― 唯の部屋

『―区では避難勧告が出されています。まだ避難されていない方はテレビラジオの報道に従って、速やかに避難してください』

テレビの声が遠くから聞こえてくる。

憂「…お姉ちゃん」

憂は布団の外に出ていた手をしまってやろうとすると、唯の手に握られた勾玉が光り始めた。

憂「光った!?」

唯「…ガメラ」

眠っていた唯がうなされ始める。

憂「お姉ちゃん!」

強く揺さぶると唯は目を覚ました。

唯「うい…」

憂「お姉ちゃん…」



時を同じくして体力を回復したガメラも、海底で目を覚ましていた。




紬「とにかく目がさめたのは良かったわ…」

和「でも…ガメラと意志疎通がはかれます、なんて言っても・・・」

憂「ガメラの動きが予知できる、みたいな体裁で・・・」

和「無理だわ…やって見せでもしなきゃ到底信用されない…」

唯「でもギャオスが!」

和「悔しいけど見ているしかないわ」

紬「唯ちゃん、今もガメラの動きがわかる?」

唯「うん。ガメラが東京に向かってるよ」

紬「父から官房長官に掛け合ってもらえばいいのよ!」



― 同 午前

防衛省幕僚「平沢唯さんですね。防衛省の佐竹です。古澤官房長官より直命があり、お伺い致しました」

唯「は、はい」

防衛省幕僚「これから天王洲の戦闘指揮所へいらして頂けますか?」

唯達はパトカーが先導する防衛省の黒い公用車に押し込まれた。



― 6月18日 正午 東京港区 陸上自衛隊天王州戦闘指揮所

通信手A 「1200、機動巡察、ギャオス、動きなし!終わり」

通信手B 「三沢8飛行隊、F-2爆装準備完了、発進待機に移行します」

憂「…お姉ちゃん」

紬「…」

唯は黙って勾玉を握り締め、窓の外を見つめている。

防衛省幕僚A「…本当にわかるのか?」

防衛省幕僚B「今はすべてあの娘に懸かってる」

唯「来た!」



唯の一言で突然地震のような揺れが起こった。

マンホールは吹き飛び、道路は隆起し、基礎から揺さぶられたビルが倒れていく。

自衛隊員「なんだ!?」

指揮所内でも皆が右往左往する中、唯ただ一人が何事も無いかのごとく立っている

憂「お姉ちゃん…?」



揺れが収まると一瞬の静寂に辺りは包まれる。

ギャオスが何かを察知したように甲高く鳴くと、芝公園の地面を突き破りガメラが現れる。

ギャオスは待ち構えたように素早く空に舞い上がった。

そこへガメラは躊躇いなく火球を放つ。


火球はタワーに命中し、炎上するタワーからは鉄骨の残骸に混じり巨大なギャオスの卵が辺りに落下して中身を撒き散らした。



通信手「ガメラとギャオス、秋葉原方面に移動中!」


飛び立ったギャオスとガメラは大通りに沿って低空で飛行し、ガメラは飛行しながら火球を連続発射する。

ギャオスがそれを回避する度に火球は建ち並ぶビルや道路に命中しあちこちで火柱が立つ。

幹線道路閉鎖のために要所に立っていた警察官達は大慌てで迫って来るギャオスから逃げ惑う。


そして遂に指揮所の窓ガラスからは二体の戦いが見えなくなる。

唯「もっとガメラに近づけませんか!?」

防衛省幕僚「ヘリを用意します!」

隊員「おいヘリだ!」


すぐに唯達を乗せて、多用途ヘリUH-60JAがヘリポートから飛び立った。



―機内

無線『ガメラとギャオス、六本木方面に戻ります』

唯「…ガメラ」

ヘリは二体の空中戦が見えるギリギリの位置に到着する。

ギャオスは高速で旋回し、ガメラを追随する体勢を取ると執拗に超音波メスを発射した。

その一発がガメラの顔を掠った。


唯「あっ…」

同時に唯の頬にも切り傷ができ、血が垂れる。

憂「お姉ちゃん!」

更に超音波メスが命中したガメラはそのまま港区のビル街に落下する。

ビル街には真っ白な砂塵が立ち上った。

落ちたガメラが立ち上がったところにギャオスが襲いかかる。



二体の争いは高速道路の橋桁を落としマンションを圧し潰し、凄まじい砂煙や粉塵が巻き上がる。

パイロット「接近は非常に危険です!」

唯「お願いします!」

唯の懇願にパイロットは頷くとヘリはガメラに接近する。

一同が見守る中、ギャオスも地面に降り立つと、二体が再び真っ向からぶつかり合う。

ギャオスの異様な唸り声が都内に響き渡り、巻き添えを食らった周辺のビルやマンションは崩壊していく。

ギャオスは羽を使いガメラを牽制するが、そのままガメラに放り投げられる。

今度は羽ばたいて空に舞い、今度は爪でガメラの顔面を襲った。

それをガメラは爪で振り払うと、ギャオスはそばのビジネスビルに激突する。

ビルにはまり込んだギャオスは苦悶するように超音波メスを乱射し、ビルを真っ二つにした。

唯「…」

そして二体は次の瞬間には急上昇した。

『ガメラ再び上昇。ギャオス、ガメラに追随』

『ギャオス急上昇。追尾不能!』

成層圏まで達するとガメラはギャオスの脚に喰らいつくとそのままギャオスもろとも急降下を試みる。

ギャオスは振りほどこうと何度も超音波メスをガメラに発射する。



― ヘリ機内

唯「っ!」

唯は頭を苦しそうに抱え込む。

憂「お姉ちゃんもういい!やめて!やめてお願い!」

「なんでお姉ちゃんがそんな事しなきゃならないの!?この勾玉なの!?この勾玉のせいなの!?」

憂は引きちぎらんばかりに勾玉を引っ張る。

唯「ガメラは私達のために戦ってるんだよ!だから!」

その途端、何かに気づいたように唯はヘリの天井を見上げた。

パイロット「おい!あれ!」

白い煙を上げながら二体が降ってくる。


その落下のさなか、ギャオスは自らの脚をついに切断し、ガメラから離れる。

ギャオスを尻目にそのままガメラは落下し、真下のコンビナートに突っ込んだ。


コンビナートに建ち並ぶタンクが衝撃で激しく爆発し、更に誘爆を繰り返して施設全体を火に包む。

ギャオスはトドメを刺すようにその上空を旋回しタンクや送油管を切断して回り、更に火勢を強める。


その爆炎に巻き込まれないように離れた場所にUH-60JAも着陸する。


スライドドアを添乗していた隊員が開けるやいなや唯は外に飛び出す。

護衛の隊員と憂も続く。

「憂」

唯はやってきた憂の手を握った。

左手は勾玉をしっかりと握り、その勾玉は強く輝き出す。

コンビナートの火の海がまるで渦巻くように流れると、炎は急速に小さくなり、黒い煙の中からガメラが現れる。



ギャオスはそれを見ると、燃え上がるコンビナートのさなかに着地し、

完全に息の根を止めようと超音波メスの貯めこみを始める。

光の粒子といったような物体がギャオスの嘴に集まっていく。その甲高い音が響く中、ガメラはそれを睨む。


唯は憂の手を更に強く握った。

憂「…!」

同時にガメラは火球を放ち、ギャオスも強化超音波メスを発射した。

プラズマ火球は超音波メスを退け、ギャオスに命中する。

凄まじい爆発と同時にギャオスの頭部が燃え上がり、やがて全体が激しい炎に包まれていった。

その猛烈な炎の中からは上空に向け断末魔のように超音波メスが立ち上がるが、それも間もなく消えていった。


自衛隊員「…勝った!」

爆炎が晴れ、隊員達が喜ぶ横で憂は立ち尽くしていた。

唯「ありがとう…憂」

憂は思わず唯に抱きついたところでガメラが短く咆哮する。

憂「!」



唯は歩み出て勾玉を握りガメラを見る。

それを見たガメラは頷くように首を動かすと、唯の頬と腕に出来た傷が消えて行った。

唯「…」

唯の傷の治癒を見届けたように、一際強く咆哮するとガメラは海に入っていく。

唯「ガメラが行っちゃう…」

憂「海に帰るんだよ」

 「…どこも何でもない?」

唯「でももうガメラの心が見えない…」

ガメラは海面に白波を立てながら湾外へと進んでいく。



― 天王洲指揮所

指揮所では戦勝ムードの中、自衛隊員たちが撤収準備を始めていた。

その指揮所の片隅には浮かない顔をした数人がいた。

紬「…古代文明が滅んだ後、もしギャオスが渡りを行っていたら…」

鳥類学者「そう。ギャオスの卵はどこへあってもおかしくない…。備えが必要よ…」

和「大幅に悪化した地球環境。これがギャオスにとって適した環境だったら…」

憂「次にまたガメラが来てくれるとは限らない…?」



唯「来るよ!ガメラはきっと来るよ…」

唯のその言葉は自信に溢れていた。

               糸冬