― 6月8日
テレビ『昨日敦賀に入港した英国のMOX輸送船、パシフィック・ブラザーズが日本に向けてのMOX輸送中に、
フィリピン海溝東にてエンジントラブルから数時間にわたり漂流していたことがわかりました』
憂「お姉ちゃんおはよう」
唯「おはよー…」
うららかな6月の朝、平沢家ではいつもの日常が始まった。
テレビ『長崎県の姫神島で非常に大型の鳥の目撃情報が相次ぎ、県は九州大学の―』
憂「朝ご飯早く食べないと遅刻するよ」
唯「うん…」
憂「もう!ほらほらお姉ちゃん座る座る食べる食べる」
唯「ねむーい」
テレビ『大型の環礁が漂流している問題について、海上保安庁では―』
―
律「おっ唯」
澪「おはよう」
紬「唯ちゃんおはよう」
唯「おはよー!」
憂「おはようございます」
梓「あれ?おはようございます唯先輩」
― 昼休み 職員室
テレビ『航空自衛隊新田原基地に所属する第301飛行隊のF-4戦闘機が大型の鳥と接触し―』
校長 「ふーん」
さわ子「…校長暇そうですね」
堀込「お前も校長見てないで仕事しろ」
― 放課後
梓「先輩達って…受験に向けてこう…なんか…」
律「おいおい。そういう無粋なツッコミはなしだぜ?」
唯「そうだよー。私はあずにゃんと貴重な高校生活最後の時間を」
紬「そろそろお茶にしない?」
澪「はぁぁ…」
ガチャッ
さわ子「ちょっとちょっとー。聞いてよー」
律「おっ!飢えたハゲタカ!」ボソ
さわ子「なによーハゲタカってー。変圧器の修理が入るから停電になるわよ」
梓「はぁ」
さわ子「よってみんな一斉下校よー」
律「さわちゃんこのタイミングで言うか」
さわ子「私だって好きで言ってるんじゃないわよ。でも」
紬「残念ね」
唯「えー!さわちゃんの鬼!」
澪「仕方ないだろ」
律「しょうがない。帰ろうぜ」
さわ子「えっ帰るの!?」
― 帰り道
午後4時20分、初夏の太陽はじんわりと汗ばむ。
律「はぁー参っちゃうよな。少ない癒しの時間がー」
澪「律、お前にはこう、受験に対する緊張感とかないのか」
唯「あっ、なんかやってるよ」
「掘り出し物市」唯の指さした方向にはそう書かれた看板があった。
紬「面白そう!」
律「おっ!見に行こうぜ」
澪「…私もちょっと見たいな」
唯「じゃあ行こうよ!」
梓「」
5人は連れ立って会場の神社へ向かった。
― 掘り出し物市 会場。
神社の参道には出店が立ち並び、様々な骨董品がところ狭しと並んでいる。
梓「…」
唯「あっ、これ綺麗だよねあずにゃん」
梓「勾玉ですね」
店主「あーそれ百円…いや、お嬢ちゃん可愛いからあげるわ」
唯「わあい!ありがとうございます!」
梓「いいんですか?」
店主「普通のだしねぇ。お嬢ちゃんはなんか買わないの?この玄武の置物とか―」
梓「・・・いらないです」
店主「そう?お嬢ちゃんなんか骨董品好きそうなのに」
― 夜 平沢家
唯「見て見て憂!」
憂「わぁー。綺麗だね。でも勾玉なんてどこで買ったの?」
唯「貰ったんだよ~」
憂「ちゃんとお礼言った?」
唯「もちろん!」
憂「せっかくだから紐付けてあげるね」
憂はそばにあった紐を手際よく勾玉に通して唯に渡す。
唯は勾玉を首にかけた。
憂「似合ってるけど学校につけて行っちゃだめだよ?」
唯「ええっ・・・」
テレビ『姫神島で島民、福岡県警の警察官、九州大学の調査隊など合わせて25名が行方不明になっていた事件は―』
インタビューされる女性『鳥じゃありません!羽毛がなく牙がある、あんな鳥はいません!』
― 6月9日 朝 職員室
テレビ『長崎県五島列島姫神島で、姫浜地区を襲撃したのではないかと思われる大型の鳥は―』
さわ子「恐ろしいですね…」
堀込 「人食い鳥とはまたなぁ」
― 昼 桜高 3の2
生物教師「伝書鳩なんかはどうして正確に方向がわかるかっていうと地磁気を読み取ってるからでしょ」
唯(早く終わらないかなー…お腹すいた…)
生物教師「あの巨大な鳥も同じように地磁気を読み取ってるらしいね。だけど―」
唯「…」
唯「ぐう…」
― 同日 夕 長崎県 姫神島上空
パイロット『ハリーホーク、こちらハーキュリー1。飛び立ちました!』
3機のUH-1多用途ヘリコプターがサーチライトを使い三羽のギャオスの誘導を開始する。
隊長「2機を展開させてフォーメーションを作らせろ!」
その頃博多湾には60メートルはあろうかと言う巨大生物が白波を立てて侵入していた。
― 福岡県 福岡ドーム
麻酔弾を装填した対人狙撃銃片手に狙撃隊員達が一斉にベンチへ展開する。
上空に差しかかった鳥たちは、サーチライトに誘導され暗闇となったドームの中へと飛び込んでくる。
小隊長「射撃用意」
― 同 管制室
自衛隊員「電源切り替え、天井封鎖願います!」
警備員「了解!」
大型モーターが起動し静かに可動式天井が閉まり始める。
― 同 福岡ドーム
自衛隊員A「撃て!」
鳥類学者「まだ天井が」
自衛隊員B「1羽逃げるぞ!」
小隊長「撃て!」
対人狙撃銃から麻酔弾を撃ちこまれ二羽が落下する。
閉まりきっていないドームの隙間からは飛び出した1羽は湾外へと向かっていく。
それを待機していたUH-1がすぐさま追跡を始める。
しかし鳥の目の前に巨大な生物が現れた。
パイロット「!?」
生物はいきなりギャオスを片手で叩き落とす。
鳥はそのまま油槽所に並ぶ配油管に叩き付けられ炎上した。
パイロット「巨大な生物出現!博多港に巨大生物!」
― 福岡市街
市民「逃げろ!」
DQN「うぎゃああああ」
テキ屋「なんだありゃ!」
市民「うわああああああ」
警察官「落ち着いて避難してください!」
市民「家が燃える!」
福岡市は完全な不意打ちを受けた格好となり大混乱に陥った。
― 夜 平沢家
テレビ『ボールペン!』プッ
アナウンサー『番組の途中ですが、今入りましたニュースをお伝えします。先程博多港に、え、亀?
…大型の生物が出現しました。現在自衛隊が出動しています。繰り返します』
憂「は?」
唯「ええー?」
『生物は福岡ドームを目指しています。現在福岡ドームでは姫神島まで発見された鳥の捕獲作戦が進行中で―』
テレビには火災を背に、ドームへ向かって進む巨大な生物が映し出されていた。
『―博多湾沿岸の西区、中央区、早良区、博多区の住民に避難勧告が出されています』
―
サイレンが響く中、探照灯が一斉に生物を照らし出す。
自衛隊員「退避ー!全員退避ー!」
巨大な生物は福岡ドームに襲い掛かり、その可動式天井を叩き落とす。
そのまま黒煙を背に、鳥までもが目を覚ましドームから外へと飛び立った。
それを見るや否や巨大生物は凄まじい噴煙と、強烈な下降気流を起こし回転しながら飛び立っていく。
その一部始終はテレビ中継され、日本国民に巨大生物への強い恐怖感を植えつけた。
― 深夜
テレビ『福岡ドームにおける鳥捕獲作戦は巨大生物の出現により失敗しました。
私はその現場である福岡ドームのグラウンドにおりますが、檻は切断されまたドームの天井部分も生物によって破壊され―』
憂「福岡の人大変だな…」
憂は唯の弁当の仕込みをしながら呟いた。
― 6月11日 朝
朝日『福岡市民恐怖の一夜』
読売『ドームに巨大生物出現 被害甚大、死傷者多数』
毎日『行方不明の巨大生物追跡』
共同『英MOX輸送船漂流事故は巨大生物との接触が原因』
― 同 平沢家
テレビ『福岡を襲撃した巨大生物は―』
憂「お姉ちゃんおはよう」
唯「これ…」
憂「なんか福岡の方大変みたいだね」
テレビ『朝になって被害状況が次第にはっきりするにつれ、この惨事の大きさに関係者は大きな衝撃を受けています。
福岡市災害対策本部では―』
唯「…あれ?なんかダルいなぁ」
憂「どうしたの?」
唯「うん、なんかダルい…」
憂「学校休もっか?」
― 同 夕方 街
マルチビジョン『現在生物は瀬戸内海に潜伏しているとの見方が強まり、付近を航行中の船舶に厳重な注意を呼びかけています。
また衆議院では怪獣に対する自衛隊の攻撃を承認する決議案が提出されました。
この決議案は現在提出されている全ての法案より優先して審議され、決議され次第、日本初の本格的な実戦が行われる可能性が―』
― 6月12日 朝
テレビ『―瀬戸内湾一帯での原因不明の電圧低下は落ち着き、電力各社では原因の調査を継続すると発表しました』
憂「お姉ちゃんだるいの治った?」
唯「うん。良くなったよー。憂のおかげだね」
キャスター『環境省で緊急対策審議会が開催されましたが、専門家同士の対立から終始紛糾しました』
画面が切り替わり、審議会の様子が映し出される。
環境省審議官『空想的な話でしょう!そもそも名前が石版に書かれたガメラとギャオスというのが―』
防衛省幕僚『福岡を襲撃した海の生物の方が脅威が大きい!
仮に生物が鳥を退治しに来たとしても瀬戸内海に潜伏したままなのはどう説明するんですか!?』
有識者『長い眠りから目覚めたばかりで、エネルギーをチャージしているのでしょう?』
環境省審議官『世間では何でもあの生物に結びつけておりますが』
鳥類学者『先日の姫神島で発見された卵と雛の同位体分析によると、発生から一万年は経っています。そ
れよりも気になるのは雛の全てがメスであることが』
環境省審議官『繁殖しないならトキ以上に重要な野鳥とも言える!』
国会議員『トキは人を食べないだろうが!』
― 同時刻 桜ヶ丘女子高等学校 音楽準備室
澪「なんでずっとワンセグ見てるんだよ!せっかく日曜に集まってるんだぞ!こういう時こそ練習だろ!」
律「災害対策には情報収集が一番なんだぞ」
梓「律先輩、画面を観たままで…」
澪「画面から顔をあげろ!」
ワンセグ『という訳で、八洲火災海上損害保険など合同4社の調査中に発見された石板には古代文字の―』
紬「あ、こういうの古代のロマンみたいでいいよね」
澪「あ、古代文字。ルーン文字…ではないか…」
律「昔、本で読んだからだな!?」
澪「」
梓「…ロマンかぁ」
唯「…災いの影 ギャオスと共に目覚めん…1万2000年前 時のゆりかご ガメラ」
梓「え?」
澪「唯、お前何を・・・?」
唯「あれ?読めちゃった…」
澪「ま、まさか?これ正確なルーン文字じゃないだろ!?」
梓「な、なんで読めたんです!?」
紬「すごい!唯ちゃん」
律「…あれ?その勾玉光ってないか?」
澪「ま、まさか」
唯「…んっ、なんかこれ暖かくなってるよ」
澪「体温だろ!」
梓「…でもやっぱり光ってた気が…」
― 6月13日 昼 紀伊水道 第14護衛隊 護衛艦うらかぜ CIC
ソーナー員『目標捕捉!急速浮上中!』
レーダー員『浮上!』
ガメラ浮上は紀伊水道を哨戒する護衛艦により探知された。
― 10分後 桜が丘 桜が丘女子高等学校 3の2教室
ワンセグ『ただいま入りました情報によりますと、紀伊水道で潜伏していた生物が発見され―』
姫子「おっ怪獣、見つかったらしいよ」
律「おっ」
和「自衛隊が本格的に動き出すのかしら」
紬「あれだけ人が亡くなってたら・・・」
唯「わ、私ちょっと行ってくる!」ガタッ
澪「え?行くってどこに?」
唯「ちょっと!」ダッ
律「え?どこに?」
和「唯!」
最終更新:2011年05月05日 18:01