― 同 21時19分 桜が丘 平沢家

憂「お姉ちゃん!テレビ!テレビ!」

唯「うーいーなぁーにー」

床に寝そべっていた唯はテレビの方に転がって向きを変えた。

テレビ『渋谷現場より繰り返しお伝えします。週末金曜日の夜、街が賑わう時間帯に惨劇が起きました。

まだ公式な発表はありませんが、目撃証言などから代々木公園に落下した巨大生物はギャオス。

渋谷周辺に多大な被害を与えたのはガメラであるという見方が強まっています』

唯「ギャオスにガメラ!?」

唯は思わず起き上がった。

『渋谷から飛び立ったガメラと思われる生物の映像です―』

憂「ガメラ…また…」

憂は沸き上がってくる不吉な予感を感じた。



― 9月18日 8時55分 桜が丘女子高等学校 3の2

ワンセグ『この突然の災害による死傷者数は一説に一万五千人とも二万とも言われ、正確にはどれほどの数になるのかまだ全くわかりません。

消防、自衛隊による必死の救出活動が続く中、被害に遭った肉親や友人を探す人々や―』


律「聡が昨日渋谷に行ってたんだ…」

澪「え?」

唯「聡君が!?」


『――私鉄、JR各線でも線路の破断等から帰宅難民状態が続き――主要幹線道路――も麻痺

――携帯電話各社も基地局に大きな被害を受け、通信回線が輻輳状態となっているため――171、災害伝言ダイヤルの――』

律「まだ帰って来てない…」

紬「繋がりにくいみたいだから…」

唯「…」


『――首相官邸前です。古澤官房長官は緊急記者会見を行い、菅原首相は本日中に現場を視察する意向を明らかにしました―』

重苦しい空気は徐々に広がっていった。



― 10時40分

2時間目の授業が終わった休み時間、さわちゃんが現れると、律を廊下へ連れだした。

さわ子「たいなかさーん、ちょっと…」

廊下でボソボソとした二人の声が聞こえる。

「え?またまたぁ」という律の声だけがはっきりと聞こえた。

そして戻ってきた律の表情はこわばっていた。

律「さわちゃん…何言ってんだよ…何言ってんだ…」



澪「ん?どした」

澪は意図的に軽い調子で聞いた。

律「まさか…そんな…間違い…」

律はボソボソと呟いている。

澪「律?」

唯「りっちゃん?」

紬「りっちゃん…」

律「帰る…」

出際に振り返った律の顔は蒼白だった。

澪「…」



―9月19日 8時55分 桜が丘 平沢家

テレビ『今日未明、沖ノ鳥島付近を哨戒中の海上自衛隊がガメラを捕捉、これを攻撃しました。

現時点でこの攻撃がガメラに与えた効果はわかっていません。その後ガメラは航空機、護衛艦の追跡を振りきり公海上へ逃走しました』

テレビには護衛艦が速射砲を連射する資料映像が映し出されていた。

唯「…」

テレビ『ロイヤルエアーシステム、シンガポール発ベルリン行きのエアバス機がエジプト上空で消息を絶ちました。

直前に機長から巨大な鳥が接近という交信があったことから、ギャオスの―』

憂「また…ギャオス…?」

いつの間にか背後には憂が立っていた。

唯「…そうだね」

憂「お姉ちゃんもう行かないでね…」

唯「あはは。もう私ガメラと話せないから大丈夫だよ…憂…」

唯は憂を強く抱きよせた。



― 9月20日 8時32分 桜が丘女子高等学校 3の2

月曜日、律は当然ながら学校を欠席した。

さわ子「田井中さんは忌引で欠席です。弟さんが亡くなられました」

さわちゃんが沈痛な面持ちでHRを始める

唯「りっちゃん…」

澪「律…」


― 13時16分

廊下の片隅で唯は泣きじゃくっていた。

唯「ガメラが…ガメラが聡君を…」

和「唯。あなたのせいじゃないの。あなたはもうガメラと関係ない」

唯「でも…でも…」



― 9月23日 8時55分 桜ヶ丘 桜が丘女子高等学校 3の2

聡の葬儀が終わった次の日、揃った面々は暗く沈んでいた。

紬「律ちゃんやっぱりお休みね…」

唯「りっちゃん…」

和「弟を亡くしたらそうそう…」

澪「私は何もしてやれないのか…」

律「あのー」

唯「…」

紬「大切な誰かを失う…そんな事…」

澪「律…私はなんもしてやれない…」

律「あの…おはようございます…」

唯澪紬和「「「「!?」」」」



澪「律!休むんじゃなかったのか!?」

唯「り、りっちゃん…」

紬「無理しないほうがいいわよ!?」

和「こういう時はゆっくりしないと」


律「あー、いや…一応葬儀も済んだし…あ、ごめんな。葬式はみんなもわざわざ休んで貰っちゃってな」


唯「…りっちゃあああん」

律「なんだよ唯!?」


一見律はいつもと変わらないような調子で振舞っていた。

しかし、学校が終わると同時に律は姿を消した。



― 同 18時10分 桜ヶ丘東町 柳星神社

律「はぁ…」

気づくと律は郊外にある神社にいた。

古びた鳥居の額束には「柳星張」と刻まれている。

律「なんだここ…」

そのままかび臭い祠の上がり段に腰掛ける。

考えてはいけないとは思いつつも聡のことを考えてしまう。

律は耐えられなくなり頭を抱え込んだ。

ガメラのせいで…ガメラさえいなければ…。

「違う…ギャオスもいたんだ…仕方ないんだ…仕方ない…唯だってもう関係ないし悪くない…」

それを言い聞かせるように何度も口に出す。

更にあれ以来唯を責めたくなる気持ちが心の何処かに潜んでいるのは感じていた。

唯なら止めれたのではという思いが払拭できない。

それを誤魔化すように空を見上げると、空はもう暗くなってきていた。

律「…帰ろう」

一度は立ち上がった律だったが何かが気になり、祠の木の扉に手をかけた。

鍵はかかっておらず、渋い扉は開いた。



中には卵形のゴツゴツした岩が奉られている。

近づいていこうとすると何かに躓いた。

亀の甲羅を象ったような石だった。

それをどかして奥の方へ進む。

「…」

そして何を思ったか祭ってある石を律は持ち上げた。

「うっ重い!…ちくしょう!」

律はそれをそのまま外に放り、踏み石に叩き付けた。

石にはバキバキと音を立てひびが入る。

取り上げて確認しようとすると、ますますひびは広がった。

「や…やばい!」

ようやく冷静になった律は自分の行為の重大さに気づき、

慌ててそれを放り出すと逃げ出した。

そんな律が石の裏側に彫られた朱雀の絵に律が気づくことはなかった。




― 同 23時47分 田井中家

テレビ『――内閣はガメラ掃討のため自衛隊の出動を決定しました』

『ガメラ掃討決定についてどう思われますか?』

『前回のギャオスの事件もありますけど…やはり脅威なのでは?』

『日本の敵は日本が始末するべき、当然ニダ!』

『ガメラですか?以前福岡に住んでたんですけどあの被害はひどくて…』

数人のインタビュー映像の後、画面には再び渋谷の炎を背に飛び立つガメラの映像が映し出された。

律「コイツ…」



― 同 23時47分 平沢家

『一連のガメラ関連の損失は既に2兆4千万円という民間シンクタンクの試算が発表されました―』

唯「私が…私がガメラと…ガメラと交信できれば…こんなことにならなかったんだ…」

唯はソファーで膝を抱え込んでいた。

憂「お、お姉ちゃん?」



― 9月24日 16時59分 桜ヶ丘東町 柳星神社

律「…」

学校が終わってからすぐに律は再びあの神社に来ていた。

自分が叩き付けた石への良心の呵責もあったが、それ以上に何かが律にとって引っかかった。

律は祠を覗き込んだ。

???「キュウ!」

律「う、うわぁ」

律はそのまま尻餅をついた。

祠の中に奇妙な生物がいた。

背中には渦巻き型の殻のようなものがあるが、足のようなものが数本見える。

律「…びっくりした…なんだこいつ?」

かたつむりとも違う奇妙な生物は律の方におずおずと近づいてくる。

黄色い頭部につぶらな目、そしておずおずとした仕草は律の心を掴んだ。

律「は、は…お前可愛いじゃん」

律が近づこうとしたところ、生物は突然触手で触れてくる。

何かが目の前にフラッシュバックする。

ガメラだ。イリスはガメラを憎んでいる―、そう律は感じ取った。

律「お前も…ガメラに…?」

???「キュウ?」


生物は触れていた白くぬめぬめとした触手をそっと離し、別の方を指す。

その先を追っていくと黒く尖った勾玉が落ちている。

律「これ…勾玉か…?」


律「くれるのか?」

???「キュウウ」

生物は頷くように首を動かして擦り寄ってくる。

律「お前…」


???「キュ」

律「…ちょっとぬめぬめするけどかわいいなぁ!」

律は思わず生物を抱きしめていた。



― 9月25日 15時55分 桜ヶ丘 桜が丘女子高等学校 3の2

澪「アイリスだな」

和「ギリシア神話の虹の女神」

風子「そうそう。正解。アイリス。イリスって言う場合もあるよね」

澪「なんか綺麗な響きだよな」

風子「本当よねー」

少し離れたところで三人の会話を耳に挟んだ律。

律にとっては会話の内容よりも「イリス」という単語が重要であった。

律「イリス…いい響きだな…」

律「そうだ…あいつの名前をイリスにしよう!」



―15時55分 廊下

唯「あっ、りっちゃん帰るの?」

律「おう!」

和「気をつけてね」

律「じゃあ!」

そのまま律は朗らかに走り去った。

和「空元気かしら…」

唯「りっちゃん無理しなくてもいいのに…」



―16時09分 音楽室

澪「あれ?律帰ったのか…」

梓「はい。ちょっと部室に顔出してくれましたけど…」

梓がトンちゃんに餌をやりながら答えた。

澪「そうか…」



― 同 22時32分 桜ヶ丘東町

さわ子は夕方からの出張の帰り道、郊外にある隣町からの抜け道を走っていた。

東町の柳星神社を通る街灯もまばらな夜道、ヘッドライトに人影が照らされた。


さわ子「あれ?りっちゃん?」

さわ子は歩道を歩く人影を車で追い抜きながら、ミラーで確認する。

「えっ!ちょっとこんなところで何やってるのよー!」

間違いないことを確認するとさわ子は車を停めて律を取り押さえに向かう。


律「うわ!さわちゃん!?」

さわ子「待ちなさい!こんなトコで何してんの!」

律「散歩です!ただの散歩です!」

さわ子「こんな山奥まで散歩に来るわけないでしょ普通!こんな時間に!待ちなさい!」

律「あああああああ!」



ちょっとまてトンちゃんって

.>>106亀滅亡設定嫌いなんだ。ごめん


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