紬「おはよう、りっちゃん」

律「おっす、ムギ…もう平気なのか?」

りっちゃんは腫れぼったいような泣き腫らしたような目をして自分の席にいた。ずっと澪ちゃんの無事を祈り続けているのだろう…健気なりっちゃんにキュンキュンするわぁ

始業ベルより早くベルが鳴る…

『生徒の皆さんは至急体育館に集まるよう連絡します』

りっちゃんの目がカッと開き同時に体が震えだす

律「ま、まさか澪が…ムギ、どうしよう。立てないやハハハ」ガタガタ

紬「りっちゃん大丈夫よ、きっと澪ちゃんは無事」ギュッ

慈しむようにりっちゃんを抱き締める…いつも強がってばかりのりっちゃんが震えている

唯「………りっちゃん、ムギちゃん。おはよ」

いつの間にか唯ちゃんがそばにいた。唯ちゃんがとても言いにくそうな…口に出すのが恐ろしいといった感じで言葉を探しているのがわかる

唯「あのね、そこで聞いたんだけどね…昨夜ね、さわちゃん先生が交通事故で死んじゃったみたいなの」グスグス

律「なに言ってんだよ唯、冗談だろ!?信じられるかよ…さわちゃんだぜ?車に轢かれたぐらいじゃ死なないだろ」

確かにあの女ときたら車に轢かれたぐらいじゃ死なないかもしれないわ~♪人間ってなかなか死なないものなのね。勉強になったわ。まぁあの状態が生きているかと聞かれたら素直にハイとは言えないけど

紬「とりあえず体育館に向かいましょ、ね?」

律「あぁ…もぅなにがなんだかわかんねぇよ。あたしらが何かしたのかよ」

唯「………りっちゃん」



臨時の朝礼は至ってシンプルなものだった。山中さわ子先生が交通事故に遭って亡くなったということだった。居眠り運転の大型トラックに引き摺られ死体は酷い状態だったと後日噂で耳にした

すべて斉藤から聞かされていたのでなにも驚く要素は見当たらない…逆にショックを受けた振りをするほうがやっかいだったわ

紬(あの女最後までしらばっくれてたわ。何が『メールなんて知らない!!』誰が信じるものですか…でもこれで安心して澪ちゃんを愛せるわぁ)

澪ちゃんとさわ子先生を失い軽音楽部は解散となった。明らかに元気を失ったりっちゃんと唯ちゃんを励ましながら季節は移ろい…夏を過ぎ秋になった。去年の今頃は学園祭のライブの準備であたふたしてたわ~



律「おい、バカ澪起きろ~練習するぞ!!」

唯「りっちゃんかわいそうだよ~寝かせてあげようよ~」



やだよ、まだ眠たいんだ…邪魔しないでくれ


律「澪~学園祭のライブまで時間がないんだ早く起きろって。起きないとスカートめくるぞ~」

澪「やめろバカ律殴るぞ…え…あれ律?」

律「やっと起きたのかよ!大事な時に寝やがって…さ、練習するぞ」

澪「あぁ…」


なんか嫌な夢を見ていたような気がする…


紬「ねぇ澪ちゃん…腕がなくっちゃ演奏出来ないわよ~」

律「ホントだ!!澪はドジだなぁ~」

唯「澪ちゃんお人形さんみた~い」



紬「澪ちゃん凄い寝汗ね…怖い夢でも見てたの?」

澪「………ムギ?怖かった、なんか嫌な夢を見てたんだ」

紬「大丈夫よ、私が側にいてあげるから」ナデナデ

自分自身の身に起こった事を理解した時、私は気が狂いそうだった…事実狂っていた。何度も自殺を図り、食事を採らず餓死を選ぼうとした時もあった。その度に小柄な白衣の老人が現れ死を望む私を無理矢理引き摺りあげるのだった

死ぬ事を許されない状況下で私も次第に狂ってしまったのかもしれない…ムギが以前より憎くないんだ。むしろこんな私の側にいてくれることを感謝すらしている…狂ってるのは私なのか…この地下室なのか…もうわからなくなってしまった



二年生の秋はせわしなく過ぎていく…その頃から私は受験勉強に専念するという名目の元、離れに部屋を写し両親が帰宅した時以外の余暇時間をそこで過ごしていた

澪ちゃんも最近では薬を使わなくても私に敵対心を抱かなくなり私にとってはとても理想的な日々だった。

食事と入浴を済ませたら澪ちゃんの髪をとかしながら学校でのことを教えてあげ、その後は一日の授業の内容を澪ちゃんと一緒に復習する。

もともと聡明だった澪ちゃんと復習するせいか学習塾や家庭教師を使うこともなく学力は上位をキープし続けることが出来た。おかげで両親も離れを使うことに反対することもなく安寧な日々が続く

学校でのことを話している時の澪ちゃんの瞳は憂いを秘めている気がする…そんな表情も私にとってはたまらないが少し胸が痛くなる

紬「ねぇ…澪ちゃん、やっぱり私が学校に行ってる時って一人じゃ寂しいわよね~」ナデナデ

澪「んッ…でも私にはムギがいてくれるし…リモコンも使えるから録画してある番組も観れるし…さ、さびしくなんか…ひゃ、ムギどこ触って///」

ペットを撫でるように澪ちゃんの身体を優しく撫でまわす…澪ちゃんの息づかいが浅く速くなっていく

紬「いいのよ澪ちゃん、誰にも聞こえないんだから大きな声出しちゃっても平気よッ」

澪「ムッ…ムギィ///」

澪ちゃんの潤んだ瞳、上気を増した頬…なにもかもが愛おしい、たまらず口づけを交わし舌を潜り込ませる…澪ちゃんもそれに応えてくれ舌が淫らに絡み合う

唇を放し見つめ合い…かき混ぜられた唾液が尾を引き唇と唇を繋ぐ糸になった

紬「澪ちゃん、それじゃあヌギヌギしましょうか?仰向けにするわよ~」ハァハァ

澪ちゃんは小さく頷き頬が赤みを増す…仰向けにした澪ちゃんの服を少しずつ剥いでいく。恥ずかしいのだろうか、何度繰り返してもこの時目を逸らして口をギュッと閉じ、されるがままにしている

服を剥がされた澪ちゃんの裸身が明かりの下で照らされる…ベッド広がる黒い髪、潤んだ大きい瞳、形の良く豊満な胸、くびれたウェストか流れるヒップライン…この世の美の集大成ともいえる存在に思わず息をのむ

澪「ムギ…そんなに見られると、その…恥ずかしい」

お祖父様があの医者を気に入っていた理由がよくわかる…澪ちゃんの四肢があった箇所には傷口のような物はなく、代わりにそこに腕や脚なんてはじめから無かったかのような自然な曲線が描かれていた。

それだけではない、あの医者の処方する栄養剤のせいだろうか…地下室で半ば寝たきりの生活を送っている筈の澪ちゃんでさえこれまでと変わらぬ肉体を保ち続けている…

澪「おいムギ…大丈夫か?」

紬「えっ!?大丈夫、大丈夫よ…澪ちゃんに見とれちゃったわ」

澪「ば、馬鹿…恥ずかしいこと言うな」

紬「うふふ…今日もいっぱい気持ち良くしてあげるわね」



律「大丈夫かムギ…目の下、凄いクマだぜ?」

紬「うふふ、試験が近いから夜更かししちゃったわ~」

律「うへぇ…ムギは成績悪くないのによくやるぜ」

りっちゃん、本当はね…行方不明のあなたの幼馴染みと明け方までずっとじゃれあっていたのよ

唯「ムギちゃんはすごいな~わたしなんて和ちゃんに助けてもらわなきゃ赤点ばっかりだよぉ」

本当に何気ない会話…いつしか誰も澪ちゃんのことを口にしなくなった。駅前でのビラ配りもしばらくやっていない。みんな口に出さなくてもわかっているのだろう…

和「おはようみんな、唯悪いけど英語の辞書を貸してくれ。試験勉強で持ち帰ってさ、そのまま忘れてきちゃったんだ」

律「ここにもガリ勉がいるぜ~勘弁してくれよな~」

唯「ちょっと待っててね~ほいさッ」スチャ

和「ありがとう唯…ムギ、肩にゴミが付いてるぞ」

ムギ「あら、気付かなかったわ」

和ちゃんの指先に流れる一本の長く黒い髪…ジトリと汗がにじみ出る。気をつけているつもりだった、いや毎朝欠かさず澪ちゃんの痕跡は消し去っていた…なのに

いや澪ちゃんの髪の毛だとは限らない、電車の中で偶然ついた髪の毛かもしれない…でもこのメンバーの中で黒く長い髪の毛で思い当たるのはただ一人だろう

沈黙が続く…ここ最近の私たちにとって澪ちゃんの話題はある種の禁句だった。「澪ちゃんの髪の毛みたいだね!!」そんな冗談すら口に出来ない重い空気…沈黙を破ったのは取り上げた和ちゃん自身だった

和「ふふっ…黒くて長い毛だな。まるで澪の毛みたいだ。案外ムギの家にいたりしてな」

血の気が引くのがわかる…なんてことのない冗談に決まっている。普通に考えて同級生を自宅に監禁するなんて本気で思いなどしないだろう…でも冗談ではないんだ。私は澪ちゃんを監禁している

笑いとばせばいい…「そんなわけないわ~」軽くそう言えば場はうまく収まるだろう。でも…言葉が…出ない


バキィ


顔を上げると肩で息をしてりっちゃんが拳を握っていた。床には倒れた和ちゃん…

律「何言ってやがる…冗談でもそんなこと口にするなッ」フルフル

和「………」

唯「そうだよ、のどかちゃんひどいよ」

和「ごめん、冗談でも口にしていいことじゃなかったわ。律も唯も…ムギも…本当にすまない」ペコリ

りっちゃんは殴られた側の和ちゃんが素直に謝ったのが予想外だったのか振り上げた拳をしまうことが出来ず足早に教室から出ていった

唯「りっちゃん待って~」パタパタ

一瞬の出来事に何も出来ず成り行きを見守ることしか出来なかった私は唇の端を切った和ちゃんに無言でハンカチを渡す

和「ありがとう、洗って返すわ」



ずっと燻っていた…あまりに無謀すぎる…誰だって怪しむに決まっている…でもでもやっぱりりっちゃんも欲しい。大人しい澪ちゃんと元気いっぱいなりっちゃん、やっぱり二人は一緒に居る方が正しいに決まっている…

澪「ムギ、ご機嫌だな。何かいいことあったのか」

紬「うふふ、なんでもないわ~なんでもないようなことが幸せなのよ」

澪「ムギが幸せならそれが私にとって一番だよ」

紬「うふふ、ありがとう澪ちゃん」

待っててね澪ちゃん…すぐにお友達を連れてきてあげるから。でも今はまだ内緒、びっくりさせてあげるんだから


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