― 同 14時44分 寿町 三十七総合病院 特別室

医者「取り込まれた影響か、海馬体が異常に肥大してます」

唯「カイバタイ?」

和「記憶の形成なんかに関わる場所よ」

医者「ええ。その通りです」

医者「前回の平沢さんのケースとは違い、彼女はうわ言も繰り返してます」

医者「やはり…ガメラのケースと同じ、または近いのかも知れない…」

唯「ガメラと同じ?」

和「目を覚まさない理由がですか?」

医者「ええ…例の生物が精神的に何か干渉してるんかもわかりません」

紬「とにかくよろしくお願いします」

医者「もちろんです」



― 同 数十分後 某所

国道を走るクラウンマジェスタの車中。


唯「ねぇムギちゃん。りっちゃんあんな勾玉持ってたっけ?」

紬「私も初めて見たわ…」

ベッドに寝かされていた律の首には見慣れない勾玉が掛けられていたのだ。

和「大きさも形も唯のとは微妙に違うけど…」

和が助手席から振り返った。

唯「…あれってイリスの?」

唯は呟いた。



― 同 15時22分 桜ヶ丘郊外 桜山ハイキングコース

ハイキングコースを歩くカップル。

森ガール「あれ?なんだろ」

リア充「お?」

女は森の中を見つめている。

男もつられるように森の中を見るが何も見当たらない。

リア充「おいなんだよ。なんもねぇ―」

森ガール「きゃっ!」

急に何かに引っ張られて女が雑木林に消える。


リア充「え?」

女「きゃああああああ」

リア充「由紀恵!?」


激しく茂みの中からはガサガサという音と悲鳴が聞こえる。

リア充「おおい!」

男が慌てて森の中に分け入ろうとすると何かが放り出されて地面に転がる。


リア充「うわああああああああああああああ」

放り出されたのはミイラ化した女だった。



― 同 秋山家 澪の自室

澪は掛け布団を被って床にうずくまっていた。

瞼を閉じる度に変わり果てた風子の姿がフラッシュバックする。

「…ひどい」

思わず呟いた。

「私がケリをつける」

澪はやおら布団を振り払うと、机の上に置いてあった十握剣を取り上げた。



― 同 16時24分 寿町 三十七総合病院 特別室

梓「律せんぱーい」

憂「お見舞いに来ましたー」


梓「あれ?」

憂「いない?」

病室に思えないほどだだっ広く、応接セットまで設えてある特別室の中は

がらんとし、誰かが入院していたような痕跡はなかった。

梓「あれ?ここだよね?部屋間違えたかな?」

憂「それはないよ」

二人は顔を見合わせた。

梓「ムギ先輩に聞いてみようか」

そう言って二人は部屋を後にした。



― 同 17時24分 寿町 三十七総合病院 ナースステーション

紬「移送ってどういう事!?そんな指示誰が出したの!?」

廊下までムギの怒鳴り声が響き渡る。

医師「ええ…お嬢様の代理と名乗る方で…書類に不備もなかったし不審な点もなくて…申し訳ありません…」

医師はムギに目を合わせないようにしながら移送指示書を紬に手渡した。

紬「移送要請者…曽我部恵…?」



― 9月25日 4時22分 中上町 マンション

マンションの一室。

カーテンで締め切られ、真っ暗な白い部屋の壁には異様な文字が四面に張り巡らされている。

その部屋の中央に置かれたベッドには律が横たわっていた。

恵はその前に立つと手を合わせる。

恵「海神の底に眠りし甲羅は悪しき魂の憑代なり。中つ国のために、悪しき魂を屠り、地の果てに追いやらん―」

経文のようなものを唱えながら恵は勾玉を強く握り締める。

律「…」

律はまるで何の反応も示さず眠っている。

その一方で恵は電撃が走ったように勾玉を手放した。

恵「はぁ…はぁ…」

その傍ら、恵はそのままベッドの律の横に突っ伏した。



― 同 5時47分 平沢家

『ギャオス、世界的規模で大量発生』、『きょう午前にも安保理緊急招集へ』

朝刊の一面にはギャオスの見出しが大きく載っている。

憂「…お姉ちゃん」

憂はポストから取ったその朝刊を片手に唯の枕元に立っていた。

唯は静かに寝息を立てている。

唯「むにゃ」

唯をしばらく見つめてから憂は再び朝食の支度と弁当の仕込みに戻っていった。



― 同 6時00分 桜台 陸上自衛隊桜ヶ丘駐屯地

通信手「了解。防衛出動命令発動。第54普通科連隊は1000を以って桜山まで前進する。終わり!」

朝日の中、防衛出動命令を受けた陸上自衛隊第54普通科連隊がイリスを掃討すべく出動した。

偵察バイクを先頭に、続々と車列が駐屯地の正門を走り抜けていくのを警衛が見送っていた。



― 同 10時55分 桜山 登山口

静かな山間にV8ディーゼルエンジンの爆音が響く。

停車した73式大型トラックからは迷彩のフェイスペイントを施した普通科隊員達が飛び降りてくる。

「二班前!」

「了解!」

「一班止まれ」

「三班右!」

号令が響き、隊員達が分散するように雑木林の前に並ぶ。

小隊長「戦闘指揮所、こちら先遣。準備完了」

小隊長「…了解!」


戦闘指揮所からの返答を受けた小隊長は通信手にハンドマイクを渡すと、号令を下す。

小隊長「小隊ー!前進用意!前へ!」

それを合図に89式小銃を構えた小銃小隊員達は続々と雑木林に突入した。



― 同 同時刻 桜ヶ丘 桜が丘駅前

前日夜、和は恵と接触することを決意していた。

そして唯にははっきりと恵が何らかの形で噛んでいると考えられると伝えた。

唯は意外なことにそれを納得し、恵と会うことも快諾した。

その一方で憂には知られないようにした上で、二人は恵と会った。


中途半端な時間なのか乗客が閑散とした桜が丘駅の広場で三人は顔を合わせた。

和「お久しぶりです」

現れた恵に和は会釈する。

恵「久しぶりね」

唯「りっちゃんはどこですか?」

恵「あら。平沢さんも」

まるで予測していたような口調で恵は微笑んだ。



― 同 13時20分 桜山 山中

OH-1が上空を飛び回る中、すっかり巨大化したイリスは雑木林に静かに佇んでいた。

その回りには様々な動物のミイラ化した死体が転がり、さながら地獄絵図と化している。

通信手「巨大生物、依然として動きなし」

通信手が額に汗を滲ませながら小隊通信機で定時報告を行う。

連隊長『こちら連隊長、目標と十分な距離をとり、監視を続行せよ!』

小隊長「了解!」

89式を構え、息を殺して隊員達はイリスを見つめていた。



― 同 15時23分

まるで昼寝から目覚めるかのように生物は動き出した。

あくびのようなイリスの唸り声は低く雑木林に響き渡る。

小隊長は双眼鏡から目を離すと通信手からハンドマイクをひったくった。

「戦闘指揮所。こちら先遣小隊。目標、活動開始!」


イリスは先遣小隊に向かって緩慢ながらも向かい始める。

小隊長「射撃用意」


6