かき「ありがとう、なんだか助けてくれたみたいで」

豊崎「先生すごく疲れてたみたいなんで」

かき「正直言うと2次会まで行ったらどうなってたか……」

豊崎「無理しなくても、嫌だったら嫌って言ってもらっていいんですよ?」

かき「まぁ、そうなんだけど……」

豊崎「あ、タクシー来ましたよ」

かき「豊崎さんお先にどうぞ」

豊崎「先生、ご自宅は?」

かき「〇〇だけど」

豊崎「私も、〇〇方面なんでどうせなら一緒に乗りましょう」

かき「え、でも……」

豊崎「私と一緒じゃ嫌ですか?」

 ・ ・ ・ ・ ・

かき(結局一緒に乗ってしまった……)

豊崎「先生のご住所は?」

かき「〇〇の××だけど」

豊崎「じゃあ、そこにお願いします」

運ちゃん「あいよ」

かき「いや、豊崎さんの方から先でいいよ」

豊崎「いいんですよ」

かき「でも……」

豊崎「あの……」

かき「ん?」

豊崎「今日先生のお宅に泊めて頂いても……いいですか?」

かき「……え?」

豊崎「駄目……ですか……」

かき「いや……その……」

豊崎「私みたいな巨人が入る部屋なんて無いですよね……」

かき「そんなことはないけど……」

かき「豊崎さん人気声優だし、ファンの子にバレちゃったら……」

豊崎「もう、先生そんなの考えすぎですよ」

かき「そうかな」

豊崎「他の声優仲間の人も友達の家に泊まるなんて普通にやってるんですから」

かき「友達……ね」

豊崎「そうです」

かき「う~ん……」

豊崎「駄目だって言ってもついて行っちゃいますから」

かき「そこまで言うんなら……」

豊崎「じゃあ、先生の家から一番近いコンビニに寄ってもらえます?」

かき「ああうん、だったらそろそろ……あ、この辺で」

運ちゃん「あいよ」

かき「何買うの?」

豊崎「下着です」

かき「ああ、そっか……。Tシャツやハーフパンツくらいなら貸してあげれるけどね」

豊崎「もしかして下着も先生の貸していただける、とか?」

かき「いや、それは無理でしょ」

豊崎「ですよね~、サイズの問題もありますしね」

かき「そういう問題じゃないと思うよ?」


かきふらい自宅

豊崎「うわ~、ここでけいおんが生まれたんですね!」

かき「ちょっと散らかってるけど」

豊崎「アシスタントさんとかいないんですか?」

かき「全部一人でやってるよ。月刊で4コマだし、その方が気楽だし」

豊崎「へ~」

かき「何か飲む? って言ってもお酒とかは普段飲まないから無いけど」

豊崎「あ、お気遣いなく」

かき「コンビニで何か買ってくればよかったね」

豊崎「それよりも、お風呂に入りたいかも」

かき「え?」

豊崎「ちょ、や、やだ。そんなに変に意識しないで下さいよ。
    今日はお仕事もしたしお酒も飲んだから汗かいちゃって」

かき「そ、そうだね」

かき「じゃあ、ちょっとお風呂沸かしてくるよ」

豊崎「お願いします」

 ・ ・ ・ ・ ・

かき「お風呂が沸いたんで、豊崎さんお先にどうぞ」

豊崎「それじゃあ、お先に……」

かき「ごゆっくり」

豊崎「一緒に入ります?」

かき「なっ!?」

豊崎「じ、冗談ですよ!」

かき「あんまりビックリさせないで」

豊崎「私と一緒に入ったら二人で湯船にはまっちゃうかもしれないですしね」

かき「そのネタもう鉄板ネタだね」

 ・ ・ ・ ・ ・

豊崎「お先でした~。すみません先生。私が先で」

かき「お客さんだからね」

豊崎「うふふ、じゃあお次先生どうぞ」

かき「うん、それじゃあ失礼して」

豊崎「大丈夫ですよ、よっちゃんじゃないから覗いたりしないんで」

かき「……うん」


 ちゃぽ~ん

かき「ふい~~~~」

かき「しかし、なんでまた豊崎さんウチに泊まるなんて言い出したんだろ?」

かき「家に帰っても暇なのかな……」

かき「こんなところにいたって暇だと思うけどなぁ」

かき「……」

かき「友達……か」

かき「声優さんなんて裏方の人だったのにいつのまにか表に出るようになってから綺麗な人増えたな」

かき「豊崎さんも……綺麗だな……」

かき「っていったいなに考えてるんだ!」

かき「ただの友達、ただの友達なんだ」

かき「けど、豊崎さんは……どんな気持ちで……」

 ・ ・ ・ ・ ・

豊崎「うんうん、ちゃんとある」

かき「あれ? 豊崎さん台所で何してるの?」

豊崎「わっ!? も、もう上がったんですか?」

かき「うん、いつもこのくらいだけど……」

豊崎「そ、それじゃあ明日も早いんで寝ましょうか」

かき「じゃあ、豊崎さんはベッドで」

豊崎「先生は?」

かき「こっちのソファで寝てるから、何かあったら起こしてくれたらいいよ」

豊崎「え、でも、そんなの悪いです!」

かき「だけど……」

豊崎「私が、ソファで寝ます!」

かき「いや、悪いし……」

豊崎「先生がベッドを使って下さい!」

かき「そういう訳にはいかないよ」

豊崎「私が先生のベッドなんかで寝たら足がはみ出ちゃいます!」

かき「きっとソファの方が狭いと思うよ」

豊崎「ううっ……」

かき「気にしないでいいから、ベッドをお使い」

豊崎「気にします!」

かき「って言われてもなぁ」

豊崎「だから……ここはお互いの主張の間をとって一緒にベッドで寝ましょう!」

かき「ぶっ!!」

 ・ ・ ・ ・ ・

豊崎「や、やっぱり狭いですね」

かき「二人で寝る想定をしていないベッドだから」

豊崎「そっか……」

  「・・・・・・」

かき「ねぇ」

豊崎「はい?」

かき「なんで豊崎さんはウチに来たの?」

豊崎「ごめんなさい、無理矢理家に上がり込んじゃって……迷惑でした?」

かき「いや、そんなことはないけど」

かき「ただ、なんでかな、と思っただけで」

豊崎「……先生は」

かき「ん?」

豊崎「先生はこれからどうなさるおつもりなんですか?」

かき「そうだな……。とりあえずアニメのおかげで漫画も売れたし
    やらしい話、慎ましく生きていけば充分一人で食べていけるだけ稼がせてもらったし」

かき「このままひっそりと生きていくのも悪くないかなって」

豊崎「それでいいんですか?」

かき「別にちやほやして欲しくて描いてたわけじゃないから」

豊崎「そうじゃなくって、そんなにいつまでもアニメのおかげだなんて思ってほしくないんです!」

かき「……事実だよ」

豊崎「事実かもしれません……でも」

かき「でも?」

豊崎「そのけいおんを生み出したのは先生であるっていうのも紛れもない事実なんじゃないですか?」

かき「……」

豊崎「確かに火がついた切っ掛けはアニメかもしれません」

豊崎「でも、だからといって原作が面白くなければ百何万部も売れませんよ」

かき「……」

豊崎「先生はご自分の力だとは思ってなくても」

豊崎「ちゃんとファンの皆さんはわかってくれていますよ」

かき「豊崎さん……」

豊崎「それに、先生がけいおんを描いてくれなかったら今の私も無かったと思います」

豊崎「私だけじゃなくって、他の声優のみんなもそうです」

かき「もしかして、そういうことを言いにウチまで?」

豊崎「えへへ、なんだか先生元気が無さそうだったから」

かき「そっか……ふふっ」

豊崎「うふふっ」

かき「そんなにだった?」

豊崎「なんかもう定年を迎えた人みたいになってましたから」

かき「ありゃ~」

豊崎「厚かましいかとは思いましたけど、私が元気を分けてあげられればなって思って」

かき「うん。ありがとう豊崎さん」

豊崎「あの……」

かき「なに?」

豊崎「愛生って呼んでもらっていいですか?」

かき「あ、愛生ちゃん」

豊崎「はい。うふふ」

かき(なんだ……この雰囲気)ゴクリ…!!

豊崎「先生はずっとそうやってけいおんの漫画を描いてらしたんですか?」

かき「う~ん……そうだな~」

かき「実際アニメになってからいきなり話題になったからね」

かき「ネットでも中身が無いって色々見かけたし」

かき「だけど、世間にどう思われようと関係ないって思って今まで描いてきたんだ」

かき「だからこうやってちゃんと評価をしてくれてる人の話も聞かずにいた」

豊崎「先生は漫画の評価以上に色々なものを産み出してますよ」

豊崎「その一つが私です」

かき「そう言ってもらえると助かります」

豊崎「いえいえ」

豊崎「元気になりました?」

かき「うん」

豊崎「じゃあ、もっと元気にしちゃおうかな~」ギュ

かき「!!?」


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────────
────────────

 チュン…チュンチュン…

かき「う、うう~ん……」

かき「今、何時……?」

かき「もう9時か……」

かき「そういえば愛生ちゃんは?」

かき「いない……」

かき「……あれ? もしかして夢だった!?」

かき「なんて夢見ちゃったんだろ……」

かき「溜まってるのかな……」

かき「いやいや! 夢でもあの展開はおかしいって!」

かき「確かに、描くにはそういうのが好きではあるんだけど……」



かき「ん? なんか味噌汁の匂いがする」

かき「やっぱり、鍋に味噌汁が作ってある」

かき「あれ? これ書置きかな」


『かきふらい先生へ

  おはようございます。昨日はありがとうございました。
  私は朝早くから仕事なのでお先に失礼します。
  なんだかよく眠っていたようなので起こすのも悪いかなと思ったので…。

  台所を勝手に使わせてもらっちゃいました
  お味噌汁を作ったのでよろしければお召し上がりください。
  ちゃんとご飯も炊いてあります。あと簡単ですが玉子焼きもテーブルの上に置いておきました
  お口に合えばいいんですが。

  それとこれ私の携帯番号とメルアドです。また連絡下さいね

                     貴方の愛生より 愛を込めて』


かき「夢じゃなかったんだ……」



数週間後

かき「コミックスの描き下ろしも描き終えた」

かき「これで本当にけいおんとはお別れか」

かき「自分の手には余る作品だったな」

かき「あまりにも大きくなり過ぎたせいで押しつぶされそうになったけど」

かき「その最初の一歩は紛れもなく自分なんだ」

かき「それにちゃんと評価してくれている人もいる」

かき「また、こんな作品が描ければいいな」

かき「……」

かき「そういえば、今日は番外編の最終話のアフレコだって愛生ちゃんからメール着てたっけ」

かき「……行ってみるか」

かき「ちょうど、あの日皆に選んでもらった服もあることだし」

かき「あ、でも手ぶらで行くのもなんだな……」

かき「けど、何を持っていけば……」

かき「……」

かき「描くか」

かき「うん、それがいい」

かき「言葉で伝えるのは苦手だけど」

かき「その分、心を込めて絵を描けばきっと伝わる」

かき「自分にはこれしかないんだし!」



都内 某スタジオ

かき「うわぁ~。さすがにこれだけの量を描いてたら遅くなっちゃった」

かき「前来たときよりも身支度に時間も掛かったし」

かき「まだ、やってるかな」



かき「あの、すみません」

「はい?」

かき「けいおんのスタジオはこちらでよろしかったでしょうか?」

「どちら様でしょうか?」

かき「か、かきふらいです……」

「ええっ!? せ、先生! これは失礼しました!」

かき「い、いえ……」

「しかし、ついこの間会った時と比べると見違えるように……」

「い、いや、これは失言でした」

かき「ふふっ。自分でもわかっているんでいいですよ」


佐藤「ああ! かき先生だ!」

豊崎「やっほ~かきちゃん!」

かき「前にみんなに選んでもらった服なんだけど……どうかな?」

寿「うんうん。やっぱり私たちの目に狂いはなかったっていうことね」

日笠「そうそう。やっぱり女に生まれたからにはスカートひらひらさせないと」

竹達「すっごくお似合いですよ!」

かき「そ、そう?」

豊崎「お化粧もばっちり決まってるね!」

かき「皆に言われてから、ちゃんとしようかなって思って」

日笠「これが……原石か……」

かき「実は皆さんにお礼の気持ちも込めて、これ描いてきたんだ」

豊崎「わ~! すご~い! やっぱりかきちゃん天才だよ!」

かき「ふふっ、ありがと」

 そう言って照れるように笑う姿はとある人気漫画の左利きのベーシストが
 大人になればこうなるであろう姿だったそうな

おしまい