紬「うふふ…すっごい素敵な脚だわ~」ナデナデ

医者「紬お嬢様、脚を弄るのは後にして下され……処置に移りますぞ」

紬「わかってるわ……唯ちゃんもこれから可愛いペットになるのね。堪らないわぁ」ウットリ

和「……そんなことさせるわけないでしょ」

紬「!?」

振り返るムギの右目辺りに鉄パイプが直撃する…白衣に血が飛ぶ…容赦はしないそのまま肩の辺りに振り下ろす。くぐもった叫びを上げてムギが跪く……今度は背中に叩き込む

跪いたムギが足の甲に手術用のメスを突き立て捻る

痛みに耐えきれず叫び声をあげながら鉄パイプを振り下ろす、何度も何度も…
ムギの手から力が抜けたのを確認しメスを引き抜く

和「あなたもムギの味方なの?だったら容赦しないけど」

医者「お嬢様の味方には違いないが逆らうつもりは一切ない」

小柄な医者はおそれることなく言い切る

和「唯は連れて帰るわ……それに澪、律もね」

医者「……お嬢さん、欲張らないほうがいい。悪いことは言わないその娘さんだけで我慢しなさい」

和「そんなこと……はい、そーですね。なんて聞けるわけないじゃない」

医者「他の二人の命を諦めらきれないなら……お嬢様を今ここで殺しなされ」

和「出来ない……ムギは法で裁いてしっかり罪を償ってもらうわ」

とりあえず唯を車椅子に移し運び出す……ちゃんと元通りになるのかしら。自分の足の痛みなんか気にならない、ただただ唯が心配だった

エレベーターで地上に戻るとさっきの執事が待ち構えていた……

和「たぶん死んでないと思うわ…保証なんて出来ないけどね」



私は敷地内に潜り込み辺りを窺いながら明かりの方へ進み続けた……母屋の明かりとは別の離れた位置に明かりが灯っているのを見つける……

息を殺し足音を立てないように近づく…離れの辺りは何か重苦しい空気が漂っているような気がして脚がすくむ……唯を助けなきゃ……その義務感だけが重い脚を前に進ませる

玄関にドアノブに手をかけようとする…

斉藤「お友達を迎えに来られたならそちらの入り口は推奨出来かねますな」

不意に後ろから声をかけられ反射的に手に持っていた鉄パイプを声の方向へ振り回す……鉄パイプは空を切り体勢を崩す。同時に右手を捻りあげられ鉄パイプを落とす、声の主は捻った手を離すと片手で私の首根っこを掴み持ち上げる

呼吸が出来なくなり脚をばたつかせる、両手は首を掴む腕を離させるように抵抗するがびくともしない……もう終わりなの?まだムギのところにも辿り着いてないのに…苦しさと悔しさで涙が溢れる

意識が遠退く…口からよだれが垂れ手足が重くなる…

気を失う瞬間、首を掴んでいた手の力が抜け地面に落とされる、膝から崩れ落ち全力で呼吸をする……涙と鼻水とよだれでグシャグシャになった顔を恐る恐るあげると執事のような老人がにこやかに笑った

斉藤「ようこそおいでなさいました。わたくし琴吹家の執事、斉藤と申します。失礼ですが真鍋和様でおられますか?」

小さく頷くと斉藤と名乗る執事は手を伸ばし私を引き上げる……意味がわからず立ちすくむ

斉藤「平沢様をお迎えに来たのですね?まずはこちらへどうぞ」

離れの玄関から裏口へ案内される……斉藤の言うには玄関のドアノブを回すとムギに侵入したことがバレてしまうらしい。監視カメラもあるそうだがおそらくムギは他のことに気をとられチェックしてないとのことだった

離れの中に入るといきなり吐き気がしてきた…生臭い鉄の、いや血の臭い少し進むと担架の上に血が滲んだ白いシートが被せてあった。人の形にふくらんだそれは確認しなくとも中身がわかった…澪?律?それとも憂ちゃん?確認は出来ない。辺りは赤黒い液体で染められていた

担架から続く血痕をたどり奥へ進むと突如壁に遮られ道がなくなった

斉藤さんの方へ視線を写すと近くの壁を触っている

壁が静かにスライドして道が生まれる

斉藤「平沢様とお嬢様はこの先の地下におられます。平沢様を連れ戻されることに関しては邪魔をいたしません。ですが万が一にでも真鍋様がお嬢様の命を奪われるようでしたら……」

細い目を薄く開け私を睨み付ける…闇より深い感情の見当たらない瞳に恐怖する

和「……なぜ手助けをしてくれるの?私は紬の敵なのに」

素朴な疑問を口にする、目を閉じにこやかに斉藤は答える

斉藤「お招きする車の中で平沢様は何度も言われました『和ちゃんがきっと助けに来てくれる、わたしはそれまで待ってればいいだけ』と…そして真鍋様が現れました」

和「……唯」

斉藤「そして思いました。真鍋様なら同時にお嬢様を救って下さる方になるかもしれないと…」

和「買いかぶりしすぎよ…それに虫が良すぎるわ」

斉藤「でしょうな…無理はありません。ですがきっかけになればいいのです。ですからお嬢様の命は奪われないよう努々ご注意下さいませ」

和「……約束は出来ないけど努力はするわ」



斉藤「お車の用意は出来ています、さぁ病院へ向かいましょう…真鍋さまもお怪我をされているようですし…」

和「斉藤さん、唯を…唯をお願いします。私はまだしなくちゃいけないことが残ってるので…」

返事を待つことなく踵を返す…ドアが閉まりエレベーターが動き出す…地下に付き用心して辺りを探る

各部屋の窓には小窓が付いており中をうかがう…目を背けたくなるような道具が並べてある部屋、生活臭のない牢屋のような部屋…そして女の子の部屋を象徴するかのような室内の中に捜している人物がいた…

鍵がかかっているかと思いきやドアは普通に開く…ベッドに近づくとその子もこちらに気づく…秋山澪…

和「澪…」

澪「和、和なのか?ムギッ、やめてくれッ」

背後の気配に気付き反射的に前方に転がる、背後に潜んでいたムギが凶器を振り下ろす!!ベッドの側にあった機械が音をあげ破壊される…作り物みたいに火花をあげムギが凶器を引き抜く…

ムギ「ダメじゃない澪ちゃん…せっかく和ちゃんにお返ししようと思ったのに~」

太めの眉を下げて可愛らしく手を上下させる…これまでのムギだったら見ていて和みもしただろうか…

金髪は血に染まりボリュームをなくしベタリと貼り付いて窪んだ眼窩から汚ならしい体液を垂れ流し女子高生にはおよそ不釣り合いな形状の刃物を提げたムギは邪悪な笑みを浮かべていた

奥歯がカタカタ鳴りながらも歯を食いしばり鉄パイプを構える。ムギは嬉しそうに目を細め舌を少し出し唇を嘗める…刹那

鉄パイプはムギの一撃で弾き飛ばされ床を転がる、衝撃で尻餅をつく…ムギの攻撃を転がって避ける。息をつく間もない連撃を逃げ続ける…一方ムギは余裕を持って狩りを楽しんでいるようにも見える

澪「ムギ…律の様子がおかしいんだ…」

さっきは気づかなかったが澪と律は同じベッドに寝かされているらしい…律には体のあちこちに管やら電極がついていてそれらはムギによって破壊された機械に繋がっていた。澪の呼び掛けにムギが顔を向ける

その瞬間を狙い中腰の格好でタックルをかます。ムギが凶器を振り下ろすが体勢が悪いせいかさっきまでの威力がない、構わず力を込める

ムギの背中が機械にぶつかり火花が飛ぶ…危険に気づいたのか凶器を捨て両手で抵抗する。が、勢いは換わらずムギもろとも火花を放つ機械を押し倒す

一層激しく火花が散り感電しているのだろうか…ムギが気味悪い速さで痙攣する



和(終わったのか?)

放心状態から我に返り澪と律に駆け寄る

澪は四肢を失った姿ではあったが…なぜかそれはとても神聖なもののような…完成された美を感じた

一方律は四肢は残っているものの部分的に血の滲んだ包帯を巻かれ寝かされていた…千切れ飛んだチューブや電極が痛々しい。あの機械が律の命を維持する装置だとしたら

悔しさに涙が溢れる…嗚咽が漏れ…澪にすがり付く。澪は慈愛に満ちた表情で私を慰めてくれた

澪「いいんだ、和…助けに来てくれたんだろ?ありがとう嬉しいよ。フフッ…お前は本当にいいやつだよな」

和「違う、私はそんな誉められるような人間じゃないッ…あの日澪が、澪が連れ去られたあの日…それだけじゃないさわ子先生も律も…」ヒックヒック

澪「いいんだ、和……それ以上言わなくてもいい。なぁ…それよりお願いがあるんだけど」

和「なに?私に出来ることなら何でも言って」

澪「何でもか?」

和「約束する、何でも言って!!」



澪「そっか……じゃあ私を殺してくれないか」


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