― 9月26日 13時09分 桜ヶ丘 桜が丘女子高等学校 職員室

さわ子「何してたの?」

律「いや…何も…さわちゃ…さわ子先生も大げさだな…」

さわ子「あんなところにいるのって尋常じゃないわよ。まして言っちゃ悪いけどあなたは肉親を亡くしたばかりだし」

律「いや…ホント、ほら、日本史の課題で」

さわ子「あなた部活にも出なかったでしょ」

律「…」

澪「失礼します」

律が完全に形勢不利となったところに澪が入ってきた。

律「あ、澪」

さわ子「あら?どうしたの?」

澪「あの、律が何か…?」

さわ子「何でもないわよー。大丈夫大丈夫」

律「あの、行っていいでしょうかさわ子先生」

さわ子「…仕方ないわね。と、に、か、く!何かあったらひとりで抱え込まないでね!わかった!?」

律「はい!さわ子先生!」


澪「?」



― 同 廊下

澪「律…なんかあったのか?」

律「あ、ああ…そうだ!澪に見せたいものがあるんだ!」



― 同 18時59分 桜ヶ丘東町 柳星神社

澪「り、律…なんだそれ…」

律の横には巨大なカタツムリがいた。

澪「ぎゃあああああああ」

近づいてみるとカタツムリとは違う上に、足が何本もあることに気づいた澪は思わず悲鳴をあげた。

律「お、おいやめろ!怯えてるだろ!」

澪「わ、私の方がよ、よっぽど!」

律「なぁ、可愛いだろ?」

澪「そ、そ、それ、なんだよっ!」

律「イリスって言うんだ。私が名づけた」

澪「…」

(風子『蘇ったらこの世が滅ぶようなものを―』)

風子の声が脳裏をよぎった。



― 9月27日 13時46分 桜ヶ丘 桜が丘女子高等学校 3の2

澪「そ、そのりゅうせいちょう、ってあれ、ふ、封印とか出来ないのか」

風子「え?確かね…」

風子はノートのページをめくった。

風子「あ、あった。十握剣、とつかのつるぎ、ってあって。それが龍星張を封印する手段なんだって」



― 同 17時46分 桜ヶ丘東町 柳星神社

澪「おい!あれどうしても育てるつもりなのか!?」

律「ほっといたら死んじゃうだろ」

澪「大きくなって食べられたらどうするんだよ!」

律「大丈夫だ」

澪「なんでそんなことわかるんだよ!?」

律「いいから…」

そう言いながら律は途中のコンビニで買った牛乳や缶詰をイリスの前に並べる。

イリス「キュウウ…」

律「食べないな」

澪「まだモノを食べられないくらい―」

いきなり触手を伸ばしたイリスはそのまま缶詰に突き立てる。

するとペコペコという音と共に缶詰はそのままペシャンコになった。

澪「な、中身だけ吸い取った…」



― 同 22時08分 桜ヶ丘 平沢家

『今日午後、海上自衛隊厚木航空基地所属のP3C対潜哨戒機が大島沖でガメラを探知、対潜爆弾で攻撃し―』

『ガメラについて世論の反応は―』

『いいんじゃないですか?追いかけて攻撃しても。日本の敵なら日本が倒さないと―』

『怖いですよぉ。おちおち外も歩けない』

『福岡での被害を考えたらどうにかしないと』

『しかし、ガメラがいなかったら今の私達の生活はなかった事も事実で―』

ガメラに対して好意的な発言をしようとしたインタビューは途中で切られ、再びガメラ攻撃についての内容へ戻る。

もはやガメラへの反感は強まっていることは明らかであった。

唯「…」



数分後。唯は和に電話した。

和『もう唯は何もしなくていいはず。だって勾玉は割れたのよ?』

唯「そ、それはわかってるけど…」

和『それに世間を見て。ガメラへの敵意で一杯よ。唯、あなたがわざわざそこに出ていく必要なんてない。もう自衛隊に任せればいいのよ』



― 9月24日 16時18分 桜ヶ丘東町 柳星神社

律「イリス…」

学校から一目散にやってきた律が神社に着くと、イリスの姿はなくなっていた。

そして祠もめちゃめちゃに壊れている。

律(イリス…!)

律は直感で裏山に入っていった。



― 同 神社裏・桜山

律「イリス!」

イリス「キュウウ…」

弱々しい声が聞こえる。

獣道を駆け登るとイリスは雑木林の中に座っていた。

「ごめんよ…寂しかったんだろ?」

「ごめんね…」

「私を捜してたんだね…もう離れないから…」

律はイリスを抱きしめる。

「キュウ」

イリスは首を振ると、律の腕を離れて宙に浮いた。

律「イリス…熱いよ…」

律はそれを見上げ、熱に浮かされたようにブラウスのボタンを外す。

その胸元には青く光った勾玉があった。

イリスは触手を伸ばして律を包み込むように抱き寄せる。

その傍らに無数の動物のミイラが転がっていたことを律は気づくことなく意識を喪った。



― 同 19時22分 秋山家

澪の携帯電話が鳴った。

律母『あ、澪ちゃん?こんばんは。田井中律の母です。

うちの律知らないかな?学校からまだ帰ってないのよ…』

澪「律がいないんですか!?」

律母『そうなのよ。聡のこともあるしちょっと心配で…』

澪「捜してきます!」

澪は話が終わらないうちに携帯をポケットに突っ込み、外に飛び出していた。



澪(そうか…あいつだ!)



澪が面々に連絡をしつつ神社に着いた時には、既に8時を回り真っ暗になっていた。

頭の中には風子から聞いた封印の手段がぐるぐる駆け巡っていた。

(風子『十握剣、とつかのつるぎ、ってあって。それが龍星張を封印する手段なんだって』)

(澪『それってどこにあるんだ?』)

(風子『同じ祠の中にケースがあってそこに奉ってあるよ』)

懐中電灯に照らし出されたのは半壊した祠。

あの不気味な生物の姿が脳裏をよぎる。

澪は祠の中に入るとひっくり返ったケースのガラスを叩き割り、十握剣を掴んでそのまま祠の裏へ進む。

澪「うわ!」

祠の裏にはくぼみがあり、そこには生々しい内臓と繭を掛け合わせたような異様な物体があった。

そしてその不気味な物体からは律の白い片足が覗いていた。


澪「!」

澪はためらわずその物体に十握剣を突き刺した。

裂けた物体からは不気味で変な匂いのする粘液が噴き出す。

そのまま澪は構わず頭を突っ込み、巻きついた紐のような内蔵を引きちぎりながら律を引っぱりだす。

「律!おい!」

「起きろ!律!」

「律!」

頬を叩いても揺さぶっても律は目を覚まさない。澪は背負ってとにかく外へ出ることにした。

紬「澪ちゃん!?」

目の前を眩しく照らされる。

追いついてきたらしく懐中電灯片手に紬が現れた。

澪「ムギ来るな!」

紬「えっ!?」

澪が背負っている人影に気づき、紬は絶句した。

律だ。ベトベトした粘液まみれになり、意識を失った律の姿があった。


4