夏休みが終わって、学校が再開した
いつものメンバーがいつもの様に音楽室に集合する様になった
夏休みが終わり、生活のリズムが狂っているせいなのか
学校が始まって数日経つというのに
放課後の皆の表情は何か気だるい印象を感じさせる

唯「まだまだ暑いね~何もする気がおきない・・」ダラーン

紬「もうすぐ秋になって、過ごしやすい季節になるわよ」
 「紅茶も美味しい季節にね」コポコポ

梓「唯先輩、しっかりして下さい!」
「そんな調子で学園祭どうするんですか」

唯「わかってるよ、あずにゃん、学園祭楽しみだね~」
 「今年も焼きそばやりたいな~」

梓「いや、そうじゃなくて・・」シュン

澪「思えばもう学園祭の季節なんだな・・」

律「・・・」

澪「律、学園祭のライブの曲、そろそろ絞っていった方が良いんじゃないか?」

律「・・・」

澪「おい律?」

唯「りっちゃーん?」

律「・・えっ?・・あっごめん、聞いてなかった!」

唯「りっちゃん!夏休みはもう終わったんだよっ」
 「いつまでも休みモードの頭じゃいられないんだよっ!」

律「ゆ、唯にだけは言われたくね~!」

澪「・・・」

私と律の事は、他のみんなには内緒にする事にしていた
私達の仲をみんなが知った時に、
みんなの仲がぎくしゃくしてしまうのを懸念しての事だった
私と律が話し合って決めた事だった



唯・紬・梓「それじゃ、また月曜日にね」

澪・律「またな~」

澪「・・・」テクテク

律「・・・」テクテク

律と一緒に下校する事を始めてから何年の月日が経つだろう
なんの変哲も無く続いていた律との登下校時間が
あの日から私にとってかけがえの無い時間に変わっていた

律「夕日もちょっとずつ短くなってきたな」

澪「そうだな、秋になったらこの川辺がまた綺麗にオレンジ色に染まるんだよな」

律「・・ははっ・・それ歌詞になるんじゃないかぁ?」

澪「そ、そうか・・?考えてみる・・」

最近は下校途中に律と二人で川辺で道草するのが日課になっている
ランニングコースのしかれたその川辺は、
コースのラインに従って木が植えられている
木と木の間には皆が座れる様にベンチが一定間隔で置かれており
私達は二人並んでそこに座り、日が暮れるまで一緒に過ごしていた

澪「中学生の頃もよくここでおしゃべりしてたよな」

律「懐かしいよな~、毎日のように日が暮れるまで・・」

澪「ははっ・・」

律「?」

澪「そういえばさぁ、中学生の頃・・」
「律のお母さん、律があまりにも帰りが遅いもんだから怒っちゃって」
「律が家に帰っても、家に入れさせてもらえなかったんだっけ?」

律「あったあった、そんな事!あんときは大変だったんだぞ~?」
 「家に入れないもんだから、確か澪の家に行って・・」

澪「うちのお母さんに、「今日泊めて下さい!」だもんな」

律「澪のお母さんが断ったら野宿する覚悟だったんだぞ?」

澪「でも、結局私と私のお母さんが一緒に律の家に行ったら」
 「すんなり、家に入れてもらえたじゃないか」

律「あの後こっぴどく怒られたけどな!聡が泣きだすくらいの形相だったぞ!」

澪「そうなのか?優しそうなお母さんなのに・・」
 「私だって母さんに怒られたんだぞ?」
 「おしゃべりも良いけど、律をもうちょっと気遣ってあげなさいって・・」

こんな昔話や世間話、たまに今悩んでいる事や、自分の将来の話
私は律と二人だけになれるこの時間が大好きだった
二人一緒にいられる事は昔から変わらないこの時間だけど
昔の私達と今の私達には大きな違いがある
今の私達は・・・
恋人同士なんだ

澪「ねぇ・・律・・」スス・・

律「・・・」

私は律の肩にそっと自分の頬を預ける
律はいつも黙ってそれを許してくれる
律は周りの目もあり、恥ずかしい気持ちもあるんだろう
無口になってしまうんだけど
周りが暗くなってきて、人通りが少なくなってきたら
毎回私の髪を黙って撫でてくれるんだ
律の指が、私の髪をかきわける度
私の胸は苦しさを覚えて、
いつも私は律の制服をぎゅって握ってしまうんだ
この時間が永遠に続けばいいのに
いつもそう思うんだけど
夕日が川辺の水面に映らなくなった時が、私達がそれぞれの家に帰る合図なんだ



律「さぁ、そろそろ帰ろうか」

澪「・・・うん」

辺りに人通りはもうほとんど感じられない
律と離れたくない
そんな私のシンプルな感情を律に分かって欲しかった

澪「律・・」ぎゅうぅ

律「・・・」

律に抱きついた
律の匂いがふわっと漂って
その匂いを感じた瞬間私は、自分の感情を抑える事ができなかった

澪「・・んっ・・」ちゅ

律「・・・」

消極的な私が律の事を思うと
こんなに積極的になれる
これは私の中の律への思いは相当なものであるという証拠で、
私を安心させる事でもあった
律を思う気持ちなら誰にでも負けない
これからもずっと律の傍で・・
私が律を支え続けるんだ



澪「・・律・・またね」

律「あぁ、気をつけてな」

澪「・・・うん」

律はこういう事に関しては、奥手な所があるんだ
新しい律の一面を知れて嬉しいんだけど
普段が元気いっぱいだからちょっと違和感を感じるかな?
恥ずかしい気持ちは私も一緒なんだぞっ
もう少し私に気持ちをぶつけてもいいんだよ?



私達は・・つきあってるんだから



澪「り、律!」

律「・・・?・・どうしたんだ~?」

澪「・・ごめんな・・」サッ

律「・・・あっ・・みお・・また・・」

律のカチューシャをとった
同時に私は最低な行動をとった事を悟った
考えない様にはしていたんだよ?
必死に考えないようにしていた
律は本当に私の事が好きなのかなって
私と嫌々つきあってるんじゃないんだろうかって

でもさ、律
私達はずっと一緒に育ってきたんだよ?
ずっと一緒だったんだ
律が必死に隠そうとしても
私には分かってしまうんだ・・
律の本当の気持ちなんて大分前から気付いていたんだ

でもね・・
私・・どうしても律の事が好きなんだ
こんなのおかしいって分かってるよ
女の子同士でこんな感情が芽生えてしまうのなんて普通じゃないよね
気持ち悪いって思うのが普通だよね
でもね・・
でもね・・

自分を偽って律と親友の面をして付き合っていける程
私は器用じゃなかったんだ
律の事を思うと毎日が辛くて・・苦しくて・・切なくて・・
だから律に嫌われるかもしれなくても、
勇気を出して律に思いを伝えたんだよ?

律が大好きだから・・絶対に失いたくない大切な人だから・・

澪「・・・うう・・グス」ぽろぽろ・・

律「・・!みお・・どうしたの・・?大丈夫・・?」

だからあんな行動をとって求めてしまったんだ
例え偽りであっても私の気持ちに応えてくれるもう一人の律を
「律の役に立ちたい」なんて親友のつもりでさ
律が本気で悩んでいる事を、私は自分の為に利用したんだ
こんな最低な人、好きになってくれる訳ないよね

澪「・・・グスッ・・ひっく・・うぇぇん・・」ぽろぽろ・・

律「・・みお・・大丈夫だから・・泣かないで・・?」ぎゅう

・・・ほら
律はこんな私でも抱きしめてくれるんだ
恋愛感情なんて私には抱いていなくても、
こんなに優しく抱きしめてくれる
反則だよ、律
こんな事されたら、余計に涙が止まらないじゃないか・・

澪「・・・・」ぽろぽろ・・

律「・・・」ぎゅう

澪「・・ぐす・・律・・お願いがあるの」

律「なに?・・澪」

澪「・・ひっく・・今夜・・一緒にいて・・」

律「・・・え・・」

澪「・・律と・・一緒にいたい・・」

律「・・えっと・・その・・」

澪「・・・」

律「・・・」

澪「・・・」グスッ

律「・・うん、わかった・・」

律を心配させて、困らせて、傷つけて・・
それで律の恋人・・?
私が律の支えになる・・?
どうかしている
私はいつまで律の優しさに縋るつもりなんだろう?

どうして律にあんな事を言ってしまったのか
私はいったい何を期待しているのだろう
自分の胸に纏わりついている黒くてもやもやとしたものが、
どういう感情なのかが、自分自身でもわからない
いっそ律が全てを打ち明けてくれれば楽になるんじゃないか
女の子同士で恋愛なんてできないって
これからは今まで通り親友として付き合っていこうって
私はそうなる事を期待しているんじゃないかって
そう思ったけど・・

違う、そうじゃないんだ
だって私は律のカチューシャを取り、もう一人の律を求めてしまっているのだから
そもそもそうなる事を期待していたのなら
本来の律に打ち明ければ良かっただけの話だ
私はやっぱり怖がっているんだ
律との関係がここで終わってしまう事に

本当の・・
本当の私の気持ちはね・・

澪「・・・律の家・・行ってもいい・・?」

律「・・いいよ・・今夜は一緒にいよう」

律に愛されたい

例え表面だけの偽りの関係を続けていても
その嘘はいつかは本当になるんじゃないかって
いつかはお互い心の底から幸せに思える
恋人同士になれるんじゃないかって

今は無理でもかならずその日が訪れる

そう信じてる




――
―――

澪がなぜ涙を流していたのか
私は結局理由を問う事ができなかった
尋常でない澪の泣き方を見て、今は理由を聞くべきでないと判断したからだ
私は澪を抱きしめる事しかできなかった
澪の涙が私の制服に染み込んでいく
澪の温もりと共に澪の哀しみが私に伝わってくるのを確かに感じた

「今夜は一緒にいて欲しい」
本当の事を言うと
私は澪の気持ちを受け入れたくはなかった
私は澪と共に過ごしたあの夜以来
一人ベッドの中で自問自答を繰り返す夜を続けていた
澪を傷つけまいと、澪の気持ちに応えようとする自分と
女性同士で恋愛関係を持ってしまっている事に抵抗感を感じている自分
私には分からなくなってしまった澪を必死に理解しようともした
毎夜、悪戦苦闘してみるが
答えが見つかる事はなかった

澪はおそらく私の事が原因で涙を流している
澪が何を思い、何に思いつめているのか
それが分かれば・・私は前に進める気がした



律宅
澪「ごめんな・・律・・なんかいきなり」

律「いいよ・・一緒にいたいんでしょ?」

澪「あ、あぁ・・」

律「・・・」

トントン ガチャ

聡「ねーちゃん、母さんが呼んでるよ、おおっ前髪あるし!」

律「・・・わかった、今行く」タタッ

パタン

聡「澪さん、なんか元気ないっすね・・?」

澪「そ、そんな事ないぞ?いつもこんな感じだろ」

聡「そっすかぁ?」

澪「そうだ、なぁ聡・・」

聡「はい?」

澪「最近律ってさ、家では結構前髪下ろしてたりするのか?」

聡「そういえば、最近けっこう下ろしてるよ」ププッ

澪「?」

聡「ねーちゃん前髪ある時急に女っぽくなるでしょ?おもしろくね?」

澪「っていうかもともと女だろ・・(聡もわかってるんだな)」

聡「でも最近は前髪下ろしてる時でもあんま性格変わらなくなってきてるんだよね」
 「ずっとあの女っぽいまんまなら彼氏もできるんだろうけどなぁ」

澪「聡もマセてきたなぁ?(そうなのか・・私にはまだ・・)」

聡「てへへ」


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