姫子「どうやら嘘ついてるって感じじゃないわ。多分本当に割ってないと思うわ」

律「そっか…ならいいんだ。疑ってごめん」

姫子「りっちゃん達怪我なかった? 大丈夫?」ペタペタ

律「う、うん。大丈夫大丈夫」

姫子「えいっ」

律「あぁっ! なにすんだよ姫! カチューシャ返せよー!」

姫子「こっちの方が可愛いのにぃ」

律「う、うるさいっ」

紬「……(りっちゃんにも共犯は可能ってわけね…)」

部員「先輩達って梓の先輩ですよね?」

律「ん? そうだけど」

部員「実は私梓と同じクラスなんですけど…今日ソフトボール貸してくれない? って言われて」

紬「ソフトボールを?」

部員「はい。ちょっとの間でいいから、明日には返すからって」

律「どういうことだ~? あ~頭痛くなってきた」

紬「つまりソフトボールは犯行と関係ないってことになるわね…」

姫子「犯行?」

律「いや、こっちの話」

姫子「そ。てかあんた学校の備品をホイホイ貸しちゃ駄目よ?」

部員「ひぃっ。は、はい! すみませんでした!」

姫子「りっちゃんの後輩だから許してあげるけどね」

律「(何か艶かしい視線が……)」



律「はあ~また振りだしか~」

紬「りっちゃんも梓ちゃんがああなったのは誰かがやったことだと思ってるの?」

律「いやぁ私は練習サボれたら何でもいいやって感じだよ。こっちの方が面白そうだしさ」

紬「本当に…そう?」

律「……最初はそう思ってたけど、今じゃちょっと澪が怪しいかなって思ってる」

紬「澪ちゃんが?」

律「うん。実際犯行を行えるのは澪ぐらいなんだよな」

紬「……聞くわ。りっちゃんの推理の結論」

律「じゃあまず最初から」

律「私が来たとき唯が部室の鍵が開かないって言うから私もノブをひねってみたけど本当に開かなかったよ」

紬「信じるわ。続けて」

律「それからちょっとして澪が来たんだ。それで鍵を取って来てもらうことになった。唯と一緒に」

紬「ちょっと待って。この時点で梓ちゃんが起きてるなら声に反応して鍵を開けてくれるはずよね。つまりこの時点でもう梓ちゃんは気を失ってる…それが前提にならない? なら澪ちゃんが犯人って言うのは無理があるんじゃないかしら?」

律「気づいてるんだろ? ムギも」

紬「純ちゃん…ね」

律「あぁ。梓に怪しまれずに中に入れて終わる時間も梓と一緒だ。つまりこうなる」

律「純ちゃんは授業が終わった後ジャズ研の先輩の用事と偽り梓の後をつける」

律「梓と部室で会った純ちゃんは梓にお茶を入れるとかなんとか言ってそのティーカップで梓の後頭部を強打」

紬「動機は?」

律「多分嫉妬かな。憧れの澪先輩に可愛がられる梓が許せなかった。そして…」

紬「澪ちゃんは唯ちゃんに振り向いて欲しかった。でも唯ちゃんが構うのはいつも梓ちゃんで……更に梓ちゃんはその愛を拒絶した」

律「それを見続けた澪は…この計画を実行した」



澪『』ギリッ



紬「具体的な方法は?」そわそわ

律「焦るなよ、ムギ」

律「梓を殴り気絶させた純ちゃん。もしかしたら殺すつもりだったかもしれないな…。でもそうしなかったのは多分そこに私達が来たから」

律「純ちゃんは考えた。どうしたら梓を事故に見せ掛けられるか? そこで色々手を打った。梓の髪をといたりゴムをトンちゃんの水槽の中に入れたりはその名残」

紬「(凄い…りっちゃん…)」

律「密室にするのは元々計画に入ってたんだろうから屋上からロープなんかを垂らしてたんだろうな。いざとなれば澪に連絡したり何なら部室のどこかに隠れてやり過ごすことも可能だ。
どうせ梓を保健室に連れていくことぐらい予想出来てただろうしな。だからそこは重要じゃない」

紬「そうして私達をやり過ごした後…」

律「タイミングを図って憂ちゃんと合流…。何食わぬ顔で容疑者から外れたんだ。思えば純ちゃんとか二年生だって十分犯行が可能なのにな。私達は囚われすぎてたんだ…」

紬「そうね…(でもならわざわざガラスを割るなんて危険の高い真似を犯すかしら。りっちゃんが言ってた部室に隠れるってやり方が現実的だわ。そもそも女子高生の腕力で屋上まで登れるかと言われたらまず無理だもの)」

律「まあ梓が起きてから聞けば全て型がつく。この推理ごっこもおしまいだ…」

紬「梓ちゃんが起きたら…待って。もし全てりっちゃんの正しい通りなら…次に純ちゃんが取る行動は…!」

律「!!! 梓が危ないっ!!!」



保健室

梓「ん……」

純「起きた? 梓」

梓「純……なんで?」

純「ふふ、ふふふっ」

梓「……!」

純「もうあなただけのものじゃないんだから」

梓「……」



律「梓っ! 無事か!?」

紬「梓ちゃんっ!」

梓「先輩!?」

純「そんなに息切らしてどうしたんですか?」

律「純ちゃん…梓から離れろ!」

純「? どうしてですか?」

律「もういいんだ…全部わかってる。今の純ちゃんを見て私は推理を確信に変えたよ」

梓「推理?」

純「……」

紬「澪ちゃんのこと大切に思うなら……これ以上手を染めるのはやめなさい」

純「……何のことですか?」

律「その手に隠してるもの…見せてみろよ」

純「……携帯、ですけど」

律「えっ」

紬「えっ」



唯「あ、あずにゃ~ん!!!」

憂「梓ちゃん大丈夫?」

澪「梓……良かった」

律「澪っ! お前…」

澪「律、推理はもう終わりだ。多分律は私を疑ってたんだろう? 私も同じように唯を疑ってた。」

律「…そうか。条件をクリアしてるのは唯も同じだもんな」

澪「うん。でも推理って言えば聞こえはいいけど結局それはその人を疑ってることだろう? やめよう。私達はみんながそんなことしないってわかってるだろ?」

律「そうだな…。」

紬「…そうね。それにシュレーディンガーの猫の答えは、今目の前にあるんだもの」

唯「あずにゃん、一体部室で何があったの?」

梓「はい…実は…」



回想

梓「いつもより早く終わったから先輩達が来るまで暇だな…」

梓「トンちゃんに餌あげよう」

梓「トンちゃん~ご飯だよ~」

パラパラ

トンちゃん「」パクパク

梓「可愛い…。食べてるとこ上から見てみよう」

梓「よいしょ、よいしょ…」

梓「こうやって食べてるんだ~」

梓「ふふ、ほんとにブタ鼻」

トンちゃん「」ピチャンッ

梓「あぁっ。ごめんごめん。トンちゃん怒った?」

梓「もっと餌あげるから許してね」

梓「餌餌…、あった。よいしょ…」ペチャ

梓「あっ!!! 髪の毛が中に…。 もうっ…タオルタオル…」

スゥ…、スゥ…、ポイッ…

梓「はあ…最近なんだかついてないなぁ」

梓「昨日は帰りにあんな可愛い仔猫見つけちゃうし…」

梓「純はボールとかが喜ぶって言ってたけど……喜んでくれるかな?」

梓「ソフトボール……」

梓「」ゴクリ

梓「にゃあ…」ゴロゴロ

コンコン…

梓「意外と面白い…」

梓「にゃあ…にゃあ~」

コロコロ~

梓「にゃあ~(待て待て~)」

ガタンッ!

梓「に゛ゃ?」

グラグラ……
パリーン

梓「はわーーーーーーーッ!」

梓「ム、ムギ先輩が持って来てくれたティーカップがあああ」

梓「どうしよどうしよ!」

梓「あっ、でもこれ私用のだ」

梓「って安心してる場合じゃないよぉ~!」



梓「とりあえず掃除したけど…ムギ先輩になんて謝ろう…はあ…私なにやってんだろ」

梓「ちゃんと謝ろう。ムギ先輩優しいからきっと許してくれる! って甘えてるよねそれって…」

梓「お詫びに何かしないと…」

梓「そうだ! ムギ先輩のキーボードをピカピカにしておこう! そうすれば…」

───

梓『ムギ先輩のティーカップ割ってしまいました! ごめんなさいっ』

紬『いいのよ梓ちゃん。それより怪我はなかった?』

梓『はいっ』

紬『そう。あら? 私のキーボードがピカピカ』

梓『私がしておきました! ティーカップを割ってしまったお詫びに…』

紬『まあ。梓ちゃんありがとう』

───

梓「これですっ!」



梓「ふぅ…ピカピカになったかな」

梓「これに気付いた律先輩がきっと「私のドラムはー?」とか言いそう。せっかくだから一緒に磨いとこう。ビックリさせてやるです」

梓「~♪」

梓「たまにはこうやって後輩らしいことするのもいいかも…。なーんて」

梓「ティーカップ割ったお詫びに…じゃ動機が不純だよね」

梓「よし、終わった」

梓「せっかくだから私のムッタンも磨いとこう」

梓「そろそろ弦変えた方がいいかな…。唯先輩のもそろそろだから今度一緒に変えよう」

梓「~♪」

梓「あれ? 何だか髪が首に当たる…」

梓「あ、そう言えばトンちゃんの水槽の中に髪が入っちゃったんだっけ。ゴムは…え~と一つはポケットに~あった! もう一つは…」

梓「どこだろ…」

梓「あ、」

トンちゃん「(ナニカナコレ)」

梓「ト、トンちゃん…ご飯はさっきいっぱいあげたよね?」

トンちゃん「(オイシソウ。チョットタベテミヨウ)」あーん

()は梓の勝手な通訳

梓「食べちゃ駄目ーッ!」

焦って踏み出した足の下にはさっきのソフトボールが…

梓「あっ…」

足を滑らせ…

梓「がふっ」

頭を扉に強打、

ガチャリ

梓「……」

トンちゃん「……(ヤッパヤーメタ)」

密 室 完 成



回想終了

律「そんなことが現実にありえるのかっ」

梓「すいませんっ! 昨日見つけた猫のこと考えてたら眠れなくて…ぼんやりしてたんだと思います」

純「だから朝猫のこと聞いてきたんだ」

梓「そうそう」

憂「梓ちゃんと眠そうだったしね」

梓「うん…」

唯「頭大丈夫? あずにゃん」

梓「はい、大丈夫です」

唯「よしよし」

梓「(や、やめてください…とは言えない。迷惑かけたし…)」

澪「(唯……)」

律「(唯だけは、誰も疑ってなかったんだよな)」

紬「(だからこんなにも私達は、唯ちゃんが好き……)」

律「(事件の謎は解けなかったけど…恋の謎は解けたってことか…ふふ)」

律「唯~フンスだぞっ~!」

唯「りっちゃん~なにそれ~? ふふふ」

澪「わ、私も! フンス…」

紬「フンスフンス~」

憂「フンス~♪」

純「な、なにこれ」

梓「さあ…」



帰り道!

唯「可愛いねぇあずにゃん!」

梓「はい…」

猫「にゃあ」

律「誰か飼える人探さなきゃな~」

澪「私の家はママ…じゃないお母さんが猫アレルギーだから…」

紬「そう、これが答えだったんだわ」

律「え?」

紬「その猫、私の家で飼ってもいいかしら?」

梓「本当ですか!?」

唯「良かったねぇあずにゃん!」

梓「はいっ!」

律「本当にいいのか? ムギ」

澪「それに答えって?」

紬「シュレーディンガーの猫、よ」

律「シュレーディンガーの猫? この猫の名前?」

澪「違うよ。段ボールの中の猫が生きているか死んでいるか、それは開けて見るまでわからないってやつ」

紬「そう。今回私達は梓ちゃんという結果を持っている猫を見ずに生きているか死んでいるかを推論してたの」

澪「そっか…あはは、ふふっ」

律「何がおかしいんだよ?」

澪「だっておかしいじゃないか。シュレーディンガーの猫に答えなんてないんだ。二重の真実が内包されてる状態なんだから」

紬「そう。だから結局推理自体意味なんてなかったの。梓ちゃんが生きているって時点でね」

紬「そしてそのシュレーディンガーの猫を起こさせたきっかけがこの猫なんて、何だか面白くない?」

澪「本当に猫が絡むなんてな」

律「??」

紬「だから私はこの猫を飼って…これからの真実を見てみたいの」



唯「ゴロゴロ~」

梓「私は猫じゃないですっ」



紬「ずっと、ね」

律「う~ん、なんか良くわかんないけどこれにて一件落着ってことか?」

澪「何か忘れてる気がするけど…多分そうだろ」



軽音部室

業者「あれ? 今日は配電のチェックじゃないんですかい?」

和「いえ、ちょっと問題があって。あ、業者さん。こっちです」

業者「あ~、まあこれぐらいなら。ソフトボール部がやった~とかですか?」

和「そ、そんな感じです(実は私が割っちゃったなんて言えない…)」



唯「憂~ハンバーグまだ~?」

憂「もうちょっと待ってね~」

憂「ごめんねお姉ちゃん。本当ならもっと美味しいお肉が手に入ったのに…」

唯「ふふ、いいよ。止めたのは私だしさ。やっぱり卒業まで待たないと。それにしても澪ちゃん…美味しそうだったねぇ」



真実は……開けて見なければわからない

そう、永遠に



お し ま い