― 8月24日 沖ノ鳥島近海 深海調査研究船「かいれい」

クルーA「光量不足だ…カメラ感度を…」

無人潜航艇のカメラモニターには異様な物体が浮かび上がった。

クルーA「ガメラ!?」

クルーB「骨だ…」

チーフ「まさか…」

クルーB「ここは…」

クルーA「ガメラの墓場…」



― ???

『―番組の途中ですが、今入りましたニュースをお伝えします。先程博多港に大型の生物が出現しました。現在自衛隊が出動しています。繰り返します』

『―現在生物は瀬戸内海に潜伏しているとの見方が強まり、付近を航行中の船舶に厳重な注意を呼びかけています―』

『―なお、政府の通達に従い、海の生物をガメラ、鳥型の生物をギャオスと、呼称します。繰り返します―』

『―夕方から朝にかけては、決して外に出ないようにしてください。とりわけ広い道路ではギャオスに襲われやすく、厳重な注意が必要です』

『―政府は今朝7時をもってギャオスとの総力戦に臨むことをを決定しました。

 この作戦は同時かつ多重的な攻撃によりギャオスを圧倒することが骨子とされています―』

『これに伴って、作戦行動の中心となる港区周辺では戦場と化すことも予想され―』

『―隕石の1つは日本北部の北海道、札幌市、南約50キロの山間部に落下しました。樹木が燃える被害の他死傷者はいない模様です―』

『―札幌市営地下鉄の南北線は現在、全線運転を中止しています。構内で危険物が発見されたためということですが、まだ詳しい情報は―』

『―札幌を飛び立ったガメラは石狩湾に墜落し、異生物の夥しい死骸が海岸に打ち上げられました。ここ石狩市厚田区の望来浜では―』

『―共生する大勢の者達、レギオンと仮称される生物は、ガメラの出現によって根絶されたと見解が出されていますが、その一方で飛翔し―』

『―突然姿を現した植物体を中心に半径6キロの地区には避難命令が、半径10キロの地区には避難指示が出されています。該当地域には―』

『―この度のレギオンの侵攻は我が国の基本的生存権の重大な危機と受け止め、

また、憲法九条の下において許容されている自衛権を発するにあたっての要件、すなわち我が国に対する急迫不正の侵害であること―』



― 9月15日 4時02分 桜ヶ丘 平沢家

憂「…お姉ちゃん!」

9月の空が白む中、憂は悪夢にうなされて目覚めた。

ギャオスの悪夢。レギオンの襲来。

二度の怪獣襲撃に際してガメラと「交信」できる唯が果たした役割は大きかった。

しかしレギオン戦の最中、唯の勾玉は砕け散り、唯はガメラと交信する術を喪ったものの、憂の中には漠然とした不安は残り続けた。

憂「…さ。今日も頑張ろう。」

憂は不安を振り払うように大きく深呼吸して立ち上がった。



― 同 8時05分 同 田井中家

律「あー、眠いー」

聡「姉ちゃん遅刻するぞ」

律「うっさい!」

聡「じゃあ、いってきます」

律「はいはい。いってらっしゃい」

まだ準備をしている律を尻目に聡は元気よく家を出て行った。



― 同日 10時59分 東京都中央区 八洲火災海上損害保険

社員「専務より承っております。私、生瀬と申します」

恵「曽我部恵です」

社員「わが社が所有する勾玉状の物体についてご質問があると」

恵「拝見できます?」



― 同 資料室

社員は金属のキャビネットからひとつの木箱を取り出した。

恵「これが…」

社員「ご覧の通り、先のレギオン戦の際に全部自壊しまして、発見当時の原型は残ってません」

仕切られた箱の中には砕け散った勾玉が並んでいた。

恵「…これと同じ物がいくつか流出したと」

社員「ええ。合同調査でしたし、環礁自体も最終的に処分しましたからいくらでも…」

恵「平沢唯さんはご存知ですか?」

社員「ええ、同じ物を持っていらっしゃったとかで…琴吹家の方を通じて彼女も一度いらっしゃったことが」

社員「…でも今になって、なぜこんな?」

恵「天地否、それ滅びなん」

社員「はっ?」

恵「天と地とが背きあう、亡びるかも知れぬ」

社員「え?はぁ?」

恵「平穏に見えて危機はすぐ目の前にある。五経のひとつ『易経』にある言葉です」



― 同日 13時16分 桜が丘女子高等学校 3の2教室

風子「あ、これこれ。桜が丘最古の神社って」

ぎっしり書き込まれたフィールドノートと挟まっていた写真を机に並べる。

澪「そういうのはオカ研に任せておけよ…」

和「随分古そうな神社ね」

澪「何だこの神社?」

結局澪もそれを覗き込んだ。

風子「柳星神社、柳星張が寝てるっていう言い伝えがあるの」

和「柳星張?」

風子「去年の学園祭の郷土研究会の出し物で調べて覚えてたんだ」

和「へえ」

風子「これ、東町にあるんだよ」

澪「うん」

風子「ところが柳星張って名前は…大きな災いを意味しているの。蘇ったらこの世が滅ぶようなものを封印してて―」

澪「わ、災い!?」

風子「うん。石が祀られてるんだけど、その石が動くとき、この世は滅ぶって」

澪「…」

風子「江戸時代になって力自慢の相撲取りがこの石を動かそうと挑戦したけどやっぱり動かない」

和「当然石が動いたら滅ぶ時ってことね」

澪「…」

風子「ええ…澪ちゃん聞いてないよ…」

和「まだあんまり怖いところじゃないわよ…それで柳星張ってどんな意味なの?」

風子「あ、それで、柳星張の意味なんだけど…」

フィールドノートをめくった。

風子「まず、月は28日で天球を一周するので昔の中国や日本では28宿って分けられていたの。

で、その中の南方三宿、西洋の星座だとうみへび座になるものが柳星張。

柳は頭、星は赤い南斗、南の守護神、張は羽根を広げた姿を意味してるみたい。

守護神は東に青龍、西に白虎、北に玄武、南は朱雀、鳳凰と言われてるので、柳星張は朱雀になる、ってことみたいだよ」

和「じゃあ、朱雀を封印してるってこと?」

風子「そうそう。確か、南北は対立の関係とされてるんだって」

和「じゃあ、朱雀は南から来る敵への備えってことかしら」

和がそう言うとチャイムが鳴った。

和「ん…」

風子「あ…」

澪「…」



澪「…」

律「おい澪?」

律が気づくまで澪は固まったままであった。



― 同日 同時刻 東京都府中市 航空総隊司令部 作戦指揮所

パイロット「トレボー。アンノウンとの速力差大。捕捉不可能」

要撃管制官「ラジャー。ワイバーン、次の指示があるまで現状を維持せよ」



― 同日 16時30分 東京都千代田区霞が関 中央合同庁舎5号館 会議室

環境省審議官「どうも。長峰さん。お久しぶりです。

この場は一応ガメラに限らず、様々な巨大生物への対策を考える場として設けました。

何故立て続けに日本が怪獣に襲われるのか、抜本的解決策は存在するのか、と。

あれ以来…省内で私はこれの専門家扱いされてまして」

鳥類学者「…お久しぶりです。斎藤審議官。ところであの人は…?」

審議官「あの人ですか…曽我部恵…国交省のガメラ対策室のオブザーバと聞きました。

なんでも日本の根っこのポジションにいる人だとか…。

審議会への参加もかなり上の方からねじ込まれました。うむ。好奇心を持たない方が身のためだ」

恵「…」

恵は配られたレジュメに目を通していてこちらには気付いていない。

鳥類学者「…」




恵「既存の概念は通用しない今、ガメラと交信した少女という話ももう一度見直すべきではないでしょうか」

文化人類学者「マナ、と呼ばれる太平洋島嶼地域のアジア先住民が持っている古代のエネルギー概念、この―」

防衛省一佐「防衛省技本では巨大生物対策研究室を設置、新型装備の開発への予算分配を変更し」

警察庁局長「福岡、札幌と政令指定都市で相次いで発生したケースも踏まえて巨大生物出現時の一次対応を」

会議は淡々と進められていった。



― 同日 23時30分 桜が丘 真鍋家

『イギリス国内で初のギャオスが確認されました。ギャオスが確認されたのは南部の―』

『次のニュースです。政府は今日、巨大生物被害対策審議会を開き、先月沖ノ鳥島沖海底で発見されたガメラと思われる大量の―』

テレビには審議会の会場が映し出されている。

その中には見覚えのあるひとりの女性の姿があった。

和「あれ?」

僅か一瞬映り込み、すぐにフレームアウトした参加者。

しかしその姿は和にとって明らかに見知った誰かであった。和が考え込んでいるうちにニュースは次の内容に移った。

『続いてのニュースです。航空自衛隊のスクランブル発進の回数が今月に入ってから78回と極めて異常なペース―』

和「曽我部先輩…」

和は呟いた。

(恵「唯ちゃん…ガメラと交信できるんですって?聞いちゃったわよ―」)

レギオンが仙台を襲撃した際の恵の言葉が脳裏をよぎる。

そういえば何故曽我部先輩は唯のことを?

機密事項にされたはずのことを何故?

和は携帯電話を取ると、紬にメールを打ち始めた。



― 9月16日 8時59分 桜が丘女子高等学校 3の2教室

紬「和ちゃん…」

和「曽我部先輩が審議会にいようがいまいが、構わないけど…唯は…」

紬「とにかく今調べてもらってるからもう少し待ってて」

和「巻き込んじゃってごめんね」

紬「あ、返事来たわよ」

和「どう?」

携帯電話を見つめる紬を和は覗き込んだ。

紬「調べてもらったらやっぱり…曽我部先輩…政治関係に関わってるみたいよ…」

和「まさか…?」

紬「間違いないわ…それに和ちゃん見たんでしょ?」



― 同日 15時45分 桜が丘女子高等学校 廊下

恵「あら、唯ちゃん」

唯「あっ!曽我部先輩!お久しぶりです!」

恵「元気?」

唯「はい!とっても」

鼻息荒く唯は答えた。

恵「近々また改めて会う事になると思うからよろしくね~」

恵はそれを見て微笑むと去っていった。

唯「はい!」



和「唯!今曽我部先輩いた!?」

唯「うん!いたよ~」

和「!?」

和(やっぱり唯のことを知ってる…)



― 同日 16時42分 桜が丘女子高等学校 音楽準備室

律「おうじゃあ、私が死にかけたら助けてくれよ」

澪「律こそ私が死にかけたら助けてくれるのか」

律「たはっ!もちろんこの田井中律、地の果てまでも澪姫を助けに参ります!」

澪「ハハハ」

律「なぁ、澪…」

澪「ん?どした?」

律「いや…大切な人を失うって恐ろしい事だよな…」

澪「なんだよ急に」

律「いや…なんか…」



― 同日 16時59分 同 東中学校

聡「ねーちゃんに誕生日プレゼント買ってやろうと思ってさ」

友「お、姉ちゃん誕生日か?」

聡「…先月の21日」

友「え?お前まさか…」

聡「忘れてた…」

友「なら明日渋谷行く時買っちゃおうぜ」

聡「あっ!それいいな!姉ちゃんもさすがに納得だろ」



― 同日 21時47分 桜が丘中央 コンビニ

姫子「いらっしゃいませこんばんはー」

純「これ下さい」

姫子「お会計20円になります」

(また2時間も立ち読みしてチロルチョコ…ジャズの2年だろお前…)

純「あ、レシートいらないです」

(絶対コイツ唯先輩のクラスにいる女だ…無断バイトかよこの茶髪…)

姫子「ありがとうございましたー」

(早く帰れ帰れ!)

純「どうもー」

(早く辞めろ辞めろ!)



― 9月17日 18時59分 東京都渋谷区 代々木公園

ホームレスA「さこやん!愚痴やら身の上話やら聞きたくねぇぞ」

ホームレスO「貴様なんかに話せるか!」

酔っ払ったホームレス二人がベンチでクダを巻いていると火球と化したギャオスが上空を通過する。

ホームレスの片手にあったワンカップは滑り落ち、地面で砕け散った。

ホームレスA「あっ、もってぇねぇ」

ホームレスO「あ、あれはギャ…ギャオ…アレがこの上におるっちゅうことは…」



― 同 同時刻 東京都渋谷区 渋谷駅前

聡「我ながらいいセンスだと思う。うん」

友「お姉ちゃん喜ぶぜきっと。中学生でこんな高い物を…って」

聡「よし。早く帰ろうぜ」

聡と友人は渋谷駅の入口に向かって広場を歩いていた。



JKλ「おー花火?あれ、違うな?」

JKω「何あれ?」

ガキ「ママ、花火」

JKα「ねぇ、なんか落ちてくるよ」

JKσ「でっかくね?」

DQN1「あれ、ギャオスじゃね?」

DQN2「やべぇ!落ちてくるよパネェ」

その騒ぎに気づいた二人も空を見上げる。

聡「なんだ…あれ…?」

友「まさか…」


衆目の中、猛火に包まれたギャオスがそのまま渋谷駅へ落下した。

JR渋谷駅ホーム上屋は一瞬で押し潰されて落下し、停車中だった山手線の電車が上下線揃って成すすべもなくその下敷きになる。


更に駅の外では降下して来たガメラの回転ジェットの風圧に巻き込まれ、地下鉄銀座線の電車が急停車する。

そしてバス乗り場に並んだバスやタクシー、右往左往するその乗客達を踏み潰し、ガメラが降り立った。

振動で周囲のガラスは砕け散り、圧死を逃れた人々に上から襲いかかる。


真っ白い粉塵が晴れると、ガメラの姿が現れる。

咆哮を上げてその巨体を起こすと、様子を伺っていた野次馬も一斉に蜘蛛の子を散らすかのように走りだす。

そして渋谷駅の瓦礫の中ではギャオスが断末魔の声を上げていた。


リア充ア「逃げろ!」

リア充イ「うわああああああああああああ」

リア充ウ「ガメラだああああ!」

JK「たすけてー」

DQN「やべえええええええええええええ」


クラクションや怒号が響き渡る中、ガメラは辺りを踏み潰しつつギャオスに歩み寄る。

ギャオスは火球の直撃とガメラの攻撃により、目は飛び出し、羽は折れ、血を流していた。

ガメラはそれを睥睨すると、全く躊躇いなくプラズマ火球を発射した。

その火球は凄まじい火炎旋風を巻き起こし、ハチ公と渋谷駅にいた人々を一瞬にして飲み込んでいく。

その地獄が迫る先には聡とその友人の姿もあった。

二人も逃げる雑踏に混じって走りだす。


聡「逃げよう!」

友「うわぁ!」

聡は転んだ友人をかばって覆いかぶさったものの、聡の抵抗はほんの少しだけ友人を死から遠ざけただけであった。

次の瞬間には聡もろともその友人すら焔の中へ消え去った。


ガメラが勝どきをあげようとしたところで更に二体目のギャオスがガメラに襲い掛かる。

ガメラの移動と共にその破壊の舞台も渋谷センター街に移る。

身動きがとれないほどの雑踏の頭上でギャオスの超音波メスは建ち並ぶビルを切り裂き、ガメラの火球はセンター街を焼き払う。

そして二発目のガメラの火球は口元と同じ高さのビルを巻き添えに二体目のギャオスも撃破し、その巨体を空中で四散させた。


そのギャオスの肉塊は炎の塊となって一帯に降り注ぎ、ようやく安堵しかけた人々を更に押しつぶした。

ガメラが去り、焔に包まれた阿鼻叫喚と化した渋谷センター街。その片隅。

ガキ「ガメラが助けてくれたよ!」

― 実際には渋谷にいた人々でガメラの恩恵に預かったのはほんの僅かであった。

ガメラとギャオスの戦いは僅か2時間で聡を始めとした2万人の人生を大きく書き換え、その多くは儚く潰えていった。


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