― 同 21時55分 桜ヶ丘東町 柳星神社前
警察官A「誰か救急車に乗ってくれる?」
紬「私が!」
救急隊員「田井中さん!田井中律さん!?」
ストレッチャーに乗せられた律が救急車に運び込まれる。
警察官「君は何を見たんだ!?」
澪「律!律!りつぅ!」
救急隊員「閉めます!」
警察官「はい!」
警察官A「早く出して!」
サイレンを鳴らして救急車が走り去った。
―22時16分 平沢家
紬『それで、律ちゃんが…』
唯「うん…わかった。ありがとうムギちゃん…」
唯は携帯の終話ボタンを押した。
テレビ『えー、我が国においても、今朝未明、―県―市において、ギャオスの亜種と見られる生物の目撃情報がありました』
『佐久間県知事は先程、災害派遣出動要請を自衛隊に要請、陸上自衛隊の―』
『生物を目撃した場合はすぐに110番、もしくは市役所の対策本部に―』
― 9月26日 1時47分 桜台南 高橋風子宅
郊外の新興住宅地、桜台南に風子の家はあった。
風子「…ん」
深夜、ガラスの割るような音と木を引き裂くような異様な物音に風子は目を覚ました。
起き上がるとメガネをかけ、廊下に出ると階下に向かって声をかけてみる。
風子「お母さん?」
しかし誰の返事も帰ってこず、今度は妙に肉々しい異様な音が聞こえてくる。
深夜ということもあり、電気を点けずに真っ暗な階段を降りていった。
風子「お母さん?お父さん?」真っ暗な廊下に降り立つと両親の部屋に向かおうとした。
風子「…あ」
しかしそれよりも先に風子の背中をイリスの触手が捉えていた。
風子はイリスに抵抗する間もなく引き寄せられる。
風子「ひっ!」
そのまま風子は体液を吸いつくされ、無残にも廊下に放り出された。
手始めに高橋家を全滅させたイリスは夜闇の中、次の住宅を襲撃した。
― 同 8時40分 桜が丘女子高等学校 3年2組
さわ子「はい、えーと今日は高橋さん、中島さん、遠藤さんが…あれ?遅刻?
おかしいなぁ…と、とにかく遅刻ね。3人遅刻。で、秋山さんは所用でお休みです。
みんなー。もう3年生です。推薦取る人も含め、人として遅刻はしちゃダメよー」
さわ子先生の冴えない朝礼で一日が始まった。
和「あれ?3人も…それに風子が?」
― 同 9時50分 廊下
憂「どうでしたか!?」
紬「でね…調べたら…曽我部先輩の家系…昔は巫女なの…」
和「…まさかあれと交信できるとかないわよね」
紬「勾玉を介してるのはっきりしてるから…もしかしたら…」
憂「じゃああれ自体を操ってるとかどうです!?」
紬「わからない…あ、それでね、防衛省の分析によるとあれはギャオスの亜種みたいよ…」
和「私達がどうこうできる事じゃないだろうけど…」
紬「大切なのはこの気持ちだと思うの」
和「そうだよね」
憂「私、お姉ちゃんを守りたいです」
さわ子「はいみんなー教室戻ってー!警戒宣言が出たから今日は下校になるわよー!各クラスHRやるわよー」
― 同時刻 桜が丘東町
市道を走る自衛隊の車両。
その中の一台、高機動車の後部シートには澪の姿があった。
澪「…」
鳥類学者「…」
自衛隊員たちと向かい合わせになった澪はだんまりを決め込み、
車中にはエンジン音と風で暴れる幌の音のみが響いていた。
― 同 10時07分 桜ヶ丘東町 柳星神社
汗ばむ日差しの中、自衛隊員が祠の残骸の周りに集結していた。
澪「ここの…窪みに」
律がいた祠の後ろの窪み。澪が指さした先を89式小銃を構えた防護服姿の自衛隊員が入っていく。
自衛隊員A「生物はもういないようです!」
その声に続いて化学防護隊員が歩み出る。
化学防護隊隊員①「窪みになにかあります」
鳥類学者「これは…」
鳥類学者がピンセットで落ちていた粘液質な塊を拾い上げる。
それを自衛隊員が受け取って別の隊員に渡す。
化学防護隊隊員②「おい、分析にまわせ」
化学防護隊班長「以前のギャオスとは様子が違うな…」
鳥類学者「見た目や印象で決めるのは危険です…」
澪「…」
通信手「班長!桜台南で民家複数が変異体に襲撃されたとのこと!転進命令です!」
化学防護隊班長「何!?」
― 同 10時36分 桜台南
澪を含め、化学防護隊が現場に到着した時には、先着した自衛隊員が半壊した家々から遺体を運び出す最中であった。
新興住宅地に建ち並ぶ真新しい家々はどこかしらが壊れている。
9月の妙に強い太陽の光と異様な匂いが立ち込める中、高機動車から降りてしまった澪が
所在無げに現場を見回していると、パトカーの車載無線機を使っている警察官の会話が耳に入った。
警察官「―43歳女、高橋風子、18歳女。計32名。以上です。どうぞ!」
澪「た…高橋風子!?」
本部『―了解。なお現在収容先不足につき、自衛隊方には一旦搬送待つようを要請を願いたい。どうぞ!』
警察官「桜585、了解」
白ヘルメットの警察官は通話を終わらせると車載無線機のフックにマイクを戻す。
そしてため息を付いたのを見届けてから澪は警察官に話しかけた。
澪「あの。高橋風子さんって…桜が丘高校ですか?」
警察官「あー、そうだよ…。3年生の…あ、君は…桜高か。友達かい?」
ヘルメットの警察官は気を使っているのか曖昧だ。
鑑識課員「これ高橋風子さんね」
その声に振り返ると鑑識課員が遺体に掛けられた毛布にタグを付けようしていた。
鑑識課員「あっおい、見ない方が…」
澪は制止も聞かず遺体に掛けられたらくだ色の毛布をめくった。
その下には担架に乗せられている変わり果てた風子の姿があった。
最終更新:2011年05月05日 18:13