紬(はじまりは些細な出来事だったわ・・・)



唯「ムギちゃんこのケーキ美味しすぎるよ」ムシャムシャ

律「ホントだな、下手なケーキ屋よりよっぽど美味いぜ」

紬「うふふ…ありがとう。実はこれ、今度うちの系列で売り出すケーキの試作品なの。パティシエにも伝えておくわ」

律「どーりで!!お、澪どうした?食わないのか?」

澪「いや、食べたいんだけどさ…その」モジモジ

律「ハハァ~ン…さては澪、お前太ったな?そういえば最近フトモモなんかもムチっとして…」ペラッ

澪「ッツ///」ポカッ

律「いてッ、冗談だよ、冗談…殴んなよォ」ヒリヒリ

唯「そうだよ澪ちゃん、気にしすぎだよ」パクパク

澪「お前らはいいよな、いくら食べても太らないし。ムギはどう…ムギ?どうした?」

紬「ふぇッ?う、うん…そうね…え~となんだったっけ?」

律「おいおい大丈夫かよww」


紬(あの時私はりっちゃんがめくった澪ちゃんのスカートの内側に目を奪われていた…いや、目だけではない。その時既に心までも)


澪「お、もうこんな時間か、終わりにするか」

唯「やったぁ。ね、みんなアイス食べにいこーよ」

律「さっきケーキ食ったばっかだろ?今度はアイスかよ…唯はいつでも腹ペコだなぁ」

紬「唯ちゃん、よかったら余ったケーキ持ってく?」

唯「いいの?やったぁ」

澪「ふ~と~る~ぞ~」

律「平沢選手は秋山選手と違っていくら食べても平気なのであります」ペラッ

唯「ふぇッ?」

澪「お、おいやめろ律…唯も少しは抵抗しろよ///」アタフタ

唯「え?別に見られても平気だよタイツ履いてるし」ペラペラ

律「そーだぞ澪、我々は日々のたゆまぬ努力により他人に見られても恥ずかしくない肉体を維持しているのだ」ペラペラ

澪「律まで!!や、やめろってこっちが恥ずかしい///だいたい努力じゃなくて体質だろ?ムギもこの馬鹿どもを止めてくれ///」

紬「」ウルウル

澪「ムギ?」


紬(美しかった…天真爛漫で健康的な唯ちゃんもしなやかで引き締まったりっちゃんも…)

紬(自分の容姿には不満なんて持っていなかった。母から受け継いだ髪の色も瞳の色も…うちの家系の象徴ともいえるこの眉毛も…)

紬(少し太りやすいけどこのプロポーションも、私は気に入っていたの)


紬「…(うつくしい)」ウルウル

澪「ムギ…どうかしたのか?」


紬(思えばあの時すでに壊れていたのかもしれないわね…もっと後だと思っていたけど)


カツンカツン…いやに足音が響いている


紬(うふふ、お腹空かしてるかなぁ)

地上階と違いあまり飾り気のない廊下を歩く。それでも映画に出てくるような薄暗くて湿った空気の洞窟のような感じではない、どちらかというと研究所の廊下を思わせる、そして無機質な…

紬「澪ちゃん、お待たせ~ご飯よ。」

澪「うぅ~うぅ~」フゴフゴ

紬「ごめんね、すぐ猿ぐつわを取るからね」シュルシュル

澪「ム、ムギ…お願いだよ…もうこんなの嫌だ、耐えられない」

紬「あら澪ちゃん、またオモラシしちゃったのね?じゃあご飯の前に身体を洗ってあげるわ」

紬「じゃあまずオムツを取るわね…ハァイ仰向けになりましょうね~」ゴロン

澪「や、やめてくれムギ」

紬「♪~」ベリベリ

澪「や、め…見ないで」モワン

紬「あらたくさん出したのね、いいのよ澪ちゃん健康な証拠なんだから。ウンチもオシッコもどんどん出してね。ペットのおトイレの始末をきちんとするのが飼い主の義務なんだから」

澪「ペット………飼い主」ガタガタ

紬「さ、一緒にお風呂に入りましょ。今日もいっぱい汗かいちゃった」

床に転がっている澪ちゃんを大事に抱え上げる

紬「お姫様だっこじゃなくて赤ちゃんを抱えてるみたいね、可愛いわ」

今の澪ちゃんは部室で体重を気にしていた頃に比べてずっと軽い…



紬「はいキレイキレイしましょうね~」ゴシゴシ

澪「……」

紬「かゆいところはありませんか~お尻かぶれてないかしら?」ゴシゴシ

澪「……」

紬「今日もだんまりなのね。昔みたいに澪ちゃんとお話したいわ」ゴシゴシ

澪「……」

紬「うふふ…でもその凛とした表情も澪ちゃんらしいわ~。今日はね、みんなでビラを配ったの。和ちゃんも協力してくれたわ」

澪「!?」

紬「私が発案してね、駅前でビラを配ったの。秋山澪さんをどこかで見ませんでしたか~?私たちはこんなに心配しています~ってね。だから汗びっしょり」

澪「…く、狂ってる」

紬「そうかしら…いや、そうかもしれないわ。うふふ、りっちゃん凄く一生懸命でね。道行く人にビラを受け取ってもらえるように必死に呼び掛けてね…思い出したら興奮してきちゃった///」

澪「律…りつぅ~」シクシク

紬「澪ちゃん…今の姿をりっちゃんが見たらどう思うかしら?自分じゃおトイレにも行けない、ご飯もきれいに食べれない。まるで芋虫みたい」

私の一声で澪ちゃんの顔が瞬時に青ざめる…堪らなくゾクゾクする、心臓が鼓動を早める

澪「あ…あ、いや…嫌だ。見られたくない。こんな姿、律だけに」ポロポロ

凛とした表情も澪ちゃんらしい…でも悲しみにくれ涙する澪ちゃんはとても愛らしい

紬「大丈夫よ、澪ちゃんは私が面倒を見てあげるから。ずっとね…さ、ご飯にしましょ。ご飯が終わったら髪をとかしてあげるわ~黒くて綺麗な髪の毛…私、澪ちゃんの髪の毛大好きよ~」

澪「………りつ、りつ、りつ」ブツブツ

紬「………いいわ澪ちゃん、りっちゃんに会いたいのね?いいわ、明日連れてきてあげるッ。そうして欲しいんでしょ!?」

澪「ム、ムギ!?や、やめてくれ…それだけはお願いだ」

紬「うふふ、冗談冗談~」

ゴメンね澪ちゃん、冗談で済ませるつもりはさらさらないの…りっちゃんも連れてきてあげるわ。でもさすがに一人目と違って二人目は直ぐには難しいの。だからもうちょっと我慢してね。もうちょっとだけ…



澪ちゃんを連れ帰った日は本当に大変だったわ…その計画性のなさ、行き当たりばったりっぷりは思い出すだけで冷や汗が滲み出るかの。よくもバレずにここまで来たものだと自分に感心するわ

澪「ゴメンゴメン…遅くなった、あれ?ムギだけか」

紬「うふふ、りっちゃんと唯ちゃんは職員室にお呼び出しを受けてるわ」

澪「しょうがない奴らだな、まったく。新歓ライブも近いのに」

紬「うふふ…そうね。ねぇ澪ちゃん、今日も和ちゃんは生徒会かしら」

これまでに何回か同じ質問をしたことがある。唯ちゃんとりっちゃんが部室に来てなくて澪ちゃんと私だけがここにいるというシチュエーション…

澪「和?あぁ時期的にも今は忙しいみたいだな。HRが終わったら飛び出してったよ。挨拶する間もなくだよ、大変だよな」

キタ…頭の中で何かが弾けた

その言葉を聞き私は身体中の汗腺から汗が滲み出るような…一気に鼓動が低速から高速になるような…

生まれてはじめて感じる感覚に目眩がしそうになった。あの日からずっと考えていた計画を遂行する時が訪れたことを瞬時に理解した

紬「澪ちゃん、先にお茶にしましょうか」

興奮を気取られないように平常心を保つ…わからない、押さえられているのか、おかしいことが悟られているのか

澪「そうだな、じゃあ頼むよ」ガタッ

席につく澪ちゃん。どうやら特に気取られることもなかったらしいわ…私はこんなにおかしいのに。いつもと変わらないように意識しながらティーセットに向かう

数ある紅茶の中から奥に隠してある缶を開ける…お茶の葉っぱの下にあるビニール袋…強力な睡眠薬…でもこれには重大な欠点があるの

紬「澪ちゃん、ケーキ食べる?うちのパティシエの自信作なの」

澪「自信作!?いや、食べたいのは山々なんだけど…」

紬「うふふ、体重が気になるのね?」

澪「ハ、ハッキリ言い過ぎたぞムギ///最近またな…気をつけてはいるんだけど」

紬「じゃ~ん糖分、脂肪分が気になる食事にはこれを使えば安心よ。琴吹グループで開発した新薬なの!!」

澪「!?」

紬「これはねケーキとかの糖分、脂肪分を吸収させないようにする薬なの。もちろん副作用なんてないわ」

澪「凄いな、そんなのがあるのか」

紬「もうすぐ新聞でも発表されるわ。でもね、少し苦味があるの」

そう、それが欠点。お茶に溶かして飲ませるにはこの睡眠薬は苦すぎるの…だからあらかじめ苦味のことを伝えて薬が溶けたお茶を最後まで飲ませるようにしなきゃ…甘い甘い罠をしかけて

澪「う、苦いのか」タジタジ

紬「で、でもね、すぐに新しいお茶で流しちゃえばわからないわッ」アセアセ

明らかに普段の私とは違いすぎることに私自身が戸惑いながら弁解を続ける…

澪「そうだなムギの用意してくれたケーキも食べたいし苦いのも我慢するか」

希望が湧いてきた…目の前が明るくなる。瞳が輝く私を見て澪ちゃんはどう思ったかしら…

澪「おかしな奴だな、そんなにケーキを食べさせたかったのか?」

紬「うんッ…自信作を用意した日はいつも澪ちゃんに食べてもらえなかったから…さ、どうぞ」コポコポ

澪「フフッ…わかったよ。良薬口に苦し…だな。いくぞ」ゴクゴク

紬「……」ドキドキ

澪「に、苦ッ」ゴクゴク

紬「もうひとこえ~」

澪「プハッ…ムギ、想像以上に苦かったぞ…新しいお茶をくれ」

紬「大丈夫よ澪ちゃん、必要ないわ」

澪「え!?…なんだ、ム、ギ…身体が…」ガシャ

紬「おやすみ澪ちゃん」



唯「おそくなりました~」律「いや悪ぃ悪ぃ、サワちゃんがなかなか解放してくれなくてさ~あれ?澪はまだか?」

紬「まだ来てないわ~」

澪ちゃんは当分目を覚まさないだろう。あれはそういった薬なんだから…もうこれまでの幸せな日常には戻れない。事実上軽音楽部は崩壊してしまった。私が壊してしまった…あんなに楽しい時間だったのに

紬「先にお茶にしましょうか、澪ちゃんも直に来るわ。今日もね、美味しいケーキを用意したの」



結局澪ちゃんは現れず下校時刻になってしまった。私にとっては当然なんだけど…

律「澪のヤツ、無断で休みやがって…こうなったら電話の刑だ」

唯「ひぃ、りっちゃん奉行様それは酷い仕打ち…何卒ご容赦を~」

唯ちゃん、昨日時代劇を観たのね…あの時は二人の仕草をニコニコと眺めていた記憶がある。たぶん冗談を言い合えた最後の時間だったから



律「出ねぇ…っていうか繋がりもしない」

ごめんねりっちゃん…澪ちゃんの携帯電話は既に電池を抜いてあるの

律「澪が何も言わず帰るなんて珍しいよな、まぁ明日来たら聞こうぜ。帰ろ帰ろ」

唯「その寛大な処分、りっちゃん奉行の優しさに平沢唯感動でありますッ」ビシッ

律「なんだよそれ」

紬「うふふ、じゃあ鍵は私が閉めるわ。今日は迎えが来るから先に帰ってて~」

律「う~す、じゃあムギ、戸締まりは頼むぞ。行くぞ唯」ガラガラ

唯「ムギちゃんバァイバァイ~」バタン

トタトタトタ…二人が階段を降り遠ざかる。今の私はどんな顔をしているのかしら。おもむろに用具入れを開ける

…そこには手足を布で拘束され同じように猿ぐつわをしてある澪ちゃん…幸せなそうな寝顔、ごめんね窮屈な場所に入れて。猿ぐつわを外し辺りが暗くなるまで澪ちゃんに膝枕をして時折頬を撫で黒く美しい髪をすいて時間が経つのをただただ待っていた


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