪(え……転載って……え、え、え、え、え……)

澪(どうしよう……私、明日から学校行けないよ……)

澪(私……私……うわあああああああ)











澪は翌日から大学に行かなくなった。


大学にもバイトにもいかず、引きこもりはじめた澪は、
特にすることもないので再び2ちゃんねるへと足を踏み入れていた。

色々な板を見回った結果、
書き込む際には名前を入力しないこと、
個人情報が分かるものは晒さないこと、などが分かった。

また普通のブラウザではなく2ちゃんねる専用のブラウザがあることを知り、
それをダウンロードした。

澪(私もだんだん2ちゃんねるに慣れてきたな……
  でもニュース速報は怖いから当分行かないようにしよう)

コンコン
母「澪ちゃん……」

澪「ん?」

母「あなた、もう1週間くらい大学に行ってないみたいだけど……」

澪「……別にいいだろ、ほっといて」

母「澪ちゃん……」


1週間、2週間経っても澪は大学に行こうとしなかった。

そのまま数年が過ぎ、大学から除籍処分が下された。

澪はずっと2ちゃんねるを続けていた。



澪「ったく、これだからマスゴミは……ブツブツ」

コンコン
母「澪ちゃん……」

澪「なんだよ!」

母「……いえ、なんでもないわ……」

澪「なんでもないならくんなよ!」

もはや母は説教する気も説得する気も失せてしまっていた。


そしてまたまた数年の歳月が流れた。

その間に唯はプロデビューし、
紬は有名企業の御曹司と結婚し、
律はハケン社員となり、
梓も憂も大学を出て社会人となった。

かつての友人たちが自分の道を歩み始めても、
澪は自分の部屋に閉じこもって2ちゃんねるとネトゲだけの生活を続けていた。




父「やあ、ただいま」

母「あなた……お帰りなさい」

父「いやあ、長い海外出張だった。
  澪が大学に入った年からだから、もう6年にもなるのか」

母「あなた、その澪のことなんですけど……」

父「分かっている、引きこもっているのだろう」

母「はい……」


その時、リビングの天井にドンドンドンという音が響いた。

父「な、なんだ?」

母「ああ、澪ですよ……
  お腹が空くと、ああやって床を踏みならすんです……」

父「……」

母「朝も夜も関係なく……すぐに持って行かないと暴力をふるうんです……
  私は食事を持っていきますから、あなたはゆっくりなさっていてください」

父「ああ……」



コンコン
ガチャ
母「澪ちゃん、お食事……それと、お父さんが海外出張から帰って来たのよ……」

澪「食事はドアの前に置いといてって言ってるだろ!!」




             お         わ          り



最終更新:2011年05月05日 23:50